免震構造マンションのメリット・デメリット|耐震構造と制震構造の違いも紹介

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震度5弱以上の大きな地震が各地で発生し、地震大国ともいわれる日本。それだけに、地震に対する備えに関心を持つ方は多いでしょう。 地震から身を守るためには、住まいの地震対策が重要です。建物の地震対策には大きく分けて「耐震」「制震」「免震」の3つの工法があり、それぞれ仕組みや効果が異なります。なかでも、近年注目されているのが「免震構造」です。 本記事では、免震構造の仕組みとメリット・デメリット、耐震構造や制震構造との違いについて解説します。

 

免震構造とは、建物と地盤の間に免震装置を設置して、地震の揺れを逃がす手法のことを指します。地面と建物の基礎部分が離れているため、地震が起きても揺れが建物に伝わりにくいのが特徴です。

 

免震装置には、おもにアイソレータやダンパーが用いられ、それぞれ以下のような役割・種類があります。

  役割 種類
アイソレータ 建物を支えて、地震の際に揺れが伝わらないよう、建物を水平方向にゆっくりと移動させる 積層ゴム支承(ししょう)
すべり支承
転がり支承 など
ダンパー アイソレータで逃がした揺れを吸収して抑える オイルダンパー
鋼材ダンパー
鉛ダンパー など

この2つの免震装置によって、強い揺れの地震が起きてもゆっくりとした揺れにして軽減でき、建物や家具の損壊を防げるという仕組みです。

 

 

 

免震構造では、建物の損壊を防ぐことだけではなく、揺れを軽減することで以下のようなメリットを得られます。

 

 

 

一般的に、震度5弱では棚の食器や本が落下したり、固定していない家具が動いたりするなどの被害が起こるとされています。震度5強になると、物につかまらなくては歩きにくいと感じるほどの強い揺れとなるでしょう。

 

しかし、免震構造であれば、震度5辺りでようやく全員が実感できる程度の揺れに抑えられます。免震構造を採用しているマンションは、上層の階であっても下の階と同じ程度しか揺れません。耐震構造や制震構造のマンションは上階ほど揺れが大きくなるため、免震構造はよりマンションに適した建築手法といえるでしょう。

 

建物だけではなく、部屋の揺れも防げるのは大きなメリットです。家具が倒壊しにくいため、下敷きになるリスクを軽減でき、ガラスが割れてケガをしたりするなどの心配も少なくなります。

 

 

 

免震装置は、おもに地盤と建物の間の基礎部分にあるため、耐震性をアップさせるための太い梁や柱を設ける必要がありません。

 

室内の梁や柱が少なく、大きな窓をつけることもできるので、開放的な広い空間を確保できます。空間設計の自由度の高さも、免震構造の魅力といえるでしょう。

 

 

免震構造は地震の被害を大きく減らせますが、デメリットもあります。

 

 

 

免震構造は横揺れに対しては最大限の効果を発揮するものの、縦揺れには弱い性質があります。

 

前述した免震装置のアイソレータは、水平方向の揺れを吸収する装置のため、垂直方向には対応できません。とはいえ、縦揺れを軽減できなくても、家具等が倒壊するなどの被害は横揺れの場合と比べて少ないでしょう。

 

ただし、直下型地震では強い縦揺れによる被害が懸念されます。そのため近年では、縦揺れにも対応できる免震構造の開発も進んでいます。

 

現在開発されている「三次元免震」は、積層ゴムによる免震と、空気のクッション性を利用した「空気ばね」を組み合わせた免震システムです。これにより、縦揺れと横揺れの両方を抑えられます。

 

現在は比較的小さめの建物で採用されていますが、今後、高層マンションに応用するための課題への取り組みが期待されています。

 

 

 

免震構造は、耐震構造・制震構造と比べるとコストが割高です。特に免震構造が効果的とされる中低層建物で導入する場合には、建設コストがより高額になりやすいデメリットがあります。

 

また、定期的に免震装置のメンテナンスが必要になるため、ランニングコストもかかります。一般的には5年後、10年後、以降は10年ごとに維持管理・点検を行なうことが、社団法人日本免震構造協会より推奨されています。
災害があったときは応急点検を行なうため、その都度コストがかさむことも考えておいた方が良いでしょう。

 

 

 

免震装置は建物の基礎に設置するため、新築でなければ導入が難しいシステムです。既存建物に設置する場合、建物を移動させる、地面を掘り下げるなどの大がかりな工事が必要になるため、当然ながら費用も高くなります。マンションでは規模も大きく、現実的ではありません。

 

一方、耐震構造・制震構造は既存建物の改修工事に対応可能です。柱と柱の間を補強する「筋交い」で耐震性をアップさせたり、揺れを吸収して小さく抑える「制震ダンパー」を設置したりして、地震に備えることができます。

 

 

 

免震構造は、地震対策のなかでも新しい工法です。免震装置に使用されるゴムの耐用年数は一般的に60年以上といわれているものの、まだ歴史が浅く、耐久性について十分な実証ができていません。

 

しかし、すでに新しく建てられた役所や病院などでは、積極的に免震構造が取り入れられており、長く住める住宅が求められるため、新築マンションでも免震構造を組み込んだ物件もあります。
ただし、先述のとおりコストの面や既存のマンションへの対応は難しいことから、採用できる物件は限定的です。

 

 

 

ここからは、耐震構造・制震構造の仕組みと、免震構造との違いを解説します。

 

 

 

耐震構造とは、地震などの揺れに耐えるよう設計された構造のことです。建物は上下の揺れに強いため、縦揺れで損壊することはまれですが、左右に揺れる地震には弱いという特徴があります。

 

そこで耐震構造では、柱や梁などの構造を頑丈にして建物自体を補強し、地震の揺れに耐えられるようにしているのです。具体的には、柱と柱の筋交いや耐力壁の増強、柱と梁の接続部分の強化などを行ないます。

 

免震構造と異なる点は、特別な装置が必要ないためコストが安く、取り入れやすいことです。

 

ただし、耐震構造は建物が頑丈な反面、地震の揺れが直接伝わるため、高層階ほど揺れが大きいというデメリットもあります。

 

 

 

制震構造とは、耐震構造に制震装置を組み込むことで、建物の揺れを吸収する手法です。制震装置の種類には、柱や壁に設置するダンパー、上層階に設置する重りなどがあります。これらの制震装置が揺れを吸収し、建物がしなることで建物自体の揺れを軽減させるのが特徴です。

 

上層階の揺れを防げるため、おもに高層ビルやマンションに用いられていましたが、近年では低層マンションや戸建て住宅にも採用されつつあります。

 

免震構造では建物の基礎部分に免震装置を設置しますが、制震構造では制震装置を建物の骨組みに設置する点が異なります。

 

免震構造よりもコストが安い反面、地盤の影響を受けやすく、軟弱な地盤では揺れを抑える効果を得られにくくなる点はデメリットだといえるでしょう。ただし、軟弱な地盤に不向きな点は免震構造も同様です。

 

 

耐震・制震・免震のなかで、最も揺れが伝わりにくいのが免震構造です。建物や家具などの損壊や倒壊を防ぐので、いつ起こるかわからない地震に対して大きな安心感が得られるでしょう。

 

ただし、免震構造にはコストがかかることや後付けができない点など、デメリットもあります。また、耐震構造や制震構造は、免震構造と比べて低予算で済むほか、あとから改修が行なえるなど、それぞれ異なるメリットがあります。

 

これから新築マンションの購入を考えている方や、地震に強い住まいをお探しの方は、希望の物件の耐震・制震・免震構造についても問い合わせてみると良いでしょう。

 

 

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監修者

高槻 翔太

<保有資格>

  • 宅地建物取引士
  • FP技能士2級
  • 日商簿記2級

<プロフィール>

不動産・建設会社で土地有効活用のコンサルティング営業経験(6年)。売買や駐車場の活用、リフォームの提案などに従事。不動産・金融特化のライターとして不動産系メディアでの執筆実績多数。