地震発生! 日立ビルシステムに聞く、その時マンションのエレベーターは?

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マンションのエレベーターを利用している際に地震が発生したらどうなる? どうする? 同社技術本部長兼広域災害対策室長の小島巨士氏に伺いました。(以下、小島氏談)

大規模な地震が発生すると、エレベーター機器の故障や停電、これらに伴う利用者の閉じ込めなどが想定されます。また長期的な影響として、タワーマンションなどの高層階に住んでいる方が、いわゆる「高層難民」になってしまう可能性も考えられます。大規模地震だけでなく、近年、多発化・激甚化している水害もまたエレベーターが故障する要因になり得ます。

 

ただもちろん、このような被害が発生してしまうことを避けるため、または最小限にとどめるために、エレベーターは日々進化しています。

日立ビルシステム技術本部長 兼 広域災害対策室長の小島巨士さん。技術本部は、お客さまが所有されるビルやマンションに昇降機等の設備を据え付けるに当たって、必要な技術的支援を行う。広域災害対策室は、広域災害時の昇降機の早期復旧におけるシステム構築やサービス体制の強化施策に取り組んでいる。
※所属先・肩書きは取材当時のもの。

「地震時管制運転」とは、地震の初期微動を感知し、最寄りの階に自動停止するものです。最寄りの階で戸が開き、利用者の避難を誘導します。この仕組みは、2009年の建築基準法施行令改正で設置が義務付けられています。

▲日立ビルシステム提供 ※かご内表示は、エレベーターの仕様により異なります。

タワーマンションなどの高層のマンションでは、ゆっくり大きく揺れる「長周期地震動」も懸念されます。エレベーターはロープで上から吊っている構造になっていますので、大きく揺れるとロープがケーブルなどに引っかかってしまう恐れがあります。耐震基準の強化に伴い、長尺物が引っかかりにくい構造に徐々に変わりつつありますが、長周期地震動を感知したときにも管制運転を開始するシステムを準備しているところです。

▲日立ビルシステム提供

地震を感知したときには、いかに早くエレベーターを停止するかが大事になってきますが、できる限り早く復旧しなければ、高層階にお住まいの方には特に生活に支障をきたしてしまいます。これまでは、エンジニアが実際に現地に行って点検し、リセットして復旧するという流れが主流でした。しかし、我々と保全契約を締結しているエレベーターに関しては、強く揺れる主要動を感知しない弱い地震の際は一定の時間が経過した後、自動で診断運転を行い、異常がなければ自動で仮復旧する仕組みとなっています。

 

強い地震の際は点検を要しますので、エンジニアの点検が終わるまで運転を休止します。大規模な地震が発生すると、広域にわたるマンションやビルのエレベーターが一度に停止するということになります。復旧までに点検を要する場合、いかに早くエンジニアを現地に向かわせるかが重要になってきますが、従来は現地で複数のエンジニアがバッティングしてしまうケースも少なからず見られました。このような事態を防ぐために開発されたのが「広域災害復旧支援システム」です。

 

同システムでは、社内情報ネットワークを介し、災害発生から復旧完了までの間の出動指示や復旧状況などを一元管理しています。毎分約5,000台のエレベーターの状況を把握し、被害規模を自動で予測したうえで、どこに、何人のエンジニアを配備するのかといったこともサポートします。2017年以降はスマートフォンでも見られる専用のアプリを導入したことにより、巡回効率のさらなる上昇が見られています。

 

エレベーターは電気で動いていますので、停電になれば止まってしまうことになります。しかし、いきなり停止してしまうと利用者は閉じ込められてしまうため、地震時管制運転と同様に最寄りの階まで自動で運転し、戸を開いて利用者の避難を誘導します。停電時にこの動きを可能にするのは「自家発電管制運転」あるいは「停電時自動着床装置」です。

 

自家発電はすべてのマンションに備わっているわけではないため、自家発電設備がない場合はエレベーター自体に自動着床装置というバッテリーを搭載して、停電後も一定時間、動くようにしています。自家発電装置を導入しているマンションは、閉じ込めの回避に加え、継続運転も可能です。自家発電管制運転あるいは停電時自動着床装置の導入もまた、2009年の建築基準法施行令改正により義務化されています。

▲日立ビルシステム提供

日立ビルシステムでは、専任で災害対応施策を検討・推進する組織「広域災害対策室」を2008年に業界で初めて常設しました。いつ大きな地震が来るか分からないというなかで、ここまでご紹介してきたIoTを活用したシステムとともに求められるのは、やはり「人の手」です。広域災害対策室では、広域災害が発生した場合のエレベーターなどのマンション設備の迅速な復旧対応体制を目的とした訓練を実施したり、災害発生から復旧完了までの間の出勤指示や復旧状況などを一元管理できるシステムを構築したりしています。

 

管制センターは、東京と大阪の2ヶ所に設けられています。たとえば、首都直下型地震で東京の管制センターが大きな被害を受けたとしても、大阪のほうに対策本部を設置することが可能であり、実際にそのような訓練も行っています。

▲日立ビルシステム提供

高さ31mを超える建物には、予備電源のある非常用エレベーターを設置することが義務付けられています。非常用エレベーターは、一般的なエレベーターより強固な作りになっていますが、災害時に必ず動くとは限りません。
今、我々が目標としている復旧時間は、震度5弱程度の地震であれば1時間以内。震度7規模となりますと、約8時間を目標に復旧したいと考えています。ただこれは建物の強度や震源からの距離などにもよるところではありますので、あくまでこの目標は点検をして復旧するまでの時間です。また、エレベーターが完全に破損してしまった場合は、稼働するまでに数週間かかることも推測されます。そのため、居住者様、あるいは管理組合様におかれても、一定の備えというのは必要になってくるのではないかと思います。

 

また、災害発生時にはエレベーターで避難することは避けていただきたいと考えています。二次被害に遭われてしまう恐れがあるので、地震に限らず、停電や火災が起きた際に避難する場合は階段をご利用ください。

 

昇降機の耐震設計・施工指針は、大規模地震の発生を受けて徐々に強化されてきました。2023年時点で最新の指針は、2014年のものです。やはり年式が古いエレベーターには、ここまでご紹介させていただいたシステムが搭載されていないこともあります。管制システムが作動しないこともありますので、災害発生時にエレベーターに乗っていて停止してしまった場合は、無理やり扉をこじ開けようとはせずに、非常ボタンを押して救助をお待ちください。

 

エレベーターのリニューアルはもちろん、既存のエレベーターの年式によっては、特定のシステムのみを取り入れることも可能です。大規模修繕時には、多くの管理組合様がエレベーターの災害対応や安全性を考えて改修工事を検討されています。

▲日立ビルシステムのエレベーターを体感できる「日立ビルソリューション-ラボ」ではエレベーターの裏側も見ることができる。

記事後編では、日立ビルシステムのエレベーターシステムを体験できる「日立ビルソリューション-ラボ」で伺った最新の災害対策についてレポートします。

 

 

取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.日本全体で稼働しているエレベーターの数は?
A.日本エレベーター協会が22年度に発表したものによると77万9000台です。そのうち、日立ビルシステムがメンテナンスをしているのは4分の1近くの約21万台です。