「自由が丘」が圏外になり、「大宮」が急浮上した理由。この20年で「住みたい街」はどう変わった?

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長谷工アーベストが2003年から毎年、調査・発表をしている「住みたい街ランキング」。この20年間で「住みたい街」はどう変化したのか? 人気の街の傾向とともに探っていきます。

最新版である2023年(※)のTOP3は1位「横浜」、2位「吉祥寺」、3位「大宮」となりました。ちなみに、調査がスタートした20年前のTOP3を見ると、1位「自由が丘」、2位「吉祥寺」、3位「鎌倉」となっています。

 

20年前はTOP5に入っていなかった「横浜」や「大宮」が、近年は上位に定着。その一方で、当時は1位だった「自由が丘」が最新のランキングではTOP10落ちするなど、ここ20年で「住みたい街」にも大きな変化が見られます。

 

調査と分析を担当する長谷工アーベストの林祐美子さんに、こうした変化の理由や近年の「住みたい街」の傾向などについて聞きました。

 

※「首都圏の住みたい街(駅)ランキング2023」調査方法/20代後半〜60代の1都3県の居住者を対象にWEBアンケート調査を実施(調査期間:2023年7月15日〜7月20日、有効回答数:2854件)。住みたい街(駅)を自由に回答してもらい、1位の回答数を集計して上位からランキング。

㈱長谷工アーベスト 販売企画部門 執行役員 林 祐美子さん。1991年 長谷工グループ入社。グループ内にて分譲マンションの販売事業を担う長谷工アーベストで、リゾート開発部門の企画・販売業務、流通部門での営業を経て、現在、販売企画部門において、住宅関連のマーケット動向リサーチ業務に従事。新築マンション市場を中心とした住宅市場全般、またカスタマーの意識など、販売現場の動きや顧客動向について、マーケットの実態にこだわり情報発信を行っている。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

――今ではさまざまな会社が類似の調査を行っていますが、長谷工アーベストの「住みたい街ランキング」はその先駆けとして20年前からスタートしました。そもそも、どのような目的・経緯で始めたのでしょうか?

 

林:長谷工グループは「住まい」を提供する事業を行っていますが、家を買う際にはマンションというハードだけでなく、「その街でどんな暮らしができるのか?」という視点も大事なポイントです。

 

実際、お客さまとの会話のなかでも「街」の話題は必ず出てきます。そこで、「多くの人が住みたいと思う街」について知ることで、よりお客さまに寄り添う提案ができたり、新しい事業につなげられたりするのではないかと考え、2003年から調査をスタートしました。

▲ランキング結果から分かることが分析された資料。順位が大事なのではなく、どうして人気が出たのだろう? 順位が下がったのだろう。と変化した理由をしっかりと分析することが大事だそう。

――第1回の調査では1位の「自由が丘」をはじめ、「吉祥寺」や「二子玉川」など、なんとなくおしゃれなイメージの街が多くランクインしている印象です。当時、この結果はどのように受け止められましたか?

 

林:初回としては、妥当な結果だと思いました。上位の「自由が丘」や「吉祥寺」「二子玉川」「表参道」などは、たとえば雑誌『Hanako』などの街特集で紹介され、表紙のタイトルにも大きく掲載されるような街ばかりです。当時は、「住みたい街」というよりも「住んでみたい街」、つまり、憧れの街が選ばれる傾向が強かったように思います。「住みたい街ランキング」のような調査が今ほど一般的でなかったことも、分かりやすくおしゃれなイメージのある街が選ばれやすかった理由かもしれません。

 

――それが、ここ数年のランキングでは一変しています。「大宮(3位)」や「浦和(4位)」「立川(6位)」「調布(8位)」など、『Hanako』の表紙ではあまり見かけない街が数多くランクインしていますね。

 

林:いくつかの理由が考えられます。まずはここ20年、首都圏の多くのエリアで駅前の再開発や大型マンションの建設、大型商業施設の開発が進み、街のイメージが大きく変わっていること。たとえば「川崎(8位)」などはその代表例です。20年前はやや治安の悪いイメージを持たれる方も多かったと思いますが、2006年にJR川崎駅直結の「ラゾーナ川崎プラザ」ができたことで人の流れや雰囲気が一変しました。

 

川崎に限らず、駅周辺の再開発でエリアの核となる商業施設が誕生し、街のイメージが刷新される。この20年は、そんな変化が首都圏の至るところで見られ、再開発を街のイメージアップにつなげた街が上位に浮上している傾向があります。

 

――確かに、「立川(6位)」や「中野(8位)」「池袋(11位)」なども、再開発でかなりイメージが変わりました。

 

林:もうひとつ大きな変化といえるのは、都心ばかりではなく郊外の街や、地元に近い街の快適さに目を向ける人が増えていることです。今や多くの街の駅前に大型の商業施設やアミューズメント施設があり、そもそも都心に出てくる必要性を感じなくなっているのだと思います。

 

あとは、鉄道の利便性が飛躍的に向上したことも大きいですね。たとえば「大宮」などは2015年に上野東京ラインが開業し、都心部どころか小田原や熱海まで直通で行けるようになりました。直近でいえば2023年に相鉄線・東急線の直通線が開業し、相鉄線沿線の通勤利便性が高まっています。都心に住まなくても快適に通勤できるため、郊外の街に注目が集まっているのだと思います。

 

――都心への憧れのようなものも、薄れてきているのでしょうか?

 

林:それもあると思います。特に、若い世代ほど街のブランド力やネームバリューにこだわらず、良い意味で「身の丈に合う街」を選ぶ傾向があったり、普通に地元が好きだったりします。それがランキングにも表れていて、「住んでみたい街」ではなく「住みたい街」という、本来の調査の趣旨に沿った街が上位に上がってきているのではないでしょうか。

出典:長谷工アーベストの資料を元に編集部で作成

――最新のランキングでは「武蔵小杉」が5年ぶりにTOP10入りしました。この理由をどう分析されますか?

 

林:やはり、相鉄・東急直通線の開業が大きいと思います。また、武蔵小杉を選んだ方からは「防災の見直しが進んでいる」といった声も聞かれました。もともと交通利便性や生活利便性の高さには定評のあるエリアでしたが、鉄道アクセスの便がさらに向上したことと、近年、自然災害が増える中、防災面への取り組みが認知されたこともあって、再評価につながっているのではないでしょうか。

 

――武蔵小杉も2003年の調査開始当初はランキング圏外でしたが、この20年間で一気に開発が進み、人気エリアになりました。

 

林:武蔵小杉は、タワーマンションの影響がかなり大きいですね。マンションの場合、一つ大きなものができると街への流入が数百人単位で増加します。人が増えればさらに開発が進んだり、注目度が高まったりして一気にランキングが上昇する。そんな好循環が生まれるんです。

 

ちなみに、ここ数年でランクアップした街の人口動態を調べてみると、20代後半から40代までの若年層が数多く流入していることが分かります。武蔵小杉を擁する川崎市もそうですし、「立川」「海老名」などもそうですね。立川市と海老名市は2015年から2020年までの期間で15%以上も若年人口が増えています。

 

――20代後半から40代といえば、まさに住宅の購買層と重なります。

 

林:そうですね。このことからも「大規模マンションができる」→「若年層の流入が増える」→「住みたい街として認知される」という一定の流れはあるように思います。

 

ただ、急激に注目を集めた街は、そのぶん関心が失われるのも早い。実際、再開発やマンション建設ラッシュで脚光を浴び、一気にTOP20入りしたものの、翌年以降はランキング圏外になる街も少なくありません。

 

 

――開発がひと段落してからも長く人気が定着する街には、どんな特徴があるでしょうか?

 

林:色々ありますが、ひとつは街の「新陳代謝」だと思います。それは何も、大規模な開発を繰り返すことではありません。たとえば、そこに暮らす人が積極的に街づくりに関わったり、新しい魅力を発見・発信する活動に尽力していたり。そうした街には常に新しい人が集まり、決して滞留しません。

 

では、どうすれば街への愛着が生まれるか。ただ駅前を新しくしたり、大規模な商業施設やマンションを建てたりするのではなく、本来その街が持つ魅力をふまえ、新旧をうまく融合させるような街づくりを行うこと。そして、新旧の住民をつなげ、一枚岩で街を良くしていくようなコミュニティをつくることが重要です。

 

そういう意味で、武蔵小杉は成功した事例だと思います。十数年前にタワーマンションが建設された当初から新旧の住民をつなぐ組織が誕生し、コミュニティの下地ができていました。今でもイベントや防災活動など、さまざまな形で住民同士の交流があり、それが街の活性化と魅力の醸成につながっているのではないでしょうか。

 

――最後に、最新版のランキングで林さんが注目している街、あるいは、これからランクインしそうな街があれば教えてください。

 

林:今年のランキングで注目したいのは、20位の「橋本」です。リニア中央新幹線の新駅開業に伴う開発がスタートし、「いよいよ」という期待感が高まっていることが順位にも表れています。

 

あとは、やはり相鉄・東急直通線の恩恵を受ける相鉄線の沿線ですね。すでに「海老名」はランクインしていますが、都心アクセスの利便性向上によって「羽沢横浜国大」などの新駅周辺の開発も一気に進むと予想されます。

 

それから、個人的には「京成立石」が気になっています。城東エリアは都心への距離感のわりに住宅価格が手頃なのですが、何かのきっかけで注目度が高まり、一気に相場が変わることがあります。たとえば、北千住はその代表例ですよね。同じく、大規模な再開発計画が進む京成立石もこれから人気が急上昇し、大きく価値を上げる可能性を秘めていると思います。ぜひ、来年度以降のランキングにご注目ください。

 

取材・文:榎並紀行 撮影/石原麻里絵

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.コロナがあったことで街への評価は何か変わりましたか?
A.コロナになったことで、外出自粛要請が出たことで、皆さん地元周辺で楽しみを探すことになりましたよね。それによって、改めて自分の住んでいる街の良さを感じる人が増えた印象はありますね。