マンションの床構造について、長谷工コーポレーション・技術企画室の青山勝さんが「直床」と「二重床」の違いを解説します。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ
マンションの床構造について、長谷工コーポレーション・技術企画室の青山勝さんが「直床」と「二重床」の違いを解説します。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ
――マンションの床の施工方法は、主に「直床工法」と「二重床工法」があります。それぞれの特徴を教えてください。
青山さん(以下、敬称略):「直床工法」は、コンクリートのスラブの上に、直接フローリングなどの仕上げを張る工法です。一方の「二重床工法」はコンクリートスラブの上に束と防振ゴム、パーティクルボードなどで二重床の下地を組み、その上にフローリング材を張る工法となっています。
▲長谷工コーポレーション 技術推進部門 技術企画室・青山勝さん。
※所属先・肩書きは取材当時のもの。
――ということは、二重床のほうはコンクリートのスラブ面から床の仕上がり面の間に空間が空いていると。
青山:はい。長谷工が手掛けるマンションの二重床の場合、コンクリートのスラブ面から床の仕上がり面まで130mmほどの空間があります。
――やはり床が二重になっているほうが、階下の部屋への足音などは響きにくくなるのでしょうか?
青山:いえ、そうとも限りません。床の遮音性能には大きく分けて、「軽量床衝撃音」と「重量床衝撃音」の2つがあります。軽量床衝撃音は、スプーンなどの軽くて硬いものが床に落ちた時のコツンといった音、重量床衝撃音は人が歩いたり子どもが跳びはねたりした時などのドスンドスンという重たい音を指すのですが、二重床の場合、やり方によっては重量床衝撃音の遮音性能が悪くなることがあるといわれています。二重床と床下空気の共鳴によって音が増幅され、いわゆる太鼓のような現象が起きてしまうことがあるんです。
ただ、最近は直床も二重床も、それぞれに音を低減するための対策がとられていて、基本的にはしっかりと遮音性能が担保されています。
――では、直床・二重床それぞれの音対策について教えてください。
青山:まずは直床の場合ですが、重量床衝撃音については対策というよりも、コンクリートスラブの厚さによって遮音性能が決まってきます。そこで、長谷工の場合は200mm以上のスラブ厚にするという基準を設け、遮音性能を担保しています。また、軽量床衝撃音については、裏側に防振材を施した遮音フローリングを使用することで、下階の音を抑制しています。
▲遮音フローリング。板の裏に防振材が貼り付けられている。
一方の二重床ですが、重量床衝撃音については、下地材を重ね張りして床下地を揺れにくくする対策があります。また、二重床と壁の間に隙間を設ける対策もあります。床下の空気が密閉されていると音が増幅されやすいので、床と壁の間から空気が抜けるようにしているんです。軽量床衝撃音については防振ゴムが振動を吸収し、音を軽減してくれますので、遮音フローリングを使用しなくても十分な遮音性を担保することができます。
――ちなみに、これからマンションを買おうと思っている人が、床の遮音性能をチェックするための指標などはありますか?
青山:床材自体の遮音性は、「ΔL等級」という表記を参考にすることができます。床材が床衝撃音をどれくらい抑えられるかを示すもので、軽量床衝撃音は「ΔLL-○」、重量床衝撃音は「ΔLH-○」で表します。○の部分の数字が大きいほど遮音性能が高くなりますので、まずはこの等級をチェックしていただくのがいいと思います。
――遮音性以外の部分で、直床と二重床の特徴に違いはありますか?
青山:まず、床の踏み心地が大きく異なります。直床の場合はクッション性のある遮音フローリングが使われているため、歩いた時に少しふわっとした感触があるんです。
一方の二重床は先ほど申し上げた通り、防振ゴムで遮音性能を確保できるため、上に張る床材の自由度が高くなります。たとえばフローリングではなく石やタイルを張りたい場合などは、二重床のほうが適していますね。
――ちなみに、二重床はコンクリートスラブ面と仕上がり面に空間ができるぶん、天井が低くなったりするのでしょうか?
青山:一概には言えないと思います。二重床であっても階高がとりやすい物件であれば天井を高くできますし。少なくとも、直床だから必ずしも天井が高いというわけではありません。
――では、リフォームのしやすさという点では、どちらに軍配が上がるでしょうか?
青山:リフォームのし易さに配慮した二重床もありますが、一般的な二重床と直床にはそれほど大きな違いはないと思います。
確かに、水回りの位置まで変更するような全面的なリノベーションの場合は、床下に配管を通すことができる二重床のほうが適しています。ただ、マンションの場合、上下階で水回りの位置を変更するケース自体が少ないのではないかと。たとえば、寝室の真上にあたる場所にお風呂を移動してしまうと、階下の住人さんに迷惑をかけてしまうかもしれませんよね。ですから、水回りの位置を変更できるメリットがあっても、実際にどこまで活かせるかは分からないと思います。
――お話を伺っていると、直床と二重床は工法が違うというだけで、性能に大きな差があったり、どちらかが劣っていたりするわけではないんですね。
青山:そうですね。かつては、直床よりも二重床の遮音性能のほうが高いのではないかといわれていた時期もあったのですが、現在ではそうした認識も徐々に改まりつつあります。それは、フローリング材などの性能が向上していることもありますし、性能試験のやり方が見直され、製品そのものの評価を適切に比較できるようになったことも大きいのではないでしょうか。
――長谷工でも、床の遮音性を向上させるための研究などは行われていますか?
青山:最近の取り組みとしては、技術研究所と東京大学で共同して二重床の基礎研究を行っています。たとえば、部屋の面積や形状によって音の伝わり方がどう変わるのかなど、さまざまなシーンを想定しながら遮音性を担保する方法を模索しているところですね。
――そうした地道な研究が、さらなる性能向上につながっていくわけですね。
青山:そうですね。長谷工に限らず、今はどのデベロッパーさんも床の音対策には力を入れています。たとえば直床のスラブ厚にしても、かつては150mm程度しかないようなものも多かったのですが、現在では200mmが一般的になっています。ですので、比較的新しいマンションであれば、直床であれ二重床であれ、一定以上の遮音性能を備えていると考えていただいていいのではないでしょうか。