女性の都市移動がもたらす未来図
2025年11月28日 / 『CRI』2025年12月号掲載
目次
はじめにーーー厚生労働省が公表した「人口動態統計月報年計」によると、2024年の出生数は68万6,061人となり、統計開始以来初めて70万人を下回った。これは前年の2023年から約4万1,000人の大幅な減少となり、9年連続の減少である。出生数だけでなく、一人の女性が生涯に産む子どもの平均数を示す合計特殊出生率も過去最低を更新し、2024年は1.15と2023年の1.20から0.05ポイント低下した。
一般に人口を維持するために必要な合計特殊出生率は2.07と言われており、2024年の数字はそれを大幅に下回る水準だった。
(図表1)は20・30代女性の人口推移と出生数の関係を示しているが、グラフが示すように出産を担う年齢層の女性の人口減少が出生数の減少に影響を与えていることが確認できる。
そこで、都道府県別に女性の転出入が地域ごとの出生数に与える影響について試算を試みた。
【1】20・30代の女性の転出入
(図表2)は2024年の都道府県別の20・30代の女性の転出入者数と転入者・転出者に占める20・30代女性の比率を示したものである。
これを見ると、転入>転出は「東京都」「神奈川県」「大阪府」「埼玉県」「千葉県」の1都1府3県であり、東京都をはじめとする都市部への転入超過が顕著である。一方、42道府県は転入<転出であり広範囲で若い女性の転出が著しく、特に「兵庫県」「茨城県」「北海道」「広島県」は3,000人以上の転出超過となっている。但し、地方においても「札幌市」「名古屋市」「仙台市」などの県庁所在地の一部は転入超過がみられる。
また転入者および転出者の内、20・30代が占める比率は、いずれの都道府県においても概ね50%から70%であり、進学、就職、結婚などのライフスタイルの変化を機に女性が転出入していることがわかる。
特に教育・就業の場が集中している「東京都」は、転入する女性の内20・30代が占める比率が70%超と高い。
【2】転出が多い理由
若い女性の転出が多い理由としては大きく「進学」「就職」「生活環境や価値観の相違」の3つが考えられるだろう。地方においては、大学自体の数が少ないことに加え、専門分野の間口が狭いことも影響している。大学は都市部に集中している傾向が明確であり、各都道府県の大学の数は以下の通り。進学をきっかけに故郷を離れた若い世代がそのままその都市部で就職し、定住するケースが多いことも地方から都市部への転出に拍車をかけている。
また企業が本社を構えるのは圧倒的に都市部が多く、特に東京都に集中している。地方においても生活のしやすさや交通アクセスの改善、BCP推進の一環、また地方創生の一助として自治体と組むことで、本社機能を都心部から地方・準郊外部へ移転させる動きもみられるが、依然として本社機能の東京都一極集中の状況が継続している。(図表3)(図表4)
「生活環境や価値観の相違」により転出した理由については、男女別の役割分担が根強く残っていたり、古くからの風習が残っているなどがあり、若い女性がそうした文化・風習を嫌悪し、進学や就職を機に都市部へ転出する傾向もみられる。グラフは内閣府調査によるものであるが、仕事(雇用)・教育関係を理由とする回答が多いが、生活の利便性や人間関係、コミュニティの閉塞感を理由とする回答も目立つ。また、都道府県ごとの男女間賃金格差では、東京圏は女性の賃金水準が高く、賃金格差が比較的小さいものの、多くの道府県では依然として大きな格差が生じている。(図表5)(図表6)
【3】若い女性の転出入が出生数におよぼす影響
冒頭に若い女性の人口は出生数に影響をおよぼすと述べたが、本稿では「住民基本台帳移動報告(総務省)」に基づいた転入・転出の動向に着目し、都道府県別の20・30代女性の転入転出がどのくらい、各都道府県の出生数に影響をおよぼすのかについて試算した。尚、試算には、都道府県別20・30代の女性の転入転出「2024年住民基本台帳移動報告・日本人のみ (総務省)」と若い女性の結婚意欲「出生動向基本調査(社会保障・人口問題研究所)」、結婚持続期間15~19年の夫婦の平均出生子ども数(完結出生児数)「出生動態調査(厚生労働省)」のデータを用いた。
2024年の転出入を基に試算すると、転出入による出生数の増加が見込まれるのは「東京都」「神奈川県」「埼玉県」「千葉県」「大阪府」「愛知県」「福岡県」であり、他道府県においては減少が見込まれる。
「東京都」においては、転入が多くプラス約6万4,000人ほどの出生数が試算される他、「大阪府」ではプラス約1万4,000人、「神奈川県」でもプラス約1万2,000人ほどが想定される。(図表7)
~本試算について~
本試算は各都道府県における20・30代の女性の転出入により起こる、出生数の増減を試算したもので、各都道府県はトレードオフの関係となることから、その合計が出生数を表すものではない。尚、本データは長谷工総合研究所にて上記資料を基に試算。
【4】各指標から見える地域特性
出生数は若い女性の人口規模が影響することが知られており、その傾向を顕著に示すのが「東京都」である。「東京都」の出生数は2024年には約8万4,205人と全国1位である一方で、合計特殊出生率は最下位の0.96と対照的な結果を示している。これは合計特殊出生率が「1人の女性が一生に産む子どもの平均数」を示す指標であり、年齢別出産率を合計して算出されるため、「東京都」のように未婚の20代女性が多数を占める地域では、値が低く出る傾向がある。先に述べたように「東京都」への転入は、主に進学・就職を目的としたものが多いことから、一般的にキャリア志向も高く晩婚化・未婚化の進行が顕著であり、合計特殊出生率の押し下げ要因にもなっている。
そこで、女性人口規模による出生数への影響を平準化するために、女性100人当たりの出生数に着目すると、異なる傾向が見えてくる。この指標では20・30代女性の人口規模が小さいながらも出生数が多い「沖縄県」をトップに、次いで「島根県」「宮崎県」「鳥取県」「熊本県」と続いている。一方、最下位は合計特殊出生率と同様に「東京都」で、以下「秋田県」「北海道」「宮城県」「岩手県」といった東北地域が下位にみられた。この指標から、人口規模が出生数に与える影響は大きいものの、若い女性が出産しやすい(出産を望む)地域的背景の影響も同様に大きいこと を示唆している。(図表8)(図表9)
~おわりに~
若い女性の人口規模・年齢構成は、各地域の出生数に大きな影響を与える主要因であるが、若い女性の継続的な他都道府県への転出入は、各地域における未来図を左右する。しかしながら、東京都をはじめとする転入の多い都府県においても、未婚率や晩婚率の上昇を背景に、転入規模に見合った出生数の増加にはなっていないのが現状で、今後も都市部を中心にその傾向は継続することが推測される。若い女性が安心して出産を望めるような環境整備や企業の努力は今後も必要であるが、親元を離れた若い世代が精神的・金銭的拠り所なしに子育てすることの難しさに対する、根本的な支援体制についてはあまり論じられてはいないように思う。
一方で、少子化の改善に大きな期待を持ちづらい現状を踏まえた、各行政それぞれの事情に応じたインフラ・制度の再構築も検討する必要があるだろう。
少子化により描かれる未来図は、人口減少に適応した行政サービスやコミュニティの在り方を模索し、新たな社会への移行を促す道標にもなるだろう。(鈴木貴子)








