2026年マンション市場はどう変わる? 金利上昇・政権交代が与える影響とは

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE

2025年も引き続きマンション価格は高騰を続け、都心部では新築・中古ともに一般的な収入の世帯には手が届かない水準に達しています。不動産コンサルタントの長嶋修さんに2026年マンション市場の展望を聞きました。

――東京23区の新築マンションの平均価格は1億5,000万円を超え、首都圏全域でも1億円前後になっています。中古マンションも、首都圏では5年以上価格が上がり続けていますが、なぜここまで価格が高騰しているのでしょうか?

 

長嶋修さん(以下、長嶋):2012年の民主党から自民党への政権交代、そして2013年のアベノミクス、黒田バズーカによる低金利政策を機に株価が上昇し、それに連動するように、立地の良いマンションは十数年にわたって価格が上がり続けています。

 

一方、新築マンションの供給戸数は減少しているため、市場規模でみれば縮小傾向にあります。マンション自体の単価ももちろん上がっていますが、供給されるのが好立地中心となっていることが平均価格を押し上げている大きな要因です。

 

2020年にはコロナ禍で不動産バブルが崩壊するのではないかといわれていましたが、蓋を開けてみれば、緊急事態宣言以降、もう一段の価格上昇がありました。昨今の価格上昇は、結局、日経平均株価が上がっていることによるものだと思います。新築マンション価格が上がり、供給エリアも絞られているため、価格上昇の波は中古マンションにまで波及しています。

国土交通省より、不動産価格の推移を表した図

▲マンション価格は2013年から上がり始め、コロナ禍以降は加速している
出典:国土交通省「不動産価格指数(令和7年7月・令和7年第2四半期分)を公表~不動産価格指数、住宅は前月比 0.1%減少、商業用は前期比 0.6%増加~」より

――2025年は、首都圏でいえば東京23区以外の東京都下や、埼玉・神奈川・千葉では中古マンションの価格上昇が鈍化しているようにも見えます。新築マンションも、東京23区が頭一つ飛び抜けている価格ですが「好立地」のマンションの需要がこれほどまでに高い理由は?

 

長嶋:都心5区や6区など立地の良いマンションは、一般的な収入の世帯には手が届かず、一部の高所得者や国内外の投資家、富裕層などが主な購入層になっています。たとえば相続税対策でマンションを選ぶときに、1億5,000万円なのか1億6,000万円なのかは大きな問題ではありません。投資家も値上がりを見込んで購入するため、価格は二の次。外国籍の方もこれだけの円安ですから、相場より高かったとしても相対的な割安感が勝るでしょう。だからこそ、都心のマンションは価格が上がりやすいわけです。

 

都心以外でも、立地が良いエリアは価格が上がっていると思いますよ。ただ23区に住めず都下や他3県で検討するとすれば、駅からの距離にはよりシビアになりますから「駅近」の優位性は高いでしょうね。

 

 

――2025年はマンション「価格」の上昇だけでなく「賃料」の上昇も目立ちました。都心部の賃料については「危険水域」という報道も見られますが、賃料が急騰した理由は?

 

長嶋:理由は大きく二つあると思います。一つは、マンション価格があまりにも高くなりすぎたので、賃貸住宅の需要が上がっているということ。そしてもう一つは、昨今のインフレです。この30年ほどは、賃料は年月が経つにつれて下がっていく、下げていくものだというマインドになっていたわけですが、近年は修繕費や人件費など賃貸経営に関わるあらゆる費用が上がっています。「今の賃料水準ではやっていけない」「周りの賃料も上がり始めている」ということで、今年、家賃上昇のトレンドが明確になり始めたのだと思います。

さくら事務所の不動産コンサルタントの長嶋修さんが2026年のマンション市場を解説する画像

▲不動産コンサルタントの長嶋修さん。1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現会長。2008年にはNPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、理事長に就任する。2018年、らくだ不動産の会長に就任(現顧問)。さまざまな活動を通して中立な不動産コンサルタントとしての地位を確立するとともに、国土交通省や経済産業省などの委員も歴任する。著書に「マンションバブル41の落とし穴(小学館新書)」他、著書・メディア出演多数。NHKドラマ10「正直不動産」監修。 X:@nagashimaosamu YouTubeチャンネル:長嶋 修の「日本と世界の未来を読む」大人の再教育。本物の教養があなたを変える。

――2025年10月に高市政権が発足し、日経平均株価は一時5万円を超えました。2026年の株価、そしてマンション価格はどうなっていくとお考えでしょうか?

 

長嶋:マイナス金利政策の解除、そして複数回の利上げもありましたが、まだまだ日本は他国と比べて著しく低い金利です。昨今の株やマンション、ゴールドなどの価格上昇は、資産の価値が上がっているというより「お金の価値が下がっている」と見たほうが正しいかもしれません。

 

今後、日本銀行が利上げして0.25%や0.5%程度、金利を上げたくらいでは、相変わらずモノの価値が高く、マネーの価値が低いという構造は変わらず、むしろ進行していくと思います。日経平均株価が5万円、6万円……という水準になっていくのであれば、都心・大規模・タワーといったマンション、そして郊外も駅前・駅近のマンションはもう一段価格が上昇する余地があります。

 

 

――高市政権は外国人による土地取得規制についての議論に入っているとの報道もあります。また千代田区はすでに、不動産協会に新築マンションの転売規制を要請しました。こうした過度な不動産価格上昇を抑制するための規制についての考えをお聞かせください。

 

長嶋:千代田区の転売規制は、市場に大きなインパクトを与えるものではないと考えます。投機的な購入の一部は抑制されるかもしれませんが、それで火消しができるほど需要は薄くありません。また「国民ファースト」「住人ファースト」の政策は善し悪しではなく、結局はポリシーの問題です。もちろん国防上重要な土地などの取得は規制すべきでしょうが、投資ファーストにしてお金を呼び込むメリットもあるはずです。

 

やることがあるとすれば「空き家税」ではないでしょうか。投機的な購入が行き過ぎてマンションの半分が空室になってしまうようなことは避けなければならないでしょうから、所有者か賃借人が居住することを前提とする程度の規制が落とし所かもしれません。

 

過去記事「止まらないマンション価格高騰。千代田区の“転売規制”は流れを変えるのか?」では千代田区の転売規制を詳しく紹介

国土交通省より、国外に住居がある者による新築マンション取得状況を地域別に表した図

▲国外に住所がある者による新築マンション取得の状況を見ると、都心6区を平均した割合が、東京23区全体の割合と比べて高くなっている
出典:国土交通省「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引実態の調査・分析について」より

――まだまだ低金利とはいえ金利上昇の機運が高まっています。住宅ローンの金利タイプはどのように選べばいいでしょうか。

 

長嶋:安定を求めるのであれば固定、金利の安さを優先するなら変動ということになりますが、変動金利を選ぶとすれば戦略的に組む必要があるでしょう。とはいえ、日本銀行は政策金利を1%、2%上げられる状況には到底ありません。明らかにインフレが進行しているにもかかわらず利上げに踏み切れないのは、国債が消化できなくなることを恐れてのことだと思います。

 

よほど景気が良くならない限り、当面は変動を選んでおけば問題ないと私は思います。もちろん、ある程度余裕のある返済計画を組んでおく必要はあるでしょうね。

 

過去記事「マンション価格高騰の今、住宅ローンの組み方と『現実的なマンション』の選択をプロが指南!」では自分に合ったマイホームとローンについて紹介

 

 

――2025年には返済期間35年を超える「超長期住宅ローン」を扱う金融機関が増えました。またフラット35は融資限度額の引き上げを検討しているということですが、住宅ローンを長く、多く借りることによるリスクはありますか?

 

長嶋:住宅ローンの返済期間は、50年でも80年でもいいと思います。ただし、その前提は購入した不動産の価値が落ちないことです。返済期間が50年であっても完済年齢は同じですから、超長期の住宅ローンは若い方向けの商品です。若い方は社会人になってからデフレを経験していませんから、長く、多く借りることにも抵抗がないのだと思います。都心部でなくても、価値が落ちにくい不動産を選ぶことは十分可能です。物件さえよく吟味すれば、超長期の住宅ローンも問題ないのではないでしょうか。

 

過去記事「『50年住宅ローン』を扱う住信SBIネット銀行に聞く、後悔しない住宅ローン選び」では“超長期”住宅ローンの概要などを紹介

――2026年おすすめのエリアは?

 

長嶋:都心のマンションがこれだけ高騰しているため、2025年は「セカンドベスト」のエリアの需要が上がりました。セカンドベストとは、ベストな立地に次ぐエリアです。具体的には、首都圏でいえば都心5区や6区を除く東京23区の駅徒歩10分圏内、都下・千葉・神奈川・埼玉の中でいえば国道16号圏内かつ駅徒歩7分圏内程度のエリアです。

 

ただこうしたエリアもかなり価格が上がっていますから、2026年は「サードベスト」のエリアも注目されるのではないでしょうか。ざっくりとですが、東京23区なら駅徒歩15分〜バス便のエリア、都下や他3県なら駅徒歩10分圏内程度が、セカンドベストに次ぐエリアになってくると思います。

 

 

――エリアではなく「築年数」を妥協するというのも選択肢になってくると思いますが、築古マンションを購入するときの注意点を教えてください。

 

長嶋:築年数はあまり関係ないと思います。現在「築古」とされるマンションは一昔前と比べて品質が高く、デザインや間取りも今のマンションとあまり遜色ありません。また、どのような築年数のマンションでも、大事なのは建物の「コンディション」です。たとえば、築20年で修繕積立金がまったくないマンションと、築40年でもこれまでしっかり維持・管理されてきて、修繕積立金もしっかり貯まっているマンションとでは、築40年のマンションのほうが持続可能性は高いと思います。

 

耐震性についても、建築時期だけでは判断できません。地盤が弱い新耐震のマンションと地盤が強い旧耐震のマンションでは、後者のほうが大規模地震発生時の被害が少ない可能性もあります。築年数はあくまでマンションのひとつの条件に過ぎないので、相対的な安全性や持続可能性を見て選んでいただきたいですね。

さくら事務所の不動産コンサルタントの長嶋修さんが2026年のマンション市場を解説する画像

▲バランス感覚を重視した物件選びを常に意識したい、という長嶋さん

 

取材・文:亀梨奈美 写真提供:さくら事務所

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.マンション価格が著しく高騰している都心部は、今後どのようなエリアになっていくのでしょうか。
A.長嶋:普通の人は住めなくなるということですよね。ただ、普通の人が都心部に家を持てていたのは、ここ25年程度の話です。戦後から高度経済成長期を経て90年代にバブルが崩壊するまでは、一般的な会社員が東京23区内に家を持つということはほぼありませんでした。「ボーナスタイム」が終わっただけ、とも言えます。