都市中心部で広がる住まいの新しい選択肢

~「買う/借りる」以外の選択肢を模索~

2026年03月03日 / 『CRI』2026年3月号掲載

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目次

都市中心部での住まい選び(買う/借りる)は、平均所得層にとって「選びづらさ」が増している。
価格上昇が、住まいの選択を問い直している。
しかし、いま必要なのは価格の議論だけではない。
どこに、誰と、どれだけ住むか──住まいを“固定”として捉えるのではなく、生活に合わせて組み替える視点が問われている。
本稿では、首都圏(1都3県)の価格上昇と人々のライフスタイル変化を背景に、都市中心部の暮らしを軸に「買う/借りる」以外の先行事例を俯瞰し、暮らしに選択肢をどのように広げられるかを考察する。

※本稿の分析対象は「首都圏主要部」(東京都区部および周辺3県(埼玉県・千葉県・神奈川県)の主要都市中心部:例 さいたま市・千葉市・横浜市等)である。本文では便宜上、これを「都市中心部」と表記する。
※事例には、都市中心部での暮らしを前提に、滞在先を分散して「場所の固定」を弱める多拠点居住も含める。

1.はじめに

近年、首都圏の都市中心部で不動産価格の上昇が続いている。(表1)に示すとおり、首都圏の新築分譲マンションの戸当たり平均供給価格は、2025年(年平均)で9,182万円と高水準にあり、2000年比で2.2倍強と上昇している(長谷工総合研究所調べ)。

一方、家計調査の実収入(勤労者世帯・二人以上)は伸び悩んでおり、価格の上昇ペースに所得の伸びが追いついていない〈注1〉。
さらに(表2)に示す年収換算倍率(家計調査・実収入ベース)は、2025年時点で2000年比約1.9倍に上昇しており、住まいを「買う」という意思決定が平均所得層にとって一段と重くなっていることを示唆する。

2000年代以降は、低金利や供給環境に支えられ、平均所得層にも都市中心部の分譲マンション購入が現実的に見えた局面があり、いわば『ボーナス期間』だと言える。
しかし近年は建築費・用地費等の上昇で前提が変わり、平均所得層が購入しにくい状況が強まっている。結果として、住まいの選択は「買う/借りる」の二択だけでは整理しにくくなり、生活条件に合わせて住まいを組み替える発想が必要になっている。
この状況に対して、打ち手は大きく三つある。
❶既存の延長を模索(郊外供給、法的緩和、金融施策の拡充、賃貸支援など)
❷新しい住み方の提案(本稿の中心)
❸技術向上による変化(建築・移動・運用の効率化)
本稿では❷に焦点を当て、価格以外の軸で「固定をほどく」設計がどう実装されているかを見る。

〈注1〉実収入は月次変動があり、購入世帯の年収そのものとは一致しないが、本稿では購買力の近似指標として扱う

1-2.本稿の立ち位置──「間」を埋める居住サービス

コロナ禍以降、多拠点居住やワーケーションが広がった一方で、提供側の成立条件(採算、運用、利用頻度など)によっては提供終了に至る例もある。たとえば三菱地所は企業向けワーケーション事業(WORK×ation Site)の提供を終了している。
こうした動きは、「認知の拡大」と「事業の継続」が必ずしも一致しないことを示す。だからこそ、新しい住まい方は「誰にとって、何の固定をほどくのか」という価値設計が問われる。
ここで鍵になるのがCRI2025年11月号で筆者が述べた「市場の間」だ。
●期間の間:2年契約・長期ローンなど期間制限前提からの解放
●関係性の間:ドライだけでもウェットだけでもない、ゆるやかな紐帯
●用途の間:住む/働く/泊まる、の境界を越える
次章では、これらの“間”を実装している先行事例を見ていく。

2.新しい住み方の先行事例

本章では、新しい住み方を「固定をほどく」という観点で比較する。前章で述べた「市場の間(期間・関係性・用途)」を、より実務的に扱える5軸(場所・期間・関係性・用途・費用)に分解し、可変性として整理する。
その上で、都市中心部居住の前提が揺らぐ状況下での選択肢を、①場所の固定を弱める(滞在分散)、②関係性と場(共用部)で再設計する、③コストの固定を弱めるの3類型として整理する。
以下では、対応する3事例で具体像を可視化する。

新しい住み方の先行事例:固定をほどく3つのアプローチ

「買う⁄借りる」以外の選択肢は、場所・期間・関係性・用途・費用の“固定”をどこまで可変にできるかで比べられる。

※5軸定義:場所=拠点移動のしやすさ/期間=契約・滞在の組み替えやすさ/関係性=交流の設計/用途=住む×働く×泊まる等の用途の統合度/費用=負担が固定又は変動
※重点軸は、5軸のうち当該サービスの価値の中心を●で示す。
※「―」は本稿では論点化しない(弱い/価値がないと断定する意味ではない)。

CASE A  ADDress【多拠点 定額会員制(サブスクリプション)】

【重点軸】 場所● 期間● 関係性― 用途― 費用―
【サービス概要】
旅行とも移住とも違う居住サービス。全国の拠点を会員制で横断利用できる「住まいのサブスク」。

【特徴】滞在先を分散し「場所の固定」を弱める

サービス価値
● 場所の可変性:生活拠点を1つに固定しない選択肢を持てる
● 期間の可変性:短期~中期の滞在を組み合わせやすい(試住・多拠点の入口)
● 暮らしの編集余地:仕事・生活の比率を、場所ごとに切り替えられる

代表シーン
● リモートワーク/多拠点のトライアル/移住前の「試す暮らし」

向く人
● 場所に縛られない働き方ができる人(フリーランス/起業家/職種上場所に縛られにくい人)
● 移動を負担ではなく「選択」として扱える人

注意点(限界)
● 予約や移動コストが前提(生活化には運用設計が要る)
● 自分の部屋の最適化より暮らしの切り替えに向く

DATA 拠点数:282 (2026年1月19日、公式サイト掲載数/当社閲覧)

CASE B  SHARE PLACE(ReBITA)【都内・近郊コミュニティ 共用部重視】

【重点軸】 場所― 期間― 関係性● 用途● 費用―
【サービス概要】
個室でプライバシーを確保しつつ、共用部で「ゆるいつながり」を選べるシェア型賃貸。
住む/働く/交流の一部を共用部に分担し、都内生活の孤立や生活の立ち上げ負担を減らす。

【特徴】都内の暮らしを「関係性と場」で再設計する

サービス価値
● 関係性の可変性:ゆるい紐帯による都市の「関係性の薄さ」を埋める
● 用途の拡張:共用部が「生活+仕事+交流」を受け止める
● 生活の摩擦低減:家電や食器類の用意、ネット環境、共用部清掃などを運営側が担い、暮らしを始めやすい

代表シーン
● 上京や転居直後の生活立ち上げ/在宅勤務+共用ワーク/「一人暮らしの孤立」を避けたい

向く人
● 都内で暮らしつつ、関係の希薄さがストレスになりやすい人
● 生活の満足度を「関係性と場」に置きたい人

注意点(限界)
● コミュニティ毎に適性が出る(合わないと疲れる/プライバシー重視だと不向き)
● 金額の安さが目的の居住サービスではない
● 提供範囲(設備・運営内容)は物件により異なる

DATA 入居者像:20~30代社会人を中心に幅広い年齢層(2025年12月、当社取材)
規模:シェア型賃貸住宅を都内近郊で21棟1,537室運営(2025年3月時点、同社発表)

CASE C  unito(ユニット)【都内拠点 変動家賃(リレント) 住む×泊まる】

【重点軸】 場所― 期間― 関係性― 用途● 費用●
【サービス概要】
「帰らない日」を申請すると家賃が下がる。住む/泊まる、の境界を越えて費用を最適化する。

【特徴】住まいのコストを変動化し「固定費」を弱める

サービス価値
● 費用の可変性:家賃を固定費から「実態寄り」に近づける(使ってない不満を減らす)
● 用途の可変性:住む/泊まるを統合し、稼働の仕組みごと設計する
● 摩擦の削減:家具家電付きなどにより、契約・引っ越しの手間を圧縮しやすい

代表シーン
● 出張が多い/週末は別拠点/単身赴任・二拠点の都内拠点

向く人
● 都内拠点は欲しいが、固定費として抱えたくない層
● 月内の滞在日数がブレる人(移動が多い職種)

注意点(限界)
● ルール理解・運用が前提(使い方で体験価値が変わる)
● 常に自宅滞在が中心の人にはメリットが出にくい

DATA 会員数:約8.5万人(2026年3月、同社提供) 
運営物件:全国140棟1040室(同上)

インタビュー ──家賃は固定じゃなくていい Unito 代表取締役 近藤氏

※取材日: 2025年12月4日
※以下、発言は取材内容をもとにした要旨(筆者整理)

就職、結婚、購入、30年ローン――。いわゆる「住まいの人生すごろく」という価値観が揺らぐいま、鍵になるのは「どこに、どれだけ住むか」を生活に合わせて組み替える視点だ。家賃を固定費として抱える前提を疑い、「住む⁄泊まる」の境界を越えると何が見えるのか。Unito 代表取締役 近藤氏に聞いた。

Q1 なぜ「家賃=固定」に疑問を感じたのか。

出張や移動が多いと、月の半分は家にいないこともある。それでも家賃は満額――この「使っていないのに払う」構造に、ずっと違和感がありました。だから住まいを月額の固定費ではなく、滞在の実態に寄せた「変動要素」として設計できないかと考えました。
家賃を「月額」ではなく、1泊当たりの「実効家賃〈注2〉」として捉えると、ムダやストレスが見えやすい。すると、拠点を増やす、週末だけ別の場所で過ごす、必要な期間だけ住む、といった選択が現実的になります。

Q2 「住む×泊まる」融合のメリットは?

生活者にとっては、コスト以上に「摩擦」が減ることが大きい。契約、家具家電、光熱費、引っ越しなど、住まいには手間が多い。住むと泊まるを一連の体験として設計すると、その手間を圧縮でき、拠点を身軽に切り替えられます。
オーナー側も、固定賃料だけでは収益の上振れをつくりにくい局面がある。住む需要と泊まる需要が重なる立地で、稼働と単価の設計幅を広げることで、賃料収入の上振れ余地をつくりやすくなります。結果として「生活者の自由度」と「オーナーの収益性」を同時に高める設計が可能になります。
〈注2〉 実効家賃=月額家賃÷当月の滞在泊数。共益費等の算入の有無は契約条件により異なる

Q3 住まいはどう捉え直すか。

就職→賃貸、結婚→購入といった型に自分を無理に当てはめなくていい。単身赴任、二拠点、離婚や転職など、暮らしの前提は人それぞれです。まずは自分の暮らしを棚卸しして、移動の頻度、必要な安心、使いたい時間を言語化する。
住まいをサービスとして捉え、期間や費用、手間を自分の条件に合わせて組み替える。住まいは人を縛るものではなく、暮らしの可能性を広げる道具だと思います。

3.まとめ──選択肢を増やすことが、都市中心部暮らしの納得度を高める

本稿で見た3事例は提供価値の軸こそ異なるが、共通点は一つある。住まいを固定化していた前提(場所・期間・関係性・用途・費用など)をほどき、生活者が自分に合うかたちへ組み替えやすくしていることだ。
具体的には、①都市中心部を主軸に滞在先を分散して「場所の固定」を弱める、②都市中心部での暮らしを「関係性と場」で再設計する、③都市中心部で拠点を持つコストを変動化して「固定費」を弱める、という3方向である。いずれも、住まいの意思決定を「買う/借りる」の二択から、暮らしの条件に合わせて組み替える判断へ近づけている。
「買う/借りる」仕組みを否定するわけではない。しかし、住まいの価格が上がる局面では、安くする努力だけで生活者の納得感を得るのは難しい。むしろ問われるのは、同じ支出でも納得できる価値(自由度や安心、摩擦の少なさ)を提供できるかである。
住まいは人を縛るものではない。生活に合わせて組み替えられる「道具」として再設計されるほど、都市中心部での暮らしは続けやすくなる。
価格や立地といった条件だけでなく、自分が大切にする価値観を起点に「自分は何の固定をほどきたいのか(場所・関係性・費用など)」を言語化する。そこから住まいを選ぶ視点が、これから重要になる。(島村和也)

※会員数・拠点数・物件数等の数値は各社公表/取材時点のものであり、時点により変動する。