不動産の面白さを伝えたい
2025年03月28日 / 『CRI』2025年4月号掲載
目次
子どもの頃から不動産は身近だった。父方の実家は山と田畑、母方の実家は住宅、駐車場、田畑などを所有する大家さんだったからだ。
特に母方は実家の近くに何軒かの家作を持っており、祖父が障子の貼替えをするのを手伝ったり、一人暮らしだったはずのおばあさん宅に親族を偽って入り込む悪い入居者の愚痴をこぼすのを聞いたりもした。今はそんなことは起こらないだろうが、その昔は一人暮らしの高齢者の賃借権を継承したといって金品を要求するような輩がいたのだ。
そうした影響からだろう、私は子どもの頃から間取り図が好きで新聞に入ってくる不動産広告は隅から隅まで眺めた。
その結果というべきか、大学を卒業した1982年以来、ずっと不動産に関する記事を書いてきた。異動も転勤も無かったため、文字通り、不動産一筋である。実際には市場、社会、暮らし方の変化などに応じて取り上げる分野が広がり、現在は不動産そのものより、それをどう使うかといった観点が中心になっている。
当然、この間で不動産市場、社会は大きく変化した。もっとも変化が大きいのはまち選びという観点だろう。今、不動産を探す時は物件よりも先にどこで探すかという話が出る。通勤、通学などによる制約はあるが、それでも比較的住む場所が選べるようになったからだ。
だが、覚えていらっしゃるだろうか。バブル期にはどこに買うではなく、買える場所に買わざるを得ないという状況があった。その分、通勤費を青天井で出す会社もあったので、始発の新幹線で通勤する人たちを週刊誌が取り上げたりしたものだ。自由に住む場所を選ぶことなど想像もできない時代がちょっと前にあったのだ。
その後、都心の不動産価格が下落、住む場所を選べるようになってからは地方分権の時代だった。東京23区では子どもの医療費助成を何歳まで出すかを自治体が競い合い、その時代に公共サービスは住む場所を選ぶ際の要件の一つとして認識されるようになった。
2011年の東日本大震災は多くの人に防災を意識させた。その後にも熊本、北海道、そして2024年には能登半島と大きな地震が続いているほか、台風、豪雨による被害もあり、災害についての関心は阪神・淡路大震災時に比べて格段に大きくなった。
それ以降人口減少に影響されてまちの盛衰に関心を持つ人も増えたが、都市に住んでいると衰退にリアリティを感じにくい。まだどこか遠いところの問題と思っている人が少なくないが、この40年ほどの変化を考えると、思っている以上のスピードで変化が出てくるはずだ。既に人手不足は都市部でも身近に迫りつつある。
ネガティブな変化だけでなく、古い建物に対する関心、場所にこだわらない住まい探し、建物種別を越えた活用、シェアが生む新しい利用、小商いに関心を持つ人の増加などと不動産の使い方は自由になり、多様化している。これからはもっと不動産が面白いぞとわくわくしているのだが、残念なのは不動産に関心のない人たちにはその面白さが伝わらないこと。
長年、その魅力を伝えたくて原稿を書いているのだが、そこが伝わるようにするにはどうすれば良いか。不動産が面白いと分かれば社会も変るのに。事業者の中にはそう思う人も多いはず。そこをなんとかしたいと思いながら、今日も原稿を書いている。

住まいと街の解説者。40年以上不動産を中心にした編集、執筆業務に携わり、年々テーマは拡大中。
主な著書に『ど素人がはじめる不動産投資の本』(翔泳社)『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)『解決!空き家問題』『東京格差 浮かぶ街・沈む街』(ちくま新書)『空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる「がもよんモデル」の秘密』『土地の価格から地域を読みとく 路線価図でまち歩き』(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合会員。
株式会社東京情報堂