コンパクトシティ
2026年06月03日 / 『CRI』2026年6月号掲載
目次
わが国の都市政策にコンパクトシティの考え方を取り入れた「まちづくり三法の改正」(2006)から20年が経過した。大規模商業施設などの郊外立地による拡散型都市構造と中心市街地の衰退の問題からスタートした集約型都市構造という方向性は、「様々な都市機能がコンパクトに集積した歩いて暮らせるまちづくり」を目指したものであり、その後、都市再生特別措置法の改正による立地適正化計画制度の創設(2014)、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくり(2020)によるウォーカブルな都市空間の形成へとつながっている。
一方、コンパクトシティの方向性として示された居住の誘導については、立地適正化計画制度に居住誘導区域が導入されたことや、まちなか居住への補助金等の支援策などがあったものの、人口減少に伴う市街地の縮小という考え方は、移住を強制する仕組みではないことから実現のハードルは高く、それよりも、居住者のニーズによって、まちなかの利便性の高い場所の住宅が選択され、都市の中心部への人口移動が進んできた。
そこで、今月号では、東京大学空間情報科学研究センター特任教授の浅見泰司氏、武蔵野大学経済学部教授の沓澤隆司氏と、長谷工総合研究所の研究員による座談会を開催し、コンパクトシティに向けたこれまでの政策と都市構造の変化の状況を振り返りながら、今後の都市のあり方について、意見を交わした。
コンパクトシティとは何か
青木:本日はお集まりいただきありがとうございます。はじめに、コンパクトシティとは何か、その政策の意義や効果から話を始めたいと思います。
浅見:コンパクトシティとは、インフラ費用の縮小や環境負荷の低減を進め、都市におけるウェルビーイングを高めることを目的として、市街地をコンパクトにする都市のあり方です。現在行われている政策は、基本的には自主的な誘導区域への移住を促すことが前提になっていて、強制的に移住というのはないです。実際にはインセンティブをつけるために補助金を支給する自治体もあります。移住したかった世帯は渡りに船なので移住してくれるのですが、それ以外はなかなか動かず、コンパクト化はあるところまで進んでも、それ以上は進まないと聞いております。その結果として、スポンジ化が進むのに、市街地自体は縮小しないという課題があります。
仮に、強硬な手段を用いるとすれば、補償金の支払いが必要になりますが、金銭的な支払いを考えることの公正性を考えてみたいと思います。基本的に、私があるべきだと思っているのは、コンパクトシティの便益も費用も、みんなでシェアし合う制度環境にすべきということです。一部の人が得するとか、損するのは、施策としてまずいと思っています。
沓澤:コンパクトシティのメリットについてお話しすると、都市の財政負担の抑制、居住者の公共サービスの利便性の確保、都市の中の経済成長・イノベーションの喚起、都市の環境負荷の低減・省エネルギーに寄与、住民の公共交通・歩行の移動増加と健康水準の改善といった効果が考えられます。ただ、現実に、コンパクト化しているのかというと、郊外部の住民がその場所に住み続けるコストが低いことから、都市が相変わらず郊外に広がったままで、市街地の内部はスポンジ化が進行し、そのためにインフラの整備、更新に無駄が生じ、温室効果ガスであるCO2の発生といった不経済が生じているのではないかと思います。
コンパクトシティという政策の経緯
青木:コンパクトシティがわが国の政策として取り入れられたのは、2006年の「まちづくり三法の改正」があり、いわゆる用途白地地域(非線引き都市計画区域等で用途地域の指定のない区域)に初めて用途規制が導入されました。郊外の大型商業施設の立地が問題になっていた時期です。2014年の都市再生特別措置法の改正で創設された立地適正化計画制度では、都市機能誘導区域と居住誘導区域を定めることとなり、全国のかなり多くの地域で、一応作られているのが現状と思います。一方、まちなかの話としては、2020年頃から、ウォーカブルという言葉が盛んに使われるようになりました。まちづくりの方向性として「居心地が良く歩きたくなるまちなか」がポイントになっています。また、今年の都市再生特別措置法の改正案では、都市再生の基本理念として都市機能の集約が明記されたほか、立地適正化計画の居住誘導区域から災害危険区域を全て除外することになりました。住宅ローン減税などの制度でも、近年、立地の要件が加わってきています。
浅見:都市のコンパクト化を考えたのは、実は都市計画法制定時(1968年)です。今の立地適正化計画制度は人口減少時代ですが、都市計画法では人口増加時代のコンパクト化を考えていて、市街化区域と市街化調整区域の区域区分(線引き)制度で、市街地が拡大するのをここまでにしてくださいというように決めたわけです。都市計画の歴史自体が、コンパクト化を常に狙っていたと言えると思います。
青木:線引き制度は都市の成長管理の制度で、市街化区域の人口密度の基準も設けながら適切にコントロールをしてきたんですね。
浅見:その時に人口フレーム方式と言って、人口がこれだけ増えるだろうから、ここまでは許そうと市街化区域の拡大をしてきたのが、人口減少になると、人口フレーム方式を取るなら市街化区域を減らさなければならない。それができなくなっているのが現状なんですよね。
大都市と地方都市の都市構造
青木:次に、都市構造の変化の現状として、近年のマンションの立地動向を見てみます。(図表1)は、首都圏・近畿圏の分譲マンションの供給戸数の推移を最寄駅からの距離別に示したものです。これを見ると、長期的な傾向として、駅近のマンションの割合が増えてきています。
沓澤:私は、コンパクトシティの指標として、まず、都市の「近接性」を示す標準距離(SD)という数値を算出しました。地図上の都市をメッシュ状に区分して、そこにどれぐらいの人がいるか、人口の重心から人がどのぐらい離れたところに住んでいるかということを、人口の重心からの距離の2乗値をメッシュ内の人口を加重して累計した数値の平方根を取って近接性の評価をしています。この数字が大きいほど市街地は分散化し、数字が小さいほどコンパクトにまとまっているということです。
次に、近接性に加え、コンパクトシティのもう一つの要素である密度を加味するため、標準距離を人口の平方根で除した数値を「基準化された標準距離(NSD)」として、算出しました。
同程度の人口の都市でもNSDにはかなりの差がありますが、標準距離の推移を見ると、人口規模にかかわらず、人口が都市の中心の方に集約してコンパクト化が進行している傾向が認められます(図表2)(図表3)。
ただ、都市全体の人口は減少する傾向にありますので、密度も加味して計算したNSDの指標でみると、コンパクト化はやや頭打ちの状況になっています。
林:私の故郷である長野県飯田市は、リニア開通を控え注目の集まる街ですが、地方都市が共通して直面しやすい都市構造の変化について、一つのサンプルとしてご紹介させていただきたいと思います。飯田市の人口は現在約9万3,000人で、長野県で5番目に多い市になっています。
JR飯田線の中心である飯田駅が丘の上に位置し、その周辺に市役所や図書館、文化会館といった公共施設がコンパクトにまとまったエリアになっています。このエリアには商店街も集積していますが、空き店舗が増えているエリアもみられます。
一方で、南部の幹線道路沿いにショッピングセンターやスーパーなどが立地し、市立病院もこの周辺にあって、車社会の中心になったこのエリアの人口が増えているのが現状です。
さらにリニアの駅ができる予定エリアは、これから形成しようとしている新たな開発拠点となっています。そうすると3拠点になるのですが、拠点間に一定の距離があります(図表4)。
青木:3つの拠点はどれぐらい離れているのですか?
林:徒歩だと45分ぐらいです。
私自身、地元に帰って友達と飲みに行こうという時には、飯田駅周辺に飲食店が多く、徒歩で2軒目を探せるほど、店同士もある程度集約されていて、歩いて回りやすい、ウォーカブルな環境が整っていると感じています。こうした既存の強みを生かしながら、どのエリアにどの機能を集約していくのがよいのかを考えることが重要だと思っています。一方で、そこに郊外エリアの施設や居住者を移動させるというのは現実的ではありません。飯田市のように複数の拠点をもつ都市において、どのようなかたちが最適なコンパクトシティなのか、考える材料としてご紹介させていただきました。
青木:公共交通機関で各拠点をつなげばよいのでは?
林:公共交通機関としてJR飯田線や市営バスを使うとすると、現状としては1時間に1本程度です。市の計画としては、将来的には自動運転の車両等も使って、それぞれの拠点を公共交通機関で、よりシームレスにつなげるように考えているようです。
青木:高校生の時は飯田線で通っていたんですよね?
林:そうです。本数が少ないので、当時は電車に一本乗り遅れると、学校に遅刻するか、母親に送迎をお願いするしかない状況でした(笑)。
新たなモビリティの可能性
浅見:ループとか流行ってないんですか?こういうところこそ、シェアできる交通機関を入れるとだいぶ違うと思うんですけどね。
上原:私自身もループのような新しいモビリティは好んで利用していて、特にラストワンマイルの短距離移動では、電動キックボードやシェアサイクルのようなサービスが重要になってくると感じています。
その上で、都市交通全体としては、LRTやBRTのような大量輸送を担う基幹交通が長距離を支え、中距離では自動運転シャトルやオンデマンドバスといった“待ち時間を意識しないレベルの公共交通”を組み合わせていく。さらに短距離ではシェア型のモビリティが補完する、といったように、距離に応じて複数の手段を組み合わせることが重要だと思います。
また、こうしたモビリティは“所有するもの”ではなく、“誰もが使えるサービス”としてインフラ化していく方向にあると感じています。
コンパクトシティ化を単に距離を縮める政策として捉えるだけではもったいないと感じていて、今後はMaaS(Mobility as a Service)のように、移動が一体的なサービスとして統合されることで、“移動そのものの負担を感じない状態”をつくることができたらいいですよね。
そうなると、移動を減らすこと自体が目的なのか、それとも“移動しても負担にならない状態”をつくることが目的なのか、その前提自体も少し変わってくるのではないかと感じています。
林:今、自動運転の車も話題ですけれども、自動運転化が進むと、むしろコンパクトシティ化は住む側にとってメリットが少なくなったりするのかなと考えたりするのですが、そういったことにはならないのでしょうか?
浅見:確かに自動運転が進むとみんなでシェアできるので、自動車交通もそれほどいらなくなると思うんですよ。交通弱者と言われている人たちは、自動的に行ってくれるのであれば、別に車を持つ必要もないし、運転できる必要もない。ただ、ある程度集住した方が、公共サービス的な単価は安くなるんですよね。例えば水道とか下水道とか、今はプライスを均等にしているからメリットを感じないですけど、仮に可変性のプライシングを始めて、管の長さといったコストベースで課金したとすると、分散している地域の方が高くなってしまいます。
林:将来的にそのコストが段階的なものになれば、必ずしも、自動運転でも郊外化が進むわけではない、ということでしょうか?
浅見:多分、少しは進むと思いますが、コストも考えると、それほどでもないという感じがします。
沓澤:コンパクト化が進まなければ、インフラの維持更新などのコストがあまりにも大きくなり、公共施設のメンテナンスがうまくいかず、結果的に八潮市の下水道管の劣化による道路陥没のような事故が起こることも懸念されます。
子育て期・高齢期の住まい
林:共働きで小さい子供を育てている当事者としては、コンパクトシティという方向性は自然な流れだと感じます。仕事にも子育てにも向き合うことを考えると、以前、今よりも通勤時間が長い場所に住んでいた時は、体力的にも精神的にも余裕がありませんでした。そういった状況では仕事や生活スタイルそのものにも影響が出てくると感じ、昨年職場に比較的近い都内に住み替えたところです。
浅見:結構、時間に縛られると思うんですよね。保育で預かってもらえる時間に間に合うように帰るようにすると、結構忙しい。共働きなので私も経験しましたけど、結構忙しいですよね。そういう意味で言うと、ちょっとした家賃の差よりも、時間的な差の方が大きい気がするんですよね。
青木:一方、高齢期の住まいについて考えると、例えば介護が必要になった時に、都市の中心部と郊外とでは、介護の実質的なコストがだいぶ違ってくるのではないかと思います。デイサービスセンターへの送迎なども、郊外で密度が低くなってくれば、それだけ大変になるし、自宅で介護サービスを受ける場合は、集合住宅みたいな居住形態の方が、サービスをしやすいのではないかと感じることがあります。
浅見:介護施設の供給が追いつかなくて、施設介護が難しくなってきています。そうすると、在宅介護になっていくと思うので、ますますそういうサービスが重要で、なおかつ、何かあった時に短時間で来てもらえることが重要だと思います。そうなると、ある程度密になった方が有利になります。
青木:子育ての時期は、郊外で、緑が多いとか、空き地があるとか、そういう住環境の方が子育てにはいいかなと思ったりもしますが、高齢期のことを考えると、ある程度集まって住むところでないと不便な気がします。公共交通機関の利便性とか、拠点病院が近くにあるかってことが重要です。今でも地方から新幹線に乗って東京の病院に来る人なんかもいますよね。そのような話を聞くと、やっぱり大都市のメリットは、そういうところもあるのかなと感じます。
浅見:今、出産するにも、どこかの病院に行くわけですけど、産科の病院も減ってきていて、郊外が厳しいという話を聞きます。
林:そうですね。私の地元にも出産できる病院が一つしかなく、いろいろな条件を考えると、里帰り出産は選択肢に入れにくい状況でした。
コンパクトシティを実現する方策
沓澤:立地適正化計画を一生懸命やっておられる自治体を、いくつか回らせていただきました。中には、市街化区域の逆線引きを検討された例もあります。ただ、都市計画の規制で、現状以上の郊外居住を抑制することは可能ですが、現在居住されている方を積極的に移動させる手段はなく、また、そうした措置を講ずることは、大変な行政コストを伴うことになります。
また、立地適正化計画の居住誘導区域と都市機能誘導区域っていうのは、住民の方に十分情報が共有されず、ここからがそうした区域だという認識が住民に意識されていないように思います。一方で、例えば、この地域が「誘導」区域ではないとわかると、もう積極的に市街地化してくれるなと言われているように感じられ、その「誘導」区域外にいる人は、それを知った瞬間にあまり前向きには感じられなくなる可能性があります。
複数の自治体を回ってみると、市街化区域のほとんどすべてを誘導区域に指定している自治体と、ある程度限定して指定している自治体とが対応が異なるようにも感じられます。やはり住民の反応を慮って、あまりこの「誘導」区域が十分活用されていないように思います。
浅見:動的都市計画の導入について述べたいと思います。
立地適正化計画の問題点は、誘導区域を設定するのですが、いつまでに誘導するのか、また、誘導区域外をいつまでに非市街地にしていくかのプログラムがないことです。結局、都市計画において、タイムスケジュールを示す仕組みがない。これが必要だというのが、私の考えです。
市街化区域は、すでに市街地になっているか、あるいは10年以内に市街化される区域なので、都市計画では、10年後の姿を描いています。現在の区域区分の仕組みは、市街地が非市街地になるということを考えてないんですね。将来市街地になるという方向だけが考えられています。
青木:それが問題ですね。市街化調整区域という言葉自体も。
浅見:今や、市街化と非市街化の両方を考えなければいけない。ということで、新たな区域区分案を考えたものが(図表5)です。用途地域制度も、おおむね10年後の地域ごとの土地利用のあり方を示していて、それぞれについて、立地できる用途や、容積率、建蔽率等が定められています。しかし、規制値を逸脱する土地利用は原則として許されないことを前提にしているので、実質的には高度利用化していく目標値になってしまっています。将来の目標値っていうのは、現行より高かろうが低かろうが設定できる方が、将来像を示しやすいと思います。
青木:容積率を引き下げるのは現実には非常に難しいのですが、1992年にできた誘導容積型地区計画という制度では、暫定容積率と目標容積率という2つの容積率を定められます。制度創設の背景として、当時、容積率のダウンゾーニングが必要ではないかという議論があったと記憶しています。一方、建物の高さ制限を導入したり、規制値を変更する事例は確実に増えてきています。京都市では、2007年に、歴史的市街地のほぼ全域を制限強化しましたが、そういう方向が現実解なのかと感じているところです。
沓澤:コンパクトシティを実現する一番現実的な方法としては、誘導ということが中心になる。比較的よくやっておられる行政では、公共施設の都市中心部への統合・再編や、病院など公益施設の中心部への誘導、公共交通をいかに活用していくか、ということになります。
このような政策手段でも、その実施にあたって、住民への青写真の説明、合意形成が重要になります。中心部に施設を誘導する際は、周辺部にあった施設を中心部に移すことや跡地利用に関して住民の理解を得ることが課題であり、公共交通の整備の際は、公共交通等の誘導でどの程度の効果があるのかを検証することが必要です。これはポートランド市が実施した手法で、予め将来の姿や、これ以上市街地を広げたらまずいというようなことを説明して、最終的に住民投票にかけてまとめるという方法で、こういうやり方が結構重要と思います。
林:ポートランドにおけるまちづくりの合意形成方法は、日本国内でも適用事例があるのでしょうか?また、まだ事例がない場合、国内でも適用できそうな事例なのでしょうか。
沓澤:日本では、コンパクトシティについて住民投票まで行ったというような取り組みは、私が認識している限りでは今のところ事例はありませんが、住民への説明、合意形成の取り組みはより加速していけば良いと思います。
林:街を変えることによるメリットを示していくということですね。どのように示すのが効果的なのでしょうか。
沓澤:コンパクト化が進めば、行政の支出が抑制されて、それがひいては、例えば住民の負担軽減にもつながるということを示していくことです。分散した車社会の方が便利で良いのかもしれないけれど、それによって、結局行政コストの増加になって返っていくのです。それが嫌であれば、ちゃんと見直してください。そうしたら、最終的には皆さんにメリットがありますよ、という流れの説明が重要に思います。
浅見:最近、新聞で、水道事業でこんなに赤字があるという記事がありましたが、それがまさにそうですね。今、水道料金に跳ね返っていなくても、次第に高くなっていくと思うんです。
こういうのを行政がしっかり示していけばいいのだけど、あまり示せないですね。
林:道路についても、税金で整備・維持されているという点は、日常の中では意識されにくい部分だと思うんですよね。実際には相応のコストがかかっているわけですが、そうしたインフラの仕組みをどこまで共有していけるかという点は、非常に難しい課題だと感じています。
上原:在宅勤務などの普及によって、“どこに住んでも同じような生活ができる”という認識が広がってきているように感じています。その結果として、“必ずしも集まって住む必要はない”と考える層も増えてきているように思います。
でも実際には、インフラコストが地域によって全く違う。どこに住むかによって社会全体としてどの程度のコストがかかっているのかを、よりわかりやすく示していく必要があると感じます。
もちろん、メタバースなどのデジタル技術の進展によって、場所に縛られない生活の利便性は今後さらに高まっていくと思います。だからこそ、その利便性の裏側にあるコストについても適切に認識されることが重要であり、その点をどう社会に共有していくかが、今後の課題ではないかと考えています。
青木:郊外の非集約区域をどうしたらいいのかと考えた時に、優先的に縮退すべき地域として挙げられるのは、災害ハザードエリアではないかと思います。ハザードマップの普及だけでなく、災害の可能性を説明する看板の設置などの方法を含めて、居住者にもわかりやすく周知することが必要ではないかと思います。例えば、道路の舗装の仕方を変えるなど、将来の方向性を何らかのかたちで「見える化」していくことも考えられないかと思ったところです。
もう一つ、郊外の住宅団地の話をしたいと思います。大都市圏を中心に、計画的に開発された郊外住宅地・住宅団地が多く存在しており、これらの再生をどのように進めていくかが課題になっているところです。この住宅団地には、戸建てと集合住宅の両方がありますが、分譲マンションである高経年の集合住宅団地の場合、全面建替えという選択肢だけでなく、部分建替えやリノベーションなど、戸数を増やさない方法で再生していくことも、これからの一つの方向性として考える必要があるかと思っています。
浅見:ヨーロッパには小さい集落がたくさんあります。あれがなんで成り立っているのか。例えばフランスだと、コミューンという末端の行政組織が、日本で言えば県みたいな広域行政体に任せる方式があるんです。そういう仕組みも含めて、研究してもいいかなと思います。
もう一つ言うと、例えば1960年は、今の人口よりまだ少なかったのですが、それで日本は成り立っていたので、その仕組みをよく見た方がいいのかもしれないと思います。
青木:では、座談会は、ここまでとさせていただきます。皆様、ありがとうございました。
(2026年4月8日 長谷工総合研究所会議室にて座談会を開催)
まとめ
都市の持続可能性を確保するためには都市機能の集約が効果的と法律にも明記されたように、コンパクトシティの必要性については、ある程度、共通の認識が形成されてきたと考えられる。一方、都市の現状を見ると、人口規模にかかわらずコンパクト化が進行している傾向が見られるものの、車社会や在宅勤務の普及などもある中で、市街地の縮小を実現することは容易ではなく、人口減少によって市街地の密度が徐々に薄まっていく可能性もあることが示された。こうした現状を乗り越えて都市のコンパクト化を進めていくには、タイムスケジュールを伴う仕組みの導入とともに、地域ごとに将来の姿を住民にわかりやすく示すなど、都市の将来像の「見える化」によって、住民の合意形成が促進されることがポイントになると考えられる。コンパクトシティの実現に向けて、国、地方公共団体、民間事業者、住民のそれぞれの取り組みや相互の連携・協力が進み、新たな仕組みやサービスが展開されていくことが必要なのだろう。コンパクトシティの議論がさらに広がり、良好な都市の生活環境の実現につながることを期待したい。
〈略歴〉
(左から)
青木 伊知郎
あおき いちろう
昭和38年(1963年)生まれ。1985年東京工業大学(工学部建築学科)卒業。2014年博士(工学)(東京大学)。2015年7月より長谷工総合研究所主席研究員。
沓澤 隆司
くつざわ りゅうじ
昭和38年(1963年)生まれ。1986年東京大学(法学部)卒業、建設省(現国土交通省)入省。 2005年大阪大学社会経済研究所准教授、2012年内閣府参事官、2014年政策研究大学院大学教授、2018年国土交通省社会資本経済分析特別研究官。2023年4月より武蔵野大学経済学部教授。
浅見 泰司
あさみ やすし
昭和35年(1960年)生まれ。1982年東京大学(工学部都市工学科)卒業。1987年ペンシルヴァニア大学大学院博士課程(地域科学専攻)修了、Ph.D.取得。東京大学助手・講師・助教授を経て、2001年4月より2025年3月まで東京大学教授。現在、東京大学執行役・副学長、東京大学空間情報科学研究センター特任教授、名誉教授。
林 香澄
はやし かすみ
2024年8月より長谷工総合研究所主任研究員。
上原 知也
うえはら ともや
2024年12月より長谷工総合研究所研究員。




