関西の競争力の強化に向けた万博レガシーの展開
2026年09月01日 / 『CRI』2026年9月号掲載
目次
1. 人の動きの変化
夏の旅行者数の減少に見る旅行市場の変化
今年の夏休みの国内旅⾏者数は前年⽐4%減の6,900万⼈になる⾒通しである(7⽉15⽇〜8⽉31⽇に出発する旅⾏の動向。消費者アンケート、旅⾏商品の販売状況、航空会社の予約状況等からJTBが予測) 。
過去20年間は7,000万人台で推移してきたが、交通費や宿泊料金の上昇が重荷になり、コロナ禍以来の減少となっている。
海外旅行者数は前年同期比9%減の217万人。一方、1人当たりの平均費用は32万3,000円と過去最大である。燃油サーチャージの上昇や、円安の影響が大きい。
国内旅行では節約志向が進み、宿泊日数も「1泊2日」が39%と増加。ガソリン価格の高騰により、自家用車の利用も減少。バスで気軽に参加できる近距離・中距離の旅行が人気である。
旅行の目的として「花火大会の季節限定イベント」、「スポーツ観戦を組み込んだ体験ツアー」等、その場で体験できることを目的とする消費が増えているといわれている。
大阪・関西万博などの大型イベントの集客効果があった地域では反動減が見られる。「一過性のイベントの特需」は大きいが、一時的な拡大で継続性がなければ、反動で縮小時における地域の負担が大きい。旅行需要を地域に根づかせるには、そこでしか経験できない価値を継続的に提供することが重要なポイントになる。
以前紹介したスタジアム・アリーナ開発を中心としたまちづくりについて、初期投資の調達や施設のランニングコストの負担などでスムーズに進まないケースもある。
まちづくりと、うまく相乗効果を生んでいる事例を紹介しよう。
2. 開業4年目を迎えた「SAGAアリーナ」がまちに与えたインパクト
「SAGAアリーナ」(佐賀県佐賀市2023年5月開業)は「国民スポーツ大会」開催に向けて県が整備したSAGAサンライズパークのメイン施設。257億円を投じたアリーナはコンサートやアイスショー、展示会や国際会議などのMICE需要にも対応できる施設。
バスケットボールB1リーグの「佐賀バルーナーズ」とバレーボールSVリーグ「SAGA久光スプリングス」の本拠地で合計52試合がアリーナで開催される。
年間20~30件のコンサート、展示会が開催され、準備・撤収を含めた実質的な稼働日数は年間200日を超えている。こけら落としは「B’z」、翌月は「松任谷由実」などメジャーの公演が開催され、今年11月には「Mrs. GREEN APPLE」のコンサートが開催される。
2024年の羽生結弦のアイスショーではアリーナ周辺だけでなく市内中心部にフォトスポットを設置し、まちを巻き込んで話題を呼んだ。(日経新聞 地方経済面 九州)
福岡市という強大な都市に近い佐賀市は嬉野温泉や吉野ヶ里遺跡など観光資源に恵まれながらも存在感が薄い。
地元繁華街は人影がまばらで、地元唯一の百貨店「佐賀玉屋」も老朽化が進み、売り上げが減少し、危機的な状況にあった。2023年に京都の不動産会社「株式会社さくら」に事業が譲渡され新本館ビルの建設が決定。
2028~2029年に開業する新本館ビルの上層階には温泉付きシティホテルが開業する。佐賀市内ではアパホテルやスーパーホテルの開業も予定されており、アリーナ効果によりホテル建設が相次いでいる。
もともと魅力のある佇まいのまちは地域スポーツによるそこにしかないコンテンツの発信と、全国的なブランド力のあるイベントの開催が融合した化学反応を起こし地域ぐるみの相乗効果を生んでいる。
ライブ・エンタテインメント(コンサートやステージパフォーマンス)の2026年の市場規模は前年比12.6%増。動員1人当たり単価9,286円(4.5%増)、公演数は10万826回(6.0%増)。チケット販売額は8,564億円。2023年までのコロナ禍から回復し3年連続で過去最高を更新している。(ぴあ総研調べ)
レジャー白書でのスポーツ観戦や音楽会・コンサートへの参加率、希望率は高い。アリーナ開発についても規模だけでなく、提供されるコンテンツが重要である(図表1)。
3.人流データの時系列予測分析に見る大阪・関西万博の影響
ここで扱う予測値はニッセイ基礎研究所吉田 資 上席研究員不動産投資レポート2026年6月19日「Prophetモデルを用いた人流データの時系列予測分析」〜コロナ禍・万博を経た大阪の主要スポットの人流の特徴と来訪者数の将来予測に基づく。
※2019年から2025年12月末までのスマートフォンの位置情報(「Location AI Platform」(LocationAI株式会社))をもとに「Prophet」(Metaのデータサイエンスチームが開発した時系列予測モデル)を用いた分析。主要ターミナルと、観光地について大阪・関西万博の影響の分析と将来予測について抽出している。
大阪・関西万博の影響についての分析の結果では、大阪駅、淀屋橋駅、新大阪駅、上本町駅、京橋駅のターミナルで統計的に有意にプラス効果があらわれている。
関西観光の玄関口の新大阪駅では+10.9%、奈良・名古屋方面からのアクセス拠点としての近鉄上本町駅は+13%。京都回遊の入り口である淀屋橋駅も+8.7%とプラスの影響が大きい。
観光スポットでは「通天閣エリア」「USJエリア」「道頓堀エリア」の大阪観光の定番地域にプラス効果があらわれている(図表2)。
万博後の人流の変化予測(2025年から2026年)については、大阪駅以外のターミナルは横ばいまたは減少トレンドである。特に、淀屋橋駅、新大阪駅は減少率が高く大阪・関西万博閉幕の反動が大きい。
観光スポットでは「通天閣エリア」「USJエリア」「道頓堀エリア」の減少が大きい。大阪・関西万博との相乗効果はあったが、閉幕後はその人流が持続していない(図表3)。
4.IR計画を地域にどう活かすか
大阪市内の大型開発は、ベイエリア夢洲地区での統合型リゾート(以下IRと表記)をどう活用できるかが重要なポイントになる。
IRはカジノ部門が収益の中心になる。非カジノ部分についてはそれぞれの機能の床面積は発表されているがターゲット像や提供されるコンテンツは公表されていない。
ラスベガスの事例から推測すると、ホテルや会議場、劇場を整備することによりコンベンションを誘致。来場した顧客をカジノに誘導するというストーリーを持っている。
IRの集客の仕組みとなる「MICE」(M企業ミーティング、Iインセンティブ、Cコンベンション、E展示会)の具体的な戦略がまだ見えない。展示ホールの規模は当初の計画より大きく縮小されている。(2万㎡、ちなみに大阪南港のインテックス大阪は7万㎡)
IRについては年間2,000万人という来場者数(国内1,600万人、国外400万人)と年間売り上げ5,200億円(カジノ4,200億円、カジノ外1,000億円)という大きな目標値だけが独り歩きしていて、地域への波及効果は推計しづらい。
MICEは規模で日本一、アジア一番を目指しているようではないのでMICEの競合に対してどのように差別化するのかを見極める必要がある。
「現在MICEの評価基準を見直す動きが世界的に進んでいる。『開催件数』や『参加者数』、『施設規模』といった数を中心とした指標が開催地決定の有力な判断材料となっていたが、MICEのテーマ、目的や参加者層に応じて産業集積、研究環境、ビジネスネットワーク、参加者体験といった視点も重要になる」(月刊MICEジャパン2026年6月号件数から価値へ ─進化するMICE評価基準を読み解く 小島 規美江客員研究員の論文より)
IRの隣接地、大阪・関西万博跡地42万㎡については2027年に事業者が選定される。
国際的なエンタテインメント拠点として「水をテーマにしたリゾート建設」「サーキットやアリーナ整備」などが提案されている。関電不動産開発、大林組といった地元の錚々たる企業が参加している。
IRは、「富裕層」が中心となる施設構成になる。海外の高級クルーズ船のようにワンストップでコンパクトなエリアで総合的に提供される高質なサービス、飲食、ショーなどの体験価値が目玉になる。
そして、これらの体験はカジノの高い収益力を背景に安価に提供可能となる。
5.万博レガシーを活用する関西経済の底上げ
「ライフサイエンス・ヘルスケア分野の国際会議『WHX Leaders Osaka』、が初めて開かれた(於インテックス大阪)。アジアと中東の保健⼤⾂や企業経営者らが先端技術の活⽤などについて話し合った。⼤阪・関⻄万博の『レガシー(遺産)』として継続開催し、国際交流や産業連携につなげるものである。
『万博が⽰した理念を⼀過性のものとして終わらせずに、イノベーションや新たな産業が発展することを期待している』。冒頭の基調講演で岸⽥⽂雄元⾸相はこう⼒を込めた。
会議は⼤阪府・市と国際イベントの企画運営会社(『インフォーママーケッツジャパン株式会社』)が共催した。2年⽬となる国際医療⾒本市『WHX Osaka』と並⾏して開いた。
タイ、マレーシア、インド、ベトナム、インドネシア、韓国、フィリピン、サウジアラビアの8ヵ国から招待された保健⼤⾂や政府関係者、医療関連企業の経営者や研究者などが参加。⽇本も含めた9ヵ国から計200⼈ほどが集まった。会議では医療産業の国際展開をテーマに各国の代表が⾃国の医療制度や⽇本とのビジネス交流などを紹介し、意⾒を交わした。また、医療関連の政策の在り⽅なども話し合われた。
会議開催の背景には、万博を⼀過性のイベントに終わらせず、交流やビジネスにつなげようという狙いがある。万博期間中には王族・⾸脳級など延べ約600⼈が来場。⼤阪市内にある先端医療の産業化拠点『中之島クロス』には会期中に約60ヵ国・地域の関係者が訪問し、このうち産業クラスターの⽀援機関など28組織と相互協⼒に向けた基本合意を結んだ。」(⽇本経済新聞 地⽅経済⾯ 関⻄経済面より)
大阪・関西万博によって海外での認知が高まった「中之島クロス」(国立大学法人大阪大学医学部跡地。2024年6月に設置)を次に活かしていかなければならない。中之島地区には大阪府立国際会議場や高級ホテル、民間のホールも充実しているので中規模のMICEで使いやすいエリアだ。
大阪が強みを持つ独自のテーマ中心のMICEを開催することは海外の競合国に対して競争力を持つ。
大阪市内での都市開発は梅田地区への一極集中が進んでいる。これに対し大企業の集積、美術館・公園の集積など緑と水の環境のストックとなにわ筋線の開業によるアクセスの利便性が改善されれば大きな優位性を持つ(中之島西部地区は都市軸から離れており交通アクセスに課題があった)。
産業基盤(医療、ライフサイエンス)との近接性や都市基盤(文化、住宅、環境)の整備を考えて万博のレガシーを活かせそうだ。





