廃校を「負の資産から地域の財産」に

〜南総里見八犬伝ゆかりの地「千葉県南房総市」〜

2026年04月28日 / 『CRI』2026年5月号掲載

変わるまち・未来に続くまち

目次

「千葉県南房総市」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。「暖かく風光明媚な千葉県の南の方の自治体」というだけでなく、曲亭馬琴作『南総里見八犬伝』ゆかりの地であることを思い浮かべる方も多いことだろう。南房総市は関東地方および千葉県の最南端の自治体で、市域は森林セラピー基地、海岸部は南房総国定公園に指定されている年間450万人以上の観光客が訪れる観光都市※1。

東京都心部からは100km圏に位置しているが、公共交通、幹線道路の交通インフラの整備が進み鉄道・バス・自家用車の利便性が向上し、東京都心部・神奈川県横浜市・千葉市までの時間距離はそれぞれ70分程度で行き来できるようになった。

南房総市の歴史は浅く、2006年7町村の合併※2により現在の姿となった。

こうして複数の町村が合併してできた南房総市であるが、少子高齢化の問題は深刻であり、南房総市が誕生した2006年時点では、小学校16校、中学校7校があったが、2026年には閉校・合併により小学校4校、中学校3校、義務教育学校2校まで減少した。今回はこうした役割を終えた廃校を観光資源としてリニューアルしたのにとどまらず、地域を持続的に存続させるための関係人口の創出と防災強化を推進した、廃校の利活用について紹介する。

※1 詳細データは記事の最後部をご参照ください。
※2 富山町、和田町、丸山町、三芳村、富浦町、白浜町、千倉町の7町村が2006年3月20日に行政能力の向上、行政の効率化、広域的な行政ニーズへの対応を目指し「南房総市」となった。

伏姫と八房

南房総市の海岸線

データで見る南房総市

現在、南房総市の人口は約3万5,000人であるが、2000年以降、一貫して人口が減少し続け、この20年あまりで1万3,840人、28.7%が減少した。主要因は自然減であり、年々その傾向は強くなっている。2000年には30%だった65歳以上比率が2020年には47%と約半数を占め、今後もさらにこの傾向が強まることが予想される(図表1)(図表2)

そうした中で前述のとおり学校の閉鎖・合併が続き20年間で15校が廃校となった。学校の廃校は南房総市に限らず、全国的に起きており、2004年から2023年までの20年間で約8,850校の公立学校が廃校となっている(そのうち小学校が5,678校と全体の6割以上を占めている)※〈参考〉

※ 詳細データは記事の最後部をご参照ください。

地域の新たな顔として生まれ変わった「シラハマ校舎」(旧長尾幼稚園・小学校)

(1)南房総地域の廃校利活用の事例

千葉県では、人口減少や施設の老朽化に伴って増えている「空き公共施設(廃校、旧幼稚園、元庁舎など)」を、単なる未利用地ではなく「新たなビジネスのフィールド」と捉え、民間事業者の誘致を積極的に進める基本方針を掲げている。特に人口減少の著しい千葉県東・南部においては、市町村合併や人口減少を背景とする廃校が増加傾向だ。空き公共施設への企業などの進出は2025年3月末時点で56ヵ所となった※。このうち、小学校が39ヵ所と約70%を占める。利活用の内容は1.経済活性化を目的とした「産業ビジネス拠点」(サテライトオフィス・コワーキングスペース・配送センターなど)、2.交流人口の拡大を目的とした「観光・レジャー施設」(宿泊施設・キャンプ場など)、3.教育活動を目的とした「教育・文化・スポーツ施設」(専門学校・美術館・ジムなど)、4.生活支援を目的とした「福祉・医療・居住施設」(高齢者福祉施設・保育所など)、5.地域維持を目的とした「コミュニティ・防災拠点」(備蓄倉庫・道の駅など)と多岐にわたる。近年では単一ジャンルではなく複数のジャンルを組み合わせた「ハイブリッド」型の利活用とすることで、運営の安定性と地域への貢献の両方を推進しているケースが増えている。その中の一つである南房総市の「シラハマ校舎」(旧長尾幼稚園・小学校)の事例をみていきたい。

※ 詳細データは記事の最後部をご参照ください。

(2)「シラハマ校舎」(旧長尾幼稚園・小学校)が誕生するまで

南房総市の廃校利活用として最も成功し、注目を集めているのは「シラハマ校舎」(旧長尾幼稚園・小学校)であろう。

長尾幼稚園・小学校は2011年に定員数を大きく下回り、地元で長く愛されながらも隣接の小学校と統合され閉校となった。この時にはまだ活用方法が決まっておらず、数年間にわたり廃校となったままであったが、2014年になると南房総市が廃校の利活用の公募を実施、2015年に合同会社ウッド※が「オフィス・居住・飲食」の複合施設案を提示し採択された。同社は株式会社良品計画と協力し旧長尾幼稚園・小学校の改修作業に着手、2016年に南房総市との間に賃貸借契約を締結し「シラハマ校舎」として再生、宿泊事業・シェアオフィス運営を開始した。2017年には良品計画とのコラボによる「無印良品の小屋」プロジェクトが始動し、校庭に18棟の小屋が設置された。

※合同会社ウッド(WOULD LLC)は2010年にはホテルの旧社員寮をリノベーションし、複合施設「シラハマアパートメント」を立ち上げ、カフェ、ゲストルーム、シェアハウス、イベント運営の事業を開始させるなどの実績があった。

これは「二拠点居住」の先駆けとして大きな注目を浴びることとなる。2022年には避難拠点としての役割を持つ廃校利活用施設「シラハマ校舎」をオープンし、2023年には新たに太陽光パネルおよび蓄電池を増設し、再生可能エネルギーによる運営だけでなく避難拠点・発電所としての役割を担う施設となった。

(3)「シラハマ校舎」の利活用

「シラハマ校舎」は昔から愛されてきた木造校舎を最大限に再利用することで、レトロで親しみやすいリノベーションを施した。事業形態は「居住:宿泊」「ビジネス:賃貸」「飲食:レストラン」の3本柱としている。

❶「居住:宿泊」用途
宿泊は二拠点居住やビジネス利用向けとし、旧小学校のコンピューター室をリノベーションしたゲストルーム2部屋と「無印良品の小屋」と呼ばれる18棟の独立した10㎡のミニマムな小屋(分譲)と合同合宿・小規模なハウスウェディングにも利用できる別館の「眺尾伽藍」(一棟貸し)が設置されている。

❷「ビジネス:賃貸」用途
旧幼稚園の教室をリノベーション(教室を2分割)した9つのコワーキングスペースを設置。

❸「飲食:レストラン」用途
旧幼稚園の遊戯室であったところはバー、シェアキッチン、レストランとなっており、旧小学校の理科室や図工室にあった棚や家具を再利用している。また敷地内で過ごす人のために2つの炊事場を設置している。

シラハマ校舎アプローチ

シラハマ校舎入口

かつての廊下を活かした動線(左がシェアオフィス・奥がレストラン)

廊下

お遊戯場を改修したレストラン(戸棚は理科室の棚を利用)

眺望伽藍(一棟貸しの宿泊施設)

宿泊施設部屋内

宿泊施設部屋内

「MUJI小屋」内観

シラハマ校舎の運営代表インタビュー 〜廃校利活用の課題と今後に向けての抱負〜

─「シラハマ校舎」の利用状況について教えてください。
 「シラハマ校舎」では「シラハママーケット」(クリスマスマーケット)やバイクイベントなどを開催し、2017年以降約5,000人が訪れています。現地に赴いていただくだけでなく「天文ガイドライブ中継」を実施し、多数(2025年の「皆既月食」では約17万人)の方にご視聴いただいています。また多くの自治体・大学・企業からの視察もお迎えしています。

─廃校を利活用するにあたっての難しさ、課題について教えてください。
 やはり費用の問題が大きいと思います。「シラハマ校舎」は平屋の校舎一つだけですが、多くは鉄筋コンクリート造2、3階建の校舎と敷地内にプール・体育館などがあります。耐震補強をして、学校から宿泊施設に用途変更をすると、おそらく費用は10億円以上になりますが、そうなると、自治体も企業もなかなか手を出せないというのが現状だと思います。「シラハマ校舎」の場合は水回りの改修、外壁・屋根の補修、レストラン・宿泊施設の屋内工事、電気工事などで当初、約1億数千万円の見積もりとなりました。そこで千葉銀行と日本政策金融公庫の2行協調融資4,000万円を借入れ、それを水回り設備や電気工事に充てました。その他については1年かけて自主工事をし費用を抑えました。大半の廃校は過疎地域にあるため、進出する企業はそこでの採算が合うのか、自治体も廃校の利活用に積極的であるかどうかを見極めることが必要だと思います。

─「シラハマ校舎」は地域の防災拠点にもなっているとのことですが、詳細を教えてください。
 2019年に南房総市は台風により甚大な被害を受けましたが、市のコミュニティセンターでは全員を受け入れることができませんでした。2017年に「シラハマ校舎」はオープンしましたが、2023年に太陽光パネルを校舎と「無印良品の小屋」の屋根に設置していて、自家電力消費を再生可能エネルギーで賄っているのと災害時は避難場所として稼働させ、「シラハマ校舎」を防災拠点と発電所として組み立てています。公共施設は安全な場所にあるのと、地元の誰もが知っている場所なので、防災拠点として活用しやすいと思います。平時は一般的な施設(宿泊・オフィス・キャンプ場)として活用し、災害時でも平時と変わらない生活ができることがポイントだと思います。

─今後に向けての抱負を教えてください。
 「シラハマ校舎」を一つの拠点(ハブ)として、この周りの空き家を改修してまち自体を一つのホテルにできないか、「点から面」での展開ができないかと考えています。地域に根差し廃校を活用しながら、空き家をいかに改修していくのかが地域の課題解決につながっていくと考えています。空き公共施設を利用することによって、自治体とのつながりが強くなっていくし、官民だけでなく、そこに学も加わり進展していくのが理想的だと思います。以前に韓国からも視察に来られましたが、日本と同じように少子高齢化問題を抱えた国はこれからも増えてくるでしょう。ここでの事例がパッケージ化されて国外でも推進できるのではないかと考えています。

取材協力:合同会社ウッド(WOULD LLC) シラハマ校舎運営 多田朋和(タダトモカズ)様
https://www.awashirahama.com/nagao/index.html

おわりに

全国で相次ぐ廃校や公共施設の利活用は、少子高齢化による過疎化にあえぐ自治体において、関係人口の創出を図るための観光施設、または地域コミュニティの再生の場としての役割を担っている。

地元居住者の認知度が高い「シラハマ校舎」は単なる観光資源に留まらず、地域のセーフティネットとしての役割を担っており、今後も増加する廃校の利活用の方向性を示唆する事例である。

しかし施設単独では持続的な運営という観点で課題もあり、今後は独自の強みに加え周辺地域との連携、社会情勢の変化に応じた用途変更・設備更新を視野に入れた投資が必要であろう。

特に、災害の多い日本において防災機能の強化はより重視されることから、エネルギー再生設備の導入に留まらず、防災備蓄庫として、また災害復旧作業のための重機の保管場所としての機能を付加することで、防災拠点から一歩進んだ防災レジリエンス拠点へと進化していくことも可能だ。

これは地方の課題であるだけでなく、一極集中が続く東京都においても廃校となった学校は、2004年以降300校にのぼり、既に現状維持ができない事態となっている(文部科学省公表2004〜2023年度累計による)。

やがて小学校から中学校に波及するであろう廃校の波を、いかに「負の資産から地域の財産」として利活用していくのか、「シラハマ校舎」の成功を一つの事例としつつ考えていきたい。(鈴木貴子)

詳細データ

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