日立ビルシステムのマンションエレベーター災害対策の“最先端”に迫る!

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最新のエレベーター研究を体感できる日立ビルシステム「日立ビルソリューション-ラボ」を訪問。安全への取り組みを学びます。

前回に引き続き「日立ビルソリューション-ラボ」 を案内してくださった、日立ビルシステム技術本部長 兼 広域災害対策室長の小島巨士さん。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

――エレベーターの災害対策の“最先端”について教えてください。

 

小島巨士氏(以下、小島):今、弊社で実証実験を行っているのは、電気自動車を使ってエレベーターを動かすというものです。電気自動車からの給電により、停電時もエレベーターを継続利用することができる「V2Xシステム」を開発しました。

 

 

――電気自動車でエレベーターが動くものなのでしょうか?

 

小島:平常時と比べると少し速度は落ちますが、電気自動車から「Hybrid-PCS」という充放電器を介してエレベーターに電気を供給するという仕組みです。すでに、エレベーターの電源を電気自動車からの給電に切り替えて稼働させることを実証しています。

 


――実証実験ではどれくらいの時間、稼働することができたのですか?

 

小島:軽自動車の「日産サクラ」を使用した実証実験では、約15時間、エレベーターを稼働させることができました。

 

 

――軽自動車1台で15時間ですか?

 

小島:はい、そうです。通常は電気自動車として利用し、非常時だけエレベーターに給電するということが可能です。

 

近年、自然災害や電力需要のひっ迫により、大規模停電が増えています。電気自動車からの給電で15時間稼働すれば、停電時も継続してエレベーターをご利用いただける可能性が高くなると考えています。

 

 

――電気自動車からの電気は、エレベーターの稼働以外にも利用できるのでしょうか?

 

小島:自動給水ユニットを稼働させる実証実験も行っています。実験では、2万ℓ以上の給水を実証しました。2万ℓというと、8,468人分の1日の水分摂取量、または4,234回分のトイレの水量に相当します。

▲電気自動車からの給電で停電時のエレベーター継続利用を可能とするV2Xシステム(日立ビルシステム提供)。

 

――ここではどのような体験ができるのでしょうか?

 

小島:ここでは、エレベーターのさまざまなリニューアルメニューを体験していただけます。本日は、大規模地震などが発生した際の「管制運転」を体験していただきます。管制運転とは、地震発生時や停電時にエレベーターに乗っている方が閉じ込められてしまわないように最寄りの階に自動で停止し、戸を開いて利用者の避難を誘導するものです。

 

 

――具体的に、管制運転ではどのようなフローでエレベーターが動くのでしょうか?

 

小島:地震には、強く揺れる「主要動」と主要動の前の「初期微動」があります。エレベーターは、初期微動を感知したところで停止し、表示とアナウンスで利用者に地震であることを伝えます。

▲初期微動を感知すると表示とアナウンスで利用者に伝える。

停電時は、停電になったタイミングで自家発電設備、あるいはエレベーターごとに設けられているバッテリーに電源が切り替わります。いずれの場合も、最寄りの階まで自動で運転し、戸を開いて乗っている人の避難を誘導します。

▲停電時には電源が自家発電設備かバッテリーに切り替わる。

――停電時を想定した運転では、停止する際に少し揺れを感じますね。

 

小島:停電時はどうしても一度、電源が落ちますので、電源が切り替わるタイミングで少し揺れが生じます。

▲最寄りの階まで移動して利用者に避難を誘導。

――最寄りの階で降りたあと、エレベーターは使えるのですか?

 

小島:災害発生時には、二次災害につながる恐れがありますのでエレベーターは使用しないでください。復旧までの時間は、災害の規模やマンション、エレベーターの性能などにより異なります。主要動を感知しない弱い地震の際は、一定時間が過ぎたあとに自動的に運転を開始します。強い地震の際は、エンジニアによる点検が終わるまで戸を閉じて運転を休止します。自家発電設備があるマンションであれば、停電時も継続運転が可能です。

▲避難を誘導したあとエレベーターは利用休止に。

――最近では、地震だけでなく水害も懸念されます。水害対策として何か取り組まれていることはありますか?

 

小島:台風やゲリラ豪雨発生時の浸水に備え、遠隔からでもエレベーターの運行を制御できる「BUILLINK(ビルリンク)」という管理者向けのツールを開発しました。浸水となると、地震や停電とはまた異なる対応や対策が求められます。

 

エレベーターが水に浸かってしまうと、まず復旧までに「乾かす」というフローが必要です。ただ、内水氾濫などで溢れる水は真水ではありませんので、どうしてもその後に錆びてきてしまうものです。浸水後、一旦、仮復旧はできたとしても、その後、すべて交換していただくことにもなってしまいかねません。

 

BUILLINKでは、浸水による被害を避けるため、遠隔からでもエレベーターを上層階に退避させることが可能です。本体を上層階に退避させることで、機器への被害を軽減することができます。

▲BUILLINKの管理画面。

――遠隔からの操作とは、どのようなシチュエーションを想定しているのでしょうか?

 

小島:大雨はある程度、予測できるとはいえ、最近では局所的かつ突発的に「100年に1度」という規模の雨が降ることもあります。従来は、実際に現地に行ってエレベーターを上層階に退避させなければなりませんでしたが、このシステムを利用すれば管理会社が遠隔で操作することも可能です。

 

またBUILLINKでは、遠隔操作のみならず、遠隔から復旧状況などをご確認いただくこともできます。2022年には空調機器をはじめマンションの設備やシステム全般に拡大し、機能を強化しています。

▲設定できるメニューは「冠水退避」のみならず「緊急地震速報との連動運転」など多岐にわたる。

――メニューを拝見すると、大規模地震にも対応しているのですね。

 

小島:おっしゃる通りです。パソコンやスマートフォンからもご覧いただけるので、災害発生時から復旧までリアルタイムで状況を把握していただけます。管理者や利用者の皆さんが緊急時に気になるのは「状況」です。利用できるのか、できないのか。エンジニアによる点検は必要なのか。どれくらいで復旧できるのか……このようなことですね。

 

以前は、災害発生時に弊社への連絡が集中していましたので、我々も電話の応対と状況の確認に非常に苦労していました。また「電話がつながらない」というお叱りも少なからずいただきました。このようなサービスをご提供することで、弊社に問い合わせなくても、マンションやエレベーターがどのような状況になっているかをご確認いただけるようになります。

▲BUILLINKの閲覧・遠隔操作はパソコンやタブレット、スマートフォンから可能。

 

 

取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.エレベーターの「スピード」についても進化しているのでしょうか?
A.以前ですと、一般的なマンションでは「分速60m」ほどが一般的でしたが、現在 では「分速90m」や「分速105m」と約2倍程度高速化されてきており、さらに 高層マンションでは「120m」以上の高速エレベーターも設置されています。 高層マンションの通勤時間帯のエレベーターの混雑もある程度、解消されるので はないでしょうか。