二子玉川の築古マンションを「ヴィンテージな空間」にフルリノベ。保護猫と暮らす30代男性のこだわり部屋

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二子玉川の築古マンションを買い、ヴィンテージ家具が似合う空間にリノベしたCさん。当初の一人住まいからパートナーと猫が加わった、暮らしの変化について伺いました。

東急田園都市線・大井町線の2路線が交わる二子玉川駅から徒歩10分。川沿いに立つ築35年のマンション。南西向きのリビングには日差しがたっぷり注ぎ、大きな窓越しには高く広い空が開けています。Cさんは2年前、初めての持ち家としてここを購入。決め手になったのは、のどかな河川敷の風景と「風の心地よさ」だったといいます。

 

「もともと長崎の田舎町で生まれ育ったので、自然にある程度ふれられる場所のほうが落ち着くのだと思います。前の家は都心にあって、それが全く感じられませんでしたから。その日に見た空の色や、どんな風が吹いていたかも思い出せないような生活をしていて、これはよくないなと。その点、ここは窓から見える風景の半分が空だし、風通しもすごく良い。窓から玄関まで心地よい風が抜けていくので、猛暑日以外はエアコンがいらないくらいです」

▲南西側に大きな窓があり、日中は自然光だけで過ごせる明るい空間。晴れた日は窓から富士山も眺められる

当時は一人暮らしでしたが、いずれパートナーと同居することも想定して61㎡の2LDKを購入。リノベーションに1000万円をかけ、理想の空間をつくりあげました。

 

「イメージしたのは『最近までおばあちゃんが暮らしていた団地の部屋』。僕の亡くなった祖母と同年代の、大正時代のアンティークが似合う家にしたかったんです」

 

もともとアンティークやヴィンテージが好きで、古くて味のある家具に囲まれた生活に憧れていたというCさん。これまでの賃貸住宅では叶わなかった願望をプランに落とし込み、やりたいことを実現させています。

 

「現代風の壁紙や賃貸にありがちな合成素材のフローリングだと、どうしてもアンティークやヴィンテージは映えません。そこで、長い年月を重ねた家具とも馴染むよう、天然木のフローリングや漆喰の壁など、自然素材を多く使いました。キッチンのキャビネットは、たまたまなのですが、木目が横向きになっていて、アンティークの食器棚とうまく調和が取れました。本当にちょっとしたことですけど、こういう細かい部分がぴったり揃うと気持ち良いですよね」

▲木目の自然な風合いが印象的なキッチン。ビルトイン型の食洗機も付いて機能的

▲100年以上の歴史を重ねてきたアンティークの食器棚。最低限の補修を施しただけで、ほぼ大正時代に使われていた当時の姿を留めている

ほとんどの家具やインテリアは、ここへ越してから、雰囲気に合わせて購入したものだといいます。「照明や椅子などもすべて買い直したので、正直めちゃくちゃお金がかかりました」と言うCさんですが、本物のアンティークと“アンティーク風”をうまく混在させることでコストを抑える工夫も見られます。

 

「本物のアンティークは先ほどの食器棚だけですが、70年前のフランス製のスツールや、ミルクガラスっぽい風合いの磁器の照明などを組み合わせています。ヴィンテージは他にミナ ペルホネンの生地で仕上げ直したデンマークのダイニングチェアが2脚と、アーコールの椅子と、トルコ製のラグ2枚。トルコ製のものは比較的安くてものがいいんです。あとは古い家具に合いそうなナチュラルな雰囲気のソファを合わせたり、杉の丸太なども置いたりしています。猫を飼い始めてからかなり数は絞りましたが、緑をほど良く配置するのもポイントですね」

▲アンティーク家具も扱うセレクトショップで見つけた磁器製のランプ

▲テーブルや椅子は目黒通り沿いのヴィンテージ家具ショップで購入

現在はパートナーとの二人暮らしになり、2か月前からは愛猫のひまわりちゃん、アイリスちゃんもお迎え。同居人とペットが増えても、特に生活は変わらないといいます。

 

「もともと二人暮らしまでは想定していましたので、パートナーが来てもすぐに住み替えることは考えていませんでした。生活スタイルも特に変わりませんが、強いて言えばちゃんと料理をつくるようになったくらい。食器にもこだわるようになって、前より食事の時間が楽しくなりましたね。ただ、猫を飼うことは想定外だったので、その点ではいろいろと不都合な点も出てきています。脱走防止対策だったり、猫がいたずらしないようコード類にカバーをして隠したり。できることはやっていますが、やっぱり限界があって。次にまた家を買うなら、あらかじめ猫と人が快適に暮らせる環境を万全に整えておきたいです」

▲ひまわりちゃん。同じ母親から生まれたアイリスちゃんとともに、2か月前からここで暮らしている

▲二人暮らしになってから増えた食器。今はどの食器を使い、どんな料理をつくるかが楽しみになったそう

じつはCさん、ここはあくまで「仮の住まい」であり、将来的には二件目を購入する予定だといいます。現在住んでいる二子玉川の部屋は、次に家を買う際の「改善点」を洗い出すためのシミュレーションの場でもあるようです。

 

「次に買う家も新築ではなくて、中古を買ってリノベーションしたいと思っています。その前提で、今の家で住みながら感じる不便さや不都合を、すべてメモしているんです。たとえば、寝室はもう少し広いほうがいいなとか、廊下につくった収納棚も市販の収納ボックスの規格に合わせてぴったり収まるように設計したかったなとか、すでにいろいろ出てきています。あとは、やっぱり猫たちとの生活ですよね。次の家では犬も迎えたいので、猫と犬ファーストな家づくりをしたい。壁の上にキャットウォークを付けたり、キッチンに侵入防止の柵を付けたり、やりたいことはたくさんあります」

 

ちなみに、2件目を購入した後もこの家は売却せず、両親に住んでもらう計画なのだとか。

 

「両親は長崎の実家で暮らしていますが、もしどちらかが先に亡くなってしまったら遠い田舎で一人暮らしになってしまいます。できれば、2人が元気なうちに東京へ移住してもらえたら、距離的にも近くなって安心ですから。近所にはすでに結婚して子どもがいる兄もいて、両親がここに住めば孫たちにもすぐ会いにいけますからね」

▲1人でも2人でも、基本的に生活ペースは変わらない。Cさんとパートナー、それぞれが思い思いに過ごし、たまに散歩や食事で時間を共有。そんな暮らしが心地いい

じつは二子玉川を選んだのも、ゆくゆく両親が住むことを考え、地元の環境になるべく近い自然豊かな場所が望ましいと考えたから。実際、両親にも“お試し”で何泊か滞在してもらったところ、想像以上に気に入ってもらえたそうです。

 

「年齢を重ねるほど大きく生活を変えることが難しくなると思うので、できれば5年以内には両親にここへ来てもらって、自分は次の家に住み替えたいですね」

 

ライフステージの変化により、住まいに求めるもの、必要な広さや機能は変わっていきます。それゆえ、人生の見通しが固まるまで購入に踏み切れないケースもありそうですが、Cさんのように単身者のうちから綿密な計画を練り、ある程度の変化に対応できるマイホーム計画を立てることは、ひとつのロールモデルになりそうです。

 

「じつは僕も最初は単身で家を買うことに不安もありました。だからこそ、当面の一人暮らしだけでなくパートナーを迎えたり、あるいは働き方が変わったりしてもある程度は変わらない生活ができる立地や物件、リノベーションプランを検討しました。実際、ここに住み始めた時とはかなり状況が変わっていますが、当初と変わらず快適に過ごすことができています。今は本当に買って良かったと、心から思えますね」

取材を終えて:

「一人暮らしのニーズを集めた、おひとりさま向け。33㎡『黄金間取り』開発ウラ話」でお話をお聞きした日鉄興和不動産「+ONE LIFE LAB(プラスワン ライフ ラボ)」佐藤有希さんによると、単身女性は売却や賃貸に出しやすい1LDKを選び、単身男性は将来的に家族と住める2LDK以上を購入する傾向があるのだとか。単身からパートナーや猫を迎え、そしてご両親に譲るという可能性も鑑みてこのお部屋を選んだCさんは、まさに将来を見据えてマンションを購入した単身男性のケース。人生に起こりうる「変化」を想定することも、住まいを選ぶ際の大切な要素だと改めて思いました。

 

取材・文:榎並紀行 撮影:宗野 歩

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami