特集

2023.11.20

知性派遊び人の街!?  麻布競馬場×博報堂ケトル嶋浩一郎が語る「赤坂」

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食と街に精通する作家の麻布競馬場さんと、趣味は散歩で赤坂経済新聞の編集長でもある嶋浩一郎さん。お二人が「マンション」「お店」「人」という多様な観点から赤坂を語り合います。

▲フルーツサンドとお酒を楽しむ麻布競馬場さん(左)、嶋浩一郎さん(右)。赤坂のマンションの1階にあるカフェバー「Salon de fable (サロンドフェーブル)」でお酒と食事を楽しみながら、街の魅力について語っていただいた(お二人のお店でのお酒についての感想やトークは記事後編で)。お店のオーナーは銀座でバーテンダーとして働いたのち、ビールメーカーに勤め、商品企画などに約10年携わった。フルーツを使ったユニークなカクテルやフードが楽しめる。

―麻布競馬場さん(以下、アザケイ)は最近、赤坂によく来るようになったと伺いました。

 

アザケイ:じつは学生時代にもよく来ていたんですよ。赤坂にオフィスがある会社でインターンをしていたので、当時は週1回くらいのペースで通っていました。社員さんにつれられて飲みに行くことはありましたが、学生時代の僕には自発的に「赤坂で遊ぶ」みたいな発想はなかったです。最近は、すぐ近くの紀尾井町にある出版社で連載の打ち合わせをやって、それが終わったあとに赤坂のお店に連れていっていただくことが多くなったので、出没頻度が増えました。

▲※写真左※麻布競馬場(あざぶけいばじょう)覆面小説家。1991年生まれ。大学卒業後から8年間、麻布十番で暮らし、そののち、港区界隈に在住。街やマンションが好きで本企画も「マンションの1階に良い店がある街は良い街だ」の麻布競馬場さんの名言から生まれた。デビュー作は、『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)。X:麻布競馬場

―他の街と比べて違いはありますか?

 

アザケイ:学生時代の僕がそうだったように、他の街と比べてちょっと敷居が高いように感じます。もともとお屋敷街だったこともあり、街自体に格式が高い雰囲気が漂っているからかもしれません。永田町の目と鼻の先ということもあり、政治家が通うような料亭も多いですし。

 

嶋浩一郎さん(以下、嶋):僕の会社博報堂の本社は2008年に赤坂に移転して来たんです。ここに会社が来る前から赤坂は大人の街だってイメージがありましたね。

 

昔、赤坂にサントリーさんの本社があって『洋酒天国』という広報誌を出していたんですよ。後に芥川賞作家になる開高健さんや、山口瞳さんなどが編集に携わっていて、大人のお酒の飲み方を指南するだけでなく、海外文学を紹介したりするカルチャー誌でもあったんです。開高さんや山口さんの書かれたエッセイには、鮨屋で素人が「おあいそ」などの符丁を使うのはダサいみたいに、粋な大人のマナーが書かれていたりして、赤坂には彼らが通った店もまだいくつか残っているんですよ。だから、赤坂と聞くと「大人の酒を飲む文化的な街」、つまりちょっと敷居が高いって印象があったんですよ。

▲嶋浩一郎(しまこういちろう)博報堂執行役員、博報堂ケトル取締役。1993年博報堂入社。2002年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。「本屋大賞」の立ち上げに参画、「本屋B&B」の開業、赤坂経済新聞の制作など、手掛けたクリエイティブは多岐にわたる。X:しまこういちろう

―あえて敷居を高くしているのでしょうか?

 

アザケイ:いや、じつは敷居が高いと思っているのはこちらだけな気がしていて。実際に足を踏み入れると、もちろん凛とした気品がありつつも大変フレンドリーな、まるで緩い会員制みたいな街です。銀座と比較すると分かりやすいのですが、赤坂はちょっとだけ、かっこいい意味での「不純さ」が混じっている大人な街という印象。明るいうちはビシっとスーツを着て働いて真面目にいるけれども、夜になるとほどよく遊んでいる。言うなれば「ちょっと外した大人」が多いですね。銀座はビジネス街である丸の内に隣接している一方、赤坂は遊びの街である六本木に隣接しているという違いが、その背景にある気がします。

 

嶋:赤坂の街はかっこよく酒を飲む大人が多いイメージがあるよね。「洋酒天国」の世界観が残っているというか、「お店ではこうたち振る舞ったほうがいいよ」とか、「酒はこう飲むとかっこいい」みたいな。そういうクラシックなスタイルにたいしてリスペクトがあるんだよね。

 

アザケイ:銀座みたいにハイブランドの店がずらーっと並んでいないのも関係しているかもしれませんね。商業地ではないから、大勢がドカッと集まる街ではない。「銀ブラ」とは異なり、明確な目的を持った人が多いからこそ、敷居の高さは感じるものの来る人はみんな洗練されている気がします。

 

 

―赤坂は高級住宅エリアでもありますよね。

 

アザケイ:青山と麻布に並ぶ「3A」と呼ばれる超高級マンションが立ち並ぶエリアですからね。低層マンションからタワーマンションまでバラエティに富んでいて、傑作ヴィンテージマンションも多い街です。

 

―アザケイさんの知人が続々と赤坂へ引っ越していると聞きました。

 

アザケイ:最近、赤坂へ引っ越してくる友人が多いんですよ。「本当に引っ越して良かった。赤坂が好きすぎて、もっともっと赤坂に課金したいよ」と言っている知人もいました(笑)。

 

僕は六本木、麻布方面で遊ぶことが多かったので、同じ港区でも赤坂は少し遠い存在だったんです。ある種の「パス」がないと入れないのかなと。でも、実際に足を踏み入れ敷居を越えたことで、街の魅力に気づきましたが……友人の中には一足先に赤坂の魅力に気づいている人がいて。その人は赤坂氷川神社の近くにヴィンテージマンションを買って、ゴリゴリに改装しています。彼いわく、赤坂はどのエリアよりもタクシーの利便性が良いそうです。六本木にも行きやすく、それでいて丸の内方面も遠くはない。赤坂は格式が高い街だったり、高級住宅街だったりという側面もありますが、「利便性が良い」という合理的な街でもあるんですよね。
ゴールデン街や荒木町方面へのアクセスも良いから、「文化的酒飲み」にはピッタリだと。

 

嶋:個人的には、赤坂から新宿五丁目くらいまでは一緒のエリアだと思っている。酒の飲み方が一緒で、丸ノ内線でつながっているんだよね。出版とかテレビとか、芸能事務所とか、レコード会社とか大人の遊びやビジネスを企んだ人たちがうごめいていた芸事の街。遊びの悪巧みができそうな街という感じがすごくする。

 

アザケイ:あるかもしれないです。すごいな。丸ノ内線ってそう考えると。カルチャーのラインがうっすらあるんですよね。いちばん西に行けば新宿があって、東へ行けば赤坂がある。そこで作ってきたんでしょうね。いろいろなエンタメを。

▲お店で対談する前に、赤坂の街を見ながら語ってもらった。

―赤坂には素敵なお店が多いですよね。お二人は、どういうお店が好みなのでしょうか?

 

アザケイ:物語がある店が好きです。まさに、このお店は物語に溢れていますよね。先ほど店主さんがフルーツサンドを出してくれた時に「このフルーツサンドは4つの果物が入っている。目指しているのは、いろいろなフルーツが掛け合わさってひとつの味になっている関西のフルーツジュース。それを再現するために組み合わせを試した結果、この4種類に行きついた」と言っていたじゃないですか。これがまさに物語。

 

料理をつくる人やお酒を出す人が、なぜこれをつくったのか、あるいはつくるに至ったのか、そしてなぜ今それを出してくれたのか。その哲学も一緒に味わえるのが良いお店だと思います。

 

嶋: 僕もそう思った。ここのお店のマスターが「BGM的にメニューの説明をさせてもらいますね・・・」ってさり気なく僕たちの会話に入ってきて、なぜこのお店でフルーツにこだわるカクテルを作っている理由を教えてくれたでしょ。お店の物語を自然に説明してくれるのはいいよね。
僕はカウンターのあるお店がすきなんだけど、それはお店の人からいろんな話を聞けるから。お酒を飲んで、ご飯を食べながら、「情報」も食べている。そんな感覚です。お店は結局「人」ですよね。

 

アザケイ:たとえば、居酒屋で最初に出てくるものが瓶ビールだと「まぁ普通だよな」とつい思ってしまいますが、「なぜ生ビールではなく瓶ビールなのか」「なぜそのメーカーの瓶ビールをおすすめするのか」という理由を大将から説明されたりするとただ漫然と瓶ビールを飲むよりもずっとおいしく感じるし、僕はすごく嬉しくなる。嶋さんの言う通り、大事なのは人であり、そこに哲学があるかどうか。

 

思い返してみると、そういう〝良いお店〟ってマンションの1階に多い気がします。僕がよく行くバーもそうですしフレンチもそう。麻布台の回のときにイナダさんとも話したのですが分かりやすい繁華街ではない場所をわざわざ選ぶなど、拘りの強い店主がやっているせいか、マンションの1階には哲学があるお店が多いので、必然的に足を運びたくなるんですよ。だからマンションの1階に良い店があると、それは良い街だと思います。

 

 

―街といえば、2024年秋に「東京ワールドゲート赤坂」が誕生します。赤坂という街はどう変化していくのでしょうか?

▲2024年8月に第1期の竣工を迎える「東京ワールドゲート赤坂」。赤坂トラストタワーを中心とした大規模複合開発プロジェクト。オフィス、ホテル、サービスアパートメント、店舗、歴史文化発信施設などが入る。

アザケイ:新しく建物ができることで変化するというよりは、そこに訪れる人によって変化するんじゃないかと思います。

 

もともと赤坂は、江戸幕府の中枢である江戸城にも近く、徳川家の中でも身分の高い人が住むお屋敷街だった。日枝神社や赤坂不動尊など、有力な神社や寺も多い。明治中期には赤坂付近は旧日本陸軍の街となり、戦後は米軍やアメリカ大使館関係施設も多く置かれた永田町や霞が関をはじめとする政府の中枢を今日に至るまで担い続けてきた街にも近いし、戦後まもなく日本有数の繁華街となった六本木にも近い。

 

そういう、「日本の中心」と呼ぶべきものの移り変わりに取り囲まれながら、今の赤坂が形成されました。想像するに、きっと赤坂で遊んできた人たちの属性というのは、その移り変わりに伴って変わり続けてきた一方で、どの時代においても赤坂で遊ぶ大人は、常に「粋」であり続けてきたんじゃないでしょうか。そういう意味では、お店だけじゃなく街も、結局は「人」なんじゃないかと。だから今後も、訪れる人によって赤坂という街は変わってゆくのだと思います。

 

嶋:個人的には赤坂の街には粋なビジネスパーソンが増えてほしいですよね。先程、アザケイさんが言ったように、昼はバリバリ仕事をこなして、夜はスマートに遊べる人。山口さんや開高さんのエッセイで描かれたようなカッコいいお酒の飲み方ができる人が増えてほしい。

 

アザケイ:街に新しい色をつけてくれる会社に来てほしいですよね。今日の赤坂を赤坂たらしめているのは、やっぱり赤坂サカスとBizタワー。つまりTBSさんと博報堂さんだと思う。この2つの会社にまつわる人々がいなければ、今の街の雰囲気にはなっていないなと。それくらい「業界人」のパワーは大きいし、それに匹敵するようなパワーを持つ人たちが新しく赤坂に来てくれると面白いですよね。

 

いずれにしろ、新しい人が入ってきたとしても、赤坂らしさはずっと残ってほしいなとも思っています。昔ながらの「憧れる大人の街」というか。やはり少しだけ敷居が高いけれども、じつは親しみの持てる街。僕はそんな雰囲気が好きなんです。

 

嶋:赤坂はいま新たな文化も生み出しつつあるよ。赤坂サカスにはハリー・ポッターの劇場やショップができたりしてね。魔法学校のコスプレをした人もよく見かけるよ。

 

アザケイ:クラシックは尊重しつつも、新しいものを受け入れる度量もあるのかもしれませんね。ホグワーツ魔法魔術学校という点においては、ある意味でこれもクラシックですけど(笑)。

 

 

 

こちらがその3枚。左上の1枚目は「勝海舟・坂本龍馬師弟像」。街の歴史を調べるのが趣味だというアザケイさん。「赤坂は江戸城が近く、主要な藩が拠点にしていた街。今も永田町が近く、日本の中心といっても過言ではない。そんな歴史が深い街だからこそ、この像を撮ってみました」とのこと。

 

右側の2枚目は「津つ井」。「赤坂は、洋食店の津つ井さんのような老舗があると思えば、そのすぐ隣に氷川神社や赤坂御所に代表される濃密な緑があったり、米軍関係施設があったりします。ここも、右手に見えるのはアメリカ大使館宿舎。こんなコントラストというか、街の構成も赤坂っぽいと思って撮りました」。

 

左下の3枚目は「鹿島赤坂別館」。「赤坂周辺には鹿島建設のビルがいくつかありますが、いずれも外装の白いグリッドが美しい。旧本社ビルもこのグリッドが特徴的な建物だったそうで、街に根差した美しいデザインコードが継承されているのが素敵だなと思って撮りました。特に、鹿島赤坂別館は転坂沿いに続く松の並木道との対比がすごく美しい」。

 

 

(1)オーセンティック

アザケイ:オーセンティックというハンバーガー屋さんが好きですね。ここのお店はメニューが少し変わっていて、たとえば、パティとパンの間にブロッコリーがまるまる入っているバーガーが有名ですが、個人的な推しはハンバーガーのバンズを使用したサンドイッチ。その名も「バンズウィッチ」。「ハンバーガーとは何か?」を考えさせてくれるまさにオンリーワンなお店です。

 

(2)ボロンテール

嶋:ジャズ喫茶のボロンテールに行ってほしい。僕はこの店のカウンターが気に入っていて、ここで原稿を書いていることが多いです。このお店は、伝説のジャズ喫茶「ベイシー」の菅原さん推薦のスピーカーを選んでいるから、音も良い。昼からビールとワインも飲めるので、お酒好きにもおすすめですね。あとは、プリーツレタスがたっぷり入ったパストラミビーフサンドイッチ(コーヒーor紅茶付1600円、ビールorワイン付1700円)も絶品なので食べてほしい。
※店舗公式サイトの情報は変更になっている可能性があります。詳しくはお店にお問い合わせください。

 

(3)Bizタワー2階のカフェ

アザケイ:平日に有給を取った日は、Bizタワー2階のカフェにもよく行きますね。オフィスロビーが一望できるので、そこを行き交う人たちを眺めるのが好きです。オフィスロビーにカフェが併設されたビルは多いですが、ここのカフェは「特等席」感があるくらい、これから商談に向かう人たちの緊張した面持ちとか、連れ立ってランチに向かう人たちの楽しげな表情なんかがよく見える。この人たちはどんな人で、何を考え、何を話して、これからどこに行くんだろう……と思いを馳せる。もしかすると、ここのカフェでのそんな時間が僕の文芸活動に活きているのかもしれません(笑)。

 

(4)チョンギワ本館

嶋:チョンギワ本館という韓国料理店も良いですね。ぜひ行ってほしい。特にここの冷麺は絶品なんですよ。お酢とマスタードが付いてくるので4種類の味が楽しめます。まずはそのまま食べて、次にお酢だけをかけて食べる。その次はマスタードだけをかけて、最後にお酢とマスタードの両方をかけて楽しむ。掛け合わせでいくつもの味を楽しめるのが良いですね。

 

(5)とらや

アザケイ:最近、自分のために「とらや」で羊羹を買うことにハマっています。手土産なんかで人にあげることが多いですが、自分のために小形羊羹を買って、自分で食べる。このあいだ、ちょうど仲良しのバーにいるときに羊羹を持っていたので、もちろん店主さんの許可を取って、周りのお客さんにもおすそ分けしたりして、お酒のグラスを右手に持ちながら、左手で羊羹をつついたのが楽しかったなぁ。特に国産のウイスキーと合わせるのが好きです。飲み会終わりに家でお茶を淹れて飲むのも好きなんですが、そのときに〆の甘味として一人で羊羹を齧ることもありますが(笑)。

 

取材・文:中村昌弘 撮影:三村健二

 

WRITER

中村 昌弘
ライター。「なかむら編集室」代表。住まい・暮らし系のメディアでの取材記事、ビジネス系の書籍の執筆などを手掛けている。 X:@freelance_naka