地球に優しく、快適な室内環境を叶えるZEH(ゼッチ)マンションとは?

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秋元孝之教授

快適な暮らしと「省エネ×創エネ」を実現するZEHマンション。住まいの環境性能に詳しい、芝浦工業大学の秋元孝之教授が解説します。

取材・文:末吉陽子(やじろべえ) 撮影:高橋絵里奈

ZEH(ゼッチ)とは、「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略語で、家庭で消費するエネルギーの収支がゼロ以下になる住まいのことです。快適な暮らしと地球環境に配慮した新しい住まいのかたちとして、次世代のスタンダードになると予想されています。

 

今後ますます注目されるであろうZEHマンションの詳細やメリットについて、経済産業省ZEHロードマップフォローアップ委員会の委員長を務める芝浦工業大学建築学部の秋元孝之教授に聞きました。

 

――まず、ZEHについてご説明いただけますでしょうか。

 

秋元教授(以下、敬称略):高い断熱性能を有すると同時に、エネルギーの収支をゼロに近づけた住まいのことを指します。ZEHと呼べる条件は、大きく2つです。

 

ひとつは、外壁、屋根、窓などの断熱性能を大幅に向上させ、高効率な設備の導入で室内環境の質を維持しながら、大幅な省エネを実現している点。高効率な設備の例としては、少ないエネルギーで効率良くお湯をつくれる潜熱回収型ガス給湯器や自然冷媒ヒートポンプ給湯器のような給湯器です。

 

もうひとつは、太陽光発電などでエネルギーを創り出し、自給することで冷暖房、換気、照明、給湯に要する年間のエネルギー消費量の差し引きが概ねゼロの状態になっている点です。

▲秋元孝之(あきもと・たかし)。芝浦工業大学建築学部長・教授。建築設備綜合協会 会長。空気調和·衛生工学会 副会長。専門分野は建築設備、特に空気調和設備および熱環境·空気環境。日本建築学会賞(論文)、空気調和・衛生工学会賞技術賞などを受賞。現在、経済産業省 ZEHロードマップフォローアップ委員会 委員長、社会資本整備審議会 建築分科会 建築環境部会 省エネルギー判断基準等小委員会 委員などを務めている。

――つまり、ZEHとは省エネと創エネ(創エネルギーの略。自らがエネルギーを創り出そうという考え方や方法)を両立させた住まい、ということでしょうか。

 

秋元:その通りです。住まいの省エネを進めるためには、消費エネルギーの割合が大きい冷暖房エネルギーを抑えることが重要です。高効率の冷暖房設備の導入はもちろんのこと、冬は室内の暖かい空気が逃げない、夏は外気の熱が室内に侵入しないことがポイント。そのため、断熱性能と気密性能の向上は避けて通れません。

 

冷暖房以外にも、給湯、照明、換気などもエネルギーを必要としますので、太陽光発電などの創エネ設備を採用して、エネルギーを自給することでZEHの条件を満たせる、ということになります。

▲ZEHの定義:

ZEHとは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ、大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支を正味でゼロとすることを目指した住宅」である。

――ZEHマンションのタイプは複数あるのでしょうか?

 

秋元:『ZEH-M』、Nearly ZEH-M、ZEH-M Ready、ZEH-M Orientedの4タイプあります。分類にあたっては、再生可能エネルギーを含めた、または除いた一次エネルギーの消費量削減率を基準にしています。

 

というのも、高層マンションになればなるほど、床面積に対して屋根面積の比率が小さくなります。屋根面積の比率が小さくなるということは、すなわち太陽光発電設備を設置する面積が小さいということです。つまり、マンションの規模に応じて創エネに限界があるので、それぞれの規模別の目指すべき水準に照らした自給率4タイプの基準を設けているかたちです。

 

――現在、ZEHマンションはどれくらい普及しているのでしょうか?

 

秋元:戸建住宅と比較すると集合住宅の伸びは少ないですが、これから増加すると思います。参考までに2021年度の例を挙げると、マンション着工数約49万戸のうち、約7%がZEHに分類されています。

 

高層になるほど難易度が上がりますが、環境のことを考えると、4タイプのうち最も省エネ・創エネ性能の高い『ZEH-M』のマンションも今後どんどん増やしていく必要があると思います。

▲集合住宅におけるZEHの定義・判断基準:

・集合ZEHの省エネ性能の判断基準は、住棟単位(専有部及び共用部の両方を考慮)と住戸単位(各々の専有部のみを考慮)の2通りがある。いずれの場合も、強化外皮基準(ZEHに求められる外皮の断熱性能の基準)と一次エネルギー消費量の削減率(省エネ率)の双方の基準を満たす必要がある。

・住棟単位での評価の場合には、「ZEH-M」と表記し、目指すべき水準として、3階建て以下は『ZEH-M』またはNearly ZEH-M、4・5階建てはZEH-M Ready、6階建て以上はZEH-M Orientedを設定している。

・図版はZEHロードマップフォローアップ委員会「集合住宅におけるZEHの設計ガイドライン」(2019年4月)より作成。

――増やすためには、何が必要になりますか?

 

秋元:企画・設計・施工する側の人材育成、建材や設備の価格抑制など、いろいろな要素が必要です。最近は断熱性能が高い二重ガラスの窓(ペアガラス)などが戸建住宅で標準化しています。

 

窓枠も断熱性能に優れた樹脂とアルミを組み合わせたサッシが普及しており、集合住宅でも同じような傾向が見られるようになっています。高効率の設備も同様です。

 

断熱性に優れた物件に住めば、身をもってその良さを体感できますので、今後は住み手のニーズに応じて、自然とZEHマンションが増加していくと考えています。

 

 

 

――ZEHマンションの暮らしには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

 

秋元:まずは、光熱費を削減できます。現在、ウクライナ情勢に起因して、エネルギー価格が高騰し、電気代やガス代が値上がりしています。ZEHマンションは、断熱性が高いので冷暖房の稼働を控えられますし、さらに創エネによって世帯ごとの光熱費を抑えられます。

 

また、居住エリアと非居住エリアごとの温度差が生じにくいので、トイレや浴室が寒いことによるヒートショックの防止につながります。つまり健康上のメリットもあるということです。温熱環境が良いと血圧の上昇やアレルギー性疾患、過活動膀胱(夜間の頻尿)などを抑制できるという研究結果もあります。

 

――生活費と健康の両方にメリットがあるというわけですね。ZEHマンションをきちんと理解すると、興味を持つ人が増えそうですね。

 

秋元:近年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、自宅で仕事をする機会が増えました。それにより、家庭のエネルギー消費量に関心を寄せるようになった方、また光熱費の高騰でエネルギーについて真剣に考えるようになった方などもいらっしゃるのではないでしょうか。

 

さらに、SDGsというビジョンも浸透してきました。今後は省エネと創エネで光熱費を抑制でき、安全・安心・快適に暮らせるZEHを基本とする住まいが、多くの人から選ばれるようになる時代がきていると思います。

 

WRITER

末吉 陽子
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」所属。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手掛けている。

おまけのQ&A

Q.ZEHマンションにおける創エネの方法は、太陽光発電が主流なのでしょうか?
A.はい。自然エネルギーは風力発電や水力発電など、さまざまな種類がありますが、都市部で採用されやすいのは太陽光発電です。ZEHマンションの要件には当てはまりませんが、自家発電ではなく、再生可能エネルギー由来の電力を買う方法もあります。