東京消防庁が伝授! マンション住民のための火災予防と避難の実践方法

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マンション生活を送る中で、火災のリスクを意識していますか? そこで、マンションで安心して暮らすための火災予防と、もしもの時の対応策について取材しました。

――火災件数の推移や出火場所や原因について教えてください

 

髙橋さん:令和4年中、東京消防庁管轄内の火災件数は3,952件発生しています。(稲城市と島しょ地域を除く)。うち住宅火災は、1,606件発生しており、そのうち共同住宅の火災は1,018件です。昭和23年以降の火災件数をみると、昭和45年には9,707件もありますから、現在はそれから半分以下に減少しています。建物火災も最大5,520件あったものが半減して2,850件程度です。ここ10年の間に限っても建物から出火した火災は3,127件から2,778件と減少傾向です。また平成20年頃から急激な減少が見られます。その理由として、住宅用火災警報器の設置義務化や家庭用ガスコンロの安全装置の設置義務化、喫煙率の低下、防犯カメラの普及による放火の減少などが考えられています。

 

令和4年の共同住宅等での火災1,018件においては、出火場所として最も多いのは台所で436件、次に居室が368件です。ベランダや屋上での火災も88件と多く、その原因としてたばこが52件と半数以上を占めています。火種が完全に消えていないことなどが火災につながると思われます。たばこの火を完全に消すためには水をかけてください。

 

また、台所における火災の原因として、ガステーブルが180件と多いです。電子レンジや調理器具関連の火災も増えています。電子レンジの火災の主な原因は、加熱のし過ぎです。例えば、食品を長時間加熱していると出火する可能性が高まりますが、ご存じない人も多いようです。

出典:東京消防庁のデータをもとに編集部で作成

髙橋さん:マンションに限らず住宅火災の出火原因としては、ガステーブル、たばこ、放火が多くなっています。他に電気による火災も増加傾向にあります。これは、リチウムイオン電池や電子レンジ、テーブルタップ、差し込みプラグやコンセントなどが原因として挙げられます。特に経年劣化した電気製品は火災のリスクが高まります。変色や変形があれば使用をやめましょう。

 

このような電気設備機器の火災は355件と多く発生しています。中でもリチウムイオン電池を使ったモバイルバッテリー等の充電式電池の火災は25件と多くなっています。変形していたり、熱を持っていたりなどの異常がないにも関わらず突然、発火するという事例もあります。販売されているリチウムイオン電池を使った製品の中には製品の欠陥により出火する危険性があるものもあるため、購入時には信頼できる製造業者の製品を購入していただきたいです。

 

 

髙橋さん:放火対策として重要なのは、外部からアクセスしやすい場所に物を置かないことです。夜間に出されたゴミは放火の対象になりやすいため、指定された時間にゴミを出すようにしましょう。防犯カメラの設置や施錠などの対策を考えることも重要です。

 

渡部さん:一定規模の建物には、防火管理者の選任が義務付けられ、マンションなどの共同住宅も例外ではありません。もっとも、火の管理といった住戸内の防火対策については各居住者の責任とされているので、防火管理者は共有部の管理や各居住者の防火意識の向上といったマンション全体に対する防火管理業務を担うことになります。具体的には、共有部に物が置かれていないか、消防関係の各種設備がきちんと使える状態になっているかをチェックしたりします。通路に物が置かれていると、避難や消防活動の妨げになったり、防火扉がしっかり閉まらなかったりします。また、消火訓練や避難訓練などの「自衛消防訓練」を行って、マンション全体の防火意識を高める役割も担っています。

 

 

――階数によって出火の割合に違いがありますか?

 

髙橋さん:マンションなどの共同住宅等の「出火階層別の火災の推移」として、過去10年間のデータを示しました。オレンジ色で示した1階から10階までの火災が全体の90%以上で、青色のグラフのように11階以上からの出火は約5%です。また、数は少ないですが緑色のグラフのように地階での火災もいくつか発生しています。階数による延焼の度合いや死亡率の関連性について一概に述べるのは困難です。火災にはたくさんの発生原因や発生場所があります。発生原因や周辺環境によって延焼の度合いや被害状況は大きく変わります。例えば、調理中に火が出た場合、その場を離れていると発見が遅れて延焼拡大しやすくなりますから、何階が危ないということは一概には言えないのです。

出典:東京消防庁のデータをもとに作成

髙橋伸幸さん

▲予防部調査課 資料係 資料係長 髙橋伸幸さん。火災調査結果から得られたデータを分析し問題点を抽出。同種火災の再発防止や火災予防施策に反映させている。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

――マンションは戸建てに比べて火災に強いのでしょうか?

南野さん:マンションは一般的に木造建築が多い戸建て住宅より火災に強いと思われがちですが、実際は耐火構造や準耐火構造などの戸建て住宅もあり、建物の構造によって火災への強さは違います。火災に対する強さは、マンションか戸建てかではなく、構造の耐火性能が重要だと思ってください。

 

その他に火災時の危険な要因として延焼拡大のリスクがあります。耐火性能のない戸建て住宅が多く、道路が狭い木造住宅密集地域では隣家から延焼するといったリスクがあります。一方でマンションは防火区画により隣の住戸へ延焼しにくいので、木造住宅密集地域のような隣家からのもらい火は少ないと考えています。

また、自宅内で火災が拡大するリスクはあまり変わりがないと思います。マンションであっても、防火区画は住戸ごとなので、区画された住戸内での延焼拡大リスクは家具等の量や整理整頓の状況に影響されます。マンションの規模や階数によっては、スプリンクラー設備が設置されています。この場合は、安全性は格段に高まると考えています。

 

ひとたび火災が発生した時には、戸建て住宅は避難しやすく、マンションは避難しづらいと思う方もいるようです。確かに戸建てなら2階から飛び降りることもできますが、マンション10階からは無理ですね。ただ、マンションにはバルコニーに設置されている避難ハッチや隣の住戸のバルコニーとの間にある蹴破ることができる隔て板の設置などで一定の避難方法が法令で定められています。やはり「マンションだから大丈夫」とも「マンションだから危ない」とも言い切れません。

 

南野秀司さん

▲予防部予防課 建築係 建築係長 南野秀司さん。建築物が防火や避難に係る基準に適合しているかの審査検査と共に基準の考え方や運用について、とりまとめる業務を行う。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

――マンションで火災が発生したらどうすればいいですか?

 

渡部さん:火災を発見したら、することは通報、消火、避難の3つです。一例をいうと、まず、「火事だー!」と大声で周囲に火災を知らせてください。それにより他の人も早期に避難することができますし、誰かが助けに来てくれたら、分担して火災に対処することができます。次に、自力で消火できるなら、消火しましょう。ただし、消せないと思ったら、すぐに逃げます。そして消防への119番通報や再度周囲へ大声で火災を知らせるなどをしてください。状況によって何を優先すべきかは変わってくるので、どの順番が正しいというのは一概には言えませんが、いずれにしても、通報、消火、避難の3つを徹底していただきたいです。もう一つ大切なことですが、逃げるときは発生現場のドアを閉めてください。そうすることで燃え広がりを抑えることができます。

 

南野さん:マンションの場合、玄関ドアは一般的に防火扉になっています。また、階段とその他のエリアも防火区画となっていて防火扉が設置されています。日常的には意識しないかもしれませんが、火災時には、共同住宅の玄関や階段の出入口扉が防火区画として機能します。火災発生時に逃げるときは、必ず発生現場のドアや階段扉を閉めるようにしてください。

渡部亮さん

▲予防部 防火管理課 自衛消防係 自衛消防係長 渡部亮さん。災害時の活動や訓練など、事業所における自衛消防活動に関する業務を担当。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

渡部さん:火災時の避難については、基本的には現場のドアを閉め、姿勢を低く保ち、煙を吸わないようにすることが大切です。火災での死因は、炎よりも煙によるものが多く、煙には一酸化炭素などの有毒ガスが多く含まれていますから、なるべく吸わないようにします。これはマンションに限りません。そしてエレベーターは火災時には使用してはいけません。火災によって停電が起きれば動作しなくなることもありますので、階段を使用して避難するようにしてください。

 

南野さん:タワーマンションなどの高層階からは階段だけで地上まで避難することが難しい場合は、火災が発生した階からは何階層か下まで降りるための中間目標を設定しておくのもよいでしょう。建物や火災状況によって何階分を降りれば安全かは変わってきますので、現場の判断を優先してください。高齢者等の歩行困難者が避難する際は、特に二次災害も考慮し、一時的に安全な階まで避難するようにしましょう。火災の発生地点によっては、下への避難が難しい場合も考えられます。その際には上の階に逃げることもあり得ます。

 

 

南野さん:マンションのような高層建築では上の階に火災が延焼していくことがあります。そのため、上の階での火災より、下の階で起きた火災の方がより注意は必要でしょう。

 

最も怖いのがバルコニーに多くの物があり、これが上階への延焼拡大の要因となることです。居室内で火災があった場合、バルコニーの床面が上階への延焼拡大を抑制することができます。しかし、バルコニーに多くの物があるとこれらに火が付き、上階への延焼拡大を促進することがあります。マンションの管理状態や住民の日常の行動が、火災の危険性に大きく影響するといえるので注意してほしいです。

 

バルコニーは自分だけでなく他の住人の避難ルートでもあるという意識を持つことが大切です。また、避難ハッチは点検があった際に、その時に使い方を聞いてみるのもいいでしょうね。

▲安全のためにはバルコニーはきれいにしておきたい。

[あわせて読みたい]住まいの安全はどう確保? 知っておきたいマンションの消防設備とは

 

 

取材・文/小野悠史 撮影/ホリバトシタカ

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。

X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.屋上に逃げてもいいですか?
A.屋上に避難した方をヘリコプターで救出した事例もあります。現場の判断次第ですが、屋上に逃げてもいいです。