長谷工グループが挑む新時代のシニアレジデンス「ブランシエール蔵前」とその社会的意義

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「ブランシエール蔵前」は都心部立地とデジタルトランスフォーメーション(DX)を導入した次世代型シニアレジデンスです。長谷工グループのシニア事業を管掌する吉村直子・長谷工コーポレーション取締役執行役員に取材しました。(以下吉村さん談)

▲㈱長谷工コーポレーション 取締役執行役員(経営管理部門サステナビリティ推進担当兼グループシニア事業管掌) 吉村直子さん。1992年、長谷工コーポレーション入社。1994年、長谷工総合研究所に出向。高齢者の居住環境や高齢者向け住宅・施設に関する調査研究、コンサルティングに従事。同研究所取締役主席研究員などを経て、2023年6月、長谷工コーポレーション初の女性社内取締役兼執行役員に就任。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

長谷工では、グループ会社の㈱長谷工シニアウェルデザインが運営する「ブランシエール蔵前」を2023年5月に開設しました。自立型の住宅が124戸、介護型の住宅が30戸あり、それぞれのニーズに合わせた設計が施されています。法制度上は老人福祉法に基づく「有料老人ホーム」に分類されますが、長谷工では高齢期の生活を支える安全・安心・快適な住まいとして、従来の枠組みにとらわれない新たなシニアレジデンスを目指して開発しました。台東区蔵前という好立地での開発は長谷工にとっても初めての取り組みで、日本橋・銀座など都心エリアへのアクセスも良好な環境を意識して、これまでにないさまざまな工夫をしています。

 

建物全体は、日本郵政不動産㈱による大規模複合開発「蔵前JPテラス」となります。同施設は主に、「オフィス棟」「住宅棟」「物流棟」で構成され、当シニアレジデンスは「住宅棟」にあります。9階から17階には長谷工シニアウェルデザインが運営する「ブランシエール蔵前」、18階から23階には賃貸住宅「JP noie 蔵前」があり、3階には認可保育園が設置されています。

 

「ブランシエール蔵前」では、自立型と介護型の住宅を併設しており、自立型に入居された方が将来的に介護を要する状態になった場合でも、同じ建物内にある介護型の住宅に住み替えることで、住み慣れた環境の中で最適な生活を継続できるのが強みです。自立型の住宅では、健康な高齢者が自分らしい生活を送ることができ、介護型の住宅では、必要なサポートを受けながら人生最期まで快適に暮らすことが可能です。住まいとしてのこの柔軟性は、ご入居者にとって生活の利便性だけでなく、大きな安心にも繋がると思っています。

 

日本では、高齢者向け住宅といえば要介護者向けの介護施設が圧倒的に多い中、当社グループのように自立型と介護型の両方を30年以上にわたって提供し続けている企業は非常に少なく、自立から介護まで高齢期のさまざまなニーズに対応できる住まいとサービスの運営をしているという点で、大きな独自性を有していると考えています。「ブランシエール蔵前」は、そのような当社グループの取り組みを象徴するシニアレジンデンスと言って差し支えないでしょう。

 

蔵前は、独自の歴史や文化があるというだけでなく、最新のオフィスや高級マンションが数多くあるエリアという点にも特徴があります。長谷工グループでは、首都圏・東海圏・関西圏の三大都市圏を中心にこれまで44ヵ所の高齢者向け住宅を展開しています。「ブランシエール蔵前」は、2023年12月に開設した「ブランシエール目黒」と並び、都心部に近い好立地型のシニアレジデンスで、これは私たち長谷工グループにとっても新しい挑戦です。

▲「ブランシエール蔵前」総合事業所長 高田美保子さん(右)と。
※所属先・肩書きは取材当時のもの。

「ブランシエール蔵前」では、ご入居者にもこれまでにない特徴的な傾向があります。近年、日本の高齢者向け住宅では、自立型といっても入居時年齢は80歳を超える場合が大半ですが、「ブランシエール蔵前」では、現在約80名の入居者のうち4割が60〜70歳代です。これは、現役で働いているようなプレシニア層の方々にとっても、蔵前という立地がきわめて便利で生活しやすい場所であることが大きく影響していると考えています。仕事や友人・知人との交流、趣味活動など、活発に行動しながら、将来を見据えて元気なうちに高齢期の住まいを確保したいという方にもアピールできたのかもしれません。「ブランシエール蔵前」でのこうした経験により、私自身もシニアレジデンスの新しい可能性をあらためて感じているところです。

 

ご入居者からは、屋上庭園に面したレストランが特にご好評をいただいております。これだけの好立地に季節の移り変わりを感じることができる広い屋上庭園を設けることができたのは、大規模な複合開発ならではの強みでしょう。

 

また「ブランシエール蔵前」では、DXによる業務効率化の仕組みを複数導入しています。例えば、建物エントランスでは、顔認証システムによりご入居者やご家族などの入退館を管理しています。これまではフロントに常駐するスタッフが、どんな人が出入りするかをカメラに映る映像をいちいち見ながら確認し、オートロック玄関を開錠するといった作業をしなければなりませんでした。もちろん、現在もフロントにはスタッフを常駐させていますが、建物入退館のチェックなど機器類で管理できるようになったことも多く、人的コストを抑えながら、以前と変わらない質のよいサービスを提供することができています。

 

DXによる取り組みは他にもあります。介護居室では、ご入居者の離床の状況を把握するベッドの他、見守り介護ロボット(映像・体動センサー)を設置し、異変の早期発見と対応に努めています。また、身体状況やアクティビティに関するデータも収集し、健康維持に利用いただいています。健康増進につながるスマホアプリを独自に開発し、ご入居者に運動履歴や食事メニューなどを閲覧していただくほか、お一人おひとりの生活目標に向けた個別プログラムをAIが作成してサポートします。また、建物内のCO2濃度を測定することで共用施設の混雑状況を把握しており、大浴場、ライブラリー、フィットネスルーム、プレイルーム、サウンドルームなどの利用状況を、センサーを通じて各住戸から把握できるようにしているのも、ご入居者に好評をいただいています。混んでいる時間帯を避けるだけでなく、賑やかそうな様子を確認するのにも役立っています。

▲(左)フィットネスルーム、(右)大浴場。

▲介護居室の天井には、ベッド上の様子が分かる見守りカメラが設置されている。ベッド脇にはナースコールも。標準装備のベッドにはマットにセンサーが付いており、睡眠の長さや、ベッドから離れたかどうかなどが分かるようになっている。

これまでは、高齢になってから遠方に引っ越しをされる方は、「東京などの都市部で生活する子どもなど家族の近くに住みたいから」という理由が多かったのですが「ブランシエール蔵前」では少し違って、「一度、東京で生活してみたかった」と長年の夢を叶えたご入居者もいらっしゃいます。銀座や日本橋のように、全国的に有名な場所にも近い蔵前だからこそ、こうしたニーズにもお応えできるのかもしれません。

 

遠方からも「ブランシエール蔵前」に移ってこられる方が増えている背景には、高齢者向け住宅に関する情報の入手方法が変化していることも影響していると思います。昔は口コミが主な情報源でしたが、10~15年くらい前からインターネットを通じての情報収集が一般的になり、遠方にある高齢者向け住宅についても容易に検索して、情報を集められるようになりました。かねてから憧れていた地域への転居や中長期の滞在を、高齢になってから実現したいと思われる方の住み替えが今後増えるかもしれません。

 

「ブランシエール蔵前」の入居契約は、自立型、介護型ともに利用権契約です。家賃の支払い方式として3つのプランを用意しており、①一括払い方式:入居時に想定居住期間分の家賃を「前払金」として一括でお支払いいただく、②一部月払い方式:前払金と月払い家賃を組み合わせてお支払いいただく、③月払い方式:一般賃貸住宅のように毎月家賃をお支払いいただく――となります(ただし、70歳未満は月払い方式のみ)。月払い方式で契約後、途中で一括払い方式に変更していただくことも可能です。例えば79歳で入居された場合、1年間は月払い方式で入居し、80歳になったら一括払い方式に変えることもできます。

▲自立型住戸の例。生活安心センサーや呼出ボタンの他、掴みやすいドアの取手を採用するなど、安全・安心に生活できる環境に整えられている。

また「ブランシエール蔵前」では、ゆとりある時間を積極的に活用していただけるようなプログラムをいくつも用意しています。健康・体力づくりについては、セントラルスポーツ㈱と提携して、専門のインストラクターによるグループレッスンを提供しています。また、㈱目黒雅叙園のホテル雅叙園東京からはワイン講座を、東京藝術大学や西洋美術史の専門家からはアートやデザインに関する体験プログラムを提供いただいています。㈱資生堂からは同社研究員に美と健康について指導をいただいています。さらに、独自のラジオ番組「長谷工シニアウェルラジオ」も配信しており、ご入居者に好評をいただいています。

▲(左)TSUTAYA監修のライブラリー。(右)健康麻雀が楽しめるプレイルーム。電動麻雀卓が好評。

2000年に介護保険制度が始まってから、訪問介護などの在宅サービスが整備されるとともに、街中にはデイサービス施設が増えました。また、一般住宅の性能も年々向上しており、とりわけマンションでは優れたバリアフリー性能のほか、セキュリティや防災機能も充実してきています。その結果、高齢になっても住み慣れた自宅で生活できる期間が以前よりも延びていると思います。例えば、子育てが終わった後に郊外の戸建住宅を売却して、生活しやすい都心部や駅前の分譲マンションへ引っ越すといった暮らし方もずいぶんと一般的になってきました。各種の統計調査をみると、多くの人々は高齢期にも住み慣れた自宅に住み続けることを希望していますが、心身機能が低下した時に一人暮らしや夫婦だけの生活を続けることに不安を感じる人も少なくありません。近年、大都市圏を中心に高齢者のみの世帯が急増していることを考えれば、高齢者だけでも安全・安心・快適に生活できる住まいや、日常生活支援や介護などのサービスがついた住まいに対する需要は今後確実に増えていくでしょう。「ブランシエール蔵前」のようなシニアレジデンスが果たす役割もさらに大きくなると思います。

 

長寿化で伸びた長い高齢期を誰とどこでどのように過ごすのか。これまでの時代とは異なり、現代および将来の高齢者は、長い老後期間の住宅利用や住まい方の選択肢について、ご自身や同居者の心身状況や経済力、家族構成やライフスタイルなどさまざまな要素を考慮しながら真剣に考えていかなければなりません。

 

長谷工グループは今後も、分譲住宅に賃貸住宅、マンションに戸建住宅、シニアレジデンスまで、さまざまな形の住まいと、暮らしを支えるサービスを消費者の皆様にご提案し、お届けすることで、多様な暮らしのニーズにお応えできるよう努めてまいります。年齢、性別、文化、身体の状況など人々が持つさまざまな個性や違いにかかわらず、すべての方が生涯を通じて安心で豊かな生活を実現できるよう、社会インフラとしての住まいと暮らしに関わる事業を持続的に行っていくことをお約束して、今後も真摯に取り組んでいきたいと思います。

「ブランシエール蔵前」の特徴として、レストランでの1日3食の提供をはじめ、多様な共用施設、アクティビティの提供などがあります。ご入居者同士の交流も盛んで、充実した生活を送っていただくことができます。また、夫婦入居も可能で、すでに13組のご夫婦が入居されています。さらに、今まで飼っていた小型犬や猫と一緒に暮らすことも可能で(規程あり)、入居前の面談でペットアレルギーをお持ちの方の住戸とは隣り合わないようにするなど十分に配慮しながら、ペットとの暮らしを継続していただいております。

 

都心部立地の複合開発ということで、子どもや若年層などさまざまな年代の方との距離が近く、特に屋上庭園では、敷地内にある保育園の園児たちが元気よく遊ぶ姿を眺められたりして、お住まいの皆様も他の世代からのエネルギーを受け取っておられるように思います。「蔵前JPテラス」を運営する日本郵政不動産も100人規模の交流会を主催するなど、複合開発の強みを生かしたコミュニティ形成を意識しておられるようで、「ブランシエール蔵前」にお住まいの皆様も、多様な年代と交流され、生き生きとした生活を送っていただいております。

記事前編では、2023年6月、長谷工コーポレーション初の女性社内取締役兼執行役員に就任した吉村直子さんに高齢者向け住宅の変遷と、これからのサービス革新についてインタビュー

 

 

取材・文/小野悠史 撮影/石原麻里絵

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。

X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.ご入居者はもともとどこに住んでいた方が多いですか?
A.地元の蔵前に近い方が多いです。そのほか、東京、神奈川、千葉など関東の方が多いですが、昔から憧れだった蔵前や東京で一度は住みたいと考えて、遠方から引っ越して入居された方もいらっしゃいます。