今、何がマンション管理の課題となっているのか

〜居住者に聞くマンション居住の現状と課題〜

2025年04月30日 / 『CRI』2025年5月号掲載

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目次

国土交通省ではマンション管理に関し、これまでに講じられてきた施策の効果の検証、必要となる施策の提示を行うための基礎的な資料を得ることを目的として、5年に一回マンションの管理状況・居住者の管理に対する意識等の調査を実施している。
今月はこの中から、「マンション居住の状況」「管理組合の運営」について調査結果を見ていく。

調査概要

調査主体:国土交通省「令和5年度(2023年)マンション総合調査」
調査実施期間:令和5年(2023年)10月~令和6(2024年)3月 
調査対象:区分所有者8,540件
回収状況:3,102件(36.3%)

回答者属性概略

今回の調査回答者の属性では、70歳以上の年齢層が約26%と多数を占めた。世帯主の年齢構成推移を20年前と比較すると、70歳以上が約16%増加し全体の約1/4を占める一方で、30歳代までの若年層は半減し約6%となり、居住者の高齢化の進行がうかがえる。また、完成年次別の世帯主の年齢では2015年以降完成のマンションでは30歳代未満が居住者の約25%を占めるものの、1984年以前完成のマンションでは約56%が70歳以上となっており、完成年次が古いマンションほど高齢化が進行していることがわかる。 
地域別では関東が約27%と多数を占める他、近畿圏、北陸・中部が約18%ずつと3地区で全体の約63%を占め、マンション供給の多い都市部に回答者が集中していた。マンションの取得時期については2000年代がピーク、完成年次は1979年以前(築46年以上)のマンションが多い。 

資料:長谷工総合研究所作成

資料:長谷工総合研究所作成

資料:長谷工総合研究所作成

1. マンション居住の状況

回答者属性から、完成年次の古いマンションほど高齢者比率が高く高齢化が進行しているが、実際のマンション居住の状況をみていきたい。

1. 進む賃貸化率

賃貸住戸のあるマンションの割合は約74~84%であり、2023年調査においては約78%と高い比率を占めた。20%超が賃貸化している管理組合の割合は減少がみられるものの、0%超~20%の管理組合は増加。(図1)完成年次が古いマンションほど賃貸化が進行している傾向が確認できる。 
また、空室戸数(3ヵ月以上)割合は減少傾向となっているが、完成年次が古いマンションほど空室があるマンションの割合が大きい。(図2)このように賃貸化・空室化が進行することで、役員のなり手不足・管理への無関心・修繕積立金の滞納など、管理状態劣化への影響は深刻である。

※図1・2は管理組合に対するアンケート

2. 高まる永住意識

完成年次の古いマンションを中心に、賃貸化・空室化の傾向がみられる一方で、永住意識は高まっている。 
かつては住み替え意識が強かったものの、1995年には永住意識と住み替え意識が逆転し、以降、永住意識が増加し、2013年以降は50%超となった。 (図3)

1993年から1995年にかけて大幅に永住意識が高まった背景には、バブル崩壊後、特に都市部の不動産価格が下落・安定化し、都心部に近くて広い廉価マンションが大量に供給されたことや、大量供給による商品の品質の向上が挙げられる。その後も永住意識が高まった要因として、価格の高騰により新規取得が難しくなったことに加え、マンションの品質・性能の向上により、長期居住に適した住宅の供給がなされたことが後押しになったものと推測される。 
年齢別では30歳未満の若い層の約1/3で永住意識なのに対し、50歳代以上で過半数を超える。50歳代以上で永住意識が高い理由として、今後、家族構成・ライフサイクルの大きな変化が生じにくいこと、既に形成されているコミュニティ・生活圏から離脱しづらいなどが考えられる。 (図3-a)

「いずれは住み替えるつもり」と答えた回答者が、住み替えたい住居として最も多く挙げたのは「自己所有一戸建」であり約32%、次いで「自己所有マンション」が約25%を占める。「自己所有マンション」を選択しなかった理由として 「共用部分の維持・管理に費用がかかるから」「共用部分の維持・管理について自分の考えだけで決められないから」など、共用部分の維持管理の費用負担・自由度の低さが上位に挙がっている。

3. マンション選定時における共用部分の維持管理に対する考慮は年々増加

マンション購入時に考慮した項目では「駅からの距離など交通利便性」「日常の買い物環境」といった利便性の他、「間取り」などの自身の日常生活に関わる項目が上位であり、「共用部分の維持管理状況」「共用施設・サービスの充実度」といった共用部分の項目は他項目に比べると下位であるが「マンション選定時の入居後の共用部分の維持・管理に対する考慮」では、「かなり考慮した・やや考慮した」が約44%と高い比率を占め、2020年以降の取得でも約52%が「かなり考慮した・やや考慮した」と回答している。これは「管理費・修繕積立金の金額アップに対しての懸念」がある一方、「適切な維持管理が物件の資産価値維持・向上に直結する」という意識の広がりが要因と考えられる。(図4)(図4-a)

2. 管理組合の運営

先の共用部分の維持・管理に関しては、「かなり考慮した・やや考慮した」という回答が約44%であったが、「マンション管理業者が提供するサービスの範囲として望ましいもの」、また「管理事務を委託することへの意向」については以下の通り。

1. 高齢化に伴い専有部分におけるサービスへの要望が増加

「マンション管理業者が提供するサービスの範囲として望ましいもの」は2018年・2023年比較では大きな変化が見られないが、年齢別にみると「専有部分の照明電球の交換や家具の移動等のサービス」「高齢者の見守り支援など特定の居住者に対する生活支援サービス」は、年齢が上がるにつれてニーズの高まりが確認できた。今後、単身高齢者の増加※が見込まれる中、入居者の属性を考慮したサービス内容の精査が望まれる。(図5)(図5-a)

※65歳以上の単身世帯6,716,806世帯(2020年国勢調査)

2. マンションの管理に関して 取り組むべき課題(重複回答)

マンションの管理に関して取り組むべき課題ではいずれの完成年次も、上位に「長期修繕計画の作成又は見直し」「修繕積立金の積立金額の見直し」が挙がっており、特に2010~2014年の完成(約築9~14年)では30~40%を占める。また「防災対策」「共用部分の利用に関するルールの徹底」については、前述2項ほどは多くはないものの上位に挙がっており、躯体の保全・費用の見直しと同様に、共用施設を利用する際のマナーやモラルが居住者間の課題となっている。今後は今までより居住者の多様化が進行することから、更に重視度が増すことが予想される。(図6)

3. 第三者管理に肯定的なのは若年層

事務を管理業者へ委託することへの意向では、最も多いのは「任せても良いが、方針を決める際には専門家の活用も必要である」という回答で約62%であった。「全て任せた方が良い」は約18%であるが、年齢別では40歳代までの年齢層の平均が25%前後で、忙しい現役世代からのニーズが高い。年齢の高い層では「任せるべきではない」という回答が他の年齢層と比較すると高いが、高齢者の多いマンションでは「高齢のため役員を受けられない」という声も少なくなく、マンション・入居者「二つの老い」は外部人材にその解決を求めるのか、DX活用により仕組みを変えていくのか、事前の備えが必要である。(図7)(図7-a)

鈴木貴子

資料:国土交通省「令和5年度(2023年)マンション総合調査」より長谷工総合研究所作成