幸福度No.1の街「埼玉県比企郡鳩山町」
2023年10月02日 / 『CRI』2023年10月号掲載
目次
埼玉県比企郡鳩山町は、埼玉県のほぼ真ん中に位置する人口1万3,118人(2023年4月1日現在)の東京からは50km圏ほどにある
自然豊かなのどかな町で、JAXAの地球観測センターがある町として知られてはいるが、大きな観光資源も駅もない小さな町(*1)。
そんな鳩山町が民間調査「街の幸福度ランキング」(*2)で2021年・2022年と2年連続全国・首都圏一位になるなど、住民満足度の
高い町として注目されている。
今回は、そんな幸福度NO.1「鳩山町」の魅力について紐解いて行きたい。
*1 町内には鉄道駅はなく、高速道路や国道もない。
最寄り駅は東武東上線「高坂」駅もしくは「坂戸」駅から路線バス利用となる。
*2 いい部屋ネット「街の幸福度ランキング2022」大東建託株式会社調べ
埼玉県のほぼ中央に位置する鳩山町。ニュータウンの衰退とともに人口減少と高齢化が進行
埼玉県の中央に位置する鳩山町の人口は、1960年には5,000人程度だったが、1974年の鳩山ニュータウン(*3)の入居開始によって
人口が急増。1995年のピーク時には1万8,000人を超えるまで増加したものの、現在は約28%減の1万3,000人ほどに減少。
また高齢化も進行し、65歳以上は約半数の約47%で埼玉県一、高齢化が進行した町でもある。
鳩山町は東京のベッドタウンとして大規模開発された鳩山ニュータウン地区には鳩山町の人口の約52%が居住し、現在も鳩山町
の中核としての役割を担っている。その鳩山ニュータウンも開発から40年以上が経過し、高齢化率も55.5%となっている。
*3 「鳩山ニュータウン」は民間事業者により開発された1974年から1997年にかけて3時代にわたる段階的な開発にて分譲された
人口7,263人世帯数3,252世帯(2017年8月現在)の街である。最終期、松韻地区は高級住宅として販売された。
超高齢化のまちから生涯活躍のまちへの取り組み
鳩山町は交通アクセスの不便さや都心までの距離がある中で、人口減少や高齢化の進行による空き家問題などが生じつつあった。
①少子高齢化による人口減少②交通が不便③町内に就労の場が少ない④空き家が増加⑤地域のコミュニティが希薄などの複合的な
課題を有していたが、最寄り駅である東武東上線「高坂」駅周辺の開発を機に新たな需要が期待された。国土交通省の都市再構築戦略事業を活用し、2016年および2017年の地域再生計画認定により地方創生加速化交付金・推進交付金・拠点整備交付金を受け、
「超高齢化のまちから生涯活躍のまちへ」をコンセプトに官民・住民一体となった維持活性化事業を推進することとなった。
「地域活性化」・「地域福祉の拠点」としての機能を担う鳩山町コミュニティ・マルシェ
いくつかの課題がある中、最も注目されるのは、「地域コミュニティの活性化」であろう。鳩山ニュータウンの中心にあたる
「西友」ストアに隣接し「鳩山町コミュニティ・マルシェ」がある。これは鳩山町への「起業支援」「移住推進」「多世代交流による
地域の課題解決」を目的とした公共施設で、鳩山町住民だけでなく近隣居住者も買い物やカフェ、仕事・勉強の場として集う。
「コミュニティ・マルシェ」には「まちおこしカフェ」「ニュータウンふくしプラザ」「移住推進センター」「シェア・オフィス」
「マルシェ研修室」といった5つのスペースがある。
中央にはマルシェの顔となる「まちおこしカフェ」があり、ここでは比企地域近隣の作家のクラフト作品、地場産の野菜、お弁当、
スイーツなど、自身の作品をカフェに出品(委託販売)する事ができる。また、1DAYシェフとして周辺飲食店業者が調理室を
レンタルし、日替わりランチを提供する事で店舗開業準備や自店舗のPRを行っている。
また行政と居住者が一体となって運営している「ニュータウンふくしプラザ」は鳩山町が町社会福祉協議会に運営を委託し、
周辺住民がボランティアとして、ここに立ち寄る人に声をかけ、相談や地域内での困り事を聞くなど、話相手となる事で緩やかな
見守りを実施している。ボランティアの登録は現在90名弱で殆どが鳩山町在住者で、自身の都合に合わせ活動している。
こうした関係人口の拡大を積極的に推進する事により、鳩山町は人口減少の中でも地域の活性化を図っている。
「移住推進センター」では空き家バンクシステムを活用した各種情報の収集および提供、移住に関する相談・支援に関する事を
推進している。
鳩山町が幸福度NO.1に選ばれた主となる理由は、誰もが自身の役割を持ち全員が社会参加できるサポート体制が整っている事で
あり、その取り組みは多岐にわたる。
鳩山町への移住・定住への足掛かり「はとやまハウス」
2022年に実施した鳩山町空き家実態調査では、町全体で340件の空き家があり、うち鳩山ニュータウンの空き家は139件
確認された。
そこで鳩山ニュータウンの空き家を鳩山町への移住・定住の足掛かりとして、2019年3月に近隣大学などに通う留学生を含んだ
国際学生向けシェアハウスとして「はとやまハウス」の運営を開始。
入居条件として「鳩山の近隣大学または大学院などに在籍中(あるいは在籍予定)の学生である事」、「近隣や地域住民の方との
コミュニケーションや交流を積極的に行える方」、「鳩山での暮らしや地域での活動の様子を積極的にSNSなどで発信できる方」、
「ゴミ出しや共用部の掃除などの「ハウスルール」に基づき協調性をもって行える方」などの条件はあるものの、格安の賃料で
入居する事ができる。
郊外での暮らしやまちづくり活動を通じた地域住民との交流を経験してもらうよう、これまで大東文化大学、東洋大学、
東京藝術大学などの学生がここで生活し、公共施設の管理運営などの場面でそれぞれのスキルを活かして活躍しており、
卒業後もそのまま鳩山町に定住する人も現れるなど、新たな活力をもたらしている。また「はとやまハウス」はグッドザイン賞
2019年度の「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれるなど、空き家対策の役割だけでなく、鳩山町のイメージアップにも一役
買っている。増加の一途を辿る空き家の再利用のモデルケースの一つとして今後の運営を見守っていきたい。
おわりに
鳩山町が幸福度No.1であるのは、町の課題を官民・住民が共通の課題として認識し、その課題解決の施策をそれぞれの立ち位置で
具体的に立案し行動した事に他ならない。鳩山版エリアマネジメントは小さな単位の町だからこそ成功したという見方もできるが、
高経年化するニュータウンの“コンパクトシティ化”の先駆けとしてもとらえられるのではないだろうか。
2018年6月時点の国土交通省調べでは全国のニュータウンは2,002件、計画戸数(*4)約314万戸、計画人口(*5)約1,600万人で
あり、うち、築30年以上のものが約194万戸約936万人にも上る。
全国各地に点在する人口減少や高齢化の進行に悩む高経年のニュータウンにおいて、鳩山町のまちづくりは、一つの好事例として
参考にすべき点も多いが、さらなる高齢化が進行した際の運営・維持管理、交通インフラについては、今後も課題として取り組みが
必要であろう。
最後に「鳩山町の取り組みについてどのようにお感じですか」という筆者の問いかけに対して答えてくれた「ニュータウンふくし
プラザ」でボランティアをされている女性のコメントを紹介したい。
「私は鳩山ニュータウンに住んでおり、数年前にボランティアに登録しました。初めは、何か人のためになる事がしたいと思って
始めたボランティアですが、今は自分のためだと思っています。ここへ来れば、友人もできるし、しばらく疎遠だった人に偶然
再会する事もできる。また、未就学児童所で面倒をみていた子供たちが大きくなり、このサロンに来てくれるようになると、親戚の
子供の成長を見守るような気持ちにもなる。自分のためにも誰かのためにもこの仕事に関われて良かったです」。
2017年からスタートした活動は今年で6年目を迎えるが、今後も地域住民に引き継がれ、健康で幸福な日常を享受できる町で
ある事を見守って行きたい。
(Suzuki)
*4・5 計画戸数・計画人口については計画段階のものであるため実際と異なる場合あり。








