ひとり暮らしの空間分布:男と女

〜単身者の住まい(その1)〜

2026年03月31日 / 『CRI』2026年4月号掲載

外部寄稿

目次

これからの住宅を考えるにあたって、単身者の動向を無視することはできないであろう。
2020年の国勢調査によれば一般世帯総数5,570万世帯のうち、38%にあたる2,115万世帯が単独世帯である。
そのうちの35%にあたる735万世帯が東京を中心とした南関東(1都3県)にいる。
年齢や性別によって、暮らしているエリアに特徴はあるのだろうか。
地図を活用した分析手法の変遷と、単身者の空間分布をみてみよう。

1. 空間分布を知る方法とは

単身者が多く暮らす場所を把握するには地図化という方法がある。GIS(地理情報システム)を活用すれば、データを視覚的に把握して分析することができる。

ところで、調査データなどを地図に落とし込んで分析する手法はいつ頃から始まったのであろうか。1854年にロンドンのソーホーエリアでコレラ死亡者を地図上にプロットして感染源の給水ポンプを突き止めた、ジョン・スノウ医師の仕事が空間分析の先駆けだと言われている。

同じイギリスで、実業家チャールズ・ブースは、1886年から15年以上かけてロンドン全域の生活状況を調査して、街路ごとに富裕層から貧困層までを5段階に色分けした詳細な地図や地区ごとの貧困率を塗り分けた貧困地図(図1)を作成した。貧困という深刻な社会課題を視覚化することで問題の所在を明らかにし、福祉政策へ少なからぬ影響を与えた。

その後、1920年代から30年代にかけて、地図を活用した研究に組織的に取り組んだのはアーネスト・バージェスをはじめとするシカゴ学派と呼ばれるシカゴ大学の都市社会学の研究者たちである。当時のシカゴは、アメリカにおいてニューヨークに次ぐ第2の規模を誇る大都市であり、移民などにより人口が急増し都市が発展する一方で、犯罪や貧困問題など多くの社会課題を抱えていた。禁酒法時代を描いた映画「アンタッチャブル」に登場するギャングのボス、アル・カポネが暗躍したのがまさにこの時代である。この大都市シカゴをフィールドに、大学院生を動員して、ベースの地図に調査した様々な事象、例えば、移動労働者(ホーボー)、ギャング、家庭解体などのデータを書き込んで都市の分析を行った。こうした事例を踏まえてバージェスは「同心円地帯理論」といった都市の空間構造のモデルを提示してみせた。

地図を活用した都市研究が発展する過程で、コンピュータが登場し、その性能が向上したことも見逃せない。1960年代にカナダの地理学者ロジャー・トムリンソンが地図をデジタル化して国土管理などに活用することを提案し、GISの概念を打ち出している。もっとも、当時のコンピュータでは処理能力が低く、1980年代になるまでGISの本格的な活用は待たねばならなかった。

日本では、旧国土庁において位置情報と土地利用などの情報をデジタルに結びつけた国土数値情報が1974年から整備されている。また、1986年に社会学者の倉沢進が中心となって出版された「東京の社会地図」(*1)が、東京の社会構造を統計地図によって分析した初期の研究として有名である。国勢調査をはじめとした様々な統計を活用し、東京23区を500メートルメッシュ地図で表現したものである。「単身世帯比率」、「老年人口の比率」など多数の地図が収録されており、鉄道や道路が描かれた付属の透明シートをメッシュ地図に重ねて、読み取るように工夫されている。倉沢は、当時所属していた東京都立大学の大型コンピュータを貸し切って地図を出力していたという。

1990年代には筆者も、東京圏のメッシュ地図(コンピュータ・マッピング)により住宅事情の分析を行っていたが(*2)、その頃にはパーソナル・コンピュータでも地図化の計算やプリントアウトができるようになっていた。

現在では、無料のGISソフトがあり、e-Stat(政府の統計窓口)の地図化機能を利用して、国勢調査や住宅・土地統計調査などのデータを社会地図として手軽に作成することができるようになっている。

以下では、e-Statを利用して地図を作成し、単身者の空間分布について分析する。

*1 倉沢進編「東京の社会地図」東京大学出版会(1986)
*2 島田良一・松本真澄『第5章 居住とその環境』「都市研究叢書11都市の環境創造-環境と対話する都市-」東京都立大学都市研究所(1995)

2. 単身者が集中する南関東にフォーカスしてみよう

南関東(1都3県)は、大学や企業が集積していることもあり、20代の若者が多く集まってくるエリアとなっている。そこで、南関東の単独世帯の年齢階層別状況をはじめに確認しておきたい(表1)。単独世帯735万世帯のうち、15~34歳の若年階層が201万世帯(27%)、35歳から64歳の中高年階層が258万世帯(35%)、65歳以上の高齢階層が190万世帯(26%)となっている。ボリュームとしては中高年(以下、階層を省略)が最も多いが、若年も高齢も中高年の7~8割程度いるので、ざっくりとみれば同程度の世帯数規模といえよう。性別でみると、若年と中高年は男性が多く、高齢は女性が多くなっている。

この年齢階層は、世代として捉えることができるように区分をしている(*3)。中高年は郊外育ちが多い「郊外第2世代」(1956~1985年生まれ)と同じであり、晩婚化が進み離婚も増えた世代である。高齢は「郊外第1世代」(1926~1955年)とほぼ重なり、大都市に転入して郊外に移り住んだ人々と地方にとどまった人々が拮抗している世代である。

年齢階層別に全国に対する南関東の割合をみると、若年40%、中高年37%、高齢28%となっており、若年ほど南関東の割合が高い。これは、若い世代が都市部に流入していることに加えて、そもそも南関東で生まれ育った人の割合が若い世代ほど増えていることも影響していると思われる。

*3 松本真澄「世代と人口移動」CRI No.566(2025.10)

3. 単身者の空間分布をみてみよう

南関東の中での単身者の分布の特徴を視覚的に把握するために、単独世帯率として一般世帯総数に対する単独世帯数の割合を計算し、市区町村単位で色分けをして、男女別、年齢別に6カテゴリーの地図を作成した。

〈a〉 若年男性の地図をみると、都心部で高く周辺部に向けて緩やかに低くなっている。都心の豊島区、千代田区、中野区、新宿区などが高い値となっているだけでなく、川崎市から横浜市にかけてのエリア、中央線沿線、東京に隣接する埼玉県や千葉県の市部も高い値を示している。また、周辺部でスポット的に高い割合を示している勝浦市、箱根町、成田市などは、大学や産業などの立地が影響しているところである。


〈b〉 中高年男性は、6つのカテゴリーの中で最も世帯数が多いため、地図の色が全体として濃く高い値を示している。台東区、千代田区、川崎市川崎区、豊島区、中央区が14%以上の高い値を示す一方、町村部でも4%以上の値がほとんどである。都心が高く周辺に向けて低くなる分布は、若年と似た構造となっている。

〈c〉 高齢男性は、6つのカテゴリーの中で世帯数が最も少ない。分布をみると、若年、中高年と異なり、周辺部が相対的に高い割合を示している。檜原村、奥多摩町が10%を超え、東秩父村、御宿町、鋸南町がそれに続くが、いずれも周辺部の人口規模が小さい町村である。実数の順位は、足立区、大田区、世田谷区、江戸川区となっている。一方、割合が低いのは、都心の渋谷区、文京区などのほか、横浜市都筑区、青葉区の周囲、千葉の浦安市や流山市の周囲などの郊外部となっている。

〈d〉 若年女性は、若年男性の75%程度のボリュームのため全体的に割合の低い薄い色となっており、周辺部では2%未満のエリアが広がっている。分布の傾向は男性と似ているが、割合の高い市区の順位は少し異なっており、豊島区、箱根町、浦安市、新宿区が高い。川崎市川崎区について男性は高く女性は低めの値を示すなど、性別による違いがみられる。因みに、若年の実数のトップは、男女ともに人口規模も反映して世田谷区となっている。

〈e〉 中高年女性は、同世代の男性の6割を下回るボリュームとなっている。分布については、都心が高く周辺が低くなる傾向は、若年や中高年男性と同じだが、都心部への集中がより明瞭である。中央区、港区、目黒区、渋谷区、世田谷区で10%を超えている。男性の順位と比較すると、第二山の手と呼ばれる高級住宅地を含むエリアも上位であることが特徴的である。

〈f〉 高齢女性は、高齢男性の1.7倍の世帯数がある。分布は、高齢男性と同様に周辺部が高く、湯河原町、奥多摩町、真鶴町、鋸南町、御宿町が12%を超えている。また、全市区町村で4%を超えており、低いエリアがないといえる。実数は多い順に、世田谷区、足立区、大田区、練馬区となっている。

4. 男女の差を市区町村別に詳しくみよう

男女の違いを見るために、女性の単独世帯数を男性の単独世帯数で除した割合を市区町村別に色分けした。相対的に女性が多い方が濃い色になっている。若年と中高年は、男性の世帯数が多いので、0~1以上までを0.2刻みで色分けしている。

〈g〉 若年の男女比では、女性が男性よりも多い(1.0以上)のは、区部の練馬区、世田谷区、板橋区、杉並区、近郊の富士見市、浦安市、周辺部の鴨川市、鋸南町、箱根町などであり、基本的には中心部で高くなっている。

〈h〉 中高年の男女比では、男性の数が多いこともあり、女性が男性よりも多い(1.0以上)のは、目黒区、文京区、世田谷区、港区、中央区のみで、杉並区、葉山町、渋谷区、逗子市、鎌倉市が続く。いずれも高級住宅地のイメージが強い市区町である。

〈i〉 高齢の男女比は、女性の数が多いので、色分けの階級を1未満と1.0以上は0.2刻みとしている。女性が2倍以上のところは50市区町村あり、それらは都心から郊外部にかけていくつかのエリアを形成している。多摩市、町田市から川崎市の北部と横浜市の西側を通り、鎌倉市、藤沢市、葉山町などを含む南北に連なるエリア、文京区、港区、目黒区から世田谷区、杉並区を含め国分寺市、国立市へと東西に連なるエリアがある。さいたま市の周辺や、千葉市から我孫子市にかけてのエリアも女性が多い。これらの女性比が高いエリアは、戦後に郊外住宅地として発展した地域と重なっている。

単独世帯に着目して、男女別、年齢階層別に市区町村の地図を色分けするだけでも興味深い事象が見えてきた。簡単にまとめると、単独世帯は、若年と中高年は都心部での割合が高く、高齢では周辺の市町村での割合が高くなっている。ただし、単純な同心円構造ではなく、中央線沿線など鉄道沿いに高いセクターや、産業構造の影響によるスポット的に高いところがあることが読み取れる。また、年齢階層別に、女性が多いエリアと男性が多いエリアが異なっていることがはっきりと捉えられた。

さらに、住宅事情を考慮すれば、年齢階層の違いだけではなく、郊外第1世代、第2世代の世代的な特性を踏まえた、郊外住宅地の世代交代などについても考察できそうである。

松本 真澄まつもと ますみ

東京都立大学大学院 都市環境科学研究科 助教、日本女子大学非常勤講師
日本女子大学住居学科卒業。専門は、住居学・ハウジング。戦後の計画住宅地・団地をフィールドに、高齢者、女性、単身者の視点から住まい方の変化について調査研究を行っている。主な共著に、『奇跡の団地阿佐ヶ谷住宅』(王国社)、『多摩ニュータウン物語』(鹿島出版会)、『四谷コーポラス 日本初の民間分譲マンション1956-2017』(鹿島出版会)など。東京都住宅政策審議会、神奈川県住宅政策懇話会などの委員を務める。