地図を中心に据えたデータ連携で行政を持続的に回す

〜高松市「地理空間データ基盤」の実装レポート〜

2026年06月30日 / 『CRI』2026年7月号掲載

変わるまち・未来に続くまち

目次

DXやスマートシティの必要性が高まる一方で、現場では「導入したITが、業務の重複や更新負担を本当に減らせているか」を評価しにくい。

人口減少とサービス需要の多様化が同時に進む今、自治体運営には、分野別の最適化だけではなく、分野間連携による効率化、すなわち政策統合※が求められている。しかし、縦割りと紙運用が残る限り、課題もデータも共有されず、施策は積み上がっても横につながりにくい。

香川県の県都・高松市は、コンパクトな都市特性を活かしながら、限られた人員・予算で持続可能な行政運営を目指している。

同市はスマートシティの議論をバックヤード起点で組み替え、DXの初手を「サービス追加」ではなく「更新原価※の削減」に置いた。

さらに、データ連携の中心に地図(位置情報)を据え、台帳を正(マスタ)として更新し、その情報をWebAPI※で共有・活用できる基盤として整備することで、行政運営の効率化と市民サービスの拡張を両立しようとしている。

本稿は、高松市の設計思想と実装・運用の要点を整理し、同様の課題を抱える自治体がDXを検討する際の参照点として共有するものである。

※【政策統合】分野間連携により、複数課題を同時に解く考え方
※【更新原価】台帳や情報を維持更新するための工数・費用
※【WebAPI】Web上でデータを取得/登録・更新するための共通の窓口

写真提供:高松市

取り組みの背景:課題と最初の一手

❶シェアリング(共有)を阻む二つの壁

人口減少と財政制約の中で、自治体が人員や予算を大きく増やすことは難しい。限られた体制で行政を回し続けるには、重複する業務や資源をできるだけ共有(シェアリング)し、「同じ作業を何度もしない」運営へ転換していく必要がある。

しかし現場には、シェアリングを阻む壁が二つある。第一に、縦割りによって課題が共有されにくいこと。第二に、紙・個別ファイル中心の運用によって資源が共有できないことだ。高松市がDXを目的そのものではなく、共有できる状態をつくるための手段として捉え直した背景には、この構造的な課題がある。

❷分野別の積み上げで見えた「次の壁」──データがつながらない

この「共有できない」状況は、分野別の実装を重ねる中で、より具体的なかたちで顕在化した。高松市は2017年度以降、防災(水位センサー等)や観光動態把握など、分野ごとに実証事業を積み上げてきた。

一方で、観光や防災といった領域でデータを蓄積しても、他サービスへ横展開できず、分野間連携につながらないという課題が残った。つまり、複数分野をまたいで活用できるつながりやすいデータや、組織を超えて参照できる共有の土台が不足していたのである。

こうした反省から市は、ソリューション(個別アプリや仕組み)を増やすだけでは、分野横断の改善=政策統合が進まないと判断し、部署をまたいで共有しやすい「共通の土台」を整備することとした。

❸組織横断で進める仕組み──DAPPYとFACT

共通の土台を整備するには、担当課だけで完結しない推進体制が必要になる。高松市はスーパーシティ構想への提案を契機に、庁内公募で若手・中堅職員を集めた「高松市デジタル特命チーム(愛称:高松DAPPY)」を設置した。

DAPPYは、組織や役職、前例にとらわれず横断的に検討し、課題整理から提案、推進プラン策定へつなげる役割を担った。そこから「フリーアドレスシティたかまつ(FACT)」などの取り組みが生まれ、分野横断を実行できる仕組みとして回す動きが始まった。

❹共通の土台となりうるデータ

高松市はDXのハブとなるデータとして「移動情報(人流データ)・決済情報(POSデータ)・位置情報(地図)」に着目した。人流データや決済情報を活用すれば、人の動きや消費行動を把握し、行政サービスの改善や施策立案の精度を高めることが可能となる。

一方で、人流や決済データは民間サービス領域との関係が強く、行政サービスが初手として扱うにはハードルがある。そこで市がまず選んだのが、自治体業務との親和性が高い位置情報(地図)である(図表1)

実装:地図中心のデータ連携基盤をどうつくったか

❶なぜ地図なのか──自治体業務を横断する「共通の土台」

位置情報を共通の土台にする上で課題となったのが、分野ごとに地図が分かれていることだった。道路、防災、都市計画、固定資産税など、多様な業務で個別に地図がつくられていると、同じ場所を扱っていてもデータを相互に連携しにくい。そこで高松市は、DXの入口に「マップの一元化」を据え、部署をまたいで同じ地図を参照できる状態づくりを優先した。

❷「安い地図を入れる」だけでは解けない──台帳を地図として整える

既存の地図サービスは導入しやすい一方、利用方法に合わせたカスタマイズや利用料、行政が管理する台帳データとの連携に課題がある。高松市は市独自のマップを構築し、その起点に道路台帳など法的に整備・更新が求められる基礎データ(ベース・レジストリ※)を置いた。台帳を地図として整備できれば、更新情報を複数の業務・サービスに波及させ、二重更新を減らせる。そこで次に必要になるのが、バックヤードBPR※である(図表2)

※【ベース・レジストリ】行政が正(マスタ)として維持更新する基礎台帳
※【BPR】業務を前提から見直し、手順・役割・更新方法を再設計すること

❸最初の一手はバックヤードBPR──業務整理なくしてDXなし

旧来のやり方のままITを導入すると、業務は整理されないまま積み上がり、現場負担が増える。そこで同市は、紙や縦割りで分断された業務を見直し、更新・照会にかかる工数、窓口処理時間などの削減から着手した。狙いは「サービスを増やす前に、まず行政を持続的に回せる状態をつくる」ことにある。

BPRでは、①何を正(マスタ)として更新するか、②誰がどこまで更新責任を持つか、③どの精度を共通要件にするかといった前提をそろえる。これにより、後段の基盤整備を運用が回るかたちで実装できるようになる。

❹実装のポイント──WebAPI・ベクトルタイル・空間ID・GitHubで「使い回せるかたち」にする

基盤整備では、地理空間データをベクトルタイル※化し、WebAPIとして提供する。図形(場所・形)と属性(ID・名称・種類・位置情報等)を機械が読み取れるかたちにすることで、地図情報を別の業務やサービスでも再利用しやすくした。

さらに、空間ID※で「同じ場所」をキーにデータを結びつけ、GitHub※でソースコードを公開することで、外部からの改善提案も受け取りやすくしている。この仕組みにより、台帳を一度更新すれば、APIを介して複数の業務・アプリに最新情報を反映、シェアリングができるかたちとなった。

※【ベクトルタイル】地図データを小さく分割し、形や属性を数式として配信する
※【空間ID】場所に付ける一意のID
※【GitHub】ソースコードを公開・共同管理する仕組み

❺成果と継続課題、次の展開

地図中心の基盤整備は、効果と同時に運用面の課題も明らかにした。紙台帳とデジタルデータの不整合が見つかり、測量や修正作業が必要になる場合がある。また、部署ごとに求める精度が異なるため、どこまでを共通の更新として扱うか、合意形成が欠かせない。例規や運用に残るアナログ前提も、デジタル手続きへの移行を複雑にする要因となる。

一方で、同市は技術採用と運用ルールの協議を進めることで、開始前よりコストを抑えられているという手応えも得ている。基盤の活用は、防災(災害対策アプリによる情報共有・可視化)や、交通(駐車場データを起点としたイベント情報・移動・決済との連携)などへ広がりつつある。

Interview 当事者の言葉で読む

今田 敦 (いまだ あつし) 氏

高松市 都市計画課(デジタル社会基盤整備室)室長補佐/
デジタル戦略課 スマートシティ事業化推進担当

─高松市のDXは何を目指していますか。

DXは新しいサービスを増やすことが目的になりがちですが、人も予算も限られる中では、まず紙や縦割りで分断された業務を見直し、行政を持続可能なかたちにすることが重要です。コストを下げた上で市民サービスを提供していくことが、市民サービスの向上につながると考えています。だからこそ、まず庁内業務の効率化を重視しています。

─なぜ地図を中心に据えたのですか。

地図を中心にしたアプリケーションは、スマートフォンなどでも使い勝手の良いインタフェースとして定着しています。自治体業務も、道路、防災、都市計画、税・福祉など、位置情報と強く結びついています。高松市では、ばらばらだった地図をまとめ、道路台帳のように法的に整備・更新が必要なデータを土台に、庁内横断で使える基盤をつくろうとしました。見せるための地図ではなく、更新され続けるマスタデータを起点に、データ同士が連携できる状態を目指しています。

─その基盤はどこで役立っていますか。

代表例は災害対応です。発災時の情報を紙で管理すると、最新の全体像が見えにくく、人手も時間もかかります。そこで、地図上に被害情報や対応状況を共有する災害対策アプリケーションを整備しました。どこで何が起き、どこまで対応したかを一目で把握できるようになり、災害対応の迅速化や防災体制の最適化につながります。

─今後はどこまで広げようとしていますか。

今後は、イベント情報発信の一元化とBPRを検討しています。イベント情報を目的情報として、交通や駐車場などを地図上でつなぎ、市民が目的地を探し、移動し、必要に応じて決済までできるかたちを構想しています。ただし順番は崩しません。業務改善を土台にしながら、市民サービスへ段階的に広げていくことが、高松市DXの特徴です。

【実装状況(整理)】
実装済み:地理空間データのWebAPI供給/オープンデータ公開/庁内向けユースケース
拡充中:許認可手続きのBPR/交通・駐車データの連携
構想:イベント情報×交通×駐車×決済を地図上でつなぐ市民向けサービス

【実装例はこちら】
地理空間データ基盤を活用した中心市街地うろつき渋滞解消のためのリアルタイム駐車場満空情報アプリ

市民アンケートが示す「取り組みの受け止め」と「次に伸ばす領域」

高松市は、スマートシティ/デジタル化の取り組みに関するWebアンケート(令和6年10月1日〜20日、N=452)を実施した。推進状況については、前向き評価が36.1%にとどまる一方、否定的評価は45.1%、「分からない」も18.8%となった(図表3)

取り組みが個別に進んでも、全体としての変化が市民に伝わりにくい可能性がある。

一方、「今後便利になってほしいこと」は、行政サービス73.7%、交通65.5%、防災57.1%が上位であった(図表4)

いずれも位置情報と結びつきやすく、台帳を正(マスタ)として更新し、同一仕様で参照できる状態を整えることが、次の展開を広げる裏付けとなる。

まとめ

高松市DXの肝は、目的を「サービス数」ではなく「行政を持続的に回すこと」に置き、初手でバックヤードBPRと台帳デジタル化に踏み込んだ点にある。地図をデータ連携の中心に据え、図形+属性を機械判読できるかたちでWebAPIとして供給し、空間IDやGitHubも活用して使われる条件を整えた。今後の焦点は、精度要件と更新責任の合意形成、例規を含む運用設計、成功体験の横展開である。

他自治体への示唆は明快だ。①BPRで二重更新を潰す、②正(マスタ)となる台帳をデジタル化する、③最新の地図情報をAPIで安定供給する。この順番を守るほど、更新原価を下げながら政策統合を進めやすくなる。防災など効果が見えやすい領域から始め、許認可や交通へ広げることで、基盤の価値は高まっていく。本稿が、各自治体のDX検討における参照点となれば幸いである。(島村和也)

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