「住む」は「変わる」
2025年11月28日
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最近、思うのは「人は変わる」ということです。自分では「ここは変わらないだろう」と考えていたところが、案外さらりと変わり「この辺りは柔軟に」と思っていた部分が、実は変えられないと気づきます。同時に、その変化により「家」も「住み方」も変わってきます。
生き方や考え方が変わるから住まいが変わるのか、家が変わるから生き方が変化するのか、未だにわからない部分がありますが「そろそろ引っ越そう」や「新しい住まいに」と考えはじめる頃は、既に何かが動いています。
具体的にパートナーと暮らす、家族が増える、または、こどもが独立するなど、わかりやすいステージの変化もありますし、「こころ」や「からだ」という個々の静かな変化も人生のなかには幾度か訪れます。
東京から離れたのは40歳の時でした。「海の近くで暮らしたい」。その思いから生まれ育った東京を後にしました。当時は、便利さや福祉・交通の充実については、必要性を感じていませんでした。当たり前にあるものに対し人は「それがどれほど恵まれたことか」に気づかないのはよくあることです。
それから20年の時が流れ、再び、東京に戻ってきました。一番驚いているのは、わたし自身です。東京に帰る前は、瀬戸内の町で暮らしていましたが、これから訪れる60代を前に、暮らしの優先順位が大きく変化したことをある日感じました。
瀬戸内での一軒家暮らしは、東京では手に入らない住まいの広さがあります。でも、それは、いまはありません。その代わり手にしたのは、コンパクトであたたかく涼しい部屋、安全なセキュリティー、いつでもゴミを出せる便利さです。親切な行政、数々の病院、歩いて買い物に行ける環境。以前は、それらが、自由のひとつだとは思っていませんでした。自由の定義が変わったのです。
ネガティブな事柄をポジティブに変換できるようにもなりました。最初は受け入れがたかったIHもこれからの年齢を思うと「安全」と考えるようになり、窓を開けると聞こえてくる車や工事現場の音も「騒音」から「人が働く音」になりました。いまの住まいは賃貸マンションですが、ペット飼育可能です。それが、どれだけ人間らしいことか。犬や猫と一緒にいる人はわかるはずです。「選択の多さは自由を広げ生きやすさにつながる」。そう感じるようになりました。
「自由」の定義が以前と変化したことで「家」も「住み方」も「暮らす場所」も変わりました。若い頃は、体力でカバーできたことができなくなっていく未来、人の生き方のモデルとなる多様性の多さが、東京へ帰ることをわたしにくれました。
東京の忙しさは相変わらずです。20年前よりスピードアップしています。でも、忙しいからこそ、多くの人の仕事は的確で速く対応も親切です。公共交通はさらに便利になりマナーもよくなりました。朝こどもを保育園や学校に連れていく男性(お父さんだと思いますが)の姿にジェンダーフリーを感じます。オフィス仕事の時間を短縮してキャリアをつづける女性(多分お母さんだと思います)。レストランでひとり食事をする人の姿。
そう。変わったのは、わたしだけではなかったようです。

エッセイスト/設計事務所共同代表/空間デザイン・ディレクター
東京、葉山、鎌倉、瀬戸内を経て、2023年から再び東京在住。
現在は、執筆の傍ら、商業施設、住宅の空間設計のディレクションにも携わる。
最新刊は 『60歳からあたらしい私』(扶桑社)
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