モノを作っているのではない/見えない価値の生み方

「暮らしをデザインする」16 (Jul. 2026)

2026年06月30日 / 『CRI』2026年7月号掲載

エッセイ

目次

神奈川県愛甲郡愛川町にスーパーマーケット跡地を利用した春日台センターセンターという複合福祉施設がある。設計は建築家の金野千恵さん。グッドデザイン賞金賞などを受賞しているほか、多数のメディアでも紹介されているのでご存じの方も多いだろう。

2023年に取材に伺った時、思ったのはなぜ、スーパーマーケットではダメだったのだろうということ。周辺の住宅団地は1960年代後半から近隣の内陸型工業団地で働く人たちのために開発され、当時は職場と住む場、そして買う場、教育の場があれば生活は成り立ち、多くの人はそこになんの疑問も抱かなかった。

ところが今、私たちは住宅のある場所に意識して何かを作る必要に迫られている。そうしないと人々は個の中に閉じこもり、地域からは繋がりが失われていく。若い人達ならそれでも良いかもしれないが、子育て世代、高齢者はそこに生きにくさ、孤独を感じる。

同じことを2025年の神奈川県住宅供給公社の取材でも聞いた。かつての団地はそこに住みたい人が集まり、誰も何もしなくてもコミュニティが生まれたと。今は誰かが手を出さなければ何も生まれない。そこで彼らは大学生に住んでもらう、団地外の人達と連携するなどあの手、この手で住みたいと思う場を作ろうとしている。

変化を感じるのは団地や住宅地の運営、管理といえばかつては建物や施設が対象だったが、今どきのそれは人が相手。関係などという見えないものになっているのだ。

一方で見えないものが収益を上げるという取材も続いている。2026年に訪れた静岡県下田市の廃倉庫では広い倉庫内を何人かがタダで仕事場として使い、中には住んでいる人も。

家賃は不要だが、この場で知り合った人達の間で仕事が発生した時には収益の10%を払うというルール。金額はその時の仕事によって異なり、2万円の時もあれば、10万円、100万円の時もあり、ならすと周辺の相場よりも高くなっているとか。

家賃は部屋の広さ×部屋数が上限だが、関係性が生む価値にはリミットはない。都市部など家賃が高い場所ではいざ知らず、地方都市の相場では収益は上がらない。だったら関係から収益を上げようという発想で、その観点があったかと目を開かれたものである。

あるいは都市部でソーシャルアパートメントという共用部の充実した単身者向け賃貸住宅を運営するグローバルエージェンツは2025年12月にある物件の全52室が竣工2カ月半前に満室になったとリリースした。賃料は相場並み。だが、専有部分自体は周辺に比べると15㎡ほどとコンパクト。専有面積対家賃で考えると割高とも思えるが、Z世代中心の入居者の多くは家賃を自己投資と考えているとアンケートに答えたという。

それは入居者間にネット上及びリアルに緩い付き合いがあり、遊びはもちろん転職や留学などの相談に損得無しで乗ってくれるような人間関係があるから。人によっては家族を持ってからも付き合いが続いているそうで、そこに価値を見出しているのだろう。

住まい選びで建物以外に価値を見る人達が出てきており、建てる側としてはこれをどう考えるべきか。モノを作っているだけでは選ばれない時代がやってきているのである。

中川 寛子なかがわ ひろこ

住まいと街の解説者。40年以上不動産を中心にした編集、執筆業務に携わり、年々テーマは拡大中。
主な著書に『ど素人がはじめる不動産投資の本』(翔泳社)『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)『解決!空き家問題』『東京格差 浮かぶ街・沈む街』(ちくま新書)『空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる「がもよんモデル」の秘密』『土地の価格から地域を読みとく 路線価図でまち歩き』(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合会員。
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