小売店の盛衰から考える、復活と衰退を分ける見えないもの

「暮らしをデザインする」14 (May 2026)

2026年04月28日 / 『CRI』2026年5月号掲載

エッセイ

目次

小売店の苦境は長らく言われているが、個人的にショックを受けたのは「しぶちか」の消滅である。しぶちかとは渋谷地下商店街のこと。戦後、渋谷駅周辺で開かれていた闇市の露天商が自分たちで許可を取って開発を進めた地下街で1957年に開業、2020年に改装のために一時休業。翌年7月に再オープンしたが、休業前にあった30店舗ほどのうち、引き続き店を構えたのは7軒だけ。かつての猥雑な昭和の雰囲気は一掃され、明るい今どきの地下街に生まれ変わった。

開業から69年、開業からバブル期くらいまでは1坪当たりの売り上げが日本一だったこともあるしぶちかだが、2010年代に入ってからは売り上げが低迷。そこに消費税増税、コロナ禍とさまざまな試練が降りかかった。各店主の高齢化ももちろん大きいが、それよりも大きな要因は店舗の狭さ。闇市時の露店は1店舗当たり2坪ほどで、それを地下にそのまま持っていったため、しぶちかの店舗は2.2坪、狭いところは1.9坪、隣接区画を借り増ししていても4〜7坪ほど。バックヤードを取る余裕もないほどで、置ける品数も限られる。

加えて今はかつてのようにモノさえあればそれがなんであれ売れたという時代ではない。そうなると質でも量でも他店に太刀打ちできない。それがしぶちかの店舗のうちの多くが店を閉めた理由である。

だが、と思うのだ。店の狭さを理由に、だからダメだと長年続けた商売を辞めた人達がいる一方で東日本大震災以降、小商い、なりわいといった言葉が浸透するようになり、ここ3〜4年、賃貸住宅を中心にそうした場を設けた物件が少しずつだが増えてきている。

先駆となった練馬区にある欅の音terraceが誕生したのは2018年の年末近く。建物は築40年ほどの鉄骨造2階建て、各階7戸のアパートで第一種低層住居専用地域に立地している。そのため、建物内で商業的な用途として使える面積は全体で50㎡まで。そこで同物件では1階の7戸のうち、1戸を共用スペースとし、残りの6戸にその面積を振り分けた。結果、各戸にある店舗として使える空間はわずか8㎡あまり。しぶちかといい勝負である。だが、ここには小商いをしたい人達が集まり、マルシェには近隣から人が集まる。

もちろん、ここで店を出していてもそれだけを本業としているわけではない人もいるだろうし、今はオンラインという売り方もある。それを考えると単純にしぶちかと比べられるわけではないが、ここから分かるのはモノを売るという行為自体がかつてと違うものになっているということ。売っているのは確かにモノなのだが、それだけなのかということである。

欅の音terrace以外の小商い住宅、なりわい住宅(事業者によって呼び方は異なる)を見学してみるとかつてのしぶちかとは売っているモノも、売り方も違うことが分かる。雑貨ひとつでもどこにでもあるモノではなく、店主がこだわって選んだ、作ったものなどが並べられており、会話を交わしながらの売り買いが展開されている。つまり、買い物は実用的、機械的に必要な品を買う行為ではない、感情を伴う行動になっているのだ。

世の中には小売店以外にもいくつか絶滅危惧種的な存在になっている商売やモノがある。だが、そのうちの一部には復活の動きがある。その理由を知ろうと現場に足を運び、観察してみると表面に見えるのはこれまで同様のモノの売り買い、商品だとしても、買いに来た人が求めているのは関係や共感などとでもいえばよいだろう、見えないモノのように思えることがよくある。そうした見えないものを見る力、構築する力、それが復活、衰退を分けているのではないかと思うのである。

中川 寛子なかがわ ひろこ

住まいと街の解説者。40年以上不動産を中心にした編集、執筆業務に携わり、年々テーマは拡大中。
主な著書に『ど素人がはじめる不動産投資の本』(翔泳社)『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)『解決!空き家問題』『東京格差 浮かぶ街・沈む街』(ちくま新書)『空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる「がもよんモデル」の秘密』『土地の価格から地域を読みとく 路線価図でまち歩き』(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合会員。
株式会社東京情報堂