都市とマンションの防災・減災

気候変動で頻発化する豪雨災害と住宅の浸水対策

2026年09月01日 / 『CRI』2026年9月号掲載

CRI REPORT

目次

9月1日は防災の日。近年は気候変動の影響により、雨の降り方が変化する一方で、猛暑日や酷暑日の増加も私たちの暮らしに大きな影響を及ぼしている。これまで経験したことのないような強い雨や高温が日常化しつつあり、都市や住宅には従来以上に高い防災・減災性能が求められる時代となった。

本誌では、これまで都市とマンションの防災・減災をテーマとして、地震や水害への備えに関する課題や取り組みをレポートしてきた。今月号では、気候変動によって高まりつつある水災害リスクに着目し、頻発化する豪雨による浸水対策を取り上げる。

近年、降雨量の増加とともに短時間で大量の雨が降るケースが増え、河川の氾濫だけでなく、内水氾濫による建築物の浸水対策も大きな課題となっている。これまでの治水事業の進展により、水害による家屋被害は必ずしも増加していないが、今後は流域治水の考え方に基づき、リスクに応じた浸水対策や、リスクの低いエリアへの居住誘導など、被害を受けにくい都市・住宅ストックの形成が重要になっている。

今回のレポートでは、気候変動による降雨量の変化と水害リスクを踏まえ、住宅・マンションにおける浸水対策のあり方について考える。

気候変動による雨の降り方の変化

気象庁の集計によると、豪雨の発生頻度が長期的に変化し、日降水量ベースでの大雨と、1時間降水量ベースでの短時間強雨が、いずれも長期的に増加する傾向となっている。比較的大きな河川の洪水と関係が深い「日降水量」ベースでの大雨は、日降水量200㎜以上の年間日数(アメダス1,300地点あたり)が1976〜1985年の10年間平均160日から2016〜2025年の10年間平均では240日に、また、集水域が狭い小さな河川の洪水や、内水氾濫と関係が深い「1時間降水量」ベースでの短時間強雨は、1時間降水量50㎜以上の年間発生回数(同上)が1976〜1985年の10年間平均226回から2016〜2025年の10年間平均では340回と、いずれも40年間で約1.5倍に増加している(図表1)

地球温暖化の進行により、近年は、猛暑日や酷暑日といった極端に暑い日の増加が顕著となっており、今後さらに、豪雨の発生頻度が全国で増加し、水災害が頻発化・激甚化することが懸念されている。

気候変動を踏まえた水災害対策 「流域治水」

こうした状況の中で、2021年には流域治水関連法が公布・施行され、あらゆる関係者が協働して、流域全体で水災害対策に取り組む「流域治水」の実効性を高めていくこととされた。流域治水とは、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方である。

集水域から氾濫域までを一つの流域として捉え、「氾濫をできるだけ防ぐ、減らすための対策」、「被害対象を減少させるための対策」、「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」をハード・ソフト一体で多層的に進めることとされている(図表2)

「氾濫をできるだけ防ぐ、減らすための対策」としては、従来からの堤防整備、河道掘削や引堤、ダムや遊水地等の整備、雨水幹線や地下貯留施設の整備、利水ダム等の洪水調節機能の強化などがあり、まず、これらの対策を加速化させることに加えて、「被害対象を減少させるための対策」として、より災害リスクの低い地域への居住の誘導や、水災害リスクの高いエリアにおける建築物構造の工夫など、「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」として、水災害リスク情報空白地帯の解消、中高頻度の浸水想定や河川整備完了後の浸水ハザード情報の提供など、安全なまちづくりのための総合的な対策を講じることとされている。

総合治水対策の取り組みと効果

流域対策の推進によって総合的に治水安全度の向上を図るという考え方は、流域治水関連法が整備される以前からあった。1970年代にスタートした「総合治水対策」は、急激な市街化によって生じる雨水の河川への流出量の増大に対応するため、都市部の河川を対象として実施されてきたものである。気候変動による降雨量の増加に対応するため、全国の河川を対象とし氾濫域にも対策を広げた「流域治水」とは若干趣旨が異なるが、河川や下水道の整備だけに頼らない治水の先行的な施策として、振り返ってみたい。

建設省(現・国土交通省)は1979年、「総合治水対策特定河川事業」を創設し、6河川を総合治水対策特定河川に指定した。総合治水対策の先駆けと言える鶴見川は、昔から大雨のたびに洪水・氾濫を起こし、甚大な被害をもたらしてきたが、1980年に鶴見川総合治水対策協議会が設置され、河道整備、遊水地整備、下水道対策といった治水事業とあわせて、流域の緑の保全、雨水浸透施設の設置、雨水調整池の整備などの流域対策が進められた。2004年には、鶴見川流域総合治水対策協議会が「鶴見川流域水協議会」に改組され、「鶴見川流域水マスタープラン」が策定された。水質改善、自然環境保全、震災・火災時の支援、さらには防災意識の育成などの課題についても、流域連携で推進することとされている。2019年の令和元年東日本台風(台風19号)では、総雨量が町田市で最大344㎜に達するなどの大雨となったが、鶴見川多目的遊水地での洪水調節も効果を発揮し、鶴見川流域では大きな被害を免れ、台風が直撃した翌日、遊水地の上の横浜国際総合競技場で、ラグビーワールドカップの日本対スコットランド戦が無事開催された。

令和元年東日本台風の洪水調節により水を貯留した鶴見川多目的遊水地

水害による被害の長期的変化

気候変動の影響による水害の頻発化・激甚化が懸念されているが、家屋の被害状況の長期的な変化を見ると、幸い、現時点までで被災数が増加している傾向はみられない。国土交通省の水害統計調査によると、水害による被災家屋棟数は、全国の合計数で見ると長期的には減少傾向となっている。豪雨の発生頻度が増加しているにもかかわらず、水害による被害が減少しているのは、治水事業による河川と下水道の整備の効果と解釈することができる(図表3)

一方、被災家屋棟数を三大都市圏と地方圏※に分けてみると、三大都市圏での被災家屋は、特に減少していることが読み取れる。被害区分別にみると、集計期間中の被災家屋棟数のうち、9割が床下浸水または100cm未満の床上浸水となっており、三大都市圏に限ってみると89%が床下浸水または50cm未満の床上浸水となっている。命を守るためには、最大規模の浸水の可能性についても理解しておくことが必要であるが、実際は、浸水想定区域図の想定浸水深よりも小さな浸水被害が多く、資産被害の低減の観点からは、頻度の高い想定に対してできる対策を講じることが重要と考えられる(図表4)

※三大都市圏と地方圏は、都道府県単位で以下のとおり区分した。
三大都市圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都県(茨城県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)、近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む府県(京都府・大阪府・兵庫県・奈良県)、中部圏開発整備法による都市整備区域を含む県(愛知県・三重県)
地方圏:その他の道県

令和元年東日本台風による浸水被害を振り返る

令和元年東日本台風では、千曲川、阿武隈川、荒川水系越辺川などの氾濫や、世田谷区、川崎市等の多摩川周辺の浸水など、東日本の各地で大きな被害が発生した。

埼玉県内の被害を振り返ってみると、越辺川の堤防の決壊などにより、川越市、東松山市、坂戸市などで広範囲の浸水被害が発生し、特別養護老人ホームや東坂戸団地なども浸水した。これを都市計画との関係からみると、浸水したエリアは大半が市街化調整区域(図の白地の区域)であり、市街化区域での被害は浸水深が比較的軽度であったことがわかる(図表5・写真)

令和元年東日本台風による埼玉県内の浸水状況 出典:国土交通省国土地理院HP

都市計画法では、市街化区域の設定の基準(既に市街地を形成している区域を除く)として、「溢水、湛水、津波、高潮等による災害の発生のおそれのある土地の区域」は原則含まないこととしており、さらに、災害ハザードエリア(災害レッドゾーン・災害イエローゾーン)においては、新たな開発が原則禁止または抑制されている。住宅ローン減税においても、2028年以降、災害レッドゾーンの新築住宅は適用対象外にすることとされている(建替え・既存住宅・リフォームは適用対象)。

浸水の被害を減少させるためには、リスクが高い地域における土地利用規制を一層強化するとともに、リスクが低い地域への移転を促進することも必要と考えられる。

一方、令和元年東日本台風では、大都市の市街地における浸水被害にも関心が集まった。川崎市中原区では、タワーマンションの地下電気設備が冠水して停電が発生し、エレベーターや給水設備等のライフラインが長期間使用不能となる被害が発生した。タワーマンションなどの高層マンションでは、スペースに余裕があり容積率不算入となる地階に電気室などを設置することが多いが、内水氾濫は都市部でも発生しやすく、地階やピット式駐車場など都市部に多い建物の形態や設備が被害を大きくすることもある。この件をきっかけに国土交通省・経済産業省による「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」が策定されたほか、地上階に設置する電気室についても容積率緩和を求める声が上がり、2021年6月、建築基準法第52条第14項の規定に基づく地上階の電気室の容積率緩和許可を円滑化・迅速化する技術的助言が国土交通省から発出された※。

※「建築基準法第52条第14項第1号の規定の運用について」(令和3年6月25日付国住街第95号)

マンションにおける浸水対策

現在新築されているマンションでは、浸水対策を考慮した設計・計画が行われている。各自治体が公表するハザードマップに基づき、内水氾濫等による冠水想定レベルを設定し、住戸や設備諸室(ポンプ室・電気室等)などをそのレベルより上に設置することが原則となっている。冠水想定レベルが高い場合は、住戸や設備諸室などを囲む水防ラインを構築するなどの対策がとられている。

一方、既存マンションの浸水対策には、区分所有者の合意形成が必要であるが、比較的軽度の浸水被害は発生頻度が高いことを考慮して、浸水対策工事を実施することが効果的な場合が多いと考えられる。止水板の設置などの対策とともに、浸水に備えた訓練などソフト面の対策も重要である。ハザードマップによる浸水の想定頻度などを参考にしながら、どのような浸水対策が必要なのかについて検討することが望ましい。

浸水の頻度を示した水害リスクマップの活用

ハザードマップでは、住民等の迅速かつ円滑な避難に資する水害リスク情報として、想定最大規模や計画規模といった低頻度の降雨を対象とした浸水想定区域図が作成・公表されてきたが、土地利用や住まい方の工夫の検討および水災害リスクを踏まえた防災まちづくりの検討など、流域治水の取り組みを推進するため、国土交通省では、発生頻度が高い降雨規模の場合に想定される浸水範囲や浸水深を示した「多段階の浸水想定図」や「水害リスクマップ」を作成・公表している(図表6)

リスクの高い区域では居住の誘導によって安全を確保することが必要な一方、リスクを把握し、浸水深に応じた対策を考えることで、浸水の被害の軽減や早期復旧が進むことが期待される。

【INTERVIEW】建築物における浸水対策の考え方

国土交通省
国土技術政策総合研究所
都市研究部・シニアフェロー
木内 望 氏
きうち・のぞむ 1964年東京都生まれ。1986年に東京大学工学部都市工学科卒業後、同大学院都市工学専攻に進み、博士(工学)。東京大学助手、建設省建築研究所、国立研究開発法人建築研究所研究専門役、国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部長を経て、2024年より現職。
専門は都市計画(土地利用計画)。

リスクの把握と対策の考え方について

都市や住宅の浸水対策を考える時は、私は、激甚化より頻発化の方に主眼を置いて、対策を考えた方がいいのではないかと思っています。

浸水想定で想定最大規模と言っているのは、1000年に一度程度の降雨量から河川の流量をシミュレーションして、河川が氾濫した時に堤防が実際にどこで破堤するかはわからないので、破堤するポイントを一定の距離ごとに設定した全部の想定から最大の浸水深を示しているものです。それぞれの場所でこれだけの浸水が起こりうるという想定は、逃げることを考えなければいけない場合には重要な情報なのですが、これを前提に対策を考えると、そこまでは備えられないと諦めてしまうことがあります。実際には50センチとか 1メートル程度の浸水の方が起こりやすいにもかかわらずです。日本の市街地は、これまでの水害対策の積み重ねもあって、内水氾濫だとか、相対的に小さな氾濫あるいは局所的な氾濫の方が起こりやすいので、そういうものに備えることが大事です。その中でリスクが高いところは、避けるか少し厚手の対策をすることが必要になると思っています。多段階の浸水想定で 50年に 1回とか30年に1回といった頻度ごとの浸水想定も出てきていますので、そういうものをどう活用するかということを考えていった方がいいと思います。

建物内の浸水防止対策

具体的には、特に建物内の浸水防止という観点で言えば、対象となる浸水深より上のレベルで、建物を取り囲む水防ラインを設定して、そこから中に水が入らないようにするのが基本的な考え方です。戸建て住宅の場合もマンションの場合も同じですが、それぞれの構成部材等が異なる場合であっても、壁と壁に穴が開いている開口部での止水措置が重要です。水防ラインの外側に出てくる室外機などは、目標とする浸水深よりも高所に上げる必要があります。戸建てとマンションで大きく違うのは、浮力の問題です。戸建て住宅は軽いので、あまり水を入れないと浮いてしまいます。また、戸建て住宅の場合は、地震動によって隙間が生じる場合があるので、地震が起きてもその性能を維持できることも大事です。

マンションの防災対策

マンションの場合は、いざ災害が起こってしまった時に避難場所の容量が足りないという問題がありうるので、自治体の避難計画を鑑みながら、もう少し低頻度の水害に対しても、基本的にはとどまって、その中で暮らせるような対策もあわせてした方がいいと思います。そこは自治体の計画の中でもう少し考えられてくるといいと思います。また、「よこはま防災力向上マンション認定制度」のように、防災対策を実施しているマンションを認定する制度もできています。横浜市の制度では、ソフト対策を含めて認定できる仕組みになっており、地域との連携が図られていることでプラス認定を取得することもできます。

既存マンションの水害対策

令和元年東日本台風によるタワマンの地下電気設備の浸水など、マンションにおける浸水被害事例も多発しています。既存マンションの対策としては、1階部分の住戸の浸水に対しては難易度が高いですが、設備系が重要です。地下ではなく地上に置かれていても浸水することもありますので、これは別に基本出入りとか普段はない場所なので換気さえできれば塞いでおいても構わない。氾濫被害ではないのですが、開放型の廊下に雨が吹き込んだ雨水が、エレベーターピットに流れ込んでしまうこともあります。中度浸水対策では、下水管や排水管からの逆流対策なども必要になります。

マンションの浸水対策工事の費用対効果

建築研究所にいた時に、建築物の浸水対策案の費用対効果について検討したことがあります。既存マンションの改修の場合の設定条件としては、地上14階建、地下に電気室、受水槽・ポンプ室、ピット式駐車場などがある「都心型」と、地上7階建、地下階なしで、屋外にピット式駐車場がある「郊外型」の2つのタイプを想定し、浸水対策費用と浸水時の修復費用を推算してみました。このグラフで、浸水深ごとに、どれぐらいの修復費用がかかるのかがわかるので、その浸水深がどれぐらいの確率で起こるのかを多段階で想定すると、浸水対策費用の回収見込み期待年数が計算できることになります。マンションの浸水対策工事では、このような費用対効果の情報が、管理組合内での合意形成に重要ではないかと思います。

まとめ

「都市とマンションの防災・減災」というテーマの中で、今回は、気候変動で頻発化する豪雨災害と、それに対応する住宅・マンションの浸水対策に焦点を当ててレポートした。地球温暖化に伴う気候変動の影響により、豪雨災害は「頻発化」しているのが現状であり、8月には千葉豪雨も発生したところである。治水事業の進展によって、市街化が進んだ地域では、浸水深が大きい重度の浸水が発生するリスクは比較的低く抑えられているが、頻度の高い浸水への備えが特に重要といえる。その要点としては、①浸水の頻度を示した水害リスクマップ等により、頻発する水害のリスクを的確に把握すること、②最大規模の浸水想定よりも、頻度の高い浸水への対策を考えることが効果的と考えられること、③浸水リスクが高い地域では、立地規制の強化やリスクが低い地域への移転の促進も必要と考えられること、④地下室(建築基準法上の地階)など浸水深が浅くても大きな被害が生じる場所については特に注意が必要なこと、とまとめることができる。

なお、今回のレポートは浸水対策に絞ったが、豪雨災害では、土砂災害のリスクについても考える必要がある。土砂災害は事前の予測が難しく、発生すれば生命・身体に危険が及ぶおそれがあるものであり、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)等における居住は避けることが望ましい。また、災害時の安否確認や災害弱者に対するサポートなど、ソフト面での防災対策も重要であり、日頃の防災意識の醸成や良好なコミュニティの形成が必要ともいえる。豪雨災害以外の自然災害への備えも含めて、都市とマンションの防災・減災に向けた取り組みがさらに進んでいくことを期待したい。(青木伊知郎)

この記事/執筆者へのお問い合わせ