大規模修繕、理事の担い手不足…どうしてますか? 「管理組合理事長」座談会

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オンラインで実施した座談会

高い志を持って管理に向き合う3名の現役及び元理事長の鼎談を実施。管理のあれこれ、それぞれの取り組みや考え方を伺いました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:石原麻里絵(fort)

 

マンション管理において、重要な役割を担うのが理事会。管理費や修繕積立金の管理、事業の計画案や予算案といった議案の作成など業務は多岐にわたり、理事会が適切に機能しているか否かで、管理の良し悪しは大きく左右されます。

とはいえ、すべての理事が管理の知識を持っているわけではありません。特に、大規模修繕など専門的な知見を要する事業については、どうしていいか分からず、管理会社に丸投げしているケースも少なくないのではないでしょうか? そこで今回は、大規模修繕をはじめとした事業に向き合ってきた管理組合の理事長や、建物修繕委員会の委員長にお集まりいただき、それぞれの思いや事例をお話ししていただきました。



―――はじめに、みなさんがお住まいのマンションの概要と理事会での役割について教えてください。



長島徹朗さん(以下敬称略):マンションは北鴻巣駅前にある、築14年の「ゼファー北鴻巣オレンジステージ」です。第1期から理事長に立候補して第3期まで3年間務めたあと、現在は建物修繕委員会の委員長として長期修繕計画や大規模修繕に関わっています。



志村仁さん(以下敬称略):マンションは武蔵小杉駅前の「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」です。築年数は14年で、戸数は約800弱です。理事会には2期目から立候補で入り、通算で12期務めています。最近まで代表理事をしていました。本業は財務と法務が専門ですので、理事会でもその部分が私の役割ですね。ちなみに、理事会には私以外にもさまざまな分野の専門家が7〜8人います。



石川裕司さん(以下敬称略):川崎にある「シティテラス川崎鈴木町グランドシーズンズ」に住んでいます。2018年11月竣工で、もうすぐ築4年になります。第1期から立候補で理事になり、2期目までは防災担当を務めました。3期目から理事長になり、4期目の現在も継続中です。



――それぞれ築年数も規模も異なりますが、立候補で理事長になり、精力的に活動されている点は共通していますね。まず、みなさんにお伺いしたいのは、マンション管理における最大のミッションといえる大規模修繕についてです。みなさんのマンションでは、どのように大規模修繕を進めていますか?



長島:うちのマンションは昨年、最初の大規模修繕が終了したところです。私が第1期の理事長に就任した当初から、大規模修繕に関しては管理会社任せにせず、必要な修繕を適切なコストで行いたいという思いがありました。そこで、建物修繕委員会を立ち上げ、必要な知識やスキルを身に付けていくところからスタートしたんです。その結果、当初の想定を下回るコストで無事に大規模修繕を終えることができました。今後も基本的には、このやり方を続けていきたいと考えています。



――ありがとうございます。志村さんのマンションはいかがでしょうか?



志村:私たちはタワーマンションということもあって、修繕に対して独自の考え方を持っています。まず、いわゆる大規模修繕というものは、これまでもこれからも一切行いません。その一方で、数千万円規模の中規模修繕は毎年のように行なっていて、今年も屋上防水の修繕を実施する予定です。このように、建物の設備ごとに状態を見極めながら、必要に応じて適切な中規模修繕を行なっています。



――つまり、時期が来たから一律に大規模修繕を実施するのではなく、設備ごとに中規模修繕という形で細分化し、それぞれに適した修繕計画を立てていると。



志村:おっしゃる通りです。さほど劣化が進んでいないのに、当初の計画通りに各修繕を強行すると、無駄にコストがかかってしまいます。そこで、我々は状態監視方式を採用し、設備ごとの劣化の状態を監視しながら必要な修繕を行なってきました。

例えば、昨年は揚水ポンプの中規模修繕を実施していました。高さ200メートルの建物ですので、ポンプは生活の命綱。当初は8期で交換する計画でしたが、専門家の診断をふまえて12期まで時期を後ろ倒ししました。結果的に、8000万円ほどのコストダウンを実現しています。

また、一般的に大規模修繕といえば主に外壁補修のことを指すと思いますが、こちらについても一昨年に大規模な打診検査を行い、「数年間は外壁修繕の必要なし」との結果が出ました。これに伴い、当面は18期まで外壁補修を延期することになりました。

 

パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー

▲武蔵小杉駅からほど近い「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」。地下3階、地上59階建、総戸数800弱の超高層マンション。

 

――石川さんのマンションはいかがでしょう? 築4年ということで、大規模修繕はもう少し先の話かと思いますが。



石川:当初は、管理会社さんと施工会社さんに作っていただいた長期修繕計画をベースに、具体的なプランを練っていこうとしていました。ただ、私が理事長を引き継いだ時点で、その計画そのものに不備があり、修繕積立金と実際の修繕にかかる費用の収支もマイナスになっていたんです。赤字に転落すれば、必要な修繕が行えなくなってしまいます。これはダメだろうということで、まずは修繕計画と財政面の見直しから始めました。



――なぜ、もともとの計画に問題があると分かったのでしょうか?



石川:そもそも購入の際に、重要事項説明書の管理規約を隅から隅まで徹底的に読み込んでいました。そこで、計画に問題点があると感じていたこともあって、第一期の理事に立候補したんです。ただ、最初の総会でそのことを問題視している人はほとんどいませんでしたね。ただ、それも仕方のないことで、うちのマンションに限らず、管理規約をじっくり読み込んでいる人のほうがおそらく珍しいのではないかと思います。

 

――先ほど石川さんから「修繕計画と財政面の見直しから始めた」というお話がありましたが、具体的に何をどう見直しましたか?



石川:まず財政面ですが、段階増額方式から均等積立方式への変更を目指しています。ちなみに、現状の修繕積立金は月5000円ほどと安価ですが、数年後には月1万円以上になり、最終的には2万円を超えていきます。



――つまり、当初の修繕積立金の負担は少ないものの、大規模修繕に必要な金額に届かない。しかも、そのマイナスを補填するために将来的な負担がどんどん増していくと。



石川:そうですね。これは一番よくないパターンだなと思い、まずはここを是正しようと。具体的には、来期から月1万9000円程度の均等積立方式に切り替えたいと考えています。そうすれば、50年間は大規模修繕で赤字に転落することなく、安心して住める計算です。

あとは、長島さんのマンションのように、建物修繕委員会の立ち上げも準備しています。前期で退任された副理事長が仕事で修繕に関わっていましたので、その方を中心に可能な限り人材を集めて、長期的な修繕のプランを練っていこうとしているところですね。

僕は理事長になったとき、「30年ではなく50年は安心して住めるマンションにしましょう」という目標を掲げました。このマンションには僕を含めて若いファミリーが多いですし、買ったからには少しでも長く住みたいですから。



――そうした計画に対し、住民の方々の反応はいかがですか?



石川:以前に住民の方と直接お話する機会があったときも修繕積立金のことを質問されましたので、やはり関心度は高いのだと思います。その際には、「こういう理由で、これくらいの金額設定を想定しています」と丁寧に説明すると、ご納得いただくことができました。もちろん、肯定的な意見ばかりではないでしょうし、みなさんに完全にご納得いただくことは難しいかもしれません。それでも、可能な限りの説明は尽くしていきたいと思っています。

 

シティテラス川崎鈴木町グランドシーズンズ

▲地上15階建、総戸数475戸。京急大師線鈴木町駅から徒歩3分の閑静なエリアに建つ「シティテラス川崎鈴木町グランドシーズンズ」。

 

――修繕積立金の財政の話が出ましたが、長島さん、志村さんのマンションでは、どのような仕組みになっていますか?



長島:私のところも元々は段階増額方式で、当初の修繕積立金は月5000円でした。しかし、それでは大規模修繕の費用を賄えないということで、デベロッパーさんが作った長期修繕計画を見直し、修繕積立金も月1万円に引き上げ、均等方式(約16600円)と値上げしてきました。



――引き上げに対し、住民の方々の反応はどうだったのでしょうか?



長島:1万円に引き上げた際は、住民の方々も5000円では安すぎると理解していましたので、特に大きな議論や説明会などは行なわず、それでも問題ありませんでした。しかし1万円からの値上げは周辺のマンションよりも大幅に高くなってしまうので、徹底した議論が必要となりました。もちろん、何の説明もなくいきなり引き上げたいと言っても、理解を得ることは難しいでしょう。そこで、まずは建物修繕委員会がきちんと大規模修繕の実績を作った後に徹底的に議論を行ないました。そのときの議事録は16ページにも及びました。理事会に「段階方式」と「均等方式」の2案を提出し、理事会の検討の結果「均等方式」になったのです。なお、そうした議論の内容もすべて開示した結果、みなさんにご納得いただくことができました。決して軽い負担ではないと思いますが、トラブルなくご理解いただけましたね。



志村:私たちは5期目で段階増額方式から均等積立方式に切り替えましたが、反対の声はほとんどありませんでした。というのも、この先の人生プランを考えたときに、毎月かかる負担額は一定のほうがいいと多くの人が考えていたんです。例えば、小さなお子さんがいる家庭からは「やっとローンを払い終えた25年後に、修繕積立金が5倍になるのは辛い」という声がありました。また、ご高齢の方は「いずれ孫にマンションを譲ることを考えているので、将来の負担はなるべく減らしてあげたい」と。こうした声が多かったです。

やはりこの先の人生を見据えると、右肩上がりに負担が増すのは恐ろしいことですよね。それなら、足元の負担が一時的に増えたとしてもずっと同じ水準のほうがいい。特に、築年数が若いマンションにお住まいの人ほど、その気持ちは強いのではないかと思います。今すぐ修繕積立金が2倍になるのは確かに厳しいけど、20年後に5倍になるのはもっとつらいかと。



――住民の方々の理解を得るためには、やはりそうしたことも含めてしっかりと説明する必要がありますよね。



志村:そう思います。私たちの場合、お金まわりのことなど住民にとってネガティブな話をしなければいけないときには、24か月計画でじっくりと時間をかけて進めます。先ほどの均等化についても、じつは第2期目の総会から「こういう計画があります」という頭出しをして、じっくりと説明と議論を重ねたうえで第5期に実現させました。ちなみに、来年の10月には初めて管理費を上げる予定なのですが、これも昨年から頭出しをして、24か月計画で進めているんです。イヤな話ほど時間を味方に付けるというのは、マンション管理に限らず組織運営においてとても大事なポイントではないでしょうか。



――ちなみに、志村さんのマンションでは「100年安心戦略」を掲げていますが、これはどういったものなのでしょうか?



志村:4期目に均等化を実現した時には「50年安心戦略」でしたが、これをさらに強靭なプランとして見直したのが「100年安心戦略」です。分かりやすくいうと、100年間は修繕積立金が一定額のままでも赤字に転落することなく、中途の一時金もなく、必要な修繕を行えるというものですね。大規模タワーマンションの場合、修繕計画が問題となることが多々ありますが、私たちは長期的なリスクを見据えて収支を強化しました。その結果、タワーマンションとしてはリーズナブルな水準の修繕積立金でありながら、計画上は100年間にかかる修繕支出をすべて網羅することができています。

 

――せっかくの機会ですので、お互いに質問してみたいことがあればぜひお願いします。



石川:志村さんにお聞きしたいのですが、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」は財務や防災など、あらゆる面で非常にレベルの高い管理をされていると感じます。それって、先ほど志村さんがおっしゃっていた「理事会にさまざまな分野の専門家が7〜8人いる」ことが大きいのかなと思いますが、そうしたメンバーをどのように集めたのでしょうか?



志村:当初はそうした専門性を持ったメンバーは3人程度でした。それが、2年目、3年目と徐々に増えていった形ですね。みなさん本業は医師や公認会計士、建築士、IT系などバラバラなのですが、自分が興味のある分野について勉強し、コアメンバーになっていったという流れです。ですから、何か特別なことをしたわけではなく、自然発生的にそうなったのかなと。



石川:なるほど、うらやましいです。うちの理事会は輪番制なので、今は管理に対するモチベーションが高いメンバーがいても、いずれは交代していきます。そうなると、どうしても管理の質が安定しません。せめて、恒久的に設置される委員会だけでも、それぞれの分野に強いメンバーを揃えられたらいいのかなとは思っていますが……。



――マンション管理はどうしても属人化しやすいという問題がありますよね。長島さんのところも理事の任期は2年ということですが、メンバーが交代していくなかで、どうやって管理の質を安定させているのでしょうか?



長島:まず、うちの理事会は立候補が基本です。役職ごとに理事を募り、立候補がない場合は全世帯を対象に抽選を行う形になっています。今のところ立候補率は8割と高く、抽選で決まった場合も就任拒否は一度も出ていません。みなさん、任期中の2年は非常に高い意識で臨んでくれていますね。

なぜ、それが可能なのかというと、最初にマンション管理を属人化させないための仕組みを作ったからです。というのも、私自身が以前に住んでいた自主管理のマンションで理事をしていた際にとても苦労した経験があり、「次のマンションでは、ご高齢の方や未経験の方が理事になったとしても、高いレベルの管理ができる仕組みを整えよう」と考えました。そこで、入居する半年前から制度を設計し、第1期の理事長に就任すると同時に具体的な施策を次々に打ち出していったんです。プランの策定は具体的提案と必ずセットで行いました。

 

ゼファー北鴻巣オレンジステージ

▲JR高崎線北鴻巣駅から徒歩2分。総戸数122戸の「ゼファー北鴻巣オレンジステージ」。2008年3月竣工で、2021年に初めての大規模修繕を終えた。

 

――具体的に、どのような仕組みを作ったのでしょうか?



長島:まず、マンション管理の要素を大きく三つに分類しました。一つ目は「管理会社にお任せできるもの」。例えば、植栽の手入れや、法定点検などです。二つ目は「理事会の裁量で、意思決定ができるもの」。例えば、住民同士のトラブルや、管理費・修繕積立金の滞納への対応など、その場その場の常識的な判断で対処できる問題ですね。

そして、三つ目が「意思決定や実現に際し、専門的なスキルを要するもの」。その際たるものが修繕です。管理会社などが策定した長期修繕計画や修繕積立金を見直そうにも、ほとんどの住民は専門的な知識を持っていません。そこで、建物修繕委員会を立ち上げ、修繕に関する業務を理事会から切り離しました。長期修繕計画や大規模修繕に向けた具体的なプランの策定などは建物修繕委員会と外部のコンサルタントが行い、理事会にはそれを意思決定してもらう形にしたんです。



――つまり、高い知識やスキルが求められる業務については理事会から分離し、ハードルを下げたと。



長島:そうですね。理事会の業務については、特に知識がない人がいきなり就任しても、その場の常識的な判断で対処できる内容に絞られています。そのため、安心して立候補ができるのではないでしょうか。

また、もうひとつ大きなポイントとして、2年の任期を全うすれば、その後30年間は理事を免除するルールを設けています。すると、「いつか順番が回ってくるなら、時間と心に余裕が持てるタイミングでやったほうがいい」という考えから、みんな積極的に立候補してくれるようになるんです。例えば、小さな子どもがいる家庭であれば、早めに立候補して子どもが小学校に上がる前に任期を終えれば、理事会とPTAの仕事が重なることもありません。しかも、その後は30年間免除ですから、少なくとも子育てが終わるまでは理事をやらなくていいわけです。

一見、後ろ向きな理由での立候補に思われるかもしれませんが、2年の期限付きということもあって、その期間は高い意識で取り組んでくれる方が多いですね。そのため、理事が入れ替わり立ち替わり交代しても、今のところは良い管理ができていると思います。



志村:先ほど長島さんが「ご高齢の方や未経験の方が理事になっても、高いレベルの管理ができるように」とおっしゃいましたが、私も全く同じ思いです。「100年安心戦略」で財務の部分についてはある程度の道筋をつけられたかなと思いますが、残る課題は“組織のサステナビリティ”に取り込んでいくこと。私が理事会から抜ける数年以内に、最後の宿題として成し遂げたいと考えています。

 

――最後にみなさんへお伺いします。お話を伺っていて、3人はとても前向きに理事の仕事に取り組まれていると感じましたが、一方で「理事って大変そう、ましてや理事長なんてとても無理」と考えている人もいると思います。そこで、理事になってよかったこと、あるいはモチベーションになっていることがあれば教えてください。



石川:正直に言うと、理事になって良かったと思うことはないですね(笑)。日曜日は潰れますし、子育て真っ只中のタイミングで妻や家族に負担をかけて申し訳ないという気持ちがあります。ただ、それでも理事会を通じてマンションの住民の方と交流できるのは楽しいですし、何より、自分が住んでいる家くらい自分たちの手でしっかり管理したいという思いが強いです。自分の子どもが友達に「うちのマンションすごいんだよ」って自慢できるくらい、住み心地の良い場所にしていきたい。それが最大のモチベーションですね。



長島:私が管理に関わって良かったと思うのは、やはり大規模修繕を無事に終えられたことですね。私自身は理事ではなく建物修繕委員会の委員長という立場でしたが、20代の理事長と理事会のメンバー、建物修繕委員会のメンバー、コンサルタント、管理会社といった信頼できる人たちと一緒に、ワンチームで大きな仕事を成し遂げることができました。その過程も非常に楽しかったですし、何か大きな宝物を手に入れたような気持ちになったんです。



――確かに、そんなふうに高い意識を持ったメンバーが集まれば、前向きに取り組むことができそうです。では最後に志村さん、お願いします。



志村:理事をやる最大の利点は、さまざまな人と交流できることだと思います。例えば、理事会には今までの自分の人生や本業では出会えない異業種の方々がいらっしゃいました。理事会がそのまま異業種交流の場になっていて、ここで生まれたつながりが本業の仕事にも役立っているんです。

また、武蔵小杉にはマンションの地域連合のようなコミュニティもあり、さまざまな年代の方がいらっしゃいます。私は現在60歳ですが、コミュニティを通じて地域の30代40代の方々と交流する機会がすごく増えました。こうした出会いは、人生そのものを豊かにしてくれます。その意味でも、理事会の仕事をやってきて良かったなと思いますね。

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami