特集

2023.02.28

【マンションのあるまち-2】「つくばエクスプレス」駅前になぜマンションが目立つ?

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE
machi2_230228_KV

まち探訪家・鳴海侑さんによる、マンションがもたらすまちの変化特集。今回は新路線の建設と一体でマンション建設が進んだつくばエクスプレス沿線。

取材・文・撮影:鳴海侑(まち探訪家)

「つくばエクスプレス」の駅周辺にはマンションが目立つ。その理由は何か。沿線風景と開発スキームと共に鳴海侑が紹介する。

 

 

2005年8月、新鉄道路線「つくばエクスプレス」が開業した。東京都千代田区の秋葉原駅から茨城県つくば市のつくば駅まで、58.3kmを最速45分で結ぶ鉄道の開業は「首都圏最後の大規模鉄道プロジェクト」といわれ、沿線自治体にさまざまな経済効果をもたらしてきた。特に顕著なのは住宅開発による人口の増加だ。例えば流山市の場合、2005年に約15万人だった人口が2020年には20万人弱まで増え、2020年には20万人を突破した。また、ファミリー層の人口増加が顕著であり、年少人口(15歳未満)は千葉県でも印西市に次いで割合が高い。

 

 

これまで公共交通が便利とは言えなかった地域に東京都心へ直結する鉄道路線が開業するというのは、それだけ手がついていない魅力的な住宅地が出来ることを意味する。そして、つくばエクスプレス沿線の場合はマンションが駅周辺に複合施設と共に作られることで、まちのイメージも作られていった。

▲つくば駅の南側は大型マンションが目立つ。

つくばエクスプレス沿線でも駅周辺に特にマンションが多いのが、千葉県流山市の「流山おおたかの森」駅、柏市の「柏の葉キャンパス」駅、茨城県つくば市の「つくば」駅だ。まずは、この3駅の様子を沿線風景と共に紹介し、マンションが目立つ理由を探っていきたい。

 

 

つくばエクスプレスは秋葉原駅から南千住駅まで地下を走り、北千住駅を挟んで隅田川と荒川を橋梁で越えると再び地下区間を走る。本格的に地上区間を走るようになるのは、埼玉県内に入り、八潮駅手前からだ。北に首都高速6号三郷線をみながら倉庫や工場が見えるエリアを走っていくと急に一軒家やアパートの密度が高くなり、八潮駅に到着する。大規模マンションや商業施設が駅周辺に目立つ。

八潮駅を出発すると、再び倉庫や工場が目立つエリアを走る。中川を渡ると今度は一軒家主体になり、外環道をくぐると今度は大規模マンションがみえてくる。するとまもなく三郷中央駅に到着する。

▲三郷中央駅周辺。

このように、駅周辺に商業施設やマンションが集中し、その外側には一軒家や倉庫・工場が立地しているという風景がつくばエクスプレスの車窓の特徴だ。このような景色が守谷駅まで繰り返し現れる。つくばエクスプレスの高架は高い位置に作られており、車窓からは遠くまでよくみえる。そのため、車窓の変化が繰り返すことは強く印象に残るだろう。そして、車窓の繰り返しの中でも特に賑やかに感じるのが流山おおたかの森駅と柏の葉キャンパス駅だ。

 

 

流山おおたかの森駅は東武アーバンパークライン(東武野田線)との乗換駅であり、駅周辺はつくばエクスプレス沿線でも大きい約286haの土地区画整理事業が行われた。

▲流山おおたかの森駅南側にある「流山おおたかの森S・C」。

駅前に目立つのは、駅南側にある「流山おおたかの森S・C」(2007年開業)であろう。百貨店「高島屋」の子会社である東神開発は2004年から流山市の街づくりパートナーとして商業施設の開発を行っている。百貨店系ということで本館は郊外のショッピングモールとしては高級感のある空間に仕上げており、イオンモールに代表される郊外のショッピングモールとは少し異なる印象を受ける。

 

こうした空間づくりの成果もあってか、地域でも支持され、徐々に拡大していっている。直近では2021年には本館の向かいにFLAPSを、2022年にはANNEX2と高架下のGREEN PATHを開業している。

 

「流山おおたかの森S・C」の目の前は広場のような空間が整備されており、子どもが走り回れるような空間になっているのも大変印象的だ。そして、広場からショッピングモールの建物の間を抜けていくと大きな公園がある。子育て世代にとってはとても魅力的な空間に映るに違いない。

▲流山おおたかの森駅西側にはマンションが立ち並ぶ。

駅西側には複合商業施設マンション、大きめのスーパー、スーパー銭湯などの生活圏内にあるとうれしい施設が多く立地する。5年ほど前に訪れた時はまだ駐車場が多かったが、すっかりマンション街に生まれ変わった。

 

駅北側も駅西側と同じく、ここ数年でマンションが一気に建設されている。また、駅前にはホテルと多目的ホール、市役所の市民窓口センターなどがある。このように、流山おおたかの森駅周辺は、駅を中心に方角別に少し変わった景色が見られることが面白い。また、土地区画整理事業自体はUR都市機構が行っているが、建物は多様な開発主体によって建設されていることで、少し雑多で都市的な景観を生み出している。

 

 

流山おおたかの森駅の隣にある柏の葉キャンパス駅は、同じく駅周辺は賑やかだが、開発主体に大きな違いがある。

 

それは開発主体が主に三井系の企業であることだ。そのため、駅前の商業施設は「ららぽーと柏の葉」、ホテルは「三井ガーデンホテル柏の葉」と三井系の企業が運営する施設が多い。また、駅周辺に中高層マンションを固めて配置している一方、駅西側や駅北側は低層住宅地の開発がほとんどされていないため、北側から見ると駅をマンション群が取り囲んでいるような見え方もする。

▲柏の葉キャンパス駅周辺の様子。

駅東側は区画整理のエリアを外れると、すぐに柏市郊外に国道16号沿いに伸びていった一軒家主体の住宅地となっている。この対比もまた印象的だ。

 

柏の葉キャンパス駅周辺では開発主体が限られているためにできることがある。代表的なものが柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)だ。UDCKは柏の葉キャンパス駅西口から徒歩約1分の位置にある東京大学柏の葉キャンパス駅前サテライトがあり、東大側から、公民学が協働したまちづくりを進めるプラットフォームづくりを働きかけ、設立された。UDCKではまちづくりにかかわる研究などの事業(シンクタンク機能)、施策化や事業化を企画し、持続的な運営を支援する事業(コーディネート機能)、情報発信事業といった活動を行っている。

 

ほかにもスマートシティに関する取組みも行われており、先進的な取組みが多いことは、流山おおたかの森とは大きく異なる。

 

 

さて、柏の葉キャンパス駅からつくばエクスプレスで北東に進むと、やがて利根川を越えて茨城県に入る。茨城県内は一戸建てを主体に沿線開発を進めていたという背景があり、駅周辺はマンションや大型施設ではなく、一軒家が主体となる。また、車窓には田畑が目立つようにもなる。

 

再びマンションが見られるようになるのは終点つくば駅とその1駅手前の研究学園駅周辺だ。この2駅については筑波研究学園都市エリアに近いことがマンション供給の理由として大きい。

▲研究学園駅周辺の様子。

筑波研究学園都市には東京の都市機能分散を目的に、1960年代から計画的に研究機関や教育機関が東京都心から移転してきている。

 

そのため、つくば駅がのちに作られることになるつくばセンター周辺も計画的な土地区画づくりがされており、駅ターミナル近くには商業施設も含んだ大型複合施設「トナリエつくばスクエア」のほか、商業施設やホールなどの公的施設が多くおかれ、その周囲をとりまくように公務員住宅の建設がされた。

▲つくばエリアの中心、つくばセンター。つくばエクスプレスのつくば駅は地下にある。

2001年の中央省庁再編により、研究機関や教育機関の多くが独立行政法人化などを行った。そのため、現在つくば市内の公務員住宅に居住する人は減少している。また、つくばエクスプレスが呼び水となって計画的に開発された筑波研究学園都市の周囲に新たなロードサイド型の大型商業施設や大規模なスーパーマーケットが立地し、つくばセンター近くの商業施設の求心力は大きく低下しているのが現状だ。

 

こうした状況の中、公務員住宅の削減で民間開発業者による宅地開発を促進することや駐車場をはじめとする遊休地の高度利用がつくばエクスプレスの開業を契機に模索されるようになり、近年つくば駅周辺の元々駐車場だった土地や公務員住宅だった土地、商業施設だった土地を活用してマンション開発が進められている。

▲研究学園駅近くの大型商業施設「イーアスつくば」。

また、研究学園駅周辺はつくば市役所があることや、地域でも最も求心力があるといえる大型商業施設「イーアスつくば」があり、利便性の高いエリアとなっている。そのため、集合住宅の需要があり、マンションが駅周辺で分譲されている。

 

駆け足でつくばエクスプレス沿線の様子を紹介してきたが、どの地域もつくばエクスプレスの開業を契機としてマンション群が開発されていることに変わりはない。こうした沿線の風景が生まれた背景にはつくばエクスプレスだけで行われている特殊な沿線開発スキームがある。

 

 

つくばエクスプレス開業と沿線開発に大きな影響を与えたのが「宅鉄法」の存在だ。法律の正式な名称は「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」という。

 

宅鉄法は1989年に成立した法律で、大きな特徴は土地区画整理事業で駅とまちを一体的に開発できるようにしたという点だ。

 

新たに鉄道を建設する際は通常、鉄道にあったカーブや直線の設計に基づき、建設予定地の用地買収が必要となる。しかし、必要な鉄道用地を買おうとしても、一体となっている土地を分割してしまうことや反対運動などで買収が難航し、時間がかかることがある。すると、開業時期が後ろにずれこみやすい。場合によっては線路や駅の位置が変更になり、まちづくり計画とリンクしなくなることもある。

▲流山おおたかの森西側の2018年の様子。

宅鉄法では、土地区画整理事業の中に鉄道用地をあらかじめ入れ込んでいる。そのため、鉄道建設の土地買収が容易となる。具体的には鉄道用地を直接買収せずとも、土地区画整理事業の対象エリアに鉄道用地に相当する土地を買収し、鉄道用地に換地することを可能としたのである。これにより鉄道用地買収の短期化というメリットが生みつつ、土地区画整理事業の時点で新鉄道路線および新駅を中心とした一体的なまちづくりを可能としたのである。
そもそもなぜこのような法律が生まれたのか。その理由としては、東京圏の拡大とバブル期の地価高騰が上げられる。

 

高度経済成長期以降、大都市は拡大していった。特に東京の拡大は大きく進み、郊外へのびる鉄道路線では通勤する人々によるラッシュ時の混雑率は200%を超えることも珍しくなかった。

 

また、土地神話から高度経済成長期以降上昇基調にあった地価は、1985年のプラザ合意に基づく円高や金融緩和政策に後押しされ高騰していた。この情勢下で東京に勤めるサラリーマンは十分な面積を持つ住戸の確保が困難となっていた。

 

こうした都市への人口集中によるひずみの解消に向け、国は1980年代に都市機能の分散を図ろうとした。その中で1987年に第四次全国総合開発計画(四全総)が策定され、都市機能の分散を行い、東京圏の居住機能の改善を進めることが盛り込まれた。これに併せて良質な宅地供給を進める方針となり、鉄道新線建設と一体化した宅地供給による良質な宅地供給が模索された。結果として成立した法律が宅鉄法である。

 

 

1989年の宅鉄法の施行を受け、事業が画策されたのが常磐線方面だった。常磐線は当時、ラッシュ時には200%以上もの猛烈な混雑となっており、1985年の運輸政策審議会答申第7号で現在のつくばエクスプレスに相当する東京から茨城県守谷市へ至る鉄道路線建設について2000年までに整備することを目標とする路線に位置づけられた。

 

その後、宅鉄法に則り、鉄道を軸とした大規模な土地区画整理事業の実施と第三セクター方式による鉄道事業者の設立が決定された。そして1991年に沿線の自治体や民間企業が出資した第三セクター「首都圏新都市鉄道」が設立される。以後鉄道建設と土地区画整理事業が一体的に進んでいき、ついに2005年8月につくばエクスプレスが開業。本格的な施設づくりも始まった。

 

しかし、1980年代と2005年では大きく状況が変わっていた。それがバブル景気の終了と土地神話の崩壊である。地価は大きく下がり、サラリーマン世帯でも東京都心近くに住宅を確保することが可能となり、都市回帰の動きも見られるようになった。また、JRや私鉄が輸送力増強に努めた結果、混雑率も大きく下がっている。こうした状況をふまえ、つくばエクスプレスは費用を圧縮して建設を進めた。結果として、つくばエクスプレスは混雑路線となり、現在の6両から今後8両化の計画もされている。
宅鉄法については、バブル景気の終了以降、少子高齢化も相まって大規模かつ面的な良質な住宅提供の社会的要請が高まらなかった。そのため、宅鉄法の適用は現在までつくばエクスプレス沿線に限られているのが現状だ。

▲つくばセンターの複合商業施設は一部改築してマンションになった。

ちなみにつくばエクスプレスと似たような手法としては東急田園都市線沿線の宅地開発手法がある。大きな違いとして、東急田園都市線沿線は組合方式で東急電鉄が組合事務を代行し、資金提供を行った。そして東急田園都市線開業当初は社宅(主に独身寮)や団地が人口増をけん引し、その後民間の不動産事業者の流入で開発が進んだ。対してつくばエクスプレス沿線はUR都市機構や県など公的主体によって土地区画整理事業が行われ、民間の不動産事業者が住宅供給をけん引している。

 

結果的にはどちらも最終的には民間の不動産事業者が住宅供給を進めているのだが、その結果生まれた風景が異なる。東急田園都市線沿線に大規模マンションはあまりみられず、住宅が途切れないのに対し、つくばエクスプレスは駅周辺に中高層の大規模マンションが建設され、駅間は工場や倉庫が目立つメリハリがある車窓の風景になっている。

 

 

ここまで、つくばエクスプレス沿線の様子と開発の経緯や特徴を見てきた。東京の規模拡大と人口集中の中で良質な住宅供給という要請に応えたつくばエクスプレス沿線開発。つくばエクスプレス開業から約18年が経ったいま、人口減少社会の中でも見事に人気の住宅地としてにぎわっている。また、その住宅供給として駅周辺のマンション建設は存在感がかなり大きく、車窓風景に大きな印象を残していることもうかがえた。

▲流山おおたかの森西側の最近の様子。2018年と比べるとマンションをはじめとした建築物が増加したことがわかる。

今後は駅周辺よりも外縁部の住宅供給が進んでいくことになり、また、大規模マンションの大規模修繕やリノベーションといった話も出はじめてくるだろう。新鉄道路線と一体化したまちづくりで駅周辺をしっかり開発しているがゆえに、更新時期もほぼ同時期におとずれることになる。その際、どういった新たなまちづくりを行い、まちの風景を生み出していくか。一体型開発に次ぐ、一体型のまちの更新がどうなっていくのか。そして持続的なまちづくりや維持は可能なのか。今後も注目していくべきエリアであることは間違いないだろう。

 

WRITER

鳴海 侑
神奈川県生まれ。現在までに全国にある 700 以上のまちを訪ね歩いた、「まち探訪家」。父親の実家が限界集落にあった経験などから、「この地域はいかにしていまの姿になったのか」という問いを抱き、まちを見て歩き、考える日々を送る。現在は会社員と二足のわらじでウェブメディアへの寄稿をメインに活動中。

X:@mistp0uffer