加速する人口減少と高齢化社会のリアル2024(その2)
2025年10月01日 / 『CRI』2025年10月号掲載
目次
総務省が公表した「2024年人口推計」によれば、日本の総人口1億2,380万人は1990年の日本の総人口とほぼ同水準であり、日本の総人口が約34年前の水準に戻ったことを示している(「CRI「7月号(NO.563)」『加速する人口減少と高齢化進行のリアル~34年前に戻る日本の総人口とその変化~』」も併せてご参照ください)。しかし、人口分布・世代・世帯などの構造は大きく変化し、地域間格差も拡大した。本稿ではこの34年間に生じた変容について検証していく。
※8月6日に「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数令和7年1月1日現在」が総務省より公表されたが、前回レポートのデータと整合性をもたせるため、本レポートにおいては「2024年人口推計2024年10月1日現在」により検証・分析する。
【1】人口動態の変化:都市集中と外国人人口の変化
1. 首都圏への一極集中が加速
日本の人口分布は、1990年から2024年にかけて大きく変化した。特に顕著なのが首都圏への一極集中が加速した点である。(図表1)は1990年と2024年の都道府県ごとの総人口を示したものであるが、東京都は1990年でも2024年においても最も人口の多い行政であり、全国に占める人口比率は1990年の9.6%から2024年には11.5%と約2ポイント増加した。
1990年時点で東京都に次ぐ人口を擁していた大阪府は、2024年には人口比率こそ7.1%を維持したものの、人口は神奈川県に抜かれ全国第3位となった。結果、首都圏の人口比率は25.8%から29.9%へ4ポイント増加し、人口集中が進んだが、近畿圏の人口比率は16.6%から16.2%と0.4ポイント減少した。近畿圏の中で唯一人口が増加したのは滋賀県で、122万人から140万人へと増加し、人口比率は1.0%から1.1%と微増した。滋賀県の人口増加の要因としては、近畿圏・中部圏・北陸圏のクロスポイントという地理的な優位性、主要各都市への交通アクセスの良さ、日本を代表する企業の工場や研究開発拠点が集積、地価が大阪府や京都府に比べ安価であることが挙げられる。こうした理由から、より安価でより良い住環境を求める若年世代を中心に移住が促進されているものと考える(図表2)(図表3)。
34年間で地方から都市部への人口分布の変化が顕著となったが、一方で地方であっても観光・リゾート地など特異なエリア性をもつ地域では、外国人移住者が増加している地域も見受けられる。
2. 近畿圏から首都圏への外国人人口の比重変化
日本人の人口分布の他、外国人の人口分布も様変わりした。1990年においては88万6,000人に過ぎなかった外国人が、2024年には350万6,000人と約4倍に増加した。多くの都道府県で外国人人口が増加したが、特に大阪府を中心とした近畿圏と東京都を中心とした首都圏で大きな変化がみられた。
(図表4)は1990年と2024年の都道府県ごとの外国人人口を示したものであるが、1990年において外国人人口が最も多かったのは大阪府で全国に占める外国人人口比率は20%と、日本にいる外国人の5人に1人が大阪府在住であった。
近畿圏全体では36%で外国人3人に1人が近畿圏在住であったのに対し、東京都は18%、首都圏全体でも31.5%であり、かつてはより多くの外国人が近畿圏に在住していた。東京都より大阪府に外国人が多かった理由としては、大阪府は明治維新以降、条約港として外国人の居住・活動が認められた「外国人居留地」を有しており、早くから外国人による地域コミュニティ形成が進んでいたことや、1990年に施行された改正出入国管理法により日系ブラジル人や日系ペルー人などの日系人に対して、日本での就労が許可されたことから、製造業が盛んな東海圏・近畿圏にこうした日系人のコミュニティが形成されたことがあげられる。
しかし、2024年には東京都の外国人人口は1990年比で5倍に増え、全国の外国人人口の20%を占めるまでになった一方で、大阪府では人口は1.7倍に増えたものの、人口比率では20%から8.7%へと大幅に減少した。この変化は外国人の首都圏一極集中の進行を如実に示しているが、東京都は経済活動や情報が集積していること、様々なサービス業や飲食業など幅広い分野で就業機会が多いこと、多様なニーズに応えられる文化・コミュニティが形成されていることなど、外国人にとって定住しやすい環境・生活の質の向上が期待されたことが要因と考えらえる。
【2】日本の世代構成の変化:少子高齢化と地域間格差の進行
1. 全国で半減する年少人口、特に地方圏で深刻化
15歳未満の年少人口は、1990年の2,248万人から2024年には1,383万人と865万人(-38.5%)もの大幅な減少となった。この減少は全国的なものだが、特に東北地方での減少が目立ち、秋田県(-64.0%)、青森県(-60.6%)、岩手県(-57.4%)などの減少率が著しい。全国で最も高い合計特殊出生率を示す沖縄県でさえ、-23.0%の減少となっているのに対し、全国最下位の東京都は-13.5%と全国で最も低い。矛盾しているように思えるが、これは東京都の低い出生率を人口流入が補完し、年少人口の減少を抑制していることが要因と考えられる。地方においては出生数の減少と都市部への人口流出により、年少人口減少の深刻さをより増している。
2. 生産年齢人口の減少と二極化する地域間格差
経済・社会の中核を担う15~64歳の生産年齢人口は8,590万人から7,373万人と-14.2%の減少となった。この傾向は特に地方において顕著であり、秋田県(-43.2%)を筆頭に青森県(-36.7%)、高知県(-35.1%)など、地方での労働力不足や地域経済の縮小などに影響を及ぼし、経済への影響が深刻さを増している。
一方で、滋賀県(+2.0%)、東京都(+7.7%)、沖縄県(+10.9%)では生産年齢人口が増加した。東京都は教育機関や企業が集中していること、沖縄県は元々の人口規模が小さいため、少しの増加のインパクトが大きいことが、それぞれ増加の要因と考えられる。このほか、神奈川県、愛知県、福岡県などの大都市圏では減少率は比較的小さな幅におさまっており、生産年齢人口の減少が地域間の活力の格差をもたらす要因ともなっている。
3. 深刻化する大都市圏における高齢化の進行
65歳以上の老齢人口は1,489万人から3,624万人へと2,135万人(約2.4倍)と大幅に増加した。全国の約半数の都道府県で2倍以上の増加を示しており、高齢化社会を象徴する結果となった。特に増加が顕著なのは埼玉県(3.8倍)、千葉県(3.5倍)、神奈川県(3.4倍)といった東京大都市圏であり、そのほか愛知県・沖縄県(2.9倍)、大阪府(2.8倍)などでも著しく増加した。大都市圏へ流入・就業した世代が、持ち家の取得によりそのまま住み続けて高齢化したことが主な要因と考えられるが、かつて経済社会の中核を成す多くの生産年齢世代を受け入れた都市部ほど、今や高齢者を多く抱える地域となっている(図表5)。
※年少人口(15歳未満の人口)、生産年齢人口(15~64歳の人口)、老齢人口(65歳以上の人口)
【3】日本の世帯構造の変化:加速する単独世帯の増加
1. 都市部を中心に拡大する単独世帯、20年間で2.3倍に
日本の世帯構造はこの20年間で大きな変化を遂げており、特に単独世帯の増加が顕著である。1990年における単独世帯は全国で938万9,600世帯だったが、2020年にはその数が2.3倍にも膨れ上がった。若い世代を中心とした流入の多い都市部の方が地方圏よりも単独世帯比率が高い傾向だが、中には鹿児島県(16万4,900世帯/25.0%)、北海道(49万2,800世帯/24.3%)など一部地方においても、世帯数こそ少ないながら、単独世帯が20%を超える道県もみられる。2020年においては、全国的に単身世帯が増加し、1990年比で2.3倍となり、山形県・奈良県・岐阜県・福井県・富山県を除く都道府県で、単独世帯は30%を超え小家族化が進行した。
2. 高齢者単独世帯も都市部を中心に拡大、20年間で2倍に
先に述べたように日本の単独世帯の進行は加速しているが、中でも注目すべきは高齢者の単独世帯である。1990年における単独世帯の内、高齢者単独世帯比率は全国で17%で、和歌山県、島根県、高知県、長崎県、鹿児島県などの30%を超える行政がみられる一方で、若い世代の流入が多い首都圏においては10%前後と低水準であった。2020年にはいずれの都道府県においても増加がみられ全国で32%と高い比率となり、特に和歌山県は50%を超えた。1990年には10%前後であった首都圏においても20~30%の比率まで増加した。首都圏においては、一定数の若年層の流入が今後も見込めるため、大幅な高齢者の単独世帯比率の増加にはなりづらいが、世帯数の増加では全国で4.1倍なのに対し首都圏では4~8倍となっており、今後一気に加速する可能性も考えらえる。全国的な小家族化の進行は、高齢者単独世帯増加につながり、社会的孤立がもたらす疾病の発見の遅れや進行、生活面でのサポート不足など様々な課題をはらんでいる(図表6)。
~おわりに~
1990年と2024年の総人口はほぼ同水準だが、2024年の1億2,380万人は人口減少が継続していく中での「通過点」に過ぎず、今後、再びこの人口規模となることは期待できない。2024年「住民基本台帳人口移動報告」によれば東京都への移動は46万1,454人(東京都内除く)で、最も多いのは神奈川県8万9,000人、次いで埼玉県6万7,000人、千葉県5万5,000人と首都圏内からの移動が大半を占めるが、北海道、茨城県、静岡県、兵庫県、福岡県など広範囲からそれぞれ1万人を超える人口が東京都へ移動している。当面は東京都への一極集中が継続すると考えられるが、各地域で人口減少が顕著であることから、将来的には東京都へ移動する人口も減少に転じることが予測される。近い未来にはさらなる「空き家」の増加、外国人流入をはじめとする「多様性の拡大」や「地域コミュニティの希薄化」が想定され、この人口の「通過点」は私たちにとって改めて「住まい」や「住まい方」を見つめ直す機会になるのではないだろうか。(鈴木貴子)





