高経年分譲マンションの現状と展望

〜横浜市内のマンション・団地の規模からみた コミュニティと建物維持管理との関係〜

2025年04月30日 / 『CRI』2025年5月号掲載

CRI REPORT

目次

築40年以上の高経年分譲マンションは、全国で約140万戸あり、20年後には約460万戸まで増加すると見込まれる。区分所有者も高齢化が進み、人と建物の「二つの老い」は確実に進行している。
長谷工総合研究所は、横浜国立大学と東京都立大学、一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団との共同研究「高経年分譲マンションストックの現状と再生の方向性に関する調査」において、横浜市内の高経年分譲マンションの管理組合にアンケート調査を実施し、回答のあった管理組合の一部にヒアリング調査を行った。
耐震診断や改修工事、長期修繕計画、大規模修繕工事などの適切な建物の維持管理について検証したところ、コミュニティとの関係性が背景にあることが浮かび上がった。また、旧耐震基準が多くを占める高経年マンションにおいて、戸数や棟数といった規模や単棟・団地型の違いにより、建物の維持管理とコミュニティとの関わりに差がみられた。 
コミュニティ活動に加え、平均との差が顕著であった棟数の多い大規模団地と戸数の少ない小規模マンションに焦点を当てて、アンケート結果を分析し、ヒアリング調査をまとめていく。 

高経年分譲マンションの管理組合アンケート調査結果

〈位置づけ〉

長谷工総合研究所と横浜国立大学、東京都立大学、一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団の共同研究
「高経年分譲マンションストックの現状と再生の方向性に関する調査」として実施。 

〈管理組合アンケート調査概要〉

調査対象:横浜市の1984年以前に新築された6戸以上のマンション 
実施期間:①2024年3月29日~4月22日 ②2024年10月1日~10月22日(再送付・不達再送付) 
実施件数:2,100件(再送付1,363件、不達再送付503件)
回答件数:361件(回答率17.2%)
実回答件数:348件(対象外と判明したものを除外)
 
【用途地域】
低層:1低・2低、中高層:1中高・2中高、住居:1住・2住・準住、商業:近商・商業、工業:準工・工業

【所在エリア】
都心:中区・西区、北部:鶴見区・神奈川区・港北区・青葉区・都筑区・緑区・保土ヶ谷区、南部:南区・港南区・磯子区・金沢区・戸塚区・泉区・栄区・旭区・瀬谷区

●管理組合アンケート回答マンションの属性

管理組合のアンケート回答のうち、実回答件数348件の属性は下図のとおりである。
建築年の割合は、1960年代9%、1970年代41%で、1980~84年が5割を占めている。全体の2割は、1981年6月以降に着工された新耐震基準によるものであるが、それ以外のマンション(全体の8割)は、旧耐震基準によるもの(不明を含む)である。
住戸数の割合は、30戸未満の小規模マンションが35%、100戸以上の大規模マンションが31%であった。
所在のエリアについては、中区と西区を都心として、区ごとに南北に分けたところ、都心12%、北部42%、南部46%であった。
所在の用途地域は、住居系地域が65%、商業系27%、工業系7%であった。

●建物の規模・棟数による分析

建物属性

はじめに、マンションの戸数規模と棟数で分類し、傾向を把握する。2棟以上の建物からなる団地型マンションについては、戸数にかかわらず棟数で複数棟団地(2〜9棟)と大規模団地(10棟以上)に分類し、単棟のマンションについては、戸数によって、小規模(30戸未満)、中規模(30~99戸)、大規模(100戸以上)に分類した。
1棟で30戸未満の「小規模マンション」は、5階建て以下でエレベーターのないものが半数以上であるが、中規模以上の単棟マンションは6階建て以上の高層で、エレベーターがあるものの割合が高く、高層建築物が建設可能な商業系・工業系用途地域に立地しているものが多い。
一方、「大規模団地」は、大半が市の郊外部の住居系用途地域に立地し、4〜5階建てでエレベーターがないものが多くなっている。
同じ大規模でも単棟大規模マンションと大規模団地では、用途地域や容積率が異なり、それに伴い高さや敷地利用率など建物形状が異なるものが多い。

建物維持・管理

建物維持・管理に関する項目では、規模が影響しており、小規模マンションに比べ、大規模マンション、大規模団地は、数値が良い傾向となった。比較的築年数が新しいものが多い小規模マンションの結果が芳しくなく、築年数よりも規模による影響が大きいと考えられる。以下項目ごとにみていく。
「耐震診断・耐震改修(図1)」において、「耐震診断未実施」は小規模マンションで56%、単棟大規模マンションで30%、大規模団地では17%と対応に差が出た。大規模団地では耐震診断で耐震性を確認したものが5割を超えるが、単棟大規模マンションでは診断の結果、耐震性がなく耐震改修が必要となったものが多く、耐震改修の予定が立っていないマンションも少なくない。

「建替え・長寿命化(図2)」においては、「建替え検討中」との回答は少ないが、「方向性未定」との回答は1~2割程度あった。「議論したことがない」は大規模団地を除くと5割前後の割合となっているが、大規模団地では「議論したことがない」の割合は低く、長寿命化に向けた検討が比較的進んでいる傾向がみられた。「長期修繕計画(図3)」においては、「計画がある」との回答が小規模マンションでは5割強にとどまる一方、単棟大規模マンションや団地型マンションでは8割以上となっており、大規模団地では、管理計画認定基準でもある「計画期間30年以上」が44%となっている。
小規模マンションでは、「価値向上を目指した改修工事の実施(図4)」についても、実施割合がやや低い傾向がみられる。

非居住化(空き家・賃貸化)

合意形成に影響を及ぼす非居住化において、「空き住戸割合(図5)」では、築年数が新しいほど空き家「0」が多く、築年数が古くなるほど空き家が増加の傾向にあるが、「賃貸化住戸割合(図6)」では、築年数よりも商業地域や指定容積率が高い立地において、賃貸化率10%以下が少なく「30%超」が多いなど、賃貸化率の数値が高い傾向があった。
空き住戸は大規模のマンション・団地で多く、賃貸化率は団地よりも単棟で高い傾向がみられた。

コミュニティ活動

コミュニティに関する項目においても、規模や棟数による差がみられた。加入する「自治会・町内会(図8)」において、小規模マンションは「周辺を含む自治会・町内会」が多くを占めるのに対し、大規模団地は「単独自治会・町内会」が多くを占める。
「コミュニティ活動として実施している活動(図9)」において、コミュニティ活動は、規模が大きいほど多様なコミュニティ活動が実施される傾向があり、集会室の有無との関係性も考えられる。但し、集会室のない小規模マンションでも、コミュニティ活動として実施されているものは少なからずあり、小規模であってもコミュニティが活発になる可能性はあると思われる。

●コミュニティ活動と建物の維持管理の関係性

コミュニティ活動と管理組合

コミュニティ活動を分野別に10項目に分類し、それぞれ実施しているかどうかを集計したところ、実施されているものの上位は、防災・防犯活動が64%、緑化推進活動61%、環境美化活動57%、親睦イベント54%の順であった(図10)
コミュニティ活動は、自治会(町内会)が主体となって実施されているものが多いが、上位3つの活動については、管理組合で実施している割合が比較的高く、特に緑化推進活動は、全体の4割以上の管理組合が実施している。

集会室とコミュニティ活動

コミュニティ活動のレベルをアンケート調査のみで正確に評価することは困難であるが、10項目のコミュニティ活動のうち実施している項目の数を指標として、コミュニティ活動と建物の維持管理の関係性について、傾向の把握を試みた。コミュニティ活動の項目数によって、4段階に分けて集計すると、「集会室の使用頻度(図11)」において、コミュニティ活動がない(0項目)マンションのうち7割は集会室が存在しない一方、5項目以上実施しているマンションは2/3が集会室を備え、使用頻度も比較的高い傾向がみられる。コミュニティ活動を活発にする要因の一つに、集会室の有無も関係があると思われる。

コミュニティ活動と建物維持管理

「耐震診断・耐震改修(図12)」において、「耐震診断未実施」は、コミュニティ活動がない(0項目)が最も多く78%、5項目以上実施で28%と項目が多いほど減少する傾向があり、「建替え・長寿命化の検討(図13)」においては、5項目以上実施では「議論検討したことがない」が少なく、「長寿命化検討中」が多い傾向があった。「価値向上を目指した改修工事の実施(図14)」において、「実施したものはない」は、0項目実施では5割を超えるが、5項目以上実施では11%であり、活動項目数が多いマンションでは改修工事は比較的多く実施されている。 
このように、コミュニティ活動の項目数が多い方が建物の維持管理が良好に行われている傾向がみられた。コミュニティ活動が活発である方がしっかりとしたコミュニティが形成されている可能性が高く、合意形成や段取りにも影響を与えていると思われる。

高経年分譲マンションの管理組合ヒアリング調査結果

二つの老い(人と建物)とコミュニティ

管理組合アンケートの結果と同様に管理組合へのヒアリングにおいても、修繕や話し合いがきちんと行われている管理組合は、自治会との協力や周辺の管理組合・自治会との連携など、コミュニティが良好で、コミュニティと建物の維持管理には、一定の関係性があると思われる。しかし、人の老い、高齢化が、コミュニティ活動を低下させている事例もあり、コロナ禍をきっかけに拍車がかかっている。また、空室化や賃貸化といった区分所有者の非居住化により、コミュニティ活動や建物の維持管理のための合意形成に影響が生じる可能性もある。
建物の老いは、「物理的な劣化」と現代のマンションの基本基準に満たない「機能的・社会的劣化」(下図)があり、修繕工事だけでなく、バリアフリーのような高齢化に合わせた改修工事も必要になってくる。しかし、孤独死への対応や管理費・修繕積立金の未納の回収など、管理組合の役員の負担が増している。また、個人情報保護法が名簿の作成に影響し、災害時や孤独死の対応に支障をきたしたり、高齢を理由に断られる役員のなり手不足、輪番制の破綻の問題もある。

マンションの特徴と課題

大規模団地は、コミュニティ活動が比較的良好だが、複数の棟による合意形成の問題や高齢者には負担となるエレベーターのない階段室、立地に起因する空き住戸の増加といった課題がある。棟が異なると工法や仕様が異なる場合があり、修繕時の不平等が発生することもある。4~5階建ての中層建築物でRC壁式構造のため耐震性を確保できる例が多く、建替えへの切迫感が強くないので長寿命化が選択されることが多いが、建替えをしたくても立地条件に阻まれることもある。
小規模マンションの特徴は、集会室や共用施設がなく、管理組合員の人数が少ないため管理組合の役員が固定化されやすい。また、長期修繕計画が作成されていないことや、耐震性に不安があっても耐震診断が実施されていないことが多い。但し、少人数の区分所有者が全員顔見知りであるなど、合意形成を円滑に進めやすい面はある。
商業地域にあるマンションは、高層のため耐震性に不安があるものや小規模マンションも多く、立地の良さから賃貸化が進んでいるものもある。高層の大規模では、耐震改修を実施するのか、あるいは建替えの実現に向けて必要最低限の修繕にとどめるのか、管理組合の役員の中でも話が煮詰まらず方針が決まらないといった事例もあった。

まとめ

築40年以上の高経年分譲マンションにおいて、規模の大きなマンション、特に団地ほど耐震診断や長期修繕計画、修繕・改修工事が進んでいるが、小規模マンションでは遅れる傾向が見られた。また、コミュニティ活動が活発なマンションは、建物の維持管理が良好に行われる傾向がある。防災、防犯、緑化活動など管理組合が主体となる活動が多く、住民の協力が建物の価値向上や長寿命化につながる。しかし、高齢化や非居住化は、コミュニティ活動だけでなく、区分所有物であるマンションを適切に維持管理していくために必要な合意形成に影響を及ぼし、今後更に進むことが予測される。
人と建物の老いは確実に進んでおり、建物維持管理への合意形成に至るまでの段取りには多大な労力が必要となるが、高齢化はゆとりや余裕、気力、時には身体の自由を奪い、それらがないとコミュニティ活動すら難しい。コミュニティの良し悪しは、健全な建物維持管理の絶対条件ではないが、バロメーターともいえるのではないか。

佐藤貴之