都市とマンションの防災・減災

~どうすれば地震の被害を減らせるのか~

2025年09月04日 / 『CRI』2025年9月号掲載

CRI REPORT

目次

9月1日は防災の日。今年はトカラ列島近海地震など地震の発生が増えており、震度1以上の地震発生回数(全国)は、既に3,500回を超え(8月26日現在)、令和6年能登半島地震が発生した昨年1年間の3,678回を上回るペースとなっている。南海トラフ巨大地震、首都直下地震など、甚大な被害が生じる大地震の発生も懸念されており、地震への備えはしっかりと進めなければならない。 
本誌の昨年9月号では、マンションと都市の防災・減災をテーマとして、地震や水害(浸水被害・土砂災害)からの防災・減災に向けた取り組みをレポートした。また11月号では、災害対策を強化した分譲マンションの具体的な取り組みとして、水害対策、耐震改修、部分建替えの3つの事例についてレポートした。これらに引き続いてPart3となる今月号では、地震災害にテーマを絞り、発生する確率が高く厳しい事態になることが懸念される大地震の被害想定を見ながら、どうすれば地震の被害を減らせるのか、住宅・マンションの耐震化をはじめとする都市の防災・減災の方向性について考える。

南海トラフ地震の発生確率・被害想定と対策

駿河湾から日向灘沖にかけてのプレート境界の溝である南海トラフ沿いの地域においては、これまで100~150年の周期で大規模な地震が発生している。政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会における長期評価では、この地域におけるマグニチュード8~9クラスの地震の30年以内の発生確率は80%程度(2025年1月1日現在)とされている※1。また、南海トラフ沿いでは、1854年の安政東海地震・安政南海地震では約32時間の間隔で、1944年の東南海地震・1946年の南海地震は約2年間の間隔をおいて発生しており、時間差をおいて発生する地震(いわゆる「半割れ」)への対策も考慮する必要がある。 
南海トラフ巨大地震では、関東から九州地方にわたる広い範囲で強い揺れが発生し、巨大な津波が到達すると想定される。本年3月に示された最新の地震モデルによると、想定される震度分布は、神奈川県から鹿児島県までの主に太平洋側の広い範囲で震度6弱以上の揺れとなり、静岡県から宮崎県までの主に沿岸域の一部149市町村で震度7が発生する。また、福島県から沖縄県の太平洋側の広い範囲で高さ3m以上の津波が到達し、高知県黒潮町と土佐清水市では最大34mの津波、静岡県静岡市、焼津市、和歌山県太地町、串本町では1m以上の津波が最短2分で到達する。大阪市でも最大5mの津波が想定されている。震度6弱以上または津波高3m以上となる市町村は、31都府県の764市町村におよび、その面積は全国の約3割、人口は全国の約5割を占め、影響は超広域にわたると想定される(図表1,2)

その被害想定では、死者数約17.7万人~約29.8万人、うち建物倒壊による死者が約7.3万人、津波による死者が約9.4万人~約21.5万人、全壊焼失棟数が約235万棟と推計されている。
南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法に基づき2014年に策定された「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」が、本年7月1日、政府の中央防災会議において改定された。新たな基本計画では、「『命を守る』対策と『命をつなぐ』対策の重点化」を基本的方針として掲げ、『命を守る』『命をつなぐ』ために完遂すべき特に重要な施策については、特に重要な具体目標を定め、重点的にモニタリングを実施することで推進するとしている。
それによって、今後10年間で、想定される死者数を約29.8万人からおおむね8割減少、想定される建築物の全壊焼失棟数を約235万棟からおおむね5割減少させることを減災目標としている。
第一の具体目標である住宅等の耐震化については、耐震性が不十分な住宅・建築物について、補助制度等の周知や活用促進による耐震診断、耐震改修および建替え等を図り、推進地域で耐震性が不十分なものを2035年までにおおむね解消する目標としている。また、津波対策については、避難場所・避難経路の指定・整備のほか、安全な地域への住宅等の移転の促進など、津波に強い地域構造を構築するとしている。 ※1 P.3の首都直下地震の発生確率も同じ。

首都直下地震の発生確率・被害想定と対策

南関東地域では、相模トラフ沿いのプレート境界を震源とするマグニチュード8クラスの大規模な地震が200~400年の間隔で発生している。また、この大規模な地震の前に、浅い地盤やプレート内などを震源とするマグニチュード7クラスの地震が複数回発生している※2。102年前に発生した大正関東地震(関東大震災)は、プレート境界型の地震であり、このタイプの地震は当面発生する可能性は低いと考えられている一方、マグニチュード7クラスの地震は、どこで発生するかわからないが切迫性が高く、30年以内の発生確率は70%程度とされている。
関東大震災では、1923年9月1日11時58分に本震が発生し、12時1分と12時3分に「余震」が発生した。11時58分の本震は、相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9と推定される地震であり、12時1分の地震の震源地は東京湾北部でマグニチュード7.2、12時3分の地震の震源地は山梨県東部でマグニチュード7.3とされている。「余震」を含めて関東大震災と捉えられているが、12時1分の地震は、現在想定されている首都直下地震に近いものだったと考えられる※3。
首都中枢機能が集積し、人口や建築物が密集している首都地域で大地震が発生すれば、甚大な被害が想定されることから、2013年に首都直下地震対策特別措置法が制定され、首都直下地震緊急対策推進基本計画が策定された。また、東京都においても被害想定を策定しており、2022年5月に発表された「首都直下地震等による東京の被害想定」では、都心南部直下地震の場合、被害が最大のケースで都内の死者が6,148人、建物の全壊焼失棟数が19万4,431棟と推計されている(図表3)

東京都では、防災・減災対策による被害軽減効果を推計しており、耐震化率の向上による、揺れによる建物被害や人的被害の軽減効果のほか、家具等の転倒・落下防止対策実施率の向上、出火抑制対策の向上、堤防の耐震化や避難意識の向上による被害の軽減効果をそれぞれ推計している。旧耐震基準で建てられたすべての建物が建替えや耐震補強等の実施により1981年基準(新耐震基準)を満たした場合、揺れによる全壊棟数および死者数は現況より約6割減少すると推計され、さらに、2000年基準による耐震化が実現した場合、現況より約8割減少すると推計されている(図表4)

※2 元禄関東地震(1703年)から大正関東地震(1923年)までの220年間に8回発生。
※3 出典:武村雅之「関東大震災がつくった東京 首都直下地震にどう備えるか」(中央公論新社,2023年)

どうすれば地震の被害を減らせるのか

南海トラフ巨大地震や首都直下地震のほかにも国内で発生が心配されている地震はあり、また、地震の発生時刻や季節・気象条件などによっても様相は変わると思われるが、2つの地震の被害想定をもとに、戸建て住宅・マンションにおける対策を考えてみたい。
まず大事なのは、住宅・建築物の耐震性の確保である。各被害想定の中でも、建物の倒壊による死者数は大きな割合を占めている。また、建物の倒壊から火災が発生する場合もあり、建物が倒壊して中に閉じ込められれば、火災や津波から逃げることもできない。
戸建て住宅の場合、旧耐震基準(1981年6月の建築基準法施行令改正以前の耐震基準)の木造住宅であれば、地震で倒壊するリスクはかなり高い。築40年以上となる旧耐震基準の住宅は、断熱性能など耐震性以外の住宅性能も低い可能性が高く、リフォームで性能向上しようとしても、多額の費用が必要となったり、新築住宅のような性能を実現することが困難だったりするケースも少なくなく、建替えの方が合理的なケースも多いと考えられる。耐震性が不十分な住宅の解消を目指すには、建替えを促進することが第一の方策と考えられる。世帯人数の変化によって今までのような広い床面積が不要であれば、平屋建ての住宅に建て替えてバリアフリーを実現することも選択肢となり得る※4。
区分所有建物であるマンションの場合、耐震改修を行うにしても、建替えなどを目指すとしても、区分所有者の合意形成が必要となる。本年5月に成立・公布された改正マンション関係法(区分所有法・マンション管理適正化法・マンション再生円滑化法)によって、隣接地を取り込んだ建替えや、一棟リノベーションなど、新たな建替え・再生手法が可能となり、また、耐震性不足等のマンションを建て替える場合は、4分の3以上の多数決決議で実施できることとなった(2026年4月1日施行)。とは言っても、マンションの建替えは合意形成の難しさがハードルとなっており、建替えの実績件数は全国で累計323件(2025年3月31日時点)※5にとどまっている。
旧耐震基準のマンションであれば、まず、耐震診断を実施して耐震性の有無を確認することが必要といえるが、耐震診断を実施して耐震性を確認または耐震改修した旧耐震マンションは2割程度にすぎないと推定される※6。診断を実施して耐震性不足が判明しても、耐震改修などの実施に至っていないケースや、部分的な耐震改修にとどまっているケースもみられる。耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)により耐震診断が義務付けられているケースでも、耐震改修に対する強制力はない。また、耐震診断が義務付けられるのは緊急時の避難路として指定された幹線道路に面した一部のマンションにすぎない。耐震性が不十分な住宅の解消を目指すには、すべてのマンションに対する耐震診断の義務付けなど、より強制力のある方策も必要と考えられる。
耐震改修や建替えによる住宅の耐震化が必要としても、資金不足などで実現できない場合はどうすればよいのか。南海トラフ地震防災対策推進基本計画には、本格的な耐震改修等を行えない場合でも地震からのリスクを低減するための方策として、段階的又は部分的な耐震改修工事の実施、耐震シェルターや耐震ベッド等の導入等と記載されているが、本稿では、「住み替え」という選択肢についても考えてみたい。
築年数が経過した住宅では、居住者の高齢化も進んでいく傾向があり、子どもが親元を離れて広い住宅の必要性が薄れてからも、そのままの住宅に住み続けている場合が少なくない。戸建ての持ち家であれば、このような住宅を処分して、よりコンパクトで安全性が確保された住宅に移り住むことによって災害のリスクを減らすとともに、生活利便性などを考慮した居住場所の選択が実現できると考えられる。戸建て住宅からマンションに住み替えれば、バリアフリーや温熱環境など、耐震性以外でも生活の安全性が向上するメリットが考えられる。また、処分された住宅や土地は、安全性を確保したうえで子育て世帯向けの住宅・土地として提供されれば、住宅ストックの循環が進み、アフォーダブルな住宅の供給につながる可能性もある。このように、ライフステージに応じた住み替えが促進されれば、都市全体としての安全性の向上と、より豊かで安心した住生活の実現に寄与すると考えられ、また、都市のコンパクト化など、住宅の立地の誘導も促進されると考えられる。
※4 平屋建てにすることによって水害など災害時のリスクが高くならないかについてはハザードマップなどで確認が必要。
※5 阪神・淡路大震災、東日本大震災および熊本地震による被災マンションの建替え(計115件)を除く件数。国土交通省調べ。
※6 国土交通省「令和5年度マンション総合調査」のアンケート調査結果より推計。

マンションの耐震改修に対する意識

区分所有建物であるマンションでは、耐震改修の場合でも区分所有者の合意形成が不可欠であるが、全国に約100万戸存在する旧耐震基準のマンションの居住者の意識はどうなのか。長谷工総合研究所では、横浜国立大学、東京都立大学などとの共同研究として、東京都内および横浜市内の高経年分譲マンションの実態調査を行っており、これまでの調査の中から、耐震改修に関する区分所有者・居住者の意識調査の結果を紹介する※7。
この意識調査は、調査対象とした各マンション管理組合の協力を得て、マンションの全住戸にアンケートを配布し、その回答を集計したものであり、そのうち区分所有者(親族が所有を含む、以下同じ)である居住者の回答結果をまとめた。なお、旧耐震基準のマンションにおける耐震診断や耐震改修の実施の有無については、各マンション管理組合へのヒアリングに基づき、❶耐震診断を実施し耐震性があると判定された、❷耐震改修を実施した、❸耐震診断を実施し耐震性がないと判定されたが耐震改修を実施していない、❹耐震診断を実施していない、の4つに分類した※8。
回答結果から耐震改修の必要性に関する意識を見ると、❸の「耐震性がない」マンションでは、「耐震改修が必要」の回答は3割強であり、❹の「耐震診断していない」マンションでは、「耐震改修が必要」の回答は1割程度にすぎない(図表5)

また、世帯主の年代別で回答をわけてみると、年齢層が高くなるほど「地震の不安はあるが今のままで仕方ない」の回答割合が増加する傾向がみられた(図表6)

耐震改修促進法により、区分所有建物の耐震改修は過半数で決議できる規定があるものの、必要との意識がこのような割合であれば耐震改修も実施することができない。耐震性のない区分所有マンションを早期に解消するためには、区分所有者に対する的確な情報の提供とともに、居住者の意識を高める手立てが必要であり、デジタル技術の活用も含め、その方策を考えていく必要があるのだろう。
※7 横浜市内は横浜国立大学、一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団と長谷工総合研究所の共同研究、東京都内は東京都立大学、一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団と長谷工総合研究所の共同研究として実施。東京都内(渋谷区・世田谷区・多摩市・町田市・八王子市)および横浜市内の高経年マンション(計68件、うち旧耐震49件)の区分所有者・居住者に対するアンケート調査。実施期間:2018年2月9日~2023年9月29日。
※8 旧耐震マンション49件の住戸数合計7,238戸、配布件数7,220票、回答件数2,359票、平均回答率32.7%。非居住の区分所有者は一部のマンションのみ調査票を配布。図表5上段・図表6は区分所有者で居住者の回答を集計。❶~❹のマンションの内訳は、❶10件、❷9件、❸10件、❹21件。

〈Interview〉 災害に強いまちづくりについて

高見沢 実たかみざわ みのる

横浜国立大学名誉教授
昭和33年(1958年)生まれ。1981年東京大学(工学部都市工学科)卒業。1986年東京大学大学院博士課程(都市工学専攻)単位取得退学。1986年横浜国立大学助手。1989年8月より1996年3月まで東京大学講師・助教授。1996年4月より2024年3月まで横浜国立大学助教授・教授。2024年4月横浜国立大学名誉教授。

●密集市街地の不燃化の進捗状況について

「首都直下地震等による東京の被害想定」を読むと、都心南部直下地震の場合の「風速が8m/秒・冬季・夕方」の想定被害が最大で、死者数6,148人。その内訳は「揺れ/建物倒壊等」が3,209人、「火災」が2,482人などとなっています。一方、「早朝」の場合は死者数5,879人、内訳は「揺れ/建物倒壊等」が4,916人、「火災」が671人など、阪神・淡路大震災の被害に近い。このように、いろいろなシミュレーションでも火災より揺れ・建物倒壊による死者の方が多くなっています。約100年前の関東大震災の火災イメージも重要なのですが、消防法や建築基準法などにより耐火性能が上がってきて、市街地大火の発生件数は減少してきました。東京都では、市街地の燃えにくさを示す指標である不燃領域率70%以上を目標にしていますが、都内の木造密集市街地でも、この目標値を上回る地域が増えつつあります。密集市街地の道路を拡幅するにはすごく時間がかかりますが、建物が建て替わって自然更新が進んでいるので、不燃領域率(都市の不燃化)はかなり向上してきたと言っていいと思います。
以前は密集市街地は撲滅すべきであるといったイメージが強かったと思うのですが、下町的な路地の風情や木造の良さといったよい面も結構あって、若い人たちにも好まれる街並みが再生されています。生活空間や緊急時の避難路として最低限必要な生活道路がない場所では、延焼の原因になる市街地の状況を改善する対策が必要ですが、路地の特性を生かして設計するとか、スポット的な空地をどう設けるかとかを考えてやっていくべきだと思います。高齢化が進んでいる地域では、若い世代が入ってこられる住宅の供給を進め、総合的にみて防災対策になるような広い意味でのまちづくりが私たちの仕事だと思っています。
地震災害に備えて、やるべきことはまだあると。しかし、そのやるべき内容は、様変わりしてきたのではないかと思っています。

●建物の耐震化について

 市街地大火への対策が進んできた一方で、やはり一個一個の建物がしっかりしていないといけない。阪神・淡路大震災や能登半島地震の例を見ても、単に建物倒壊で人が亡くなるということだけではなくて、全壊あるいはそれに近い住宅の多くが取り壊さざるを得なくなって、住む場所がなくなってしまう。避難所、仮設住宅、公営住宅もたくさん必要という負の循環になっています。家を修繕して使い続けられれば、元の生活体験との連続性を断ち切らずに住めるわけで、それが次に繋がる。復興事業の規模を小さくできる。そこは非常に重要だと思っています。
 首都直下地震の被害想定で使われた過去の地震による計測震度と全壊率の相関曲線のグラフを見ると、木造・軟地盤の場合、震度7では1980年築以前の建物の全壊率は9割以上、1981~1990年築でも6割くらい。2001年築以降で2割程度となっています。非木造の場合は、1981年築以降の建物の全壊率は2割ですが、1980年築以前の場合は5割前後。やはり1981年以前の旧耐震基準の建物は危ないってことですが、木造の場合には、2000年基準が重要ということです。東京では仮設住宅を建てる土地がないほか、避難所は何とかなるとしても人が多い。そのような想定の中で、建替えや耐震補強によって自分の家の耐震性を確保する。その積み重ねによって市街地大火に対する安全性も高くなる。そういう意味では、これが本当に基本中の基本と、最近は思っているところです。

●高経年マンションの調査の中で感じたこと

高経年マンションの調査の中では、マンションの耐震性をいかに客観的にきちんと捉えるかが重要と感じました。郊外型の中層の団地の場合には、旧耐震基準の建物でも壁式構造で耐震性があり、使い続けていけるものが多いと感じた一方で、市街地型の高層マンションでは、耐震性がとても低いものが結構あり、対策も簡単ではないということを痛烈に感じました。
では、どうするかと言った時に、100点満点の対策ではなくても、当面問題なく暮らせる方策や、今後はマンションの再生方法のオプションも広がると思うので、多様な手法や筋道により再生し得るということを現場で話を聞かせてもらってよかったと思います。
また、高経年マンションはそれ自体どうするかというのはもちろん重要なのですが、それが市街地の中にあって、地震で倒壊した場合には、外部に対するリスクになるということもきちんと評価が必要です。緊急輸送道路に面したマンションはもちろんですが、隣地に寄りかかる場合でも、このような状態があちこちで発生すれば当面それを除却する作業ができない可能性があり、相当なリスク要因になると考えられます。区分所有のマンションは個人の所有物だけれども、公共性が高く、こういうリスクがあると。それによって不利益が高い確率で起こりうる場合には、行政がもっと強力に働きかけるような仕組みにして、リスクを回避しなければいけないということを、課題として強く考えないといけないと思います。

●更新のメリットが実感できる環境が大切

都市の防災・減災に向けた取り組みとして、定量指標は重要で、それを「何年以内に何割減らす」との目標も大切ですが、それを繰り返し評価し直し、より精度を上げていくことが必要なのだと思います。また、建物の更新によるメリットが実感としても感じられるよう環境を整えることで、更新へのモチベーションが高まってくる、というストーリーを粘り強く描き続けることが大切だと思います。

まとめ

今回のレポートでは、地震災害にテーマを絞って、都市とマンションの防災・減災対策の現状と方向性を示した。津波による浸水地域以外では、建築物の被害が地震による死傷者発生の主要因となっており、さらに、出火・火災延焼、避難者の発生などの被害拡大の要因となることからも、住宅等の耐震化は極めて重要である。一方、地震災害のほかにも注意が必要な災害は多い。特に今の季節に起こりやすい大雨や暴風による風害・水害(浸水被害・土砂災害)のほか、火山の噴火による災害など、自然災害が多い地域に私たちは住んでいる。巨大地震の発生が火山の噴火を誘発する可能性もあり得る。自然災害の発生を食い止めることはできなくても、自然災害から命を守り、被害を減らすためにできることは何か。徹底的な事前の防災対策を、いかに強力に進めるかであり、そのための意識が重要といえる。良好なコミュニティの形成も防災意識の醸成に通じるものである。都市とマンションの防災・減災に向けて、実効性のある取り組みがさらに進んでいくことを期待したい。(青木伊知郎)