スマホ、PCどこからでも物件の内覧可能!? 住宅販売の最先端DX事例と未来像とは

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マンションデベロッパーが多数導入する「ROOV(ルーブ)」を開発しているスタイルポートの間所暁彦社長に、マンション販売現場に起きている大きな変化について聞きました。

――昨年(2023年)11月にマンションDXに関するイベントを主催されました。

 

間所:当社のサービス「ROOV(ルーブ)」の導入プロジェクト数が500を超えたタイミングで、業界の皆さんに恩返しがしたいなと思って企画しました。マンション業界では土地の仕入れをする企画関連の人たちは企業を超えた横の連携があるんですが、販売現場の人達は情報交換の場があまりない。そこで、販売の人たちが、それぞれどんな工夫をしているのかを共有できる場を作ったら喜ばれると思ったんです。

 

登壇者の皆さんには、マンション業界全体でDX推進に繋がるような話をお願いしたところ、皆さん快く引き受けてくださいました。参加者の方々にはすごく喜んでいただけました。他社の取り組みを知る良い機会だったし、これからDXを進めたいけれど、どこから手をつけていいか分からないという方には具体的なヒントもたくさんあったようです。

 

特に、若手の営業社員の方々が「お客様のためにどう工夫したら良いかを熱く語る登壇者の姿が印象的で自分も勇気づけられた」というご意見はうれしかったです。こういった生の声や、取り組みの背景にある思いなどは、リアルなイベントだからこそ伝わるものがあります。イベントの準備は大変でしたが、開催して本当に良かったなと思います。

▲赤坂インターシティコンファレンスに100名近くのマンション業界関係者を集めた(2023年11月20日)

▲間所暁彦社長(まどころ・あきひこ)。1991年に矢作建設工業に入社し、不動産開発に従事。2006年に矢作地所の取締役として投資用不動産や分譲マンションの開発を行う。2011年にスタイル・リンクを設立し代表に就任、2017年にはスタイルポートを設立。※所属先・肩書きは取材当時のもの。
X:@AkihikoMadokoro

――イベントでは間所社長は司会として登壇者のお話を引き出すのに徹していました。本日は自社のサービス「ROOV」についても、詳しく教えてください。

 

間所:当社のサービス「ROOV」は、ルーム(Room)とVR、ビジュアル、ビジョンなどの「V」を組み合わせた造語です。大きく分けると2つのサービスがあります。

 

1つ目は、「ROOV walk(ルーブウォーク)」というサービスです。これはマンション図面情報を3DCGに変換し、クラウド上に格納することで、スマホやPCなどネットに繋がっている環境であれば、どこからでも物件の内覧ができるサービスです。部屋の中を歩いて回ったり、建物の外観を360度見渡したりできる、いわゆるデジタルツイン(※)のソリューションとして活用されています。

(※)現実世界の物体やシステムをデジタル上で精密に複製したモデルのこと。

 

もう1つが、「ROOV compass(ルーブコンパス)」というサービスです。これは元々、マンション販売における接客時にさまざまな資料を見せたりプレゼンテーションをしたりする際に使ってもらうものです。紙の資料を何枚も用意したり、パウチしたりしていたアナログ非効率な部分を改善するために開発しました。マンションの説明に必要なすべての情報をクラウド上のプラットフォームに集約し、現場での説明はもちろん、お客様に閲覧用のURLを発行し、ご自宅でも同じ内容を見ていただくことができるようになりました。

 

また、お客様がどの部分に特に興味をお持ちかを分析することで、お客様の関心ポイントや、どこで迷っているのかなどが把握でき、オンライン上で得られたデータを基にして、より親身で具体的な提案ができるようになります。

 

この2つのサービスを組み合わせて提供しているのが、「ROOV」です。デジタルツインとオンラインプレゼンテーションを組み合わせることで、リアルとバーチャルを自然に連携させた新しい不動産マーケティングを提供しています。

 

 

――導入プロジェクト数は現在どれくらいですか?

 

間所:直近では650プロジェクトに導入されています。サービス提供地域は沖縄を除く全国で、北海道から九州まで展開しています。 

 

サービス提供を開始したのが2019年なので、まだ5年ほどですが、この間に累計650プロジェクトまで広がりました。現在、合計250〜300プロジェクトが継続利用中です。

 

全国のマンションの供給プロジェクト数が年間1000件ほどだと考えると、そのうちの2割から3割のプロジェクトで「ROOV」が活用されていることになります。つまり、新築マンションのモデルルームに行けば、3件に1件くらいで何らかの形で当社のサービスに触れてもらうことができるんじゃないかなと思っています。

▲「ROOV」はスマートフォンや家庭用のパソコンでもストレスなく見られるように高速のブラウジングにこだわった

ROOV walk]を体感してみよう
▲2024年1月にバージョンアップし、実際の部屋を内見しているようなリアル感が増した

▲ユーザー自身が家具を配置することができ、生活空間や導線をイメージしやすくなった

▲「いつでも・どこにいても・誰とでも空間イメージの共有」をコンセプトに特別な機器がなくても利用できる

▲モデルルームにない間取りも体感することができる

――最近のマンション市場のトレンドや、販売手法、マーケティングの変化などについてお聞かせください。

 

間所:ここ数年でマンションの販売方法には大きな変化がありました。つい2、3年前までは、お客様にはなるべく情報は与えずに、とにかく現地に来てもらうのが基本的な営業スタイルでした。実際、「ROOV」を使った説明を提案した当初は、情報を与えすぎるとお客様が現地に足を運ばなくなるんじゃないかと危惧する声が業界内には多かったんですよね。

 

ところが、最近は逆です。情報発信に消極的な物件は、集客で出遅れてしまっています。隠そうとしたって、マンションブロガーさんなどによって情報は拡散されてしまう時代です。今は、来場前にできるだけ多くの情報をお客様に届けて、物件への理解を深めてもらうというアプローチに変わってきています。

 

 

――販売現場の働き方を考え直す動きもあります。

 

間所:現在はマンション人気が高まっているので、内覧会などに来場者が殺到することもあります。そういった人気物件では、販売担当者の接客負荷も高くなるので、来場前の段階でなるべく購入意向を固めておいてもらいたいというニーズも高まっています。

 

結果として、多くのマンションデベロッパーは変化しました。オンライン上での接点からモデルルームへの来場、そして購入に至るまでの間でいかにお客様の購買意欲を効率的に高めていくかという点を重視しています。反響対応を充実させることが営業戦略の要となっているのは、ここ1、2年の興味深い変化だと感じています。

▲「ROOV」を始めた時は、どこの不動産会社からもほぼ門前払いだったそうだが、コロナ禍になって別の方法でやってみるかとなり、意外と悪くなかったねってことでイノベーションが進んだと思うとのこと

――今後の「ROOV」の展開について教えてください。特に力を入れているところは何でしょうか?

 

間所:当社のサービスでは、今はまだ室内空間が中心ですが、住宅選びは部屋だけでなく、立地や周辺環境、街の雰囲気などを総合的に判断して決めるものです。現在、開発中なのが、街全体を3Dデータ化して、最寄り駅から現地まで歩いたり、公園に行ったり、気になる物件からの眺望を確認したりできる「ROOV.space(ルーブ ドットスペース)」というサービスです。

▲新サービス「ROOV.space

物件の外観や共用部、室内に加えて、周辺エリアまでバーチャル空間上に再現することで、現地に足を運ぶ前の段階で、より具体的なイメージを持って検討を進められるようにしたいと考えています。実際に現地に行く手間を省けるだけでなく、物件の魅力を事前によりアピールできるので、お客様にも事業者様にもメリットがあるサービスだと思っています。

 

 

――販売現場への投入はいつ頃の予定ですか?

 

間所:今はまさに開発の真最中で、モデリングしたエリアに実際の間取りプランを組み込んだり、ハザードマップなどのオープンデータを重ねて表示したりといった機能も実装中です。技術的には、GoogleマップやPLATEAU(※プラトー)などの3D地図データも組み合わせて活用しています。2024年6月のリリースを目指して鋭意開発を進めているところです。
(※)PLATEAUは国土交通省が進める全国の3D都市モデルのプロジェクトで、さまざまな形式のデータが無料で公開され、誰でも利用可能になっている。

▲スタイルポート社のミッションは「空間の選択に伴う後悔をゼロにする。」新しい機能は実現するまで試行錯誤を繰り返す

――いずれ現地に行かなくてもマンションの購入判断ができるくらいになりそうですね。

 

間所:なるべく本物に近いリアリティのあるデジタルツインを目指していますが、やはり現地の空気感までは再現できないので、マンションを探すお客様には実際に足を運んでいただくのが一番だと思います。ただ、私自身も以前はデベロッパーでマンション用地の仕入れをしていたのですが、たくさん送られてくる土地情報のなかには図面を見るだけで現地に行く必要のない物件が半分以上ありました。そういう無駄足を効率よく減らせるだけでも、メリットがあると思っています。また、今はマンションを販売するためにデジタルの技術を使っていますが、今後は部屋のメンテナンスに関わることなど住む人のために使えるようにしていきたいですね。

 

 

――最後に、マンションの購入を検討されている方に向けてメッセージをお願いします。

 

間所:情報は簡単に手に入る時代ですから、最後は他人の意見よりも、自分を信じることが大切だと思います。どこを探しても完璧な物件はありませんから、何を優先して、どこは我慢できるのか。自分なりの基準でバランスを取ることも必要です。色々と情報を集めることは良いことですが、最終的には自分の判断を信じて、決めた物件で楽しい生活を送るのが一番だと思います。

 

 

[あわせて読みたい]マンション価格高騰時代に必要な販売現場のデジタル活用をデベロッパーが語る

 

 

取材・文:小野 悠史 撮影/ホリバトシタカ

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。

X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.「ROOV」開発のきっかけは?
A.2011年に独立し、不動産の仲介業務と新築マンションの引き渡し時のサポートサービスを提供する会社を始めました。ある時、高齢のご夫婦が新しいマンションを購入された際に、実際の空間と期待していたイメージとのギャップにショックを受け、動揺する様子を目の当たりにしました。現実と期待のギャップを埋めるようなサービスやシステムの必要性を感じさせられた出来事です。