トップメッセージ

株式会社 長谷工コーポレーション代表取締役社長 池上 一夫

「新たな価値を創造」していくことで、
人々の多様なニーズに応える
「豊かな住まいと暮らし」の実現に
努めていきます。

株式会社長谷工コーポレーション
代表取締役社長
池上 一夫

当社グループは「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。」を企業理念に掲げ、「住まいと暮らしの創造企業グループ」として、マンションを中心とした様々な事業を行ってきました。これまでの発展を支えていただいた全てのステークホルダーの皆様に心より御礼申し上げますとともに、当社グループが長年にわたって追求してきた住まいと暮らしの考えや、今後の経営方針についてご説明いたします。

2020年4月、代表取締役社長に就任し、2025年3月期を最終年度とする5ヵ年の経営計画「HASEKO Next Stage Plan(略称:NS計画)」がスタートしました。当初は、新型コロナウイルス感染症が社会全体に蔓延し、緊急事態宣言が発出されるなど厳しい状況に置かれましたが、リモートワークが拡がり、住まいを見つめ直す新たな潮流が生まれました。住宅市況は低金利の支えもあって活況となり、計画2期目から当社グループは業績を回復することができました。また、昨今の世界的な物価高騰の厳しい環境下での従業員の頑張りに報いるために、2023年度に賃金の引き上げを行いました。処遇改善と併せて、引き続き、自律人材の育成とキャリア開発、イノベーティブ人材・グローバル人材の養成、DX教育等に取り組んでいきます。

次にNS計画スタート後、この3年間の当社を取り巻く大きな変革についてです。一つ目は日本人の住まいに対する考え方です。コロナ禍において在宅ワークが急増し、自宅で過ごす時間が増えました。仕事から帰って過ごす場所であった住まいが、一日の多くの時間を家族と一緒に暮らす空間になりました。今の住まいを見つめ直し、より豊かな暮らしが実現できる住まいに移りたい。そのような潮流が生まれ、低い住宅ローン金利などが追い風となって、環境がよく、間取りに余裕がある郊外の分譲マンションを購入するという動きが一気に増えました。私は入社以来、一貫して意匠設計に携わってきましたが、そのキャリアの中で「豊かな住まい」について考え続け、現在でもこのテーマを追求し続けています。

住まいという存在を考えたとき、そこに暮らす家族全員の笑顔が絶えず、いつも安心して過ごせることが、なにより大切です。家があって家族の暮らしがあり、思い出があり、歴史があります。家族の成長とともに自在に変わっていくだけの懐を持った住まいが、豊かな人生につながるのだと思います。

当社グループの役職員は、「都市と人間にとって最適な生活環境」について突き詰め、日本の住まいをより豊かにしたいという思いで、日々の仕事に邁進しています。国内ナンバーワンのマンション施工実績を持つ企業として、社会的使命と責任を負っているという自負とともに、コロナ禍以降に顕在化した「より良い住まいに暮らしたい」という新たなニーズに対して、積極的にお応えしたいと考えています。

二つ目の大きな変革は、DXの大きな進展です。

当社は13年前からコンピュータの3次元上で設計を行う「ビルディング・インフォメーション・モデリング」(以下、BIM)を導入するなど、業界に先駆けて建設現場でのDXを積極的に進めてきました。図面や出来高をチェックする際にタブレット端末やスマートフォンを活用するなど、デジタル化を展開してきましたが、コロナ禍をきっかけにこの動きが一気に加速しました。私自身、現場をまわって話を聞くと、「DXで現場が大きく変わった」という声を多く聞きます。実際、現場での働き方が変わり、1日あたりの労働時間が減少するなど、生産効率が上がりました。

建設現場をよりスマートに、働きやすい場所に変えていく

建設現場では、所員はもちろん、鉄筋工など専門工事業者にも女性が増えていますが、担い手不足への対応が課題となっています。また建設業では、2024年度からは罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されます。前述の通りBIMの導入など建設現場でのDXが進んでおり、更なるDXの活用による生産革命で、施工現場をよりスマートに、働きやすい場に変えていくという課題解決は、ぜひ私自身でやり遂げたいと考えています。
具体的な数字としては、現在のNS計画が終了する2025年3月期までに生産性を2割アップします。現状は5,000億円の受注体制ですが、生産性が2割上がると6,000億円の体制になり、さらにシェアを伸ばすことができます。マンション施工においては、これが最大のミッションだと考えています。

LIMを通じて"暮らしの最適化"の実現を目指す

当社グループでは、マンションに人々が住み始めてからの建物の状態や設備の利用状況、居住者の動きなど、マンションが持っている暮らしに関する情報を計測し一元化する仕組みのことを、「リビング・インフォメーション・モデリング」(以下、LIM)と呼んでいます。住まい情報と暮らし情報のプラットフォーム「HASEKO BIM &LIM Cloud」を構築し、マンションの設計・施工における生産性向上や居住者の生活の質向上を目指して取り組みを進めています。
自社賃貸マンション・プロジェクト「サステナブランシェ本行徳」では、睡眠の質向上の検証や、森林によるリラックス効果の検証、変化に対応するIoT住宅の検証、地震やゲリラ豪雨などの災害への対応の検証、顔認証とAIによる防犯システムの検証などを実施し、LIMを通じた"暮らしの最適化"の実現に向け、取り組みを加速していきます。

また、当社は施工から管理・修繕まで、マンション事業に関わる全ての機能をグループ内に集約していますが、中でもマンパワーが要求されるのがマンション管理です。担当者の資質によってサービスの質が変わってしまうという問題を解決するためにデジタル技術を導入し、サービスの平準化を図りながら、少人数で多くのマンションを的確に管理するソフトの開発が求められます。また高齢化で役員のなり手不足の問題を抱える管理組合に対して、その活動をサポートするようなソフトも必要です。実際の形にするには時間を要しますが、こういったソフト開発にも十分な投資を行いたいと考えています。
私たちはマンションを設計通りに建て、お引き渡しを済ませた後も、お住まいの皆様の日々の暮らしを支える様々なサービスを提供しています。今後も、生活者情報や暮らしに関するご意見・ご要望などをもとに、管理や修繕のみならず、新たなサービスの企画・開発を継続して行っていくことも重要だと考えています。そのため、私にとって、もう一つ大きなミッションがビッグデータの活用です。当社グループには不動産から始まり、施工、販売、管理、修繕などマンションに関するあらゆるデータが存在しています。 これらをデジタル化し、紐付けして、どのグループ会社でも自在に情報を取れるような形にする。現在はその仕組みを構築している途上です。当社ならではのビッグデータを活用することで、新しいビジネス創出につなげる。2030年までにぜひ実現させたいと考えています。

そのため、NS計画の重点施策として、『自律人材の継続輩出と将来の長谷工を担う多様な人材を育成する』を教育スローガンに掲げ、DXの具現化に向けた人的投資を行っています。各グループ会社社長をメンバーとする「DX推進委員会」を発足させ、DX教育の一つとして「DXアカデミー」を開講しています。
これまで、全役職員向けの「DX意識改革プログラム」、中堅・若手の選抜社員向けの「イノベーションリーダー育成プログラム」、部長職向けの実践的な「DXリテラシー講座」などを実施しています。今後も未来の豊かな住まいと暮らしを実現するために、DXを通じてスペシャリスト人材の育成に注力していきます。

“BIMとLIMの絶え間なき進化が、
建設現場ひいてはビジネスモデル全体へ多面的に
大きな効果をもたらしています──”

マンションの新たな価値づくりへのチャレンジ

地球環境に対する取り組みも重要だと考えています。2021年に当社グループの気候変動対応方針「HASEKO ZERO-Emission」を策定し、2050年カーボンニュートラル実現を目指しています。2022年度以降に設計着手するすべての分譲マンション、自社保有賃貸マンションについてはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化を推進し、断熱性能の向上と冷暖房、給湯、照明等の設備の省エネ性能を高めています。また、当社が独自に開発した環境配慮型コンクリート「H‐BAコンクリート」の採用促進にも努めています。長谷工コーポレーションのすべての建設現場で使用する電力について再生可能エネルギーへの切り替えが、2023年5月までに完了しました。当社グループの全建設現場の使用電力についても、2025年末までに切り替えを予定しています。

また、長らく日本では、建物を造っては壊す、壊しては造るといった「スクラップ&ビルド」の時代が続きましたが、社会が成熟し、環境負荷を下げることが目標とされる中、長く使う、ストックを活用するという「ストック&リノベーション」の時代に移行しつつあります。前述の「サステナブランシェ本行徳」は、旧企業社宅を賃貸マンションにリノベーションするプロジェクトですが、リノベーション物件としては国内で初めて建物運用時のCO2排出量実質ゼロを実現します。
加えて、当社がもっとも得意とするマンション建築において、木造化の技術にも挑戦しています。資材として木材を使うと、木材そのものの中にCO2が固定され、資材製造時や廃棄時に発生するCO2も削減できます。また木という素材が持つ魅力も見逃せません。木肌から漂う香りや木目の美しさ、触った時に感じる柔らかさ、暖かさ、そういったものが人の五感に与える影響は大きく、暮らしの場の豊かさを創り出す力があると思います。
鉄筋コンクリートで囲まれたマンションに潤いの空間を創りたい。そんな想いから、マンションの共用施設に木材を使うということを、すでに数年前から行なっていますが、専有部分の構造では当社初となる最上階住戸を木造化した賃貸マンション「ブランシエスタ浦安」が2023年2月に竣工し、現在は都内で上層4層を木造化するプロジェクトを推進中です。内装では、前述した「サステナブランシェ本行徳」において、天井、床、壁やドアなど内装仕上げの45%を目標に木質化を推進しています。
「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。」という当社の企業理念ですが、自然とともに心豊かに暮らすというスタイルを創っていくことも、大切な仕事だと考えています。同時に激甚化する災害などにも対応する技術をしっかりと取り入れていき、それらの技術が組み合わさることで、豊かな人の暮らしを創造できると考えています。

“住宅の広さなどにとらわれたり限定される
ことのない、真の意味での「豊かな住まい」の
開発とその提供に努めていきます──”

キーワードは「個性活躍」

1980年代後半に当社では、女性社員だけで構成される「住まい方提案プロジェクト室」を設計部隊の中に立ち上げ、実際に彼女らがマンションに住み、その中で女性ならではの目線で気付いた色々な改善点を商品化していた時期がありました。このように当社グループは、CSRやD&Iといったものが今のように一般的になる何十年も前から、女性活躍や各々の個性を大事にしてきた会社でもあるのです。2030年3月期の利益水準である連結経常利益1,500億円を目指す本質的背景とも大いに関わるところではありますが、人々の住まいや暮らしが多様化する現代社会において、新しい価値を生み出し続けるには、多様な人材の視点を持ち寄ることが欠かせません。当社グループでは、2023年5月に策定した「長谷工グループ ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」の中でも掲げた「個性活躍」をキーワードに、一人ひとりの社員が持てる能力や技術を最大限に発揮して活躍できるような、職場づくり・環境整備に努めていきたいと考えています。

歩みを止めず、明日へと進み続ける

当社グループはマンションという居住形態の可能性を追求し、その住まい方を国内に広く普及させ、業界に先駆けた高度な技術開発で今日のマンションのスタンダードを築いてきました。したがって、この分野では様々な知見や経験を有するエキスパート集団であると自負しています。しかし、それは最大の強みではありますが、同時に弱みであるかもしれません。専門性にこだわってそれだけを追求し続ければ、この先30年、50年と企業を存続させることはできません。
当社は1990年代初めのバブル崩壊、2000年代後半のリーマンショックという時期に経営危機に陥り、非常に苦しい時期を経験しました。しかし、ステークホルダーの皆様のご理解とご支援をいただいたことに加え、役職員全員が危機感を共有し、毎日必死で頑張り続けた結果、この難局を乗り越えることができたのです。この時の経験が現在の当社の屋台骨を支える基盤になっており、何よりの強みとなっています。
国内外の社会情勢には様々な不安要素がありますが、仮に不測の事態が起きたとしても、長谷工グループには粘り強く生き残っていくための経験があります。また、2030年3月期に目指す姿として掲げた「長谷工グループ長期ビジョン」は、目標達成への強い意欲を形として表したものです。目指す利益水準として、敢えて高い目標を設定しました。目標達成のためには、今の延長線上で物事を考えていては達成できません。社員全員のモチベーションアップが重要になってくるのです。

サステナビリティ経営により、長期的な企業価値向上へ

時代の転換期には人々の価値観も大きく変わります。住まいという人々の生活を支える基盤産業に携わる当社グループとしても、社会課題の解決・変革をリードし、各種の事業を通じて持続可能(サステナブル)な社会を目指すことが不可欠と考えます。
過去20年間、サステナビリティに関する取り組みは企業や組織により大きな差があったと思いますが、今日、日本でもサステナビリティに関連する開示の義務化や各種規制の導入といったこともあり、この数年で意識や行動に急速に変化が起こっています。こうした中、規制やルールで求められる必要最低限の要件に応えるだけでなく、当社グループでは経営戦略に基づきサステナビリティに積極的に取り組むことで新たな価値を創造し、イノベーションを生み出すことにも果敢にチャレンジしていきたいと思います。
住まいは暮らしの基本であり、家庭をつくり、地域社会とつながりを持ちながら生活していくための拠点として重要な役割を果たしています。それだけに、良質な住まいの確保は、人々が尊厳を持ち自立して生きていく上での基盤となるものです。年齢、性別、文化、身体の状況など人々が持つ様々な個性や違いにかかわらず、すべての方が生涯を通じて安心で豊かな生活を実現できるよう住まいや住環境の整備を行うことは、当社グループが社会に対して果たすべき大きな役割だと考えます。
社会インフラとしての住まいと暮らしに関わる事業を持続的に行っていくこと、安全・安心・快適はもとより豊かな生活を皆様にお届けすることをお約束して、長谷工グループは今後も真摯に取り組んでまいります。皆様には一層のご理解とともに、引き続き温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。