結露を抑制するポイントは「湿度」。マンション研究の最前線

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長谷工技術研究所

昔に比べて「結露」が発生しづらくなったマンション。その進化の背景にある、研究の最前線をレポートします。

取材・文:末吉陽子(やじろべえ) 撮影:石原麻里絵(fort)

湿気やカビを発生させたり、壁の劣化などにつながったりする「結露」。主に冬場に起こりやすいといわれていますが、高温多湿な日本では「夏型結露」にも注意が必要です。そこで、長谷工コーポレーション 技術研究所(以下、長谷工技研)の山本正顕さんに、結露が発生するメカニズムや対策、結露に強い窓や壁を研究する取り組みについて聞きました。

 

――はじめに、結露が発生するメカニズムについて教えてください。

 

山本さん(以下、敬称略):空気には水蒸気が含まれていますが、空気の温度が低くなればなるほど、保持できる水蒸気は少なくなります。たとえば、氷を入れたガラスのコップを置いておくと水滴がつきますよね。これはコップの周りの空気が冷えて、保持できなくなった水分が水滴として現れることによって発生する現象。結露が発生するのも、同じメカニズムです。

 
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――結露が発生しやすい温度や湿度などの目安はあるのでしょうか?

 

山本:国土交通省の冬期結露検証の設定条件として「温度15℃・湿度60%の室内空気」が室内で結露を発生しないように、「室内表面温度7.4℃以上とする」ことが推奨されています。

 

――結露は寒い時期に発生するイメージですが、暑い時期に発生することもあるようですね。

 

山本:冬の結露は窓に出現しますが、夏型結露というのは一般的に「住宅の基礎、地下部分」や「壁」などが結露を起こすことを指します。日本の梅雨や夏は、高温多湿で空気が保持している水分量が多い状態です。そのため、クーラーなどで冷やした室内に湿度の高い空気が入ると、窓だけではなく壁面にも結露が発生しやすくなります。冬型結露では有効な換気が悪影響になったり、温度差が少なくても結露が発生してしまいかねないので断熱も有効に働かないことがあるので、夏型結露はとても対策が難しいです。

 

――結露を発生させないためには、具体的にどのような対策が有効でしょうか?

 

山本:基本的な対策は、夏型結露はエアコンによる「除湿」や冬型結露は換気扇による「排湿」になります。温度差のコントロールは難しいので、空気中の水蒸気量を多くし過ぎないことがポイントです。冬場の結露については、24時間換気が有効。外の乾いた空気を室内に入れて、室内の湿った空気を外に排出することが重要です。一方、夏場は外気の水分量が多いので、換気をしても湿度は変わりません。そのため、除湿機やサーキュレーターを使って湿度や壁角部等の滞留空気を動かして表面温度をコントロールするのが有効です。

 

――最近の住宅は結露しづらくなったと言われています。実際のところ、いかがでしょうか?

 

山本:はい、そのとおりだと思います。理由としては、住宅の断熱性能が高くなったこと。結露を防ぐためには、外気と室内の温度差を少なくすることが重要です。たとえば、旧来のマンションの窓ガラスは1枚だけで構成された単一のガラスが主流で、窓の外面と内面に温度差が生じやすい状態でした。しかし、今はガラスを2層にして、中間に空気層を設けたペアガラスと呼ばれる複層ガラスが主流になっています。これによって、外の冷えた空気と室内の温かい空気が接しなくなり、結露しづらくなるという仕組みです。

▲多摩センター駅から徒歩10分の場所にある「長谷工コーポレーション 技術研究所」。マンションにまつわる先端的な性能実験や研究開発に取り組んでいる。

――長谷工技研では、結露に関してどのような検証をされているのでしょうか?

 

山本:研究所には熱環境実験室があり、人工的に外部環境と室内環境をつくって、部材が結露の影響を受けないかどうかを検証しています。新しい部材を使うときには、この実験室で事前に検証します。

▲熱環境実験室。左側と右側で異なる温湿度環境をつくり、どのような影響があるかを確認している。

――しっかりとした検証を経て、部材の実用化につなげているわけですね。

 

山本:また、実験室とは別に、マンションでの現場調査も行っています。マンションの結露がまずは、具体的にどんな環境で発生したかのデータを集めます。そして、そのデータを活用して結露が発生しない床や壁、断熱仕様のシミュレーションを作成して検討しているんです。

▲実験室で得られた測定データを複数のコンピュータで分析し、結露に強い窓や壁の素材、構造を検討する。

――長谷工技研のなかで、山本さんはどのような研究をされていますか?

 

山本:私は、暑さや寒さなどの「温熱環境」を研究しています。暑くも寒くもなく、快適に感じられる温湿度を実現するために、どのような室内環境をつくれば良いかを検証しています。なかでも、結露は温熱環境に大きく左右される要素のひとつ。結露問題の原因究明や対策についての研究は、私の専門に含まれています。

 

――結露の共通原因を発見した場合、どのように対応していますか?

 

山本:当社の設計建設部門と協力して仕様を標準化します。主な流れとしては、設計建設部門から「結露が起きそうで心配だ」という相談を受け、研究所が検証を開始。その実験結果を踏まえて、標準設計に生かすかどうかを決めます。たとえば、外壁にクローゼットが面していると、何も対策をしないと床面に結露が生じやすいんです。その場合は、床面に断熱材を入れるなどの対策を施しています。

 

――これから研究を重ねていけば、「結露ゼロ」のマンションは実現できるでしょうか?

 

山本:マンションでは様々な住まい方が想定されるので、結露ゼロは非常に難易度が高いです。もちろん断熱材を増やせば結露を生じさせにくい環境をつくれますが、そのぶん居住空間が狭くなってしまったり、価格が高くなってしまったりします。ただ、そのあたりは、住宅性能表示のガイドラインで示されている「結露の発生の防止に有効な措置」を講じることともに、標準設計でも結露が頻発する部分で長谷工独自対策を講じて標準設計をブラッシュアップしてくことでバランスが取れると思います。住宅に求められる様々な要素を総合的に判断して可能な限り快適な住宅を追求する。それが我々の役割だと考えています。

 

取材協力:長谷工コーポレーション 技術研究所 山本正顕担当部長、池本和大さん

 

WRITER

末吉 陽子
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」所属。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手掛けている。