ポスト万博のトレンド
2026年06月03日 / 『CRI』2026年6月号掲載
目次
大規模イベントが終わった後は、その反動で関西圏の社会の動きが凪いでいるように見える。大型開発プロジェクトも一巡し、関西の社会の動きに関するニュースを検索してもヒットする件数が減っている。構想が発表されている大型プロジェクトも、中東危機の影響もあり今後のスケジュールが不透明になっている。そんな中、経済界、国、関西広域連合、自治体が集まって、長期的な展望にたった広域ビジョンの議論も始まっている。少し先の方向性をみながら、最近のトピックスを読み解いておこう。
1. 地盤沈下からの脱却なるか。関西2府4県の人口の「転入超過」
総務省が2月3日に発表した「住民基本台帳人口移動報告」で、2025年に関西2府4県合計で3,407人の転入超過となったことが注目されている。
2024年には310人の転出超過だったので大きく改善している。
遡れば、1970年の大阪万博の頃には関西圏は10万人前後の転入超過だった。製造業の不振や関西企業の本社機能の東京移転の流れの中で、1974年からは転出超過に転じていた。転入・転出数は「関西の地盤沈下」を象徴する数値である。果たして関西圏の地盤沈下に歯止めがかかったのだろうか。
直近では、2011年の東日本大震災の影響で転入超過が5,348人となっていたが、一時的なもので、流れが変わったわけではなく、翌年以降再び転出超過が続いていた。
転入超過数を府県別に比較すると滋賀県は外国人の転入者を含めるとプラスになるが、大阪府では外国人の転入者の比率は減少していることがわかる(図表1)(図表2)。
大阪・関西万博は転入者に関してはあまり影響はなかったようだ。
2025年の関西圏の転入超過について日経新聞では以下のポイントを理由として指摘している。
①「インバウンド需要や関西の成長を期待しての転入」
②「テレワークの導入に伴う居住エリアの多様化」
③「東京の居住コストの急上昇が影響し、関西の転入増につながった可能性」
①「関西の成長を期待して」という点で人が集まることは想定される。インバウンド関連で外国人の転入者が増えたということはない。
②の「居住エリアの多様化」については首都圏などからの転入というより、大阪府から転出し兵庫県に転入しているといった圏域内の人口移動が影響しているかもしれない。後述する東京都の事例からも想定されるし、企業の「本社移転」のトレンドからもその流れが見えてくる。就業者もテレワークで働ける場合、大阪府内に住む必要性はない。
③の居住コストについて、年齢別に見ると大阪圏では15~19歳の転入超過数が7,101人と最も多い。2024年から2025年への拡大数も704人と最も伸びている。
大阪圏の大学入学者数が順調に伸びている。東京圏に比べた居住コストの優位性は学生の転入者を獲得するにはより魅力となるだろう。
一方、東京都の転入超過数は4年ぶりに縮小している。2025年の東京都の転入超過数は6万5,219人と24年より1万4,066人縮小している。東京23区では転入超過数は1万9,607人と縮小幅は東京都全体を上回る。
東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の転入超過数は2024年より1万2,309人少ない12万3,534人だった。
東京圏全体の転入超過数の縮小は23区>東京都>東京圏となっている。住宅価格の高騰が転入者の流入を阻害し、その受け皿として郊外都市への転入が増加している。東京の居住コストの高騰は近隣県で吸収されている。
いずれにせよ、大きな流れでは関西圏の人口減少は進行している。国立社会保障・人口問題研究所の地域将来推計人口(2023年推計)によると関西圏の人口は2030年には1,945万人、2050年には1,650万人になると見込まれている。三大都市圏の中で最も人口減少が大きい地域になっている。
トレンドとして転入超過数の増加=人口の社会増の兆候は、関西によっては少し明るい話題ではあるが、長期的な「地盤沈下」の食い止めにはまだまだ課題も多く楽観できない。
※「転入超過数」とはその年の転入者から転出者を差し引いた人数。マイナスになると転出超過としてその地域の人口の社会的増減を測る目安となる。
2. オフィス市場の動向と本社移転
「大阪府の本社移転、44年連続の転出超過~転出の動き再び強まる」。2026年3月19日に帝国データバンクが発表した「大阪府・本社移転動向調査」において、2025年の大阪府からの本社移転について報告されている。
大阪からの本社移転は事業拡大のための首都圏へ移転する動きと代表の高齢化などのため事業を縮小するため、兵庫県など近隣府県に移転する2つの動きがある。
企業の転入元は「兵庫県」を中心とした近畿5府県と「東京都」が上位を占めている。
企業本社の転出先は「兵庫県」が最も多く、「東京都」「奈良県」と続く。
転入、転出ともにサービス業が多く、サービス業の中でも、「ソフトウェア開発」「経営コンサルタント」が多い。中でも従業員50人未満の企業では賃料の高い大阪市内から兵庫県の代表者自宅やその周辺に移転するケースが目立っているという。
事業の縮小というネガティブな捉え方ではなく、個人のワーカーでもテレワークで業務が完結してきているように、小規模な事業者は賃料にコストをかけるより他にコストをかける選択肢がある。
大規模ビルの竣工が相次ぐ中、大阪市内のオフィス市場は好調だ。オフィスの供給が増加するとともに、需要も増加。空室率が低下、成約賃料も上昇基調で一等地のランクの高いビルにおいては東京との賃料の差が縮小してきている。一方、賃料を負担できない企業は大阪市内から郊外や周辺県の都市に流出する。
❶オフィスワーカー数の動向
どの分野でも人手不足が課題になっているが、オフィスワーカーについても2025年の大阪府の就業者数は481.6万人(前年比+7.4万人)となり、3年連続で増加した。大阪府の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。
雇用環境はオフィスワーカーの割合の高い産業で人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている(ニッセイ基礎研究所「大阪オフィス市場」の現況と見通し2026年より)。
❷テレワークの浸透
近畿圏でのオフィスワーカーのテレワークの経験率は25%で定着している。また自営型の就業者のテレワーク実施率は31.7%である。
全国の集計であるが、雇用型テレワーカーでは業種として、「情報通信業」が最も高く74.1%、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」で54.0%と高い。
AIの活用にはデータセンターの整備が必須である。大型のデータセンターは現状の技術では電力と、大量の水を必要とする。地方部で再生可能エネルギーによる発電、蓄電と同時の開発が政府主導で進められる。海外の先端的な事例では立地として宇宙空間に設置することも話題になっている。
一方で自動運転や、遠隔治療など情報の遅延性を排除し、かつ様々なインターネットの情報サービスとコネクトできる点でユーザーに近い場所に設置される必要性がある。
大阪市内でもデータセンターの開発が進んでいる。郊外や地方、更に海外からのサービスそれぞれの違った需要への対応の一つとして、都心立地のデータセンターが増加している。今後の働き方を支えるインフラとなっている(図表3)。
3. 大阪・関西万博からの展開
大阪・関西万博の会場、夢洲ではパビリオン撤去、大屋根リングの解体も進んでいる。パビリオンの敷地返還期限は当初4月13日だったが、一部で遅れもみられることから、協会は申請を受ければ7月13日まで延長するという。
大阪府・市は跡地の開発の方向性を示す「マスタープラン」をまとめた後、夢洲2期計画の開発事業者を2026年春に募集すると公表されている。
2029年には大阪メトロが延伸し、「夢洲駅」が完成する。
大阪IRの開業が2030年秋頃なので、夢洲周辺の施設が具体化されるのはその時期が想定される。
⼤阪・関⻄万博後の関西エリアの⼤規模な再開発として注⽬されるのは⼤阪メトロによる森之宮検⾞場跡地の開発である。
⼤阪メトロは⼤阪城公園の東側に1万⼈超の観客を収容できるアリーナを、三菱地所を代表とする共同事業体で開発し、2028年度以降の開業をめざす。年内に正式契約を結び、27年後半に着⼯する⾒通しだ。
地下鉄中央線の⽀線に設けられる「森之宮新駅」や複合駅ビル、商業施設、タワーマンションなども整備する。空⾶ぶクルマの発着場も開設する⽅向だ。総事業費は1,000億円規模の大きなプロジェクトだ。
⼤阪メトロなどは2025年に一度、⼤阪公⽴⼤学の新キャンパスを含めた開発事業者の選定⼊札を実施したが、応募はゼロだった。資材価格の⾼騰などから設定した予算の範囲では⼿を挙げられなかったとみられるため、随意契約に切り替えた。
三菱地所の報道発表もまだなので詳細な事業計画は未定である。
4. 「未来創造会議」のスタート
3月31日、「未来創造会議」がスタートした。経済界、国、関西広域連合、大阪府、大阪市のトップといったオール関西で万博の成果を一過性のものにせず、確かなレガシーとして守り磨き上げひきついでいく「万博レガシー」を展開する体制づくり、大阪・関西のあるべき未来像を実現していくことが目的である。
オール関西での取り組みという点が何よりも重要であり心強い。
「未来創造会議」は5月中旬に2回目の会議が行われる。
当面の取り組み
❶最先端技術の実装化・産業化
実装化に取り組む分野(例示)
〈次世代モビリティー〉
空⾶ぶクルマの運航ネットワーク形成、サプライチェーン構築など商⽤運航に向けた取り組み。
〈再⽣医療研究成果の発掘や連携先の紹介による事業化⽀援などに注力。〉
iPS細胞を⽤いた再⽣医療製品では、万博会場でも展⽰された⼤阪⼤学発のスタートアップ、クオリプスの重い⼼不全向け⼼筋細胞シートと、住友ファーマのパーキンソン病向けの「アムシェプリ」が3⽉、条件・期限付きで薬事承認された。クオリプスは秋頃に国内発売を予定する。
〈カーボンニュートラル〉
ペロブスカイト太陽電池(折り曲げられる電池)、CO2吸収・固定型コンクリートなど万博で展示された技術の社会実装のイメージをもとに今後の具体的プロジェクトを検討。
❷国際イベント・交流等の継承・発展
❸レガシーの発信、広域観光促進
大屋根リングの一部を人が上れるかたちで残置し、万博の記憶を後世につなげる。情報発信のための記念館と、周辺エリアを含めた記念公園として整備。
(参考資料)
「住民基本台帳人口移動報告 2025年結果」(総務省)
「令和7年度テレワーク人口実態調査-調査結果」(国土交通省)
「大阪府・本社移転動向調査」(2025年)帝国データバンク
「大阪オフィス市場の現況と見通し」(2026年)ニッセイ基礎研究所
「第1回未来創造会議」資料(2026年3月31日)

略歴
1978年 関西大学社会学部卒 市場調査会社に入社
1984年~マーケティング企画会社設立に参画
以降20数年にわたって下記領域のマーケティング業務に携わる
①小売業のマーケティングのための生活者調査企画分析
②商業施設店舗コンセプト作成戦略策定
③店舗コンセプトにそったテナント計画策定
④都市開発プロジェクトのPR計画・実施サポート
⑤商品企画のためのマーケティング戦略策定
2007年7月に株式会社 ANALOGを設立


