4年連続の上昇となった2025年地価公示
2025年06月04日 / 『CRI』2025年6月号掲載
目次
国土交通省が3月18日に公表した「2025年地価公示」によれば、全用途の全国平均は2.7%上昇し、これで4年連続の上昇となった。全国の地価は景気が緩やかに回復している中、地域や用途により差があるものの、三大都市圏では上昇幅が拡大し、地方圏でも上昇傾向が継続するなど、全体として上昇基調が続いている(図表1)。
今月のCLOSE UPでは「2025年地価公示の概要」を紹介する。
〈住宅地の傾向〉
全体概況 地域経済の活性化と低金利の影響
住宅地の全国平均は2.1%上昇し、これで4年連続の上昇となったが、その勢いは緩やかだった。プラスの変動を示した都道府県は30都道府県で、前年よりも1県増加(滋賀県が新たにプラスに転じた)した。一方でマイナスとなったのは15県で、前年よりも2県減少した。
観光需要・工場進出を背景とし、地方経済の活性化が地方の地価上昇に寄与している。また、低金利環境が住宅需要を後押しし、都市部でも引き続き高い上昇がみられている。上位20位の地価上昇地点には、東京圏から6地点が含まれている一方で地方圏が14地点を占めている。特に、白馬村(長野県)、目黒(東京都)、流山(千葉県)の上昇幅は2024年に比べ10ポイント以上に達している(図表2)(図表3)。
圏域別概況
圏域別の住宅地上昇率では、特に地方圏の上昇幅が顕著で、30%超となる地点も見受けられた。東京圏・大阪圏・名古屋圏では、利便性が高く住宅需要が旺盛な地点が上位にランクインしている。一方、地方圏ではリゾート・観光地が上位を占めており、これらの地域の地価上昇が目立っている(図表4)。
[東京圏]
東京圏の住宅地の平均変動率は4.2%であるが、上位10位内の地点では15%を超える高い上昇率となった。2024年には上位10位が全て千葉県の地点だったが、2025年は東京都から4地点、千葉県から7地点がランクインした(同率10位に千葉県が2地点含まれる)。昨年に引き続き、都心へのアクセスが良好で駅前商業施設が充実している、「流山おおたかの森」駅を最寄りとする流山市が上位7位を占めた。東京23区では目黒区青葉台のほか、分譲マンションの供給が増加した港区港南、足立区綾瀬、北区赤羽が上位に入った。
[大阪圏]
大阪圏の住宅地の平均変動率は2.1%で、昨年は10%を超える地点はなかったが、2025年は3地点で10%を超える大幅な上昇がみられた。特に大阪市は中心6区(中央区・阿倍野区・福島区・天王寺区・北区・西区)で富裕層向け物件の需要が旺盛だったことから、平均5.8%上昇した。京都市は市内の多くが住商混在の観光地であり、旺盛な店舗・ホテル用地需要が波及し、上昇幅が2.5%から3.2%へ拡大した。
[名古屋圏]
名古屋圏の住宅地の平均変動率は2.3%で上昇の勢いが緩やかであった。上位10位が全て愛知県であり、うち名古屋市が9地点、長久手市1地点がランクインしている。2024年には上位10位の全ての地点で10%を超える上昇となったが、2025年では10%を超えたのは名古屋市の2地点(熱田区・千種区)であった。熱田区は、比較的割安感のある地域として人気があるが、コロナ禍で高まった需要に陰りがみられ、上昇幅が縮小した。
[地方圏]
地方圏の住宅地の変動率は地方圏全体で1.0%、地方四市で4.9%であり、いずれも2024年と比較して上昇の勢いが緩やかとなったが、上位10位では北海道富良野市の約31%を筆頭に、18%を超える高い上昇率となった。上位10位は北海道富良野市、長野県北安曇郡白馬村、沖縄県宮古島市などのリゾート・観光地が占めており、外国人向け別荘・コンドミニアム需要は地元の住宅需要を背景に、高い上昇率を示した。
〈商業地の傾向〉
全体概況 拡大する上昇幅と地方圏の躍進
業地の全国平均は3.9%上昇し、これで4年連続上昇、かつ上昇幅が拡大した。プラスの変動を示した都道府県は34都道府県で、前年よりも5県増加(山形県、富山県、長野県、香川県、宮崎県が新たにプラスに転じた)。一方でマイナスとなったのは10県で、前年よりも5県減少した。駅周辺などマンションとの需要競合がみられる地域は、高い上昇率を示しているほか、リゾート・観光地では観光需要を背景に引き続き大幅な上昇率を示している。上位20位の地価上昇地点には、東京圏から10地点、大阪圏から2地点が含まれている一方で、地方圏が8地点を占めている。特に千歳市(北海道)は工場進出、台東区浅草(東京都)はインバウンドによる観光客増加を背景としたホテル・店舗需要が旺盛であり、2024年に比べ上昇幅が10%以上に達している(図表5)(図表6)。
圏域別概況
圏域別商業地の上昇率上位では、特に地方圏の上昇幅が大きく観光地・繁華街のほか工場建設が開始された地域において30%超となる地点もみられた。上位10位には東京圏が4地点のほかは地方圏が6地点を占めた。東京圏では観光・店舗需要が旺盛な地点、地方圏ではビジネス街やリゾート地が上位を占めた(図表7)。
[東京圏]
東京圏の商業地の平均変動率は8.2%で、上昇幅が拡大し、上位10位内の地点全てで20%を超える高い上昇率となった。2024年は上位10位のうち、千葉県が6地点、東京都・神奈川県がそれぞれ2地点ランクインされていたが、2025年は全て東京23区となった。特に台東区浅草地区は外国人を含めた観光客の増加により店舗需要が増加傾向にあることから、地価上昇が継続している。今回上位10位には含まれなかったが、神奈川県川崎市は旺盛なマンション需要により、全7区で上昇幅が拡大した。
[大阪圏]
大阪圏の商業地の平均変動率は6.7%で、上昇幅が拡大し、上位10位内の地点全てで18%を超える高い上昇となった。特にうめきた2期の開発による効果で北区、福島区、西区はマンション・ホテル需要が旺盛であり、10%を超える上昇率を示した。また京都市は2024年6.6%の上昇率から2025年は10.2%と上昇幅の拡大がみられた。京都駅周辺の開発により地価上昇が顕著であり、特に割安感のある京都駅南は高い上昇率を示している。
[名古屋圏]
名古屋圏の商業地の平均変動率は3.8%で上昇の勢いが緩やかとなった。上位10位内の地点は全て愛知県であり、うち名古屋市が10地点、大府市が1地点ランクインした。上位10位の全ての地点で10%超の上昇が見られた。名古屋市の中心部では、一定のオフィス・店舗需要はあるものの、建築費高騰などにより踊り場感が生じており、上昇幅が縮小した。
[地方圏]
地方圏の商業地の変動率は地方圏全体で1.6%、地方四市で7.4%であり、地方四市は昨年と比較し上昇の勢いが緩やかとなった。上位10位では北海道千歳市の48.8%を筆頭に20%を超える高い上昇率となった。北海道千歳市・熊本県菊池郡は工場進出の影響により上昇、長野県北安曇郡白馬村・岐阜県高山市は観光地として店舗・コンドミニアム需要の高まりにより上昇となった。
〈地方地価動向の傾向〉
2025年地価公示においては、特に地方圏の躍進が顕著であった。そこで、観光需要・工場進出による地価への影響についてみていく。
旺盛な観光・リゾート需要による影響
全国の観光・リゾート地として、長野県北安曇郡白馬村と沖縄県石垣市では、住宅地と商業地の地価が上昇。2019年からの地価動向と観光客数の推移をみると、白馬村では特に2023年からの外国人宿泊数が増加し、地価の上昇が顕著となった。白馬村の住宅地は以前から国内外の観光客を引き寄せていたが、コロナ禍が明けてから、外国人観光客数が回復し、商業地ではホテルや店舗の需要が高まり、地価が大幅に上昇した(図表8)(図表9)。
一方、石垣市でも観光需要による地価上昇がみられ、住宅地は2023年に、商業地は2025年に大幅な上昇を記録した(図表10)(図表11)。
大手半導体メーカー工場進出による影響
北海道千歳市では大手半導体メーカーのラピダスが次世代半導体の工場建設を2023年2月に発表し、現在建設中である。ラピダス進出を契機とし、勤務者用の賃貸マンション需要をはじめとして事務所・ホテル用地需要が旺盛で、住宅地・商業地ともに高い地価上昇が継続している(図表12)。
鈴木貴子











