都市再生特別措置法等の改正
2026年09月01日 / 『CRI』2026年9月号掲載
目次
渡邊 哲至(わたなべ てつじ)
国土交通省都市局都市計画課長
平成10年建設省入省。国土交通省大臣官房総務課企画官、内閣法制局参事官、国土交通省不動産・建設経済局建設業課長を経て、令和8年7月より現職。
1.はじめに
2002(平成14)年に都市再生特別措置法が制定されてから四半世紀が過ぎようとしています。この間、政府においては、大都市の国際競争力の強化と地方都市の魅力の向上、コンパクト・プラス・ネットワーク、「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりなど、都市における人々の豊かな暮らしや経済の活性化に向けた施策に取り組んできました。一方で、この四半世紀の間に、我が国は本格的な人口減少社会に突入し、特に、近年は、働く場所やまちなかの魅力の不足により地方都市を中心に若者の地元離れが深刻化しています。また、地球温暖化等を背景として災害もますます頻発化・激甚化するとともに、SDGsやウェルビーイングが急速に社会に根ざす中で、都市において、持続可能性や、精神的な豊かさ、生活の質・価値などが重視されてきています。
こうした課題やニーズに対応していくためには、全国の都市で、若者の起業やイノベーションを促す場をまちなかに集積することにより地域の稼ぐ力を強化するとともに、地域の歴史や文化、自然環境の中で大切にされてきた資産を活かして、地域に民間投資を呼び込み、個性ある都市空間を実現することが必要だと考えています。こうした取組を「令和の都市(まち)リノベーション」と称し、これを推進するため、国土交通省は、2026(令和8)年3月に都市再生特別措置法等の改正法案を特別国会に提出し、5月に可決・成立、同月27日に公布されました。
本稿では、この法改正の内容をご紹介します。
2.都市再生特別措置法等の改正の内容
今般の都市再生特別措置法等の改正は、大きく四本の柱からなります。
都市機能の更なる集積・連携による地域の活性化
地方都市を中心に人口減少等が進む中で、地域全体の活力を維持し、生活に必要なサービスを確保していくため、都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画制度によりコンパクト・プラス・ネットワークを推進し、居住や、医療・福祉・商業などの生活関連機能をまちなかに誘導してきました。こうした取組は一定の成果を上げてきたところですが、近年、若者の地方離れなどが深刻化する中で、地域の稼ぐ力の強化やまちなかの賑わいの創出が大きな課題となっています。また、地域課題の解決に貢献する民間都市開発事業等についても、所有者不明土地への対応や、建築費高騰等による計画の見直し、工期の延長等の課題に直面しています。
こうした課題を踏まえ、まちなかへの業務施設等の誘導を始めとした都市機能の更なる集積・連携による地域の活性化を推進するための措置を講じました。
①まちなかでの業務施設等の立地促進
地域の稼ぐ力やまちなかの賑わい創出のため、立地適正化計画において、これまで誘導してきた生活関連機能(都市機能増進施設)に加えて、若者の働く場であるオフィスや地場産業関連工場、若者の起業やイノベーション等を促進するようなコワーキングスペースやインキュベーション施設、人々をまちに呼び込む核となるホテルやスタジアム・アリーナ等を「特定業務施設等」としてまちなかへの誘導を図るための制度を創設しました。
これにより、市町村が特定業務施設等を誘導するため都市計画に「特定業務施設等誘導地区」を定め、用途・容積率制限を緩和することや、民間都市開発推進機構が特定業務施設等の整備に対する金融支援を行うことが可能となるほか、特定業務施設等の共同利用スペース等の整備に対する予算支援を行うこととしております。
②広域連携による都市圏での高次都市機能等の確保
立地適正化計画については、2014(平成26)年の制度創設以降、全国685の市町村(2026(令和8)年3月31日時点)において計画策定が進むなど、順調に取組が進んでいる一方で、人員や財源、データ等の不足により、特に小規模の市町村における計画策定が課題となっています。また、複数市町村による広域的な生活圏や経済圏が形成されている場合、広域的に効率的な施設配置を図ることも重要です。
このため、市町村が定める立地適正化計画について、都道府県が市町村に対して必要な助言・協力等を行うとともに、市町村から求めがある場合には、都道府県は、市町村相互間における必要な調整を行う旨を法律に規定しました。
③都市機能の集積や更新等を担う都市開発事業の推進
都市再生に向けて都市機能の集積や更新等を図っていくためには、民間都市開発事業等の円滑な施行を後押しする必要があります。
このため、市街地整備事業に係る制度の見直しや民間都市再生事業計画の大臣認定の申請期限の延長(2032(令和14)年3月末まで)等を行いました。
市街地整備事業に係る制度の見直しについて、具体的には、土地区画整理法及び都市再開発法を改正し、土地区画整理事業や市街地再開発事業の施行地区に所有者不明土地が存在する場合でも事業を円滑に進めることができるよう、事業の施行者が所有者不明土地管理人の選任請求(民法)の主体として認められることを明確化する等の措置を講じました。
地域の歴史・文化や景観・環境に根ざすまちづくりの推進
近年、地方部を中心に人口減少や若者の地元離れが深刻化し、まちの活力や賑わいが失われつつある中で、地域の人々が、地元の魅力を実感しながら、愛着や誇りを持って暮らすことができるまちを実現していくことが求められています。こうした課題に対しては、各地域で、その地域ならではの、個性や魅力を改めて見つめ直すとともに、それらを生み出す、地域の核となる資産を生かしたまちづくりを進めることが重要です。
このため、今回の改正では、地域の歴史・文化等に根ざしたまちづくりを推進するための制度創設等を行いました。
①地域の大切な資産のリノベーションや活用等の促進
地域で大切にされてきた建築物をリノベーションし、カフェや、コワーキングスペース等として活用することを推進し、エリア全体の活力と魅力の向上を図るため、都市再生特別措置法に基づく自治体のまちづくり計画である都市再生整備計画において、地域固有の魅力を活かしたまちづくりに重点的に取り組むエリアを「固有魅力維持向上区域」として位置づけることができることとしました。
当該区域内においては、地域の核となる建築物(特定固有魅力形成建築物)の改築等に係る届出制度や、地域固有の魅力を形成する建築物の整備・管理に関し、所有者間で共通のルールを定める承継効付きの協定(固有魅力維持向上協定)制度を創設するとともに、特定固有魅力形成建築物等のリノベーションや活用をする場合に、社会資本整備総合交付金による支援や、民間都市開発推進機構による金融支援を可能としました。
②地域の個性を引き継ぐ歴史まちづくりの拡充
歴史・文化を活かしたまちづくりについては、全国約100市区町村が、地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律(以下「歴史まちづくり法」という。)に基づく歴史的風致維持向上計画(以下「歴史まちづくり計画」という。)を作成し、国の認定を受けて進められています。一方で、これまでの歴史まちづくり計画は、国宝や国指定の重要文化財等の文化財建造物を核とした計画に限定されていました。しかしながら、地域にとっては、これら以外の建造物であっても、その固有の歴史や文化に根ざす大切な建造物があり、これを核とした個性豊かなまちづくりを進めることが、地域の魅力向上につながります。
このため、歴史まちづくり法を改正し、歴史まちづくり計画の作成に必要な文化財を国の登録文化財や市町村指定の文化財等にも拡大し、計画作成が可能となる自治体の裾野を広げることとしました。また、令和8年度予算において歴史まちづくりを観光振興の観点から支援する新たな予算事業も創設しました。
③良好な景観形成に向けた取組の充実
景観も地域の人々が愛着や誇りをもつことができる大切な資産であり、今後は景観資源を保全するだけにとどまらず、これらの再生や活用に積極的に取り組むことが重要です。多くの地方都市には、商店街や温泉街など、地域にとって貴重な建築物等が残されていますが、「所有者のみでは改修費が負担できない」、「相続したが活用の見込みはない上に借り手もない」などの事情から、そのまま放置され、良好な景観が損なわれている状況があります。
良好な景観形成に向けてこうした建築物等の活用を促進するため、景観法を改正し、景観整備推進法人の指定を受けた民間会社等が、所有者に代わって建造物の改修・利活用等を行い、面的に景観再生を図るための承継効付きの協定制度を創設しました。
また、複数の市町村にまたがる広域的な景観について、市町村間の方針が揃わないことにより、景観の調和が図られていないという課題があるところ、景観法の改正により、広域的な景観の保全に向けた都道府県の機能として、関係市町村の意見を聴いたうえで広域的な景観形成に関する基本方針(広域基本方針)を作成することができるほか、市町村間での調整を行う協議の場(広域景観協議会)を設けることができることとしました。
官民連携による適切なマネジメントを通じた地域の付加価値の維持・向上
人口減少が本格化する中、精神的な豊かさや生活の質、価値の向上に重きを置く成熟社会の都市再生では、官民が連携してまちづくりに取り組み、経済的価値だけではなく、公共的価値を実現していくことが必要です。また、まちの魅力やエリア価値の向上を図るうえでは、整備後のマネジメントが極めて重要であることから、まちの適切な維持・管理を推進するための制度を創設しました。
①民間事業者等の公共貢献を活かしたまちづくりの促進
まちづくりにおいて、民間プロジェクトを通じ、官民一体の継続的な取組により、地域の魅力を高めていくためには、プロジェクトの構想段階から、竣工後の公共公益施設の質の高い管理・運営等を計画することが重要です。
このため、都市再生特別措置法において、自治体と民間事業者で、公共公益施設の整備・管理の内容を取り決める協定制度を創設し、民間都市開発における公共空間等の日常的な維持管理や災害時の避難施設への活用、地域の賑わいイベントの実施、周辺の空き地の活用など、ソフト面を含む民間の多様な公共貢献を容積率緩和等で積極的に評価するほか、特に、都市再生緊急整備地域においては、当該協定に基づき整備・管理される公益的施設の固定資産税等の軽減の措置を講ずることにより、こうした民間のプロジェクトを促進することとしています。
②適切かつ持続的なエリアマネジメント活動の確保
エリアマネジメントは、地域の住みやすさや暮らしやすさの向上を図るため、官民一体となって、まちの様々な課題の解決に取り組む活動であり、地域のまちづくりにおける今後の活動の拡大が期待されています。
地域の価値向上や社会課題解決のために不可欠な活動ですが、社会課題の複雑化や価値観の多様化に伴い、これまで以上に幅広い取組が求められている一方で、担い手不足、人材育成、採算性の確保などに課題を有しています。
このため、都市再生特別措置法において、エリアマネジメント活動の持続性を確保するため、活動を「見える化」する計画制度を創設するとともに、当該計画に基づく都市再生推進法人の業務に対する無利子貸付けや活動拠点となる施設整備への金融支援等を講じることで、関係者協議の円滑化や資金調達、人材の確保等を促進することとしました。
都市の安全確保
近年、災害がますます頻発化・激甚化する中で国民が安心・安全な暮らしを確保するためには、都市の安全確保が急務であり、このため、居住や暮らしの誘導と密接にかかわる立地適正化計画との連携を一層強化していくことが重要であることから、以下の制度的措置を講じました。
①より安全な市街地への居住の誘導
これまで立地適正化計画における居住誘導区域については、住宅の建築を全面的に禁止している災害危険区域に限って居住誘導区域から除外していました。しかしながら、近年の災害の頻発化・激甚化を踏まえると、一定の住宅建設が許容されているとしても、あくまで災害による「危険の著しい区域」である災害危険区域に対して、居住誘導を積極的に図るべきでないと考えられます。このため、災害危険区域については全域を立地適正化計画の居住誘導区域から除外することとしました。
②災害時における居住者、来街者の安全確保
今般の法律改正により、立地適正化計画に特定業務施設等の誘導が位置づけられ、都市外からの来訪者も考慮したまちなかへの都市機能の集積を進めていくこととなります。立地適正化計画には、居住や生活関連機能の誘導を図るための都市の防災に関する機能の確保に関する指針(以下「防災指針」という。)を記載することとされていますが、防災指針についても、居住者に加え、来街者も想定したものとなるよう見直しを図りました。
また、防災指針に位置づけられた防災施設(緑地・広場等の避難場所、備蓄倉庫、非常用発電施設等)の適切な管理を確保するために、市町村と防災施設の所有者等の間で承継効付きの協定(防災施設管理協定)を締結できることとしました。
3. 令和の都市(まち)リノベーション 全国推進運動
国土交通省では、昨年度から、各自治体がコンパクト・プラス・ネットワークの自らの政策効果を的確に把握し施策に反映できるよう、まちづくりの客観的なデータ等の提供や分析を自治体に対して行う「まちづくりの健康診断」を実施しています。
また、地方整備局等の職員が直接自治体を訪問し、客観的なデータ等を用いた技術的サポートを行う「令和の都市(まち)リノベーション全国推進運動」にも取り組み始めました。
今回創設された支援制度も含め政策ツールを総動員して、国土交通省の持つ現場力を活かし、地域の取組をしっかりと後押ししてまいります。
4. おわりに
都市(まち)は、私たちの生活や経済活動の場を提供する我が国の活力の源泉です。そんな我が国の都市は、令和という時代の今、大きな転換を迎えています。こうした転換点にあって、国土交通省では、人々が「住み続けたい」「訪れたい」と感じられる都市空間の形成を目指し、「令和の都市(まち)リノベーション」を力強く推進しています。今回の法改正の内容をしっかりと周知・運用し、引き続き、自治体やまちづくり団体、民間事業者をはじめとするまちづくりに関わる皆様とともに、持続可能で魅力と活力のある都市の未来を築いてまいります。




