新たな住生活基本計画が目指す未来

~2050年に向けた住まい・まちづくりの方向性~

2026年03月31日 / 『CRI』2026年4月号掲載

CRI REPORT

目次

住生活基本法に基づき、国民の住生活に関する目標や基本的な施策を定める、新たな住生活基本計画(全国計画)が決定された。

5年ぶりに改定された今回の計画は、2026年度から2035年度までの10年間を計画期間としつつ、2050年を見据えた計画となっており、四半世紀先に目指す住生活の姿を示した、これまでにない新しい形の基本計画となっている。生産年齢人口の減少、単身世帯の増加、相続住宅の増加といった今後の社会経済情勢を見据えて、ニーズに応じた住宅を確保できる循環型市場の形成や、既存の住宅・住宅地の有効活用、分野横断的な連携による居住支援の充実、住宅市場を支えるあらゆる主体の連携・協働などの基本的な方針が示されている。

今月号のCRIレポートでは、この住生活基本計画案を取りまとめた国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会の大月敏雄分科会長(東京大学大学院工学系研究科教授)へのインタビューとともに、新たな住生活基本計画の内容を紹介する。(青木伊知郎)

住生活基本法と住生活基本計画

住生活基本計画は、2006年に制定された住生活基本法に基づき、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画として定められている。住生活基本計画には全国計画と都道府県計画があり、全国計画は、「国民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画」として政府が策定し、都道府県計画は、「都道府県の区域内における住民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画」として各都道府県が策定する。政府が策定する全国計画は、10年間を計画期間とし、2006年9月に閣議決定された当初の計画以降、おおむね5年ごとに変更されてきた。前回の計画は、2021年度から2030年度までを計画期間として、2021年3月に閣議決定されている。今回改定された計画も、計画期間としては2035年度までの10年間であるが、その先の将来の姿として、2050年に向けた方向性を示した新しい計画となっている。なお、住生活基本法の制定以前は、1966年に制定された住宅建設計画法に基づき、住宅建設五箇年計画が8次にわたり策定され、公的住宅の建設戸数の目標や、最低居住水準・誘導居住水準〈注1〉などの数値が定められてきた。

〈注1〉「最低居住水準」は、3期五計(1976)に初めて定義されて以来、すべての国民が確保すべき水準とされ、主に、公営住宅等の公的支援のメルクマールとなった。3期五計~4期五計(1981)では「最低居住水準」と「平均居住水準」、5期五計(1986)以降は「平均居住水準」を改め「誘導居住水準(都市居住型・一般型)」が設定された。2006年に策定された住生活基本計画では、従来の五計の水準面積を基本としつつ、健康で文化的な住生活の基礎として必要な住宅の面積に関する水準として「最低居住面積水準」と「誘導居住面積水準」が設定され、前回の計画(2021)まで居住面積水準が継続されてきた。今回の住生活基本計画の改定により、世帯人数に応じた住宅の面積に関する水準として、50年間にわたって定められてきた「居住面積水準」は、姿を消すことになった。

住宅:住生活基本計画(全国計画) - 国土交通省

新たな住生活基本計画の基本的な考え方

2050年の日本社会においても、住まいが「生活の基盤」であることに変わりはないだろう。一方、2050年に向けて、総人口が減少し続ける中で、生産年齢人口の減少の加速、単身世帯なかでも高齢単身世帯の増加といった大きな変化が見込まれる(図表1)。これまで当たり前に捉えてきた住生活のニーズが変化し、住宅市場が前提としてきたものが大きく変容することになる。

2025年4月からすべての新築住宅に省エネ基準適合が義務付けられ、新築住宅の質誘導の枠組みが概成した一方、既存住宅の維持管理、流通の市場環境整備はいまだ不十分な状況である。新築から維持管理を通じた住宅の質の評価方法やそれを支え誘導していく住宅金融の仕組み等は、今後の課題であるとともに、「住宅政策の伸びしろ」であると考えられている。

また、新しくまちをつくる、つくりかえるための仕組みは存在する一方、今後大量に相続空き家が発生すると見込まれる既成住宅地において、空き家を適切に流通させ、若者・子育て世帯の住宅として活用する手法の整備はこれからの課題となっている。

住宅セーフティネットの機能強化については、昨年スタートした居住サポート住宅の普及をはじめ、分野横断的な連携による「気づき」と「つなぎ」のある居住支援の確保を通じて、総合的かつ包括的な居住支援を実現していくことが重要な課題である。

さらに、これらの取組や住宅市場を持続的に支えていくためには、生産年齢人口の減少等に伴う担い手の減少を悲観するのではなく、デジタル技術も活用しながら、あらゆる主体で連携・協働していく枠組みの構築が求められている。

このような近年の状況とこれから2050年までに想定される変化を踏まえ、新たな住生活基本計画では、「市場機能の進化を通じた住宅ストック価値の最大化」と「人生100年時代の住生活を支える基盤の再構築」によって、国民それぞれの暮らし・住まいのWell-beingを満たす(多様なライフスタイルに応じた住生活の幸福度を高める)政策を本格的に推進するとしている。

2050年に向けた主な取組方策として、①ニーズに応じた住宅を適時適切に確保できる循環型市場の形成、②インフラ・居住環境の整った既存の住宅・住宅地の市場を通じた本格的な有効活用、③分野横断的な連携による「気づき」と「つなぎ」のある居住支援の充実、④既存住宅を最大限に活用する持続的な住宅市場を支えるあらゆる主体の連携・協働の推進、の4つを提示している。

新たな住生活基本計画の目標と基本的な施策

新たな住生活基本計画では、「住まうヒト」「住まうモノ」「住まいを支えるプレイヤー」の3つの視点から2050年を見据えた11の目標が設定された。2050年に目指す住生活の姿を示した上で、それぞれの目標の達成のために当面10年で取り組む施策の方向性が示されている(図表2)

これに基づく施策例として住生活基本計画に列挙された具体的な施策の中から、注目すべき施策をピックアップして紹介する。

  • 現役世代の住宅取得者に対して、高齢期に備えた住替えを円滑化する住宅ローンや高齢期の返済負担の軽減が可能な住宅ローンの提供の推進(目標1)
  • UR団地等における、子育て世帯が利用しやすい共用空間等の整備、子育て世帯向けのソフト施策の提供等の子育てしやすい住環境の整備、子育て世帯の優先入居等の推進(目標2)
  • 相続空き家やその予備軍(将来的に空き家となるおそれのある住宅)等の円滑な市場流通等を促すための機運醸成(目標2)(目標4)
  • 相続空き家やその予備軍等の早期活用に向けた所有者及び取得者に対する支援の推進並びに更なる促進策の検討(目標2)(目標4)(目標8)
  • PPP/PFIを通じ、複数の地方公共団体が連携した取組も含め、民間事業者のノウハウを導入した公的賃貸住宅の整備、管理・運営等の推進(目標3)(目標11)
  • 公的賃貸住宅の建替え等で生じる余剰地の民間事業者等による活用(福祉的用途に限らない。)を含む、公的賃貸住宅団地等の土地・建物の有効活用の推進(目標3)
  • リフォームや買取再販による既存住宅の良質化及び流通の促進等による賃貸を含む多様でアフォーダブルな住まいの選択肢の提供(目標4)
  • 住宅金融支援機構(JHF)による全期間固定金利型や、高齢期に備えた住替えや返済負担の軽減が可能な住宅ローンの提供、安定した厚みのある住宅金融証券化市場の形成、金融機関の円滑な住宅ローン供給を支援する取組等を通じた住宅取得負担軽減策の充実(目標4)
  • 既存の住宅地・住宅団地における住宅ストックの円滑な更新等、良好な市街地環境の維持・向上に向けた建築規制の見直しの推進(目標5)(目標7)
  • 住宅性能表示制度や長期優良住宅制度における住宅の適切な維持管理を担保する仕組みの構築及びそれを活用した住宅の資産価値を評価するローンの提供など、インセンティブが付与される環境の整備(目標6)
  • 新築・住替え時における従前住宅の除却等の促進に向けた支援(目標7)
  • 老朽化マンションの建替えや更新、要除却等認定マンションの除却など、マンションの再生等の円滑化のために必要な JHF による金融支援(目標7)
  • 住宅の質や立地等を勘案した資産価値を評価する住宅ローンの提供など、市場を通じた立地の誘導の推進(目標8)
  • 耐震性が不十分な住宅における耐震改修・建替え・除却、耐震性を備えた安全な住宅への住替えの促進(目標9)
  • 敷地のかさ上げや高床化、止水板の設置等による浸水対策及び共同住宅等を活用した垂直避難や一時滞在対策の促進(目標9)
  • 在宅避難も想定した、共同住宅における防災備蓄、電気設備の浸水対策、エレベーターの自動復旧・リスタート機能導入の促進(目標9)
  • 住宅建設技能者の社員大工化の促進、育成環境の構築、女性技能者等の担い手の裾野の拡大及びそれを支える工務店のマネジメント強化等に関する検討(目標10)
  • 畳・襖・瓦・土壁・漆喰をはじめとする地域の自然素材を利用する「和の住まい」の推進に向けた環境の整備(目標10)

住宅性能水準

住生活基本計画では、これまで、住宅性能水準、居住環境水準とともに、誘導居住面積水準、最低居住面積水準が定められてきたが、新たな住生活基本計画では、世帯人数に応じた住宅の面積に関する水準として定められてきた誘導居住面積水準・最低居住面積水準は削除され、住宅性能水準の中に、次のとおり記載が追加された。

「今後の住宅ストックの充実に当たって供給・流通を促していく住宅の規模は、これまでの単身世帯の最低居住面積水準が 25㎡以上とされてきたことにも留意しつつ、2050年に向けて増加が見込まれる単身世帯が都市居住に当たってゆとりのある住生活を営むことができる規模及び、2人世帯、3人世帯若しくは夫婦と2人の未就学児等からなる世帯が生活を営むことができる規模を考慮して、40㎡程度を上回る住宅とする。」

成果指標と重要観測指標

住生活基本計画には、目標の達成状況を定量的に測定するため、成果指標と重要観測指標があわせて定められている。新たな住生活基本計画では、「住まうヒト」「住まうモノ」「住まいを支えるプレイヤー」の3つの視点に関する指標として、(図表3)のとおり、成果指標〈注2〉と重要観測指標〈注3〉が定められた。

〈注2〉目標の達成状況を定量的に測定し、施策の実施に活かすために設定
〈注3〉目標に関連する状況を定量的に把握し、施策の実施の参考とするために設定

〈Interview〉

大月 敏雄 氏(おおつき としお)
国土交通省社会資本整備審議会
住宅宅地分科会会長 
東京大学教授

1967年福岡県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、東京大学大学院修士課程・博士課程修了。博士(工学)。一級建築士。横浜国立大学助手、東京理科大学助教授、東京大学准教授を経て現職。高齢社会総合研究機構副機構長。全国居住支援法人協議会理事。都市住宅学会長。2025年から国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会長。著書に、『住まいと町とコミュニティ』(王国社)、『町を住みこなす』(岩波新書)、『住宅地のマネジメント』(建築資料研究社)、『市民がまちを育む』(建築資料研究社)など。

新たな住生活基本計画のポイント

これまでは新築住宅をどのように供給していくか、特に、質をどう高めていくのかが非常に重要だった。耐震性やバリアフリーについては、新築はもちろんのこと、既存住宅の改修も少しずつ進んできました。また今般、CO2対策として省エネ基準が大幅にグレードアップされています。このように、新築を中心とした住宅の質の向上はおおむね筋道が見えてきた段階です。一方、住宅ストックや空き家問題については、2000年頃からクローズアップされてきて、東日本大震災以降は、これらに関する住宅政策が大きく展開するようになった。それと、いまの価格高騰の中で、新築になかなか手が出ないので、既存ストックに目が行っていますが、特に戸建て住宅の場合は流通に乗れない状況があります。そこで、既存住宅の流通を大いに促進していくというのが今までの住生活基本計画と一番違うポイントと思います。

「2050年の姿」と「当面10年間の方向性」の考え方

2050年を見据えて、そこから振り返るという、バックキャスティングの考え方に則って計画を立てています。ちょうど今回の改定が2025年度なので、21世紀の4分の1が終わっています。もう4分の1を足すと2050年。2050年は、社人研の将来予測で、人口が大幅に減少し、高齢化は着実に進んでいますが、特に単身高齢者が相当増えて、そのうち一生涯結婚しないであろう男子が相当数増えると予測されています。これは、いまも大きな社会問題になっている身寄りのない高齢者が相当数出てくるだろうということです。そういうことも踏まえて、遠い将来から見たときにどちらに舵を切るべきかという視点で、分科会で議論をしてきたところです。

居住面積水準の見直し

1970年代に、住宅建設計画法の中で居住水準を定めた当時は、国が目指すべき国民の住生活の姿として、世帯人数に応じた住宅の面積に関する数値目標を示す必要がありました。しかし、今や単身者がどんどん増え、住宅も余り気味になってきたときに、本当にそういう方向性を堅持するのが正しいのか、そういう根本的な議論がありました。単身者が25㎡以上という基本的な考え方は場合によっては踏襲して使うこともあるかもしれませんが、これは明快な基準とか水準ではなく、目安として、最低40㎡ぐらいの住宅という呼びかけに変わったということです。私自身は、住まいそのものも大事だけど、「住まい」と「住まい方」をセットで住生活を考えていくことが大事と考えています。

住み替えについて

「住宅ストック価値の最大化」は、既存住宅の流通の促進という施策。一方、住み替えは「人生100年時代」に大きく関わる話です。これが2大看板となっています。人生せいぜい80年ぐらいの時代は、老後も短いし、住宅すごろくの「上がり」が一戸建てでよかった。それが人生100年になると、今まで以上に高齢者の住まいと住まい方のメニューを広げていく必要があります。その時に、早めの住み替えも選択できるし、ギリギリまで家にいながら訪問系サービスを受けるという選択もある。それは、住み替えをいつやるか、どのようにやるか、という考え方次第で、ここはもっと地域的にもオプションを増やしていかないといけない。人生100年になると、自分自身の人生でも、いつ病気になるのか、結婚や離婚、子どもや孫のことなど、人生が変わっちゃうリスクがたくさんあります。それに応じて引っ越さざるを得ない確率が高くなります。単に住宅すごろく的な「上がり」に向かっていく住み替えだけでなく、元に戻ったり、自分の人生を選択し直したりしなきゃいけないこともある。100年という時間を考えると、いろんな住まいと住まい方の選択肢があって現実味を帯びてないとダメです。住宅をきちんと処分できるのか。住み替える住宅があって、住み替えるための費用が工面できるのかどうか。そこは、住宅ストック価値の最大化にも関わってくる、実に意味深な話題です。100年人生に備えるために、その時点で適切な住み替えができるような環境をどう整えられるか、という課題設定をこの中で論じています。

住生活リテラシーの向上

国民が、自らの暮らし方や働き方、家族構成などを見据えて、より良い住まいを選択、確保、維持管理できるような「住生活リテラシー」を身につけることが重要です。不動産・住宅は情報の非対称性が大きく、民衆が騙されやすい領域です。「屋根、壊れています」って言われて何百万円払わされたりとか、リフォーム営業はほとんど無資格でもできるみたいなことが多発しています。国民がいろんなことを知っている状態であることが望ましいのですが、そのため、必要なときに専門家から適切な助言を受けられるような相談体制を作っていこうということを謳っています。

相続を迎える既存住宅・宅地の有効活用

既存住宅をちゃんと流通させないと価格も付かないし商売も増えないし、住宅建築に携わる専門家全員がそんな感覚を持つべきだろうということと繋がっている話です。相続案件でずっと空き家のままとか空き地のままというのはよくない。積極的に回していくべき。もちろん、必要があれば取り壊して新築すべきです。そのために、住生活リテラシーを支援して、既存住宅をこんなふうに使えますよとか、こんなふうに評価できるとか、こんな担保価値がありそうだからチャレンジしてみませんかとか、有効活用できるように、みんなでそういうことをやっていくべきじゃないかと思います。そういう方向性のことが書いてあります。

これからのマンションのあり方

マンションもストックの時代ですよね。区分所有法などを改正して、建替えの要件緩和や再生手法を広げようとはしてるけど、それでも限界がかなり見えてきています。そうした中で、マンションも昔みたいに、60年経ったら建替えみたいなモードではすでにない。そう考えると、ストックビジネスをどう展開していくのかに行き着く。築50~60年ぐらいの高経年マンションでも、しっかり管理していると100年ぐらいは当然もつわけです。設備の入れ替えは必要ですが。そうしたマンションは、いま、不動産価値は下がっていても、アフォーダブルな住宅に生まれ変わっているんです。新築が高くて買えない若者が新婚の当面の住まいとして買うとか、60代の人が退職金で即金で買うみたいに、ある意味で、いい住み替え先になっています。マンションの長寿命化の筋道は、ここには細かいことは書いてありませんが、築60年ぐらいになるとモードが変わるので、そのモードに対応した策を、民間の知恵で考えていってほしいと思います。

計画の推進に向けて

住生活リテラシーを支援することがとても大事です。高齢になってどこに住もうかと思っても、要介護・要支援や、認知症、病気といった、医療や介護の仕組みを知っておかないと暮らせない。ケアマネさんって何、地域包括って何みたいなことを知ってないと暮らせない。高齢者の住宅でも、高級有料老人ホーム、安い老人ホーム、あとホスピスみたいなところもあるし、サ高住もあるし、グループホームもあるし、老健も特養もある。色々ありすぎだけど、全部オプションだから、知っておかないといけない。それを普通の人が全部知っておくのは絶対無理。それは福祉の問題だと建築・住宅系の人は思っているんだけど、建築・住宅系の人が知っておかないと客商売できない。「住まい」については我々はプロフェッショナルかもしれないけれど、「住まい方」についてどこまでプロフェッショナルかっていうと大変心許ない。「俺、設計だもん」ったって、設計は住まい方の提案だろうと思うんだけどね。そういう住まいのプロも結構なんだけど、住まい方のプロにならないと、これから置いてきぼりになるぞ、とは相当思います。

この記事/執筆者へのお問い合わせ