シークエンスとしての空間設計─ 映画のように“流れ”で体験する空間
2025年12月26日 / 『CRI』2026年1月号掲載
目次
建築の設計を考えるとき、私はよく映画のことを思い出す。映画は、一つの場面(シーン)を積み重ねながら物語を紡いでいく。その構成の考え方が、空間づくりにもとても近いと感じるのだ。
映画の「シーン」とは、ある瞬間や場面を切り取ったもの。建築でいえば、一つの部屋や、特定の居場所のようなものだ。一方、「シークエンス」は複数のシーンがつながって、時間の流れの中で展開していくものである。これを設計に置き換えると、建築は単なる場面の集まりではなく、人が動きながら体験する時間の流れを含んだ構造だと言える。
たとえば、玄関からリビングへ、そしてテラスへ出る――。この一連の動きの中には、光の変化や音の広がり、視線の抜け方など、いくつもの「編集点」がある。そうしたつながりを意識して設計すると、空間の中に自然なリズムが生まれる。一つの部屋をどうデザインするかだけでなく、どのように次の空間へ移り変わっていくかを考えることで、暮らしの流れそのものが豊かになる。
映画の監督が「どこでカットを切るか」「どんなテンポでつなぐか」を考えるように、建築家も「どこで視線を変えるか」「どの角度で光を受けるか」を考える。それは人の動きと感情の流れを編集する作業に近い。視線を導き、光を転調させ、音を和らげる――そうした小さな工夫の積み重ねが、空間に「物語」を生み出していく。
また、映画ではカメラの位置が物語の印象を決めるように、建築でも人の目線の高さや立つ位置によって空間の印象が変わる。少し低い天井は包まれるような安心感を与え、高い場所から差し込む光はその場に静かな緊張感をもたらす。こうした「視点の設計」は、図面だけでは表せない感覚的な要素だが、人が空間をどんなリズムで感じ取るかを決める重要な部分だと思う。
映画には「光の演出」がある。朝の光、昼の透明な光、夕方の柔らかな影。それらを意識的に組み合わせていくことで、時間の経過を映し出す。建築でも同じように、自然光と照明を24時間のタイマーで編集して空間に時間の表情を与えることができる。光が移ろうだけで、同じ空間でもまるで別の物語が始まるように感じられる。
そして映画における「間」や沈黙も、空間づくりのヒントになる。説明しすぎず、あえて余白を残す。家具のあいだの距離や、廊下の先に残る暗がり、静けさを含んだ素材の表情。そうした“間”があることで、人はその場に自分の感情や記憶を重ねられる。
建築は、完成した瞬間に終わるものではなく、人がそこを歩き、座り、時間を過ごすことで、初めて「一つのシークエンス」として生き始める。

株式会社アイケイジー 代表取締役 / 建築家 / デザイナー
東京生まれ。日本女子大学家政学部住居学科卒業。松田平田坂本設計事務所(現:松田平田設計)を経て、2006年アイケイジー設立。建築設計、インテリア、アート、植栽計画からメンテナンスに至るまで、空間にまつわる全てをプロデュースする。
16年 JCD デザインアワード 金賞+近藤康夫賞(二子玉川 蔦屋家電)、22年GOOD DESIGN AWARD(遠藤照明ショールーム)など、受賞多数。