マンション建て替えとは、分譲マンションのような区分所有建物について、修繕や改修では対応しきれなくなった老朽化や耐震性不足等の問題を改善するために建物を取り壊し更地の状態にして新しいマンションを建設することです。
安全性や快適性が向上し住環境の改善や資産価値の向上につながります。
現在、建て替えられたのは1981年以前の旧耐震マンション※1が殆どです。
建て替えを検討する時期は、一般的には築40年から50年が一つの目安とされています。
管理やメンテナンスの状況によりますが、築40年から50年経過すると、外壁のひび割れや雨漏り、配管からの漏水等の修繕費用が増加し、修繕を重ねるより建て替えた方が長期的な視点では有益な場合があります。
建物そのものの寿命は120〜150年※2とされていますが、築50年を超えると物理的には住めても「住みにくい」と感じることが多く転居者が増え、賃貸や売買も難しくなり空室が目立つようになります。
実際の建て替えのタイミングはマンションの状況や所有者の意向によって異なりますが、適切な時期に建て替え等を含めた再生方法について検討することが重要です。
※1 1981年5月31日以前に建築確認申請が行われた旧耐震基準に基づいて建築された建物で現行の耐震基準を満たしていない可能性がある
※2 平成25年8月 国土交通省発表~期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について~
余剰容積率※を利用する建て替えでは、マンション分譲に精通したデベロッパーの協力が不可欠です。余剰容積率を活用することで、従来の建物よりも大きなマンションを建設することが可能です。デベロッパーは所有者が取得しなかった余った住戸(「保留床」という。)を買い取って一般に分譲します。このデベロッパーが買い取った分を建て替えの事業費に充てることで所有者の負担を軽減できます。
デベロッパーのノウハウと資金を活用し付加価値の高いマンションを建設することで事業の採算性を向上させることができます。
※余剰容積率とは、既存建物で利用している許容容積率の未利用部分(未消化部分)をいいます。
許容容積率とは都市計画で決められている敷地面積に対する延床面積の割合です。例えば、延床面積200㎡、敷地100㎡の容積率は、200÷100×100=200%となります。
既存不適格※1の場合も建て替える際は建て替え時点の建築規定に適合しなくてはなりません。「各住戸の面積」か「住戸の数」を減らして建て替えるか、容積率を増やす方法を考えるしかありません。
容積を増やす方法としては隣地を取り込んで敷地面積を大きくする「隣接マンションとの共同建て替え」や容積率を割増しできる「総合設計制度※2の利用」等があります。
※1 「既存不適格」とは、建築物が建設された当時の法律や規定には適合していたものの、その後の法改正や都市計画の変更(耐震基準や防火規制、用途地域の変更など)により、現在の基準には適合しなくなった状態を指します。
※2 総合設計制度とは、都市計画で定められた制限に対して、建築基準法で特例的に緩和を認める制度で、公開空地の確保等により容積率、絶対高さ制限、斜線制限などが緩和されます。
マンション建て替えの事業費も一戸建てを建て替えるのと同じで基本的には所有者負担です。「建替え参加者」が土地を提供(出資)し、デベロッパー(「参加組合員」という。)と「建替え参加者」で建物の建設費等を負担します。
既存マンションの従前資産評価については、建物は解体して残らないため土地代とする考え方が一般的です。そのため従前資産評価額は「建て替えを想定した更地での評価」として事業費から逆算します。同じマンションでも想定する建物計画(建築費と分譲価格等)によって事業費が違えば、従前資産評価額も違ってきます。
新マンションの床は、権利床(「建替え参加者」が無償で取得できる床をいう。)と保留床(新マンションの権利床以外の床をいう。)に分けられます。保留床は、言わば建て替えの事業費を捻出する床となるため、デベロッパーに売却してその対価を事業費に充当します。「建替え参加者」が先に住戸を選び、残った保留床をデベロッパーが取得します。デベロッパーは、利益や販売経費等を加算して一般分譲します。
「建替え参加者」は、一般分譲価格でなく「権利者価格」で住戸を所得できます。無償で取得できる面積(「権利床面積」という。)に有償で買い増して希望の面積の住戸を取得することができます。無償で取得できる権利床の総面積は、全体事業費から従前評価額の総額を算出し、既存マンションの各住戸の土地の持分割合をもとに各住戸の従前資産評価として割り振られ、新マンションの住戸面積に換算されます。
一般的には権利床面積は従前の住戸面積より小さくなるため従前と同じ面積の住戸を取得したい場合も増床する面積分の費用負担が生じます。(「増床負担金」という。)増床できる面積の制限や増床負担金の算出方法にルールを設ける場合があります。
従前の住戸面積
従前より小さい
面積を取得
増床面積
権利床面積
従前と同等
面積を取得
増床面積
権利床面積
従前より大きい
面積を取得
増床面積
権利床面積
増床負担金を支払い取得
無償で取得
建替え決議後、「建替え参加者」(建替え決議の賛成者・決議後の催告に応じた者をいう。)は「転出」(住戸を取得せず従前資産評価相当の金額を受け取り退去することをいう。)を選択することもできます。
新マンションの住戸を取得しない転出者は、権利床分を転出補償金として受け取り退去します。
上記の他、仮住まいの家賃や2回の引越し代がかかります。建設期間は、解体を含めて少なくとも2~3年ほどはかかります。新マンションの入居時に必要な準備金、不動産取得税等の税金、月々の管理費・修繕積立金についても準備しておく必要があります。
マンション建て替えの事業方式は、大きくは「法定建替え」(組合施行)と「任意建替え」(等価交換)の2つがあり、マンションの状況に応じてメリットとデメリットを比較して選択します。
近年では、「法定建替え」の「組合施行」が主流です。その理由は、法律で組合運営や意思決定のルールが明確なため合意形成や事業実施を円滑に進められ、「権利変換」の手法により事業中も所有権が保持できるなど所有者にとってメリットが多いためです。
事業方式
マンション円滑化法に基づく法定建替え
任意建替え
事業主体
マンション建替組合(法人格)
デベロッパー
事業の
流れ
建替え決議
↓
建替組合設立(デベロッパーは参加組合員となる)
↓
権利変換作成・認可
↓
建替組合が権利を取得(権利変換期日)
↓
新マンションの建設
建替え決議
↓
デベロッパーと個別に等価交換契約を締結
↓
デベロッパーが土地・建物の権利を取得
↓
新マンションの建設
権利移転
方法
所有者は転出か住戸取得かを選択し、建替組合が権利変換計画を作成し行政の認可を得る
所有者全員が土地建物の権利(所有権・借地権)を一旦デベロッパーに売却し再取得を希望する
所有者はデベロッパーから新しいマンションを購入する
メリット
・所有権を保持したまま移行できる
・従前の抵当権を抹消(一部返済)せずに移行できる
・反対/棄権者への対応に売渡請求等の法的な仕組みがある
・手続きに制約が少ないため期間を短縮できる
・建物計画に制限がない(ビルや小規模住戸も可能)
・借地権マンションを所有権マンションに変更できる
デメリット
留意点
・行政の認可が必要なため手続き期間が必要
・住戸面積は原則50㎡以上の制限がある
・建替え後の用途をマンション以外へ変更できない
・借地権マンションを所有権マンションに原則変更できない
・全員とデベロッパーの契約が必要
・反対者が生じた場合、事業が中断する
・以前の抵当権を抹消(一括返済)が必要
・事業者の経営状況の信頼性に留意
建替え決議以降の「法定建替え」(組合施行)の基本的な流れは次のようになります。
組合運営や意思決定のルールが明確化され合意形成や事業実施の円滑化が図れる法的なしくみが整備され、各段階に応じて合意形成を図りながら最終的に「建替え参加者」だけで進めることができます。
再生方法を比較検討し建て替えが望ましいと判断した場合は、建て替えを検討することの合意として「建替え推進決議」(任意の決議です。過半数の賛成で成立とする場合が一般的です。)を決議します。
決議後、計画組織の再編を行い、「建替え決議」に向けて新マンションの保留床の売却を行うデベロッパーを事業協力者として選定し、本格的な計画案の立案を所有者と共に開始します。概ね所有者の合意が得られると判断したら区分所有法による「建替え決議」を行います。
「建替え決議」が成立すると、円滑化法により事業の主体となる「建替組合」を設立します。「建替組合」は、反対や棄権で賛成しなかった所有者に再度の意思確認として「催告」を行った上で、反対・無回答の所有者へ時価で売り渡すよう請求(「売渡し請求」という。)することができます。「売渡し請求」が行われると本人の同意なしに区分所有権と敷地利用権が「建替組合」に移行します。「売渡し請求」を受けた所有者は住戸の明渡し義務が生じます。
その後、「建替組合」は、建て替えには合意したが権利変換を希望しない所有者から転出の申出(住戸を取得せず従前資産評価相当の金銭を受けとって退去することを「転出」という。)を受けた後、「建替え参加者」のみで取得する住戸を決定し「権利変換計画」を作成します。「権利変換計画」が認可されると計画で定めた「権利変換期日」に既存マンションの敷地利用権は消滅し、新マンションの敷地利用権として「建替え参加者」に移行され、「転出者」には「転出補償金」が支払われます。
既存マンションの建物部分の所有権は「建替組合」に移行されるため、全戸明け渡し後、解体工事に着手します。既存マンションの管理組合は残った修繕積立金を「建替え参加者」及び「転出者」に分配・清算し解散となります。
工事期間中、権利変換を受ける「建替え参加者」は工事期間中は仮住まいでの生活になります。工事が完了し新たに管理規約が作成された新マンションが竣工します。
「建替組合」は、工事完了公告後、新マンションの建物登記を行います。「建替え参加者」は増床負担金を支払い住戸の引き渡しを受けると建物の所有権登記が完了します。既存マンションに借入等の抵当権等が残っていた場合は新マンションに移行されます。
「建替組合」は、事業費の清算後、組合解散の認可申請を行います。
長谷工は、グループの総合力を結集し様々な建替えを行っています。
管理組合・マンション建替組合の皆さまと重ねてきた豊富な実績をご紹介します。