制度創設から10年余りが経過、サービス付き高齢者向け住宅の最新動向
2023年04月26日 / 『CRI』2023年5月号掲載
目次
2025年、団塊世代のすべてが75歳以上の後期高齢者となり、2040年頃までは65歳以上人口が増加すると見込まれている。特に大都市部では一人暮らしや夫婦のみ高齢者世帯が急増するとされており、高齢者だけでも安心して住まえる居住環境の整備は重要なテーマである。こうした人口・世帯動態の変化も踏まえて2011年、国により創設されたのがサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)登録制度である。制度開始から10年以上が経ち、全国の登録数は28万戸を超えるまでになったが、高齢期を支える住まいの一つとしてサ高住はこれまでどのような発展を遂げてきたのだろうか。
本稿では、一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」(https://www.satsuki-jutaku.jp/)に掲載されている2022年12月末時点の登録物件情報をもとに集計・分析を行うとともに、サ高住の今後のあるべき姿を考察する。
サ高住制度の変遷
2011年10月、「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」が改正施行され、従来の高齢者専用賃貸住宅などを廃止し、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の登録制度が創設された。2025年に団塊世代のすべてが後期高齢者となり、さらに2040年頃まで65歳以上人口が増加することが見込まれている中、高齢者向け住まいの新たなカテゴリーとして制度化されたものである。これまで国土交通省などにより、施主への建設・改修費の補助、税制優遇、融資支援などの供給促進策が継続してとられてきた(図表1・2-❷)。
2006年、「介護保険法」に基づき、介護保険施設や介護付有料老人ホーム(*1)等の新規開設を規制する総量規制が導入されたが、これにより総量規制の対象外だった「介護サービス外付け型」の住宅型有料老人ホーム(*2)が大幅に増えることになった。住宅型とはいえ、その大半は要介護者を主たる入居対象とし、建物に併設する訪問介護・通所介護などの事業所が介護サービスを提供するというビジネスモデルである。
サ高住も、住宅型有料老人ホームと同様の「介護サービス外付け型」で事業が行われており、その多くが要介護者向けの住宅として供給されてきた。また、短期間で急増したために市場での競争が激化した上、一部の事業者による「介護サービスの過剰提供」や「顧客の囲い込み」といった問題も指摘されるようになった。こうしたこともあり、近年は国による規制が強化されるようになった(図表2-❸)。
また、建設・改修費の補助については、要件の見直しがたびたび行われ、最近では、全国で増加する空き家問題にも対応するため、既存ストックの改修を優遇する内容が補助要件に盛り込まれることになった(図表2-❹)。さらに、直近の要件見直しでは、省エネ・再エネ対策や災害リスクへの対応強化などが盛り込まれるようになっている(図表2-❺)。
有料老人ホーム:高齢者を入居させ、①入浴・排泄・食事の介護、②食事の提供、③洗濯・掃除等の家事、④健康管理の少なくとも一つのサービスを供与する施設。(「老人福祉法」で規定される老人福祉施設、認知症高齢者グループホームは除く。)
*1 介護付有料老人ホーム:介護や食事等のサービスが付いたホーム。介護が必要になっても、ホームが提供する介護保険の「一般型特定施設入居者介護」または「外部サービス利用型特定施設入居者介護」のサービスを利用しながら、ホームの居室で生活を継続することができる。
*2 住宅型有料老人ホーム:食事等のサービスが付いたホーム。介護が必要になった場合は、入居者自身の選択により、外部の訪問介護等のサービスを利用しながら、ホームの居室で生活を継続することができる。
登録情報からみるサ高住の最新動向
制度創設からこれまでを振り返ると、供給されたサ高住の大半は要介護者向けである。自立か要介護かを問わず、様々な高齢者が安心して暮らせる「住宅」としての広がりを期待する住宅関連事業者や消費者は多いものの、現状ではそうしたニーズに十分応えているとは言い難い面もある。
28万戸余りのサ高住にはどのような特徴があるのだろうか。ここでは、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」に登録された全物件情報をもとに、サ高住の最新動向をみていく(全国の傾向に加えて、首都圏の動向についても一部で言及する)。
●登録棟数・戸数、事業主体
2022年12月末現在の全国の登録棟数・戸数は、8,165件、28万384戸である。
登録事業主体を法人等種別でみると、株式会社が全体の6割を超えており、これに有限会社も含めると、営利法人だけで全体の7割強を占める(図表3)。
また、一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析」(2022年8月末時点)によると、主な業種は介護系事業者が約7割を占め、次いで医療系事業者、不動産業者となっている。
●契約形態
9割を超える物件で賃貸借契約が採られている。サ高住は利用権契約であっても登録することができるが、現状ではごくわずかである(図表4)。
●建物の特徴
建物構造は、鉄骨造が40.1%と最も多く、次いで木造32.7%、鉄筋コンクリート造(SRC造含む)24.3%となっている。鉄骨造と木造を合わせると、全体の7割強を占める(図表5)。
階数をみると、2階建てが40.2%と最も多く、次いで3階建てが25.9%となっており、3階建て以下で全体の74%を占めている(図表6)。
戸数規模は、20戸以上30戸未満が25.9%、30戸以上40戸未満が20.9%で、40戸未満で全体の7割弱を占める(図表7)。
●住戸の特徴
住戸面積(専有部面積)については、登録上の最低面積特例基準が18㎡であることから、最低値は18㎡以上20㎡未満に集中しており、全国では7割を超え、首都圏でも7割弱にのぼる。また、最高値も18㎡以上20㎡未満が約37%を占める(図表8・9)。
住戸内設備(トイレ・洗面・浴室・台所・収納)の付帯状況をみると、「5点すべて完備」は全体の2割弱とかなり少ない。要介護者向けの物件が多いため、専有部内で台所・浴室を使用しないことを前提に計画されているものが多数であり、この2点の設置割合が低くなっている。一方、トイレ・洗面・収納はほぼすべての住宅に設置されている(図表10)。
緊急通報装置の設置率は、99.3%とほぼすべての住宅で設置されている(図表11)。
また、エレベーターの設置率は、全国で9割を超え、首都圏では97.2%とほぼすべての住宅でエレベーターが設置されている。
●住居関連費用
家賃については、最低値の全国平均額は約5.6万円、首都圏では約7.2万円となっている。また、最高値の全国平均額は約7.5万円、首都圏は約10.2万円である。
共益費は、最低値の全国平均額は約2万円、首都圏は約2.3万円、また最高値の全国平均額は約2.4万円、首都圏は約2.7万円となっている。共益費については、全国と首都圏での金額差はあまりみられない。
敷金は、最低値の全国平均額は約10.1万円、首都圏は約12.5万円、また、最高値の全国平均額は約14万円、首都圏は約19.2万円となっている。
全国・首都圏ともに敷金の平均月数は、1.8ヵ月である。また、敷金なしの物件が全国では27.3%、首都圏でも25.4%と全体の4分の1程度ある。
●提供サービスとその費用
状況把握・生活相談、食事、介護、家事、健康増進、その他のサービスの提供の有無をみると、食事が96.3%と高い割合で提供されており、調理等の家事サービスは54.1%と半数以上の物件で提供されている。
また、入浴等の介護についても49.5%と、ほぼ半数の物件で提供されている(図表12)。
サービスの合計費用は、全国平均で約8.4万円、首都圏で約8.7万円である。サービス費の内訳をみると、食費の占める割合が高く(全国:約4.7万円、首都圏:約5.0万円)、次いで状況把握・生活相談サービス費となっている。入浴等の介護費用平均は、中京圏・近畿圏が首都圏より高くなっている(図表13)。
特定施設入居者生活介護(*3)の指定状況
全体の約1割の物件で特定施設入居者生活介護の指定を受けている(図表14)。
*3 特定施設入居者生活介護:介護付有料老人ホーム等の特定施設に入居している要支援・要介護者に提供される日常生活上の世話、機能訓練、療養上の世話等のことで、介護保険の給付対象となる。
高齢者生活支援施設の併設状況
一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析」(2022年8月末時点)によると、全体の4分の3の物件で、1つ以上の高齢者生活支援施設が併設されているか隣接している状況である(図表15)。
併設施設の種類は、通所介護事業所、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所の順で多い(図表16)。
〈CASE STUDY〉健康増進型・賃貸シニアレジデンス「OUKAS(オウカス)」シリーズの展開 野村不動産(株)グループ
〈オウカス 志木〉写真・図の提供:野村不動産(株)、野村不動産ウェルネス(株)
「オウカス 志木」概要
●種別/サービス付き高齢者向け住宅
●所在地/埼玉県朝霞市三原3-33-16
●交通/東武東上線「志木」駅より徒歩6分
●敷地面積/3,499.20㎡
●延床面積/8,468.81㎡
●構造・規模/RC造、地上8階建
●総戸数 /145戸
●専有面積/25.81㎡~48.62㎡
●共用部/ダイニング、ゲストダイニング、人工温泉大浴場、フィットネススタジオ、コミュニティカフェ、ゲストルーム、カラオケ&シアタールーム、ライブラリー&ラウンジ、コンシェルジュデスク、美容室等
●月額賃料(非課税)/120,000円~276,000円
●管理費(非課税)/56,000円(1人入居)、66,000円(2人入居)
●サービス費(税込)/62,700円(1人入居)、95,700円(2人入居)
●レストラン食費(税込)/53,400円(1人分、1日3食×30日)
●駐車場/平置き式14台(入居者の月額使用料:19,800円(税込)、業務用駐車場・来客用駐車場含む台数)
●開設年月/2023年2月
●事業主/野村不動産株式会社
●運営会社/野村不動産ウェルネス株式会社
●自立シニア向け住宅の新たなモデル
野村不動産(株)は、2017年に自立シニア向け住宅事業に参入した。元気なシニア世代の健康寿命の延伸を支援し、世界一の人生づくりを目指す「健康増進型・賃貸シニアレジデンス『OUKAS(オウカス)』」のブランドを展開。第1号「オウカス 船橋」(船橋市、2017年、125戸)を皮切りに、現在首都圏で計5物件を開設、運営している。
事業参入の背景は、シニア向け住宅市場における需給ギャップへの違和感だという。日本の高齢者人口の約8割が自立高齢者であるにもかかわらず、高齢者向け住宅(有料老人ホーム、サ高住等)の約9割が介護サービスの提供を主とする介護型であるという現状に対し、「オウカス」は「人生を謳歌し、生き生きとした明日を実現する住まい」をコンセプトに、健康寿命の延伸を通して、社会保障費や介護離職者数の抑制に取り組む社会課題解決型の新たなモデルであるとしている。
「オウカス」の独自性は、暮らしやすい「立地」、誇りとなる「建物」、カラダとココロの健康に取り組む「サービス」で健康寿命の延伸を支援する点にある。また、利用権方式の自立型有料老人ホームでは、入居時に数千万円以上の一時金を徴収するのが一般的だが「オウカス」は一時金不要の賃貸住宅であり、入居検討者・家族ともに住み替えの決断をしやすいというメリットもある。
●オウカス・ウェルネスプログラム
健康寿命の延伸に向け、運動・食事・コミュニティ・医療介護連携という4つの視点で構成される「オウカス・ウェルネスプログラム」の取り組みも特徴的である。
①運動:同社グループのフィットネスクラブ「メガロス」と共同開発した独自の運動メニューを提供。メガロスの運動指導員が建物内に常勤し、体力測定や各種の運動プログラム、カウンセリングなどで一人ひとりの健康維持を支援している。
②食事:管理栄養士によるバランスのよい献立で一日3食の食事を提供(喫食は居住者による自由選択)。共用ダイニングで、居住者同士や家族などと会話を楽しみながら食事をすることができる。
③コミュニティ:月間約50種類の多様なコミュニティ活動やイベントを開催。居住者間の交流促進につながっている。
④医療介護連携:医療・介護の専門知識を持つスタッフ(介護福祉士、看護師等の有資格者等)が常駐し、入居後の訪問診療の調整、体調不良・緊急時の対応などについて多面的にサポートしている。
健康寿命の延伸に取り組む「オウカス」への入居が、健康維持・増進にどのように寄与しているかについて、同社は千葉大学と共同で調査を実施している。2021年度調査では「オウカス」居住者は、地域在住の一般高齢者よりも将来の介護費用を6~14%抑制できる可能性を示唆する結果も出ているという。
●「オウカス 志木」での取り組み
「オウカス 志木」は2023年2月に開業したシリーズ第5号目のプロジェクトである。ハード面は安心・安全の機能を重視するだけでなく、バイオフィリックデザインを取り入れたエントランスホールや、季節ごとに掛け替える多様な絵画の館内設置など、日々の生活を豊かにするものとなっている。また、ソフト面では既存の取り組みに加え、朝霞市を拠点に芸術・文化振興を行っている「丸沼芸術の森」と連携したアート制作・鑑賞や、建物隣接地にある農園「オウカスガーデン」での作農体験といった新たなメニューを居住者に提供している。
同社グループは、今後も首都圏を中心に積極的に「オウカス」シリーズを供給していくとしている。
さらなる進化を期待したいサ高住
近年供給されるサ高住では、元気な高齢者の積極的な活動を支援したり、高齢者の社会関係性の構築に力を入れたりするなど、新たな試みを行う事例も増えつつある。
「人生100年時代」といわれるように、日本人の長寿化は進展しているが、平均寿命と健康寿命の推移をみると、それぞれの年数は伸びているものの、必ずしも健康に過ごせる期間が長くなっているわけではない。近年の調査によれば、男性は約8.7年、女性では約12.1年もの期間、日常生活に何らかの制限・支障がある期間を過ごしている(図表17)。
ケーススタディで取り上げたサ高住では、健康寿命を延ばすためのサービス提供や独自の生活支援システムに特徴があり、事業者の積極的な関与により運営がなされている。また、こうした取り組みは、入居する高齢者だけでなく、その家族(子ども世代)からも一定の評価を得ているという。
高齢期に起こる問題は、高齢者本人だけの問題ではなく、家族の課題となる場合もある。厚生労働省では、アドバンス・ケア・プランニング(*4)(ACP、愛称:人生会議)と呼ばれる取り組みを進めている。ACPでは、人生の最終段階における医療やケアに関する本人の希望や思いなどを周囲の人と話し合い、情報共有することの重要性を示している。高齢期の生活においても、「誰と・どこで・どのような暮らしがしたいのか」を、高齢者とその家族、高齢者の日常生活を支える様々な支援者と日頃から話し合い、情報共有する必要性があるのではないか。
大手不動産流通会社の中には、「不動産」を切り口として、高齢者の暮らしに関する悩みや困りごと(健康、住まい、お金、介護、相続など)を支援する試みを専門家や複数の事業者と連携しながら行っているところもある。
これからの住宅事業では、住む場所というハードの提供だけでなく、生活者がそれぞれのライフステージごとに抱えやすい特有の悩みや問題の解決に長期間伴走して支援するしくみといったソフトの提供がますます必要になってくるだろう。高齢者に対しては、例えば一人ひとりに寄り添ったきめの細かいコーディネーションやコンシェルジュ業務といった「住まい・暮らし版ケアマネ(*5)」のようなサービスが考えられるのではないか。ハードの提供に加え、新たな付加価値提案において住宅業界が取り組む余地は大きく、その実践においてサ高住事業を活用するという選択肢は十分あり得るだろう。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、これまで以上に多様化する高齢期の暮らしニーズに対し、サ高住が高齢者を多面的に支える新たな住生活総合提案事業として、より一層進化していくことを期待したい。
(豊田可奈子)Kanako_Toyoda@haseko.co.jp
*4 アドバンス・ケア・プランニング(ACP):もしもの時のために、自分自身が望む医療やケアについてあらかじめ考えておき、家族や医療・ケア関係者などと話し合いを重ね、自身の考えを共有する取り組みのこと。
*5 ケアマネ(ケアマネジャー):要介護者・要支援者一人ひとりの心身の状況に合わせて各種の相談対応を行うとともに、介護保険制度の介護サービスを適切に受けられるようにケアプランを作成し、市町村・サービス事業者等と連絡調整を行う専門職種。
資料:一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」の登録情報をもとに長谷工総合研究所作成(図表4~図表14)。
ただし、図表3・15・16は高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析(令和4年8月末時点)」から一部を改変して引用。






















