老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について
2025年08月06日 / 『CRI』2025年8月号掲載
目次
背景・必要性
我が国におけるマンションは、国民の1割以上が居住する重要な居住形態の一つとなっていますが、一方で、築40年以上のマンションが全体の約2割を占めており、また、その住戸のうち、世帯主が70歳以上である割合も5割を超えるなど、建物と区分所有者のいわゆる「2つの老い」が進行しています(図表1)。
こうした状況から、外壁剥落の危険や集会決議の困難化などの課題が顕在化しており、これらに対処するためには、マンションの新築から再生までのライフサイクル全体を見通して、その管理・再生の円滑化等を図ることが必要です(図表2)。
このため、「管理の円滑化等の推進」「再生の円滑化等の推進」「地方公共団体の取組の充実」の3本柱で構成される「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」を第217回国会に提出し、令和7年5月23日に可決・成立いたしました。
本稿では、本改正法の概要についてご紹介いたします。
1.管理の円滑化等の推進
①適正な管理を促す仕組みの充実
マンションにおいて、修繕積立金を積み立て、大規模修繕工事を適切に実施するなど、管理組合によるマンションの適正な管理を促すため、令和4年4月から管理計画認定制度を開始しているところですが、さらに、マンションの長寿命化を図っていく上では、新築の段階から適切な修繕計画等を策定し、その内容を区分所有者によく理解いただき、適切な管理につなげていくことが重要です。このため、新築時から適切な管理などが行われるよう、本改正法では、マンションの新築当初に区分所有権を有することとなる分譲事業者(不動産デベロッパー)が、管理組合の管理者等への管理の適正かつ円滑な引継ぎに関する事項等を記載した管理計画を作成し、都道府県知事等に対して認定の申請をすることができる等の規定を設けることといたしました(マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「マンション管理法」)第5条の15、第5条の16、第5条の20等)(図表3)。
また、近年、区分所有者の高齢化等による管理組合役員の担い手不足を背景に、マンション管理業者が、管理事務を受託しているマンションの管理組合の管理者を兼ねるケースが出てきています。こうしたケースでは、マンション管理業者が工事等の受注者・発注者の双方の立場に立つこととなり、いわゆる利益相反の懸念があることから、本改正法では、管理組合の管理者を兼ねるマンション管理業者は、自己等と取引を行うときは、予め説明会を開催し、区分所有者に対して必要な事項を説明しなければならない等の規定を設けることといたしました(マンション管理法第77条の2等)(図表4)。
②集会の決議の円滑化
現行の制度では、集会決議の母数は原則として全ての区分所有者とされています。そのため、決議に参加しない無関心な区分所有者や所在等が不明の区分所有者も原則として決議の母数に含める必要があり、こうした存在が円滑な決議を阻害しているとの指摘もあります。このため、本改正法では、例えばマンションの修繕など区分所有権の処分を伴わない決議については、欠席者を除いた出席者の多数決によることといたしました(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)第17条、第31条、第39条等)。また、裁判所が認定した所在等不明区分所有者については、全ての決議の母数から除外する制度も創設いたしました(区分所有法第38条の2)(図表5)。
このほか、共用部分の変更決議の多数決要件の緩和等の措置も講じています(区分所有法第17条第5項等)。
2.再生の円滑化等の推進
①新たな再生手法の創設等
現行の制度では、マンションの建替えについては、5分の4以上の多数決決議により行うことができることとされていますが、それ以外の再生手法である、建物と敷地の一括売却や一棟リノベーションなどは、原則として区分所有者全員の同意が必要とされています。マンションの再生等を進めていく上では、こうした建替え以外の手法についても合意形成の円滑化を図る必要があることから、本改正法では、建替えだけではなく、これらの再生手法等についても、建替えと同様に5分の4以上の多数決決議により行うことができることといたしました(区分所有法第64条の5、第64条の6等)。
また、多数決割合についても、再生等の必要性が高いマンションにおいてより円滑に手続きが進められるよう、耐震性不足等の場合には4分の3以上に、政令指定災害により被災をした場合には3分の2以上に、それぞれ引き下げることとしています(区分所有法第62条第2項、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法第5条第2項)。 併せて、これらの新たな決議がなされた後に、円滑に事業が進められるよう、組合の設立や権利変換手法による関係権利の円滑な移行などに関する事業手続等についても整備をいたしました(マンションの再生等の円滑化に関する法律(以下「マンション再生法」)第9条~第12条、第57条~第66条、第141条~第144条等)(図表6)。
このほか、賃貸借の終了請求等の仕組みや団地における多数決要件の緩和等の措置も講じています(区分所有法第64条の2~第64条の4、第70条第1項等)。
②多様なニーズに対応した建替え等の推進
マンションの建替え等を円滑に進めるためには、保留床の確保などにより区分所有者の負担軽減を図り、合意を形成しやすい環境を整備することが重要です。このため、これまでも、建替え後のマンションの容積を増やすために、隣接する空き地等を取り込んだかたちで建替えを行おうとするケースがありましたが、隣接地の所有者が引き続きその地で住み続けることを希望する場合に、合意形成が難しいといった課題も存在していました。このため、こうした場合における隣接地の権利者等との合意形成の促進を図る観点から、本改正法では、隣接地の所有権等について、再生後のマンションの区分所有権に権利変換することができることといたしました(マンション再生法第58条第1項、第71条第2項)(図表7)。
また、現行の制度では、耐震性不足等の危険なマンションについて建替えや除却が円滑に進められるよう、特定行政庁の個別許可により、建替え後のマンションの容積率の制限を緩和することができることとされていますが、高経年マンションの中には、建築基準法上の高さ制限が適用される前に建築された既存不適格建築物も存在することから、こうしたマンションでは、建替えに当たって従前の建物規模を確保できず、事業性や合意形成の確保が困難となるケースもあります。このため、本改正法では、耐震性不足等のマンションについて、容積率の緩和に加え、高さ制限についても緩和の特例を認めることといたしました(マンション再生法第163条の59)。
3.地方公共団体の取組の充実
①危険なマンションへの勧告等
長期にわたって修繕等が適切に行われておらず、マンションの外壁にひび割れや剥落等が生じている場合、近隣住民をはじめ周辺に危険が生じるおそれが高いことから、こうした危険な状態にあるマンションに対して、管理組合の自主的な対応を待つだけではなく、地方公共団体からの能動的な働きかけが行いやすくなるような制度的な措置を求める要望を多数いただいておりました。このため、本改正法では、こうした保安上危険なマンション等に対し、地方公共団体が報告徴収、助言指導・勧告、専門家のあっせん等を行うことができる制度を創設することといたしました(マンション管理法第5条の2、マンション再生法第4条の2)(図表8)。
②民間団体との連携強化
今回の法改正により、上述のような地方公共団体の権限の強化が図られることとなりますが、こうした権限の強化に伴う業務の増加にも対応するため、マンション管理等に取り組む民間団体とも連携し、その協力も得ながら、地域全体で管理組合の活動を支援する体制を構築していくことが重要です。このため、本改正法では、区分所有者の意向把握や合意形成の支援等の取組を行っている民間団体について、地方公共団体が「マンション管理適正化支援法人」として登録することができる制度を創設することといたしました(マンション管理法第5条の3~第5条の12)(図表9)。
4.施行日について
本改正法の施行日は、以下のとおりとなっています。
公布日から6月以内
3.地方公共団体の取組の充実
① 危険なマンションへの勧告等
② 民間団体との連携強化
令和8年4月1日
1.管理の円滑化等の推進
① 適正な管理を促す仕組みの充実(管理業者管理者方式に限る。)
② 集会の決議の円滑化
③ マンション等に特化した財産管理制度
2.再生の円滑化等の推進
① 新たな再生手法の創設等
② 多様なニーズに対応した建替え等の推進
公布日から2年以内
1.管理の円滑化等の推進
① 適正な管理を促す仕組みの充実(管理計画認定の拡充に限る。)
今後、施行に向けては、全国での説明会の実施など周知・広報に努めるとともに、各種ガイドライン・マニュアルの整備や標準管理規約の改正など円滑な施行に向けた取組を進めてまいります。

国土交通省 住宅局 参事官(マンション・賃貸住宅担当)
2002年に国土交通省入省。これまで、住宅瑕疵担保対策や既存住宅流通・リフォーム市場の活性化などに関する業務に従事するとともに、現行の住生活基本計画(全国計画)の策定にも携わる。2021年広報課広報企画官、2022年復興庁参事官を経て、2024年7月より現職。








