「子育ての社会化」と近居・隣居

「暮らしをデザインする」06 (Sep. 2025)

2025年09月04日 / 『CRI』2025年9月号掲載

エッセイ

目次

出生数が統計開始以降初めて「70万人」を割った。(2025年6月、厚労省発表)前政権が「異次元の少子化対策」を高く掲げたが、少子化および人口減少のスピードは加速している。片方で高齢化は進展しており、「少子高齢化」がさらに深刻になりそうだ。参院選もあったが、解決策がなかなか見出せない。一つの要因は、少子化、高齢化ともに個別に考えているからではないか。 

実は、人生100年時代未来ビジョン研究所が本年6月に40-70代に実施した調査では、「大人世代が若者世代を応援することで、若者世代からも新しく社会的にも意義のある文化や潮流が生まれる時代が望ましい」と答えた割合が73.5%に達した。(グラフ参照)これを「クロスジェネレーション」と呼んでいる。

とりわけ少子化という意味では、若い母親へのサポートが必要だ。結婚・出産を考えたときに先行きに安心感の得られることが重要といえる。2019年に出生率2.95を記録した岡山県奈義町の担当者は「どんなに役場がお金を出しても、一時的なお金だけで人を育てることはできない。それより重要なのは、子育て支援をしてくれたり相談に乗ってくれたりする先輩ママや、ママ友との交流ではないか」としている。

当研究所では「クロスママ相談カフェ」として、港区で近隣オフィスの先輩ママと子育てママの集いを開催し、子育てママからは大変助かるという声が相次いでいる。企業でも地域でも開催可能で、地域でこれを発展させるためには子供と一緒に集えるスペースがあることも望ましい。

さらに、わが国で実は、長年隠れた子育て支援として大きな力を発揮してきたのは「祖父母」による支援、「孫ケア」だ。そのために、「近居・隣居」がある。敷地内の小住宅またはアパートなどによる近居・隣居だ。もちろん、イクメン/トモイクによる夫との共同育児も欠かせない。前号でご紹介した多世代シェアハウスでの先輩世代による妊婦・子育てママへの支援も大いにあるだろう。こうした多層的な「子育ての社会化」がこれから大いに求められる。子育てママ各々によって環境は異なる。それだけに近くの複数の誰かがサポートできる社会が望ましい。それによって安心感が得られることは、おそらく確実に少子化に歯止めをかけることになると思うのである。

阪本 節郎さかもと せつお

人生100年時代 未来ビジョン研究所 所長
1975年早稲田大学商学部卒。(株)博報堂入社。プロモーション企画実務、研究開発に従事の後、企業のソーシャルマーケティング開発を推進。2000年エルダービジネス推進室、2011年新しい大人文化研究所を設立。さらに、2019年独立し当研究所を創設、現在、所長。
著書:『50歳を超えたらもう年をとらない46の法則』(講談社+α新書)『シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか~新しい大人消費が日本を動かす』(日本経済新聞出版社、韓国版・台湾版発刊)他。