多世代シェアハウスで愉しい人生100年時代

「暮らしをデザインする」05 (Aug. 2025)

2025年08月06日 / 『CRI』2025年8月号掲載

エッセイ

目次

年金制度改正法が成立した。その最大のポイントは就職氷河期世代のケアだ。現在、この世代はリタイア後の不安が大きくなる40・50代であり、非正規が多い世代でもある。片方で、独居老人・孤独死の問題もあり、今後ますます独居老人は増大するとされる。人生100年時代はどうなるのか。

リタイア後の資本は一般に「健康」と「お金」といわれる。しかしながら、ここに三つめの資本がある。それが「コミュニケーション」だ。グラフにあるように、これから増やしたいコミュニケーションは、孫・子・夫婦・友人知人と非常に高い。ハツラツとしたリタイア後を送る人はコミュニケーションがゆたかだといわれる。お金が沢山あると熾烈な遺産相続争いも起きかねない。それより本当に贅沢なリタイア後は「平日の昼間から気のおけない仲間とビールで乾杯!」ではないか。健康を考えればノンアルコールビールで乾杯だ。

全国に「多世代・同世代・同性シェアハウス」が多くできていくことによってそれは可能になると思われる。「荻窪家族レジデンス」という多世代シェアハウスは、地域も巻き込みながら、要介護者と妊婦という負荷の多い人たちを多世代で支えていこうという理念に支えられていると聞く。今後の人口減少社会でこれも問題とされるのが「空き家」の増大である。それはリノベーションで低家賃のレンタルスペースが多くできる可能性もあるということだ。シェアハウスのいいところは、いくつかお試し入居をして自分にとって気のおけない仲間のいるところを見つけられるところにある。

若い世代も将来の年金不安があり、より良い年金制度設計が必要だ。しかしながら一方では、誰でも多少お金がなくても、それなりに楽しく愉快に人生の最後のステージが迎えられることが、若い世代の将来的な安心をつくる上でも重要といえよう。

多世代シェアハウスのいいところは、ハイエイジ(高齢)になっても、同じシェアハウスの若い世代にコーヒーを淹れる、料理をする、掃除をする、などで社会的な役割、すなわちちょっとした生き甲斐を持ち続けることができるところにある。

さらに、この延長にあるのは「温泉シェアハウス」だ。日本は温泉に恵まれている。かつて日本には「湯治」という美風があった。その現代版があってもいいのではないか。季節ごとに、あるいは年ごとに全国の温泉シェアハウスを渡って行くのもいい。リモートでその前の仲間ともつながる。こうした日本ならではの人生100年時代があってもいいのではないかと思うのである。

阪本 節郎さかもと せつお

人生100年時代 未来ビジョン研究所 所長
1975年早稲田大学商学部卒。(株)博報堂入社。プロモーション企画実務、研究開発に従事の後、企業のソーシャルマーケティング開発を推進。2000年エルダービジネス推進室、2011年新しい大人文化研究所を設立。さらに、2019年独立し当研究所を創設、現在、所長。
著書:『50歳を超えたらもう年をとらない46の法則』(講談社+α新書)『シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか~新しい大人消費が日本を動かす』(日本経済新聞出版社、韓国版・台湾版発刊)他。