首都圏で起こる雪害へのマンション管理と対策を考える

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前編では、気候変動によって、雪氷災害がどのように変化すると考えられているかについて取材しましたが、後編では実際にマンションで起きやすい雪害について防災科学技術研究所 雪氷防災研究センターの中村一樹センター長と都内のマンション管理担当者と管理組合員にも話を聞きました。

「平成26年の大雪」では、関東甲信地方のあちこちで最深積雪深の記録が塗り替えられましたし、東京都内でも雪崩が起きました。長年、雪の研究に携わっていますが、関東地方であれほど多くの雪崩が発生したのは見たことがありません。東京都、神奈川県、埼玉県、群馬県、栃木県に山梨県も含めた山間部で数えきれないくらい多数の雪崩が発生していました。

 

関東には雪国のような雪崩に備える防護柵が整備されておらず、除雪車も台数に限りがあり、大雪や雪崩で交通網が寸断されると、長期間の孤立を招くこともあります。さらに、電線網にも影響があると暖を取ることができなくなるかもしれません。新しいマンションならば普段の暖房はエアコンだけで十分かもしれませんが、電気以外の暖を取れるものがあるといざという時に心強いでしょう。

 

最近はリモートワークもできますし、交通機関もあらかじめ運休することも多い。大雪の時は外には出ないで、やり過ごすことが重要です。孤立した時のために、やはり最低3日分の食料や水、生活必需品などはご家庭で備えておくべきだと思いますね。

防災科学技術研究所雪氷防災研究センター長 中村一樹さん。防災科学技術研究所(以下防災科研)雪氷防災研究センターは、吹雪や雪崩、集中豪雪などの雪氷災害に焦点を当て、災害への備えや予測、対応、さらには迅速な復旧方法に関して研究。防災科研本部は茨城県つくば市にあるが、雪氷防災研究センターは新潟県長岡市と山形県新庄市に研究拠点を置いており、長岡では北陸の湿った雪が原因となる災害や、特に気象レーダー等を用いた雪のセンシングや数値シミュレーションの研究に力を入れている。新庄では東北地方のような乾いた雪の地域で発生する災害の研究や、人工降雪機能を備え、夏でも冬の環境を再現できる雪氷防災実験棟で実験を行っており、世界的にも珍しい為、ヨーロッパからも研究者が訪れます。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

落雪も見逃せません。高層マンションや一般の住宅では、屋上やベランダに雪が積もり、それが落下することで大きな被害が発生することがあります。歩いているは、滑ることに気を取られてしまいがちですが、上からの落雪も十分に警戒する必要があります。

高い建物から落ちる雪は特に危険で、そのダメージは甚大です。マンションベランダの雪などはしばらく留めておいて、とけるのを待つなどの対策が必要です。間違っても下に落としてはいけません。雪国の住宅では、雪が落ちにくい構造になっている場合もありますが、それでも毎年、死者が発生しており完璧な対策はありません。雪に慣れていない地域の方は特に注意が必要だと思います。

 

 

平成5年から令和3年までの自然災害による死者・行方不明者の経年変化

降雪時の対策としては駐車場などの歩く場所は歩行できるように雪かきが必須です。傾斜のある場所や、雪が踏み固められて凍結している場所が特に危険です。この際に、雪をとかそうとして安易に水を撒くと、その後で再凍結するリスクがあります。原則は雪を通行の妨げにならない場所に寄せておき、日中の気温でとけるのを待つことになるでしょう。

 

ただし、雪解け水が夜間に再凍結することもあるので注意が必要です。比較的温暖な北陸地方などの雪国では、消雪パイプで地下水を流すなどして雪が溜まらないようにする方法がありますが、雪が時々しか降らない太平洋側の地域では、導入コストを考えれば難しいでしょう。やはり、凍結防止剤を降雪前に撒くことなどが基本的な対策になると思います。

 

マンション生活においては水道管や給湯器の凍結も大きな問題です。2023年1月にも、北陸地方などで水道管や給湯器の凍結や水道管の破裂などによる断水が数多く大規模に発生しました。マンションの建物や設計の違いによって凍結リスクも変わります。給排水管が外に露出している部分が多い建物は特に、凍結防止対策を講じる必要があります。

 

また、給湯器などの設備に関しては、取扱説明書や専門家の意見を参考にして、適切な対応を取りましょう。指標としては氷点下4度を下回ると凍結が起きやすいといわれていますので、ひとつの指標になるでしょう。ちなみに凍結した水道管を解凍するために熱湯をかけるのは水道管の破裂につながるので厳禁です。凍結した部分にタオルをかけてぬるま湯で解凍します。

じつは首都圏の雪は予報が難しく、微妙な気温の変動で雨か雪かが変化します。天気予報で雪の予報が出ていたのに実際には雪が降らないことがよくありますが、予測が困難で、準備や対応の遅れが懸念されています。気候変動によってこれまで考えられなかった災害が起きると考えられています。停電や断水、交通の麻痺など、雪による影響は多岐にわたりますので、我々も研究を続けるとともに、集合住宅に住む方にも十分に対策していただきたいです。

管理会社が語る雪害対策。重要なのは「居住者と管理会社の連携」

 

都内で不動産管理業務を手掛けるある管理会社の担当者に、雪害に対する取り組みについて聞きました。

まず、前提として弊社では管理組合との管理委託契約には「大雪や雪害への対応」は業務に含まれません(何か被害が生じても免責事項です)。とはいえ、都内で大雪が降ると住民生活に著しい影響が出るので、居住者の生活に直結する動線の確保などは行います。これには、エントランスや共有廊下の除雪、融雪剤の散布、などが含まれます。

また、大雪への備えや注意喚起を張り紙などで掲示することも。特に、マンションの駐車場が自走式の場合は入り口付近にスロープがあるため、雪が降ると車が上に戻せなくなることがあります。そのため、雪の予報がある際には、住民の皆さんには外部の駐車場を借りるように告知を行っています。その他、歩行時の転倒防止、水道管の凍結対策についての情報を提供しています。

担当しているマンションは、東京都内のなかでも雪が降りやすい環境にあります。過去には、凍結や水道管の凍結破裂の被害もありました。ですが、やはり雪国ほどには降雪に慣れていないためトラブルへの対応に限界があると感じます。安全の確保や被害拡大を防ぐ意味では、より明確な対策と住民の皆さんとのコミュニケーションが必要になると感じています。これは、地震など他の災害に対する対策と同様に、現場の工夫だけではなく、管理会社全体での応援や対策を考えるべきなのかもしれません。

都内大規模マンション居住者に聞いた、雪害対策の実情

 

都内のあるマンション管理組合員に大雪への対応について聞きました。
※前出の管理会社とは関連しません。

我々のマンションは東京都江東区内の立地に約350世帯が住んでいて、築年数は10年以上です。大雪の対策として、管理組合として特別な決め事があるわけではありません。委託している管理会社が通常清掃の範囲内で入り口周りの動線を確保する程度です。駐車場も同様に、雪かきや雪を避ける程度の対応がされます。
管理組合としても、大雪に限らず、天候に関して特別な対応を取ったことはありません。実際、建物のエントランス周辺の雪かきをしてもらっていますし、それ以外の生活動線に雪が積もることは建物の構造上ありません。

凍結することもありますが、表玄関と裏玄関の両方に通路があるため、滑って危ないと感じることは多少ありますが、人の出入りが多く、翌日の昼頃には大抵解けています。我々の住む都内では雪が降っても翌日には温度が上がり、おおかた解けてしまうので、これまでのところ大雪の際、長時間にわたって生活に支障をきたすことは少ないです。

大雪での停電や水道管の凍結破裂への対策は特にしていませんが、停電時のエレベーター運用のためのディーゼル発電機が用意されています。ただし、消防上の問題もありガソリンの備蓄には限界があるので、大雪で長時間の停電などが発生した時のことを考えると心細いものはあります。

記事前編では、気候変動がもたらす大雪被害について取材しています。

 

 

 

取材・文:小野 悠史

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。

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