「24時間換気システム」の正しい使い方を専門家に聞いてきた。

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日頃何気なく使っている「24時間換気システム」。その効果や仕組み、正しい使い方について東京理科大学副学長の倉渕隆教授に伺いました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:高橋絵里奈

――そもそも、マンションやその他の住宅に「24時間換気システム」の設置が義務付けられているのはなぜでしょうか?

 

倉渕教授(以下、敬称略):建築基準法では換気にまつわる技術基準が定められています。その基準は法律がつくられた1950年以降、住宅やライフスタイル、それに伴う社会環境の変化などに合わせて複数回の改正が行われてきました。24時間換気システムと呼ばれる、機械を利用した「常時換気」をすべての住宅に導入することが義務化されたのは2003年の法改正以降です。

▲倉渕隆(くらぶち・たかし)。東京理科大学副学長/東京理科大学工学部教授/空気調和・衛生工学会会長。研究分野は、建築空気環境、換気設備、室内気流のコンピュータシミュレーション。
https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?19B4/

 

――建築基準法における換気のルール(技術基準)は、これまでどのように変わってきたのでしょうか?

 

倉渕:1950年に建築基準法が制定された当時は居室、つまり「人が常時いると想定される部屋」の換気が義務付けられていました。具体的には、その部屋の床面積の20分の1以上の開口を設けること、つまり窓を付ければOKというルールになっていたんです。ですから、当時の住宅には機械式の換気扇を付ける必要はありませんでした。

 

――今では当たり前になったキッチンや浴室などの換気扇もなかったと。

 

倉渕:そうです。キッチンなどに換気設備を設置することが義務化されたのは1970年。この年から新たに、火気使用室の換気基準が設けられました。背景には、高度経済成長に伴う住宅環境の変化があります。1960年代に「団地」というこれまでにない住宅が脚光を浴び、多くの人が居住するようになりました。ところが、コンクリート製で気密性の高い団地に「炊事や暖房などのために火を燃やす」という従来のライフスタイルを持ち込んだために、一酸化炭素中毒の事故が多発してしまったんです。

 

それまでの戸建て住宅は気密性が低く、いわゆる隙間風が吹くような家が多かったため、室内で火を使う際に換気を意識しなくても事故が起きることは稀でした。しかし、気密性の高い集合住宅では十分に換気を行わないといけなかったわけです。そこで、建築基準法の法改正がなされ、台所など火を使用する部屋には原則として機械式の換気設備を付けるか、窓を設置しなくてはいけないというルールが追加されました。

 

 

――そして2003年に3度目の法改正があり、24時間換気システムの導入が追加されたということですが、この背景を教えてください。

 

倉渕:きっかけは、1990年代後半から2000年頃にかけて巻き起こったシックハウス問題です。当時の建材や家具の材料には多くの化学物質が使われていました。また、住宅も冷暖房効率を高めるための高気密化が進んだ結果、空気の入れ替えが進まなくなり、室内の化学物質濃度が薄まらずに体調不良を訴える人が多発したんです。

 

この、いわゆるシックハウス症候群は日本を含む東アジアで大きな社会問題となり、国土交通省は主に3つの対策を打ち出しました。

 

・換気設備の導入
・建材の使用面積制限
・小屋裏等に対する、建材の使用に関する規制

 

この「換気設備の導入」というのが、いわゆる24時間換気システムです。具体的には、住宅の居室には1時間に0.5回以上の換気回数を確保できる機械換気設備の導入が義務付けられるようになりました。

 

――ちなみに、東アジア以外の国々、たとえば欧米などではシックハウス問題は起こらなかったのでしょうか?

 

倉渕:欧米ではハウスではなくビルで同様の問題が起こっていました。つまり、「シックビル問題」です。1973年と1979年のオイルショックで燃料価格が高騰した際、欧米ではビルのランニングコストを下げようとさまざまな省エネ対策がとられました。そのひとつが、ビル内の冷暖房効率を上げるために、換気を絞るというものです。もともと、室内における適切な換気量は一人あたり毎時30㎥(立方メートル)といわれていましたが、その基準を大きく見直し、最終的には毎時9㎥(立方メートル)まで絞ることをアメリカの学会(ASHRAE アメリカ暖房冷凍空調学会)が推奨したんです。その結果、ビル内での健康被害が相次いでしまいました。

 

――健康を守るために、いかに換気が重要かということが分かります。

 

倉渕:日本ではシックハウス問題を受けて、F☆☆☆☆と呼ばれる低ホルムアルデヒドの建材が一気に普及しました(注1)。それなら、もう常時換気は必要ないんじゃないかという人もいますが、換気量を減らせば欧米のシックビル問題の二の舞になってしまう可能性もあります。確かに、化学物質のことだけを考えるなら、建材によるシックハウス症候群の心配はなくなりつつあるのかもしれません。しかし、これまでの建物と健康被害の経緯を鑑みると、健やかな生活を送るためにはやはり一人あたり毎時30㎥(立方メートル)の換気を常に行う必要があると考えられます。特に近年は、感染症予防の観点からも、窓開けなども含め、換気の重要性は高まっていますから(注2)。

 

注1:国土交通省「シックハウス対策について知っておこう。」

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/sickhouse.files/sickhouse_1.pdf


注2:厚生労働省「『換気の悪い密閉空間』を改善するための換気の方法」

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf

 

 

――24時間換気システムの仕組みを教えてください。

 

倉渕:最も多いのは、居室から外の空気を給気し、浴室などの水回りから排気するパターンです。また、給気は給気口を開けることで行い、排気は排気扇、つまり機械を利用する方式(第3種換気方式)が一般的ですね。他にも給気のみ機械を利用する方式(第2種換気方式)や給気・排気ともに機械を利用する方式(第1種換気方式)がありますが、第2種換気が採用されているケースは稀です。第1種換気は、一部の高級マンションなどで採用されていることもあります。なお、どの方式も約1時間に室内の半分ほどの空気を入れ替えるようになっています。

――主流である「第3種換気方式(居室の給気口から外気を取り込み、水回りの排気扇から出す方式)」のメリットは何でしょうか?

 

倉渕:浴室などから排気することで、水回りに充満しやすい水蒸気やにおいも排出できます。また、水回りの換気扇を24時間換気とすることで、カビの発生を抑制する効果も期待できるでしょう。第3種換気方式のメリットとしては、第1種換気に比べてイニシャルコストや消費電力を抑えられること、メンテナンスが簡単であることが挙げられます。

 

一方で、デメリットとして考えられるのは、給気口から外気が入ることで冬は室内が寒くなり、夏は逆に暑くなってしまう可能性があります。そのため、特に冬は給気口を閉じっぱなしにしてしまうケースも多いようです。

 

給気口を閉じたままでは空気の循環ができませんので、給気口ではなく室内の冷暖房方式を工夫するなど、何らかの対策は必要かと思います。

 

なお、第1種換気方式は熱交換器を設置することで、室内の空気を循環させつつ温度を一定に保つことができます。排気扇から出した空気の熱を回収し、給気側の空気に移すという仕組みですね。給気・排気の両方を機械で行うため第3種に比べてコストはかかりますが、部屋毎の寒暖差が少なくなりヒートショックのリスクも低下します。

 

――ただ、そもそも24時間換気システムを正しく使えていない人も多いように思います。改めて、正しい使い方を教えてください。

 

倉渕:まず、給気口は基本的に全開にしてください。よく花粉症の方が「あそこから花粉が入ってくるのではないか」と気にされるのですが、その心配はほとんどありません。住宅内に花粉が入り込むのは、外出時にコートなどに付着したものを持ち込んでいるケースがほとんど。給気口を閉じるのではなく、家に入る前にコートの花粉をはらうようにしましょう。

――排気側の換気扇のスイッチも、常にオンにしておいたほうがいいのでしょうか?

 

倉渕:原則として家の中に人がいる時は、換気扇をずっと稼働しておく状態が望ましいです。問題は外出時ですよね。「24時間換気システム」と聞くと、人がいない時でも常にオンにしておかなければいけない印象を受けますが、家に誰もいない時間帯は止めてしまって問題ありません。ただし、買い物などでちょっと外出する程度でしたら、つけっぱなしで構わないと思います。最近の換気扇のファンには少ない電力で稼働するモーターが使われていて、常時稼働でもそこまで電気代はかかりませんので。

 

――メンテナンスに関してはどうでしょうか? 給気側と排気側、それぞれどれくらいの頻度で、どんなメンテナンスが必要ですか?

 

倉渕:少なくとも半年に1度程度は手入れをするのが望ましいです。主流である第3種換気方式の場合、まずは給気口のフィルターを綺麗な状態に保つことが重要です。取り外して水洗いもできますし、状態によっては交換も検討してください。フィルターが目詰まりしてしまうと、うまく空気の循環ができなくなってしまいますので。また、第1種換気方式の場合は、排気扇のエアフィルターが目詰まりすることが多いです。目詰まりすると、音がするだけで換気ができていない状態になってしまいますので、こちらも定期的なメンテナンスが必要です。

 

 

――24時間換気システムをずっと稼働していれば、窓を開けたりキッチンの換気扇を回したりする必要はないのでしょうか?

 

倉渕:いえ、24時間換気システムを稼働させつつ、必要に応じて窓開けなどの換気を併用するといいでしょう。

換気には、大きく2つの目的があります。ひとつは「体感の改善」。たとえば、夏の暑い時間帯に窓を開けて家の中に風を通すことで冷涼感を得る目的です。24時間換気システムでは通風によって涼しさを感じることまではできませんので、やはり窓を開ける必要があるでしょう。ちなみに、風通しをよくするためには風の「入口」と「出口」、2ヶ所の窓を開ける必要があります。

 

もうひとつは、調理などによって集中的に空気が汚染された場合に行う換気です。これも毎時0.5回の24時間換気システムでは追いつきませんので、レンジフードなどの換気扇を使います。一般的に、レンジフードは24時間換気システムの3〜4倍ほどの風量がありますので、調理をする際や何らかの理由で空気が汚染されている時は必ず運転し、場合によっては窓開けも併用してください。

――体感や部屋の空気の状態に応じて、さまざまな換気を使い分けることが望ましいと。

 

倉渕:そうですね。普段は24時間換気システムで一人あたり毎時30㎥(立方メートル)の換気を確保しつつ、たとえばホームパーティーなどで室内に人が増えたりした場合は、いつも以上に換気を意識するといいでしょう。そうやって上手に換気ができるようになれば、より健康で快適な生活が送れるはずです。

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.「空気が汚れている状態」を示す基準はある?
A.建築基準法では室内の二酸化炭素濃度を1000ppm以下に抑えるよう定められており、これを超えると、いわゆる「空気が汚れている状態」といえます。基準以下に抑えるためには、やはり一人あたり毎時30㎥(立方メートル)の換気が必要となります。