同性カップルで2人で一緒に生きている証が欲しかった。それでマンションを購入

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4年前にパートナー名義で都内に中古マンションを購入した、整理収納アドバイザーの安藤秀通(ひでまる)さん。購入に至った経緯や、購入後に変わった人生、購入を考えているLGBT当事者の方へのアドバイスなどを、パートナーのぶたじる(注:SNSのアカウント名)さんとともにお話しいただきました。

――ひでまるさんとぶたじるさんがこのマンションを購入されたのは2019年11月とのこと。賃貸ではなく、分譲マンションを購入されたのには何かきっかけがあったのですか?

 

安藤秀通さん(以下ひでまる):パートナーのぶたじるさんとは既に6、7年一緒に暮らしていたんです。それで、これからもずっと一緒にいるかもな、とお互いに思って「それなら買おうか」ということになって探し始めました。

安藤秀通(あんどう・ひでみち/ひでまる)

▲安藤秀通(あんどう・ひでみち/ひでまる)。ルームスタイリスト・整理収納アドバイザー。男性2人暮らしをSNSなどで発信し若い世代を中心に支持を集める。部屋作りの情報を詰め込んだセミナーやIKEA、無印良品などの社内整理収納セミナーでも活躍。2023年11月に初の書籍を発売予定。 @hidemaroom

――「買う」ことにこだわったのには理由がありますか?

 

ひでまる:当時、私は30過ぎだったのですが、たまたまその頃、友人たちが次々とマンションを買い始めたんです。全員女性なんですけど。これは私の周りだけなのか、世代的なものなのか分からないのですが、みんな「終活」を始め出して。その流れで資産形成や運用の面でも買うならば早いほうがいいと言い始めて、それに影響されました。

まあ、私自身も20歳くらいで終活を意識していた部分もありましたから。

 

――20歳で終活とは早くないですか?

 

ひでまる:LGBTの人って、老後のことを結構早いうちから、みんな話すんですよ。子どもを持てたとしても2人の実子ではないし、そもそも日本では持たない人のほうが圧倒的に多いので。あとはLGBTだけの問題ではないかもしれませんが、そもそも私たちはいくら長く一緒に住んでいても結婚できないし、法で守られることもない。ただの同居人というか、はっきり言えば他人のまま。
だからこそ、2人で一緒に生きている証みたいな感じのものが欲しかった。それが私にとっては家だったんです。

 

――それだけ思いのこもったものだったのですね。ぶたじるさんはいかがですか?

 

ぶたじるさん(以下敬称略):もちろんそういう部分もあります。あとは、賃貸で住んでいた家よりもう少し広いところに住みたいな、と思った時に、家賃を見たら「これだったらローンの返済額のほうが全然安いかも」ということが多かったんです。年齢も40手前くらいで、ローンを組むとなったらタイミング的に今がいいかも、と思ったということもあります。

▲ぶたじるさんの仕事スペース。フリーランスになってからはほとんどこのコーナーで仕事している。昇降式デスクがお気に入りとか。

――物件は最初から中古マンションで探されたのですか?

 

ひでまる:そうですね。当時は2人とも会社員だったので、立地的に通勤しやすいところとか、便利なところを探していたのですが、それで新築だと中古に比べて値段が2倍、3倍になってしまう。それなら中古でもいいのかも、と思って切り替えて探し始めてみたら、物件の内装や雰囲気が、私たちのイメージや趣味に近いものが新築よりも多かったんです。

 

――ここは便利ではありますが、賑やかな都会という感じではなく、昔ながらの閑静な住宅街ですよね。決め手は?

 

ひでまる:もともと東中野に住んでいたので、中野〜荻窪近辺で探したんですね。
でもそれ以上に、2人で歩いた時に感じる、「あ、なんかしっくりくるな」とか、「ここはドキドキするな」とか、そういう共通する感覚が大事でしたね。特にそのことについて話したわけではないのですが。

 

ぶたじる:この街には友人が住んでいることもあって、何度か遊びに来たこともあって、安心感があったということもあります。でも一番大きかったのは、地域というよりはこの物件の内装かもしれません。そういう部分で意見が一致したのは、この物件が初めてだったので。

 

ひでまる:内見に来た時はリノベーションしたばかりだったので、木の匂いがワーッて香ってきて、それで「あ、なんかいい」と思ったんですよね。東向きの窓なので明るかったのも良くて、「ここかな」と思ったんです。

▲物の少ない空間の中で大きなスペースを占めているのが、観葉植物の数々。毎日の水やりはルーティーンとなっている。

――築35年(購入時には築31年)、47㎡のマンションですが、リノベーションは既に済んでいた物件だったのですね。

 

ひでまる:はい、天井にレールがついていて、可動棚が部屋同士の仕切りにもなる、というコンセプトのもので。躯体現しで天井も壁もそのままの状態というのも、私たちの好みに合いました。

 

 

――男性2人で物件探しをされる際には、いろいろハードルがあるという話もあります。不動産仲介業者はLGBTフレンドリーなところを探されたりしたのですか?

 

ひでまる:特にそういうことをしたわけではないのですが、首都圏の中古リノベーションマンション専門のサービス「cowcamo(カウカモ)」の若い女性の担当者の方がすごく親身になって対応してくださって。私たちがパートナーであることとか、これから先もずっと一緒に暮らしていきたいと考えていることなどを丁寧にヒアリングしてくれて。

 

ローンの部分が一番心配だったのですが、「どちらかがローンを組んでみて、審査が通らなかったら2人の合算で組むこともできますよ」とか、「この銀行だとローンを合算できるからお勧めです」とか、本当にすべて丁寧に対応してくださって。だから、物件探しに関しては、私たちは本当に安心してお任せすることができたんです。

 

結果的に、ぶたじるさんの名義でローンも組むことができて。いろいろな手続きもその方が尽力してくれて。私たちが忙しくて行けない時は、代理でまず行って、「この書類を送ってくださればオーケーです」ということまでしてくれて。

 

 

▲壁面に飾ってあるのは、この部屋での2人の姿を友人のイラストレーターが描いてくれたという絵。

ひでまる:男2人だと苦労するだろうなとは覚悟していたのですが、全くそんなことはなくて、本当にスムーズで。結構軒数も回ったんですが、私たちの要望を叶えるために、全部その方がついてきてくれたんです。
ぶたじる:いろんな物件を提案してくれて、最後に来たのがこの物件でした。だから、この物件との出会いは本当にその方のおかげ。今も彼女が引っ越し祝いにくださったマグカップのセットを愛用しています。クリスマスカードなども送ってくれるんですよ。

 

ひでまる:ゲイの当事者が言うのは変かもしれませんが、このような対応をしてくださることにびっくりしたんです。以前に賃貸で部屋を借りる時にはやっぱり難しかったんですよね。もちろん男同士でルームシェアをされる方もいらっしゃるのでなんとも言えませんが、私たち2人が部屋探しに行ったら、恐らくルームシェアではないだろうな、ということは分かると思うんです。

 

ぶたじる:私たちが直接断られることはなかったですが、知り合いや友人で断られたという話もよく聞きました。今は少し変わってきたかもしれませんが、4、5年前まではそういう話が当たり前のようにあったんです。

▲2022年11月に東京都がパートナーシップ宣誓制度の運用を開始したのを機に制度上でもパートナーとなった2人。

――ところで、ローンについては先ほどぶたじるさん名義で組まれたとおっしゃっていましたが。

 

ぶたじる:はい、先ほど申し上げた通り、当時は2人とも会社員だったこともありますし、その中でも私のほうが7歳上なので、私が一人で組む形でローンを申し込んだら通りまして。もし通らなかったら収入合算とかも考えようと思っていましたが、今はローンの口座にひでまるが毎月お金を入れるような形でやっています。

 

――お二人の中では資産をどうするとか、老後はどうしようとかは話されていますか? 家自体はぶたじるさん名義とのことですが、遺言書の作成をしたり、家族信託について話し合われたりとかはしていらっしゃるのでしょうか。

 

ひでまる:マンションについては万が一ぶたじるさんに何かあった場合は私の名義になるように考えていてくれています。ただ、まだきちんとした形ではしていないです。ぶたじる:早めにやろうとはしているという感じですね。周りでも一緒に家を買ったりしている人はいますが、そこまで全部を書面に残してしっかりやってるっていうのは聞いたことがないですね。あまりそういう深い話までしていないから知らないだけかもですが。

▲ひでまるさんはコロナ禍を機に独立、整理収納&インテリアの仕事をスタート。可動棚の中も使いやすく、かつ美しく整理されている。

――ところで、お二人は今こそカップルとして、SNSを通じてライフスタイルを発信していらっしゃいますが、マンションを購入された時もご家族には内緒だったとか。

 

ひでまる:はい、職場の人はもちろん、よっぽど近しい関係の友人以外には内緒にしていましたし、母と弟にも黙っていました。ただ、コロナ禍を機にフリーランスとして整理収納とインテリアの仕事をやるようになって、男2人暮らしのSNSでの発信がいろいろなメディアに取り上げていただけるようになり……。それで、また聞きみたいになるのが嫌なので、2021年の8月に母と弟に時間を作ってもらい、私がゲイで、ずっと「友達の先輩とルームシェアをしている」と言っていたけれど、その人が実はパートナーであることなどを伝えました。

 

母はびっくりしていましたが、「受け入れるのにはちょっと時間がかかるかも知れないけど、あなたが幸せならいい。応援する」と言ってくれたんです。今では全面的に私の活動を楽しみにしてくれているし、ぶたじるさんとの暮らしも応援してくれるようになりました。そもそもこの家に引っ越していなかったら、自分の持ち物を減らして整理収納アドバイザーを目指すこともなかったですし、SNSで暮らしを発信することもなかった。それがなければ母や弟に話すこともありませんでした。この家がきっかけで、もっと自分らしく生きたいと思うようになりましたし、人生が変わりましたね、本当に。

 

 

――そうだったのですね。素敵なお話をありがとうございます。最後に、これから先、同じようにLGBTの方がマンションを購入したいと考えた時に、「これはきちんと考えておいたほうがいいよ」などのアドバイスはありますか?

▲2人のものが整然と収納されていながら、遊び心も感じさせる洗面コーナー。家の形の棚はIKEAのドールハウスだそう。

ひでまる:お金のことはかなりちゃんと話し合っておいたほうがいいと思います。私たちは今後もずっと一緒にいるつもりですが、もし別れるとなったら私が出ていく、という話は最初からしているんです。これは夫婦でもそうかもしれませんが、別れ話になってからだとキツいと思うからです。

 

ぶたじる:そう、だから私たちも公証役場とかに行って正式な遺言書を作成しよう、と今日改めて思いました。

 

ひでまる:終活だけの話じゃないですけど、私たちは将来的なこともよく話をします。2人ともフリーランスですから、仕事はどこでもできるので、2拠点暮らしの話もしています。このマンションも売却して、他に移ってもいい。大切な家ですが、ずっと住むことにこだわっているわけではないんです。

 

今はLGBT以外でも、一人で生きていくという選択肢を取られる人は多いですよね。一人が幸せという人もいるし、子どもを持たないという選択肢の人もいる。そういう人たちが年を取った時に住めるところは、これからどんどん必要になってきます。私もこの仕事を始めてから、友人たちに「将来みんなで一緒に住める老人ホームみたいなのを作って」とか、「年を取ったら今の家は手放して、同じマンションの別の部屋にみんなで入居しよう」とか言われたりします。私たちも家を売却して施設に入ることを考えないわけではありません。どんな属性であっても、老後に住まいの心配をしなくて済むようになればいいなと思いますね。

 

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取材・文:山下紫陽 撮影:三村健二

 

WRITER

山下紫陽
ライター / 編集者。オンラインメディア、会員誌やフリーペーパーなどで、建築、アート、カルチャー、ライフスタイル全般の記事の執筆やインタビューなどを行っている。デザイン関係のトークイベントなどでファシリテーターを務めることも。

おまけのQ&A

Q.近年、LGBTへの世の中の見方はいい方向に変わってきたと感じますか?
A.感じます。私たちがお世話になった「cowcamo」も、特別にLGBTフレンドリーを謳っている会社ではなかったですが、垣根を作らない対応が素晴らしかったですし。SNSでの反応を見ても「お二人の暮らしを見るのが好きです」といったメッセージをたくさんいただくので、こんなに受け入れてもらえるんだ!と思うくらい。もちろん否定的なコメントもありますが、10年前に比べたら本当に生きやすくなったと思いますね。