「マンション管理計画認定制度」と何が違う?「マンション管理適正評価制度」とは。

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マンションイメージ

2022年4月から施行された「マンション管理適正評価制度」。制度の内容や狙い、メリットを、管掌するマンション管理業協会に取材しました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ(マンション管理業協会 前島英輝さん分)メイン画像:© Yuma Nishiyama / EyeEm 

 

続いてお話を伺ったのは、マンション管理業協会の前島英輝さん。同協会が管掌する「マンション管理適正評価制度」も国交相の認定制度同様、2022年4月にスタートしました。名前からしてよく似ていますが、どのような違いがあるのでしょうか?



――2022年に「マンション管理適正評価制度」が始まりましたが、同時期にスタートした国の「マンション管理計画認定制度」との違いを教えてください。



前島さん(以下敬称略):どちらもマンションの管理の適正化を目指すものですが、評価項目の内容や重視するポイント、また、制度がつくられた背景なども微妙に異なります。

まず、国の認定制度は17の項目全ての基準をクリアした場合に「認定」のお墨付きを得られるというものですが、私たちの管理適正評価制度は30の項目の達成状況をそれぞれ数値化し、総合的な管理の状況を100点満点で評価します。そして、90〜100点は「星5(特にすぐれている)」、70〜89点は「星4(優れている)」、50〜69点は「星3(良好)」、20〜49点は「星2(改善が必要)」など、6段階の等級評価もしています。

 

評価項目

 

等級評価

 

――国の制度との大きな違いは、管理の状態を数値で可視化できる点ですね。



前島:国の制度が修繕計画を含めた「適切な維持管理」に重きを置き、建物の老朽化による損壊リスクを下げることを目的にしているのに対し、民間団体である我々の目的は中古マンション市場における「管理の価値」を底上げし、売買価格に反映させていくことです。そのため、私たちの制度ではマンションの管理の状況を“見える化”し、分かりやすく開示することを重視しました。また、更新頻度も1年ごとになっていますので、常に最新の管理の状態が分かるようになっています。

 

前島英輝さん

▲前島英輝さん。(一社)マンション管理業協会 調査部次長。マンション管理会社に入社し管理組合運営を担当。管理組合運営のコンサルティングなどを経て現職に出向。マンション管理適正評価制度の前身となる業界11団体のマンション管理適正評価研究会事務局及びマンション管理業協会内の管理評価検討委員会事務局を担当している。

 

――「マンションは管理を買え」などとも言われます。しかし、実際のところ、これまでマンションを購入する際に、管理の価値はあまり重視されてこなかったのでしょうか?



前島:そうですね。マンション総合調査などの統計を見ても、中古マンション購入時に重視されるのは、主に「立地」や「間取り」、そして「築年数」など。「管理の状況」を重視する人は、わずか10%程度でしかありません。

もちろん、マンションを契約する際には「重要事項説明」で管理状態についての説明がなされますが、その段階ではすでに購入の意思が固まっている場合が多く、「管理が良くないので買いません」とは言いづらいのが現状です。



――つまり、契約直前になって初めて管理の状態を知るケースが多かったと。そうではなく、マンションを選ぶ段階から「立地」や「間取り」と並ぶ検討材料の一つとして「管理」をチェックすることが望ましい。そのためにも、マンションごとの管理のレベルを可視化する必要があったということですね。



前島:その通りです。こうした事情もあり、これまではAとBのマンションの管理状態に大きな差があったとしても、売買価格にはほとんど反映されていませんでした。今後、評価制度の拡大によって管理の価値が市場で認められていけば、管理状態が良いマンションはより高値で売れるようになるはずです。仮に、何らかの事情で将来その部屋を手放す可能性があるかもしれないことを考えると、区分所有者にとっても管理の質を上げるメリットは大きいのではないでしょうか。

 

――「マンション管理適正評価制度」の具体的な評価項目を教えてください。



前島:全部で30の項目があり、大きく5つのカテゴリーに分類されています。

例えば、【管理組合の体制】のカテゴリーでは、「管理者が設置されているか」「総会を開催し、議事録を作成しているか」といった項目があり、管理組合のガバナンスについて評価します。

また、【管理組合収支】では、財政状態が健全かどうか、修繕積立金の滞納がないかといったマネジメントの部分がチェックポイントになっています。ちなみに、最も配点が大きいのがこのカテゴリーです。やはり、お金がなければ適切な管理はできませんので、特に重要な要素の一つですね。

 

マンション管理業協会「マンション管理適正評価制度」パンフレットの図版

▲マンション管理業協会「マンション管理適正評価制度」パンフレットより。

 

――かなり幅広い内容ですが、全体の点数を上げるポイントはありますか?



身も蓋もない言い方かもしれませんが、法令で定められていることをしっかり守れていれば、高得点が取れるようになっています。逆に、ずさんになってしまっている項目が一つでもあったり、法定の点検が実施できていない場合は、大きなマイナス点がついてしまう仕組みですね。



――ただ、大きなマイナス点がつくことで、管理の問題点を把握できますよね。



前島:そうですね。実際、管理の問題点って自分たちでは気づきにくいものです。私たちが管理組合に対して実施したアンケートでも、「うちの管理には全く問題ない」と考えている理事長さんは少なくありませんでした。ところが、実際に今回の評価制度に照らして一つひとつチェックしていくと、さまざまな問題点が出てくるんです。ですから、この制度によって足りていない部分を見定め、改善するきっかけになればと考えています。

 

前島英輝さんと渡辺正哉さん

▲前島さんと、今回一緒にインタビューに答えてくださった(一社)マンション管理業協会 技術センター次長の渡辺正哉さん。

 

――最後に改めて、「管理」に目を向けることの意義について教えてください。



前島:年に1回、健康診断や人間ドッグを受診している人は多いですよね。身体の健康状態を気にするのと同じように、住まいのこともしっかりとチェックし、問題があればメンテナンスしてほしいと思います。

特に、マンションの共用部分に関しては、さほど気にされていない方が多いようです。しかし、共用部分の老朽化が進めば、いずれ専有部分も維持できなくなってしまいます。だからこそ、居住者一人ひとりが管理の状態に目を向け、協力し合って質を高め、維持し管理状況を公開していくことが求められる時代になるのではないでしょうか。



――マンション管理適正評価制度が、その一助になるかもしれません。



前島:制度がスタートしてまだ4カ月ですが、すでにそのきざしは見えています。例えば、以前、私たちの制度をきっかけに耐震診断の重要性に気づき、耐震改修の実施を検討しているという方がいらっしゃいました。耐震性に問題があると市場で評価されず、売る時に不利になってしまうと、非常に強い危機感を持ったそうです。制度がさらに認知され、こうした事例がどんどん増えていくことを期待しています。

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami