建築物省エネ法等の改正について

2026年08月07日 / 『CRI』2026年8月号掲載

Trend Express

目次

2026年3月、建築物のライフサイクルカーボン評価の促進を盛り込んだ「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定、今国会において法案審議がなされ、無事可決、成立しました。法律名は「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」となり、脱炭素に関しても一層の取組を進めていくことが明文化されました。今回の法改正は従来の建築物の使用段階におけるCO2等排出量削減に加え、建築物のライフサイクル全体でのCO2等排出量削減を目指すものであり、我が国のCO2等排出量の大きな割合を占める建築物分野における進展する省エネ技術に対応すること及び資材製造から解体までのCO2等排出量削減の促進に寄与することを目標としています。本稿では、7月31日に公布された建築物省エネ法の改正内容をご紹介したいと思います(図表1)

1. 法改正の背景

2050年カーボンニュートラルの実現、2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)という政府の中期目標の実現に向けて、国内のCO2排出量の約4割を占める建築物分野での省エネ対策を加速させることが必要不可欠となっています。4割のうち3割を占める使用段階(光熱水関連)のエネルギー消費に伴うCO2等排出量(オペレーショナルカーボン)の削減については、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の省エネルギー対策を通じて措置が講じられ、2025年4月には全ての新築建築物について建築物エネルギー消費性能基準への適合が義務化されました。これらに対する企業の方々の努力により、建築物分野におけるCO2等排出量削減の取組は着実に進んできています。今回の法改正はこの動きをさらに加速させるためのものであり、国が今後の目標として掲げる「2030年度以降新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」、「2050年に住宅・建築物ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されることを目指す」といった政府目標の実現に向けて、進展する省エネ技術に対応するための仕組みを創設するためのものです。また、従来は評価できなかった建築物のエンボディドカーボン削減に取り組む企業の頑張りを応援することも今回の法改正の大きな目的の一つです。

2. 法改正の概要① ― 建築物のライフサイクルカーボン評価制度 ―

我が国では、現状ライフサイクルカーボン評価ルールや建材・設備のCO2の排出量の原単位が未整備であるため、知見やデータが不足している状況にあります。そのため、例えば、ある建築物のライフサイクルカーボンが低く、環境に優しいということを言おうとしても、これらのルールや建材・設備のCO2等排出量原単位がなければ定量的に「環境への優しさ」を示すことはできませんでした。そのため、昨年6月から今年1月にかけて「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会(建築物LCA制度検討会)」が7回開催され、中間とりまとめが公表されるとともに、ライフサイクルカーボンの削減に向けたロードマップも示されました(図表2)

住宅でのライフサイクルカーボン評価の実施にあたっては、住まいのアフォーダビリティの確保や、中小事業者への配慮が必要となります。こうした背景から、まずは規模の大きい非住宅建築物に対して実施を促す措置を検討しており、本稿の読者に関わりが深い住宅とはやや離れますが、簡単にご紹介します。

①建築士の説明制度

建築物(環境負荷の少ないものを除く)の新築・増改築について、建築主の求めに応じて建築士が建築主への説明を行うなどの協力を努力義務とする予定です。

②建築主の届出制度

5,000㎡以上の事務所(オフィスビル)の新築・増改築について、着工14日前までのライフサイクルカーボン評価の実施と国への届出を義務付ける予定です。事務所は構造種別が多様であり、他の用途と共通して用いられる建材も多いため、最も効果的かつ効率的に知見を蓄積できることが期待されています。

③国の庁舎等における先行実施等

国が建設する庁舎等については、届出制度の対象よりも幅広い物件について算定を行っていきます。また、UR都市機構が建替えを行う賃貸住宅については先行的に試行実施を行うとともに、一定の規模以上のUR賃貸住宅の建替え事業については、ライフサイクルカーボン評価の実施を標準とするための検討が行われる予定です。

④優良事業者の選定・公表

ライフサイクルカーボン評価及び削減に取り組み、国等への事例・データの提供等に積極的に取り組んでいる建築主、設計者、施工者、建材・設備製造事業者等を表彰あるいは登録・公表する制度の創設など、努力した事業者が評価される仕組みの構築を検討していきます。

⑤ライフサイクルカーボン評価結果の表示措置

現状、ライフサイクルカーボン評価結果について第三者が評価する制度がないため、環境に関心の高い投資家・金融機関や建築物利用者等・購入者等に建築物の環境性能をアピールすることが難しく、市場において選択されない点が課題となっています。このため、省エネ性能やライフサイクルカーボンについて第三者が認証を行い、その結果を表示できる制度を構築する予定です。

これらの取組を通じてライフサイクルカーボン評価を一般化し、自主的な排出量削減を促すことを目的としています。その後、数年が経過した後に段階的に制度を拡充していくことも考えています。

3.建築物のライフサイクルカーボンの削減手段

前項において建築物のライフサイクルカーボンの評価手法についてはご紹介しましたが、本項では建築物のライフサイクルの各段階において具体的にどのような削減手法があるかについて、建築物のライフサイクルに沿ってご紹介します。

まず、資材製造段階では低炭素建材の活用が考えられます。例えば、通常の建材の代わりにグリーン鉄、環境配慮型コンクリート、リサイクル材を活用することなどが挙げられます。設計段階においては躯体における木材活用や既存建築物の活用といった手法が、工事段階においては、例えば近隣地域で製造された建材の採用などによる工場から建設現場までの輸送距離の削減や地域内輸送の促進などが考えられます。使用段階においては、これまでの省エネ化の取り組みと同様ですが、断熱性の向上、省エネ化や再エネ設備の採用といった手法があり、解体段階においては解体容易性に配慮した設計などが考えられます。

これらの脱炭素化の取り組みは価格や他の性能とのトレードオフとなる場合もありますが、脱炭素化に向けた努力が適切に評価される環境の構築に向けて、中間とりまとめの議論などをもとに取り組んでまいります。

4.法改正の概要② ― 進展する省エネ技術への対応 ―

進展する省エネ技術に対応し、先導的な省エネ技術を評価する大臣認定制度と、最大手の住宅供給事業者に対し、より高い省エネ性能の住宅の供給を促す上位住宅トップランナー制度を新たに創設します。先導的な省エネ技術を評価する大臣認定制度では、特殊な構造又は設備を用いた建築物について、国土交通大臣が誘導基準と同等の性能を有する旨を認定します。これにより、当該建築物を建築物エネルギー消費性能向上計画の認定対象とし、容積率特例等を受けることが可能となります。この措置を通じて、先導的な省エネ技術の開発、導入へのインセンティブを高めます。

一方の上位住宅トップランナー制度では、住宅供給量において概ね市場の1/4を占める最大手の住宅供給事業者を上位住宅トップランナーとして指定し、当該事業者は、省エネ性能の向上に関する目標を含む中長期的な計画を策定し、その取組状況を毎年度国土交通大臣に報告することが義務づけられます。この制度を通じ、業界をリードする企業に牽引役になっていただくことで省エネ性能の優れた建材、設備が広く利用されるようになることが期待されます。それに伴い、建材・設備価格の低廉化や協力企業を含めたノウハウの蓄積が実現し、省エネ性能の優れた建材をより利用しやすくなることで、業界全体でさらなる省エネ性能の向上と脱炭素の促進が期待されます(図表3)

5.おわりに

近年の異常気象や気温上昇に対する将来へ向けた対策は重要な課題となっており、国、事業者、自治体など多様な主体の連携が求められています。しかし、この課題に対して有効な建築物のライフサイクルカーボンの削減は需要者の方々にメリットとして見えにくく、また、従来はそこに対して高い志をもつ事業者の方々も評価することが難しい状況でした。今回の法改正はそのような状況への布石となり得るものであり、国際的にも大きな意義をもつものです。

国土交通省としては、引き続き、住宅・建築物の質の向上を図りつつ、脱炭素社会の実現に寄与できるよう、取り組んでいく所存であり、引き続き制度の動向にご注目いただければ幸甚です。

髙木 直人たかぎ なおと

国土交通省 住宅局 参事官(建築企画担当)
2000年建設省入省。国土交通省関東地方整備局建政部住宅整備課長、川口市技監兼都市計画部長、住宅局住宅総合整備課公共住宅事業調整官、住宅局住宅経済・法制課住宅金融室長を経て、2025年7月より現職。