「人生100年時代」2050年を見据えた新たなコミュニティ形成を考える
2026年10月02日 / 『CRI』2026年10月号掲載
目次
1. 今、何故CCRCなのか
最新のデータでは65歳以上の高齢者が3,600万人を突破し、総人口の約30%となり世界に類を見ない超高齢社会となった。1950年には下位であった高齢化率が2000年には最も高い水準となり、今後も高水準が継続する見込みである(図表1)。
また、2020年と2050年の都道府県別世帯主65歳以上の一般世帯の変化では、首都圏・近畿圏、愛知県といった都市部の増加が著しく、地方では減少している県も見られた。一方65歳以上の単独世帯の変化では、全ての都道府県で増加しており、特に首都圏で約70%(沖縄県では約90%※1)増加するなど、現在単身世帯の多い都市部を中心として大幅に増えることが予測されている(図表2)(図表3)。
こうした背景の中で、従来の高齢者のための「住宅」から「コミュニティ」という領域にまで踏み込んだCCRC(Continuing Care Retirement Community)「継続ケア付きリタイアメントコミュニティ」※2という仕組みに着目してみた。CCRCに着目した理由は大きく2つあるが、一つめは「孤立の防止」である。単身者の増加、地方から都心部への人口の流入により地域コミュニティは希薄化し、「孤独死」「社会的孤立」が問題視されていること、二つめは「医療・介護コストの抑制と集約化」である。高齢者がコミュニティ内で継続的・集約的に医療・介護を受けられることで、移動コストなどの中間コストの軽減につながり、膨らみ続ける社会保障費の増大の対応策となり得るためである。海外では先んじて推進されているCCRCであるが、本稿では日本版CCRCの現状と展望、推進するにあたっての課題について考察していく。
※1 沖縄県は出生率も高く、大家族のイメージが強いが、①2020年の時点で高齢単独世帯の数が他県に比べて圧倒的に少なかったため、これから本格的に高齢化を迎えるにあたって、計算上の増加比率が高く見える②急速に核家族化が進んでいることや離婚率が比較的高いことが高齢単独世帯増加に影響している。
※2 CCRC(Continuing Care Retirement Community)「継続ケア付きリタイアメントコミュニティ」とは高齢者が元気なうちから入居し、加齢に伴って介護や医療が必要になっても、同じコミュニティ内で継続的な支援を受けながら暮らし続けられる住まい・まちづくりの仕組み。
2. 海外におけるCCRC事例
【1】アメリカ ~広大な国土を利用したCCRC発祥の地~
アメリカはCCRC発祥の地であり、最もCCRCの仕組みが成熟している国である。体調が変化しても住み慣れたコミュニティや人間関係を維持・継続できる点が支持され、拡大していった。アメリカ版CCRCは街の規模も大きく、多くは郊外、特に冬でも温暖な気候でリゾート地としても人気のエリア(フロリダ州・カリフォルニア州等)に作られていることが多い。最近では活動的・知的な生活を享受したいというアクティブなシニア層に対応した都市型CCRCや大学と連携したCCRCも作られている。
・歴史・背景
1960年代に教会・宗教団体等の非営利団体がリタイア後の高齢者に向けて、住宅とケアを合わせて提供したことが始まりとなり、1970~1980年代に民間企業が本格参入したことで、ビジネスモデルとして確立。
・事業主体
非営利団体・民間企業。スタート時は非営利団体によるものが多かったが昨今では民間企業の比率が拡大。
・規模・形態
アメリカのシニア専門誌※の2025年発表によると民営営利系企業も含めると全米で約1,900~2,000ヵ所の施設があり、約75~80万人が利用している。郊外型CCRCは約8~40万㎡あり、敷地内には住居のみならず、ゴルフコース、プール、劇場等のエンターテインメント施設も配備された「一つの街」のような形態が主流である。都市型CCRCは超高層ビルの中に劇場、レストラン、フィットネスジム等を配置しているケースも見られる。敷地内に「自立型」「支援付き」「専門介護・認知症ケア」の3段階の住まいが用意されており、状況に応じて移り住むことができる。
2026年第一四半期現在、全米主要31都市におけるシニア住宅の平均稼働率は89.5%と、満室に近い高水準であることから、国内のシニア住宅のM&Aおよび売買は1部屋当たり約2,700~2,800万円超と不動産アセットとしての評価も高い(個人売買ではなく、不動産・事業そのものを企業や投資家が売買取引)。
・権利形態
「利用権」であり売却・相続は原則不可で、入居一時金方式では、入居時に権利金を支払い、退去時・死亡時にその一部が返金される。賃貸方式では初期費用を抑え、毎月高額な利用料を支払うもので、一般的には個人資産として転売はできない。
・課題
利用費が高額なことから、一部の富裕層向けのサービスに偏っており、今後の需要拡大に現状の仕組みが合わなくなってくる可能性がある。今後の需要層は1940~1960年代生まれの「ベビーブーマー世代」であるが、親世代の価値観との違いから、住み慣れた土地から、安全ではあるけれど「大きな隔離された街」へ移住することの抵抗感等が、CCRCの持つ「機能集約型」と相容れなくなっている点も課題といえよう。
※ LeadingAge&Ziegler「LeadingAge&Ziegler200」
【2】シンガポール ~狭い国土を有効に活用した都市型CCRC~
アジアの中でも高齢化の進行が顕著なシンガポールでは、限られた国土を活かすため、政府主導で超高層ビルの中に多世代が利用できるCCRCを開発した。
・歴史・背景
シンガポールはアジアの中では日本・韓国・中国に次いで高齢化のスピードが速く、将来的なコスト・人材両面での医療崩壊の危機を感じたシンガポール政府は、政府主導によるCCRC開発に乗り出した。2018年にその象徴となる大規模複合施設「カンポン・アドミラルティ」※が開発され、世界的に注目を集めた。
・事業主体
シンガポール政府
・規模・形態
「カンポン・アドミラルティ」は敷地面積9,000㎡に11階建で、高齢者用住宅104戸を含む高層ビルである。フロアごとに異なる機能を持ち、限られた敷地内で多世代共存を実現している。9~11階の上層階には104戸の高齢者用住宅と屋上庭園を配し、6~8階の中層階では託児所・デイケアを配置し子供と高齢者が日常的に多世代交流ができる仕組みとしている。3~5階の低層階には大規模クリニックとリハビリセンターを配し、外部利用も可能としている。アメリカのCCRCと異なり「隔離された街」ではなく「外部に開かれた街」とすることで、上層階に居住している高齢者が「孤立感」を抱くことを防ぎ、人々が行き交うことで施設に活気をもたらしている。1~2階にはフードコートのほか、生活利便施設が配されている。
・権利形態
シンガポール版CCRCは15~35年の5年刻みの短期リース・区分所有権であり、「短期の公営住宅所有権」という特殊な仕組みとなっている。これには売却・賃貸の禁止など厳格な制限があり、入居者の退去・死亡時には政府に返還され、残りのリース期間に応じた金額が政府から払い戻される仕組みとなっている。
・課題
シンガポールではアメリカのような広大な敷地のCCRCは不可能なことから、一つの建物にあらゆる機能を集約せざるを得ず、プライバシー確保の問題や施設不足が課題となっている。また、都市部での建設となるため規模の拡大が困難なのに加え、多機能がゆえの建築コスト高となっている。
3. 「日本版CCRC」の現在地
前章では、海外CCRCの事例について触れたが、本章では国内のCCRCの事例について紹介したい。先に「老人ホーム」と称される日本の高齢者住宅とCCRCの違いを整理すると、「老人ホーム」は何らかの身体的不都合を感じた際に入居する住宅であるため、同世代が入居しているケースが多い(何ら身体的不都合がない場合でも精神的に不都合を感じた場合も含む)。しかしCCRCは「元気なうちから入居し、そこでのコミュニティを共に分かち合う」という前提の元に作られている。このためCCRCには医療・介護のみならず、コミュニティ醸成のための施設やサービスなどの機能も求められる。
「日本版CCRC」は2015年、当時の安倍内閣が地方創生の一環として「日本版CCRC(生涯活躍のまち)」構想※として「都市部のシニアを再び地方に移住してもらうことで、地方の人口減少に歯止めをかける」とともに、「第二の人生を地方で豊かに健やかに送ってもらう」という目的で提唱されたもので、アメリカのCCRCを参考にしたものであるが、以下5つの基本方針が定義された。
①地方や「まちなか」への移住支援②「健康でアクティブな生活」の実現:健康な段階からの入居が基本③地域社会(多世代)との協業④「継続的なケア」の確保⑤IT活用やオープンな事業運営となっている。
※ https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/ccrc/h27-12-11-saisyu.pdf (「生涯活躍のまち」構想 最終報告 日本版CCRC構想有識者会議)
【1】石川県輪島市 ~ごちゃまぜコミュニティによるCCRCの実践と可能性~
石川県輪島市の「輪島KABULET(カブーレ)」(以下、輪島カブーレ)※1は社会福祉法人「佛子園」が金沢市で展開してきた「シェア金沢」を基盤として、輪島市・JOCA※2との協業により2015年12月に開設されたCCRCである。「佛子園」はごちゃまぜコミュニティを理念とし、子ども、高齢者、障がい者、地域住民などが支え合いながら暮らせる環境づくりを推進してきた。人口減少や高齢化が進む輪島市において、空き家・空き店舗を活用しながら、中心市街地の活性化とコミュニティ形成による地域活性化を目指し、内閣府が推進する「生涯活躍のまち」の先駆的先行モデルの成功事例である。先にみたアメリカやシンガポールと異なり「一つの敷地や建物に機能を集約する」のではなく、まち全体をCCRC化するという過疎化が進行する地域の課題に対応したものである。
・歴史・背景
「輪島カブーレ」は地域の空き家や空き店舗を活用し、分散型コミュニティ運営を実施している。施設内にはグループホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)などの居住機能に加え、温泉・食堂・カフェ・コミュニティセンターなどの交流拠点が整備されている。また障がい者就労支援事業も重要な柱となっており、約60~80人の障がい者が軽作業に従事している。輪島カブーレに訪れる人は地元居住者をはるかにしのぐ年間12万人に達し、幅広い交流の場であるだけでなく、災害時には復旧活動拠点としても活用された。
・「輪島カブーレ」から示唆されること
輪島カブーレの取り組みの最大の特徴は、移住者増加を目標とするのではなく、「関係人口」を増やし、「ごちゃまぜコミュニティ」を地域の資源として育成しているところにある。温泉や食堂、就労の場などを通じて、日常的な交流を生み出すことで、平時には見守りや支え合いを促進し、有事には迅速な助け合いにつながった。こうして築き上げられたつながりは、能登半島地震でも復旧・復興の基盤として機能した。「輪島カブーレ」では多様な人々が、役割を持ちながら共生する実践例であり、人口減少や高齢化が進行する地域の活性化モデルとして、注目を集めている。
【2】山梨県都留市 ~大学連携型による「都留市版CCRC」の展開~
都留市は人口減少・少子高齢化という地方共通の課題を抱える一方、都留文科大学をはじめとする市内3つの大学により一定の人口が確保され、消費・労働力を支えているという独自の強みを持つ。都留市はこの強みを生かしながら、高齢化を単なる社会問題ではなく地域課題解決の契機と捉え、国の地方創生政策と連動して「都留市版CCRC」を展開している。
・歴史・背景
2014年に国の「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されると、都留市においても「都留市まち・ひと・しごと創生本部」が設置される。2015年に「大学連携型都留市版CCRC推進班」(5プロジェクトチーム)※が設置され、本格的な取り組みが始まる。
※居住環境整備PT、大学連携PT、生涯学習・地域連携PT、健康づくり支援PT、移住定住推進PT
・規模・形態
都留市は当初、2つのプロジェクトを打ち出し、①下谷地区にある旧雇用促進住宅下谷宿舎をサ高住へと改修する事業を単独型居住プロジェクトとし、②田原地区にサ高住を建設し、交流施設や大学施設を整備する複合型居住プロジェクト(つる湧水のほとり整備プロジェクト)として展開した。
前者は「ゆいま~る都留」として2019年に開業し、後者はコロナ禍とその後の建築費高騰等により計画を変更。国から「全世代・全員活躍型『生涯活躍のまち』」の考え方が示されたことや子育て世帯から公園整備の要望が多かったことから、時代の潮流に合わせ、計画を一部変更し、プロジェクト名を「つる湧水のほとり整備プロジェクト」として、現在の「ごちゃまぜのコミュニティ」を推進するエリアとした。
①「ゆいま~る都留」
民間会社「コミュニティネット」によりリノベーションと運営を実施。市内外からの入居者を募り、90%という高い稼働率を呈している。公共交通機関至近の立地、首都圏からの距離感、安価な家賃設定に加え、周辺大学からの協力による独自のコミュニティ活動が評価されている。
②「つる湧水のほとり整備プロジェクト」
当初はサ高住の建設を中心に交流施設や大学施設を整備する複合型プロジェクトとしていたが、国の考え方や市民からの要望などを踏まえ、予定を変更し、田原交流センターnicot(地域交流拠点施設)、つるビーパーク・いこっと(大型遊具付き公園)、つるフィールド・ミュージアム(大学連携施設)を整備し、現在では子どもから高齢者まで多様な人が集まるエリア「ごちゃまぜのコミュニティ」が形成されつつある。
・「都留市版CCRC」の成功から示唆されること
「アクティブシニアの移住」「高齢者住宅の高稼働率」「多世代交流の創出」といったCCRCの直接的な効果に加え、「都留市版CCRCを展開したことによる『面白い取り組みをするまち』というイメージの形成」や元々あった「大学生の入学・卒業による安定した若い世代の還流」、大学生が多いことによる「消費・労働力の確保」の再発見など副次的な効果が大きい。
取材協力:都留市役所総務部企画課
4. 日本にCCRCが浸透しない理由
前章では日本版CCRCについて述べてきたが、現況の高齢化進行の速度を踏まえると、CCRCの進捗はスローペースである。何故浸透しないのか、以下が考えられる。利用者側には①高額な初期費用・ランニングコスト②高齢者による就業の増加③(高齢者施設に入居するという)心理的抵抗感④移住することへのハードル(土着性の強い国民性)⑤CCRCの認知度の低さ、事業者側には⑥不透明な事業採算⑦人材不足(物理的な人手不足だけでなくコーディネートするスキルのある組織・人材)等が挙げられるだろう。
高齢者世帯※1の平均所得金額(2023年1年間の所得)は314.8万円で、その他の世帯671.0万円の約半分。また等価可処分所得※2の平均金額では高齢者世帯は226.0万円で、その他の世帯336.1万円の7割程度に過ぎず、資金が潤沢な世帯はそう多くはない(図表4)。
※1 高齢者世帯とは65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の者が加わった世帯を言う。
※2 平均等価可処分所得とは世帯人員数の違いを調整するため、世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割った所得。生活水準を考えた場合、世帯人員数が少ない方が、生活コストが割高になることを考慮したもの。なお、世帯の可処分所得とは、世帯収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入である。
内閣府による「令和8年度版高齢社会白書」によると日本・アメリカ・ドイツ・スウェーデンにおいて「収入を伴う仕事をしたい(続けたい)か」という質問をしたところ、日本は39%が「収入を伴う仕事をしたい(続けたい)」と回答しており、群を抜いて割合が高い。また「収入を伴う仕事をしたい」理由では約50%が「収入が欲しいから」と回答しており、他国と比較し生活不安を感じている高齢者が多い実態が垣間見られた。実際に2025年の労働力人口は7,004万人であり、このうち65~69歳は403万人、70歳以上は557万人である。労働力人口に占める65歳以上の割合は1980年の4.9%から45年間で2.8倍の13.7%となった。2025年の定年退職の年齢データによると、60歳定年は約62%と最も多いが、2025年4月に「65歳までの雇用」が完全に義務化されたこともあり、65歳までに定年を迎える人は全体の約92%となり高齢者の就業率の高さが顕著である(図表5)(図表6)。
また、現在は「努力義務」という位置づけであるが、企業に対して70歳までの就業機会(定年引き上げ、再雇用、あるいは業務委託契約への切り替えなど)を確保するよう求める仕組みが始まっており、 少子高齢化による労働力不足や、年金財政の維持を背景に、将来的にはこの「70歳」も努力義務から「義務化」へと格上げされていく可能性がある。特に就労機会の多い都市部では、その傾向は高まるだろう。
また少し古いデータとなるが、「年をとって生活したいと思う場所」についてアンケートを取ると、65歳以上では70%以上が「自宅」(これまで住み続けた自宅、子どもの家への転居を含む)となっており、「新しい状況に合わせて移り住んだ、高齢者のための住宅」は10%に満たない(図表7)。
さらに住み替え後の地域は65歳以上単独世帯・夫婦世帯共に、40~60%が(現在と)「同じ都道府県」と回答しており、特に65歳以上夫婦世帯(借家)においては22.2%が「現在の住まいから歩ける範囲」と回答しており、現在の生活圏を変えることへの抵抗感もうかがわれる(図表8)。
現在のCCRC構想には「地方への移住」という文脈で語られているが、高齢者のニーズと合致しない点も浸透の妨げとなっている。
5. 既存インフラの活用~ニュータウン再生への道~
前章では日本にCCRCが浸透しない理由を考察したが、本章では各地に点在する今やオールドタウン化したニュータウンを活用し、CCRCとして再生できる可能性と課題について考察する。
【1】ニュータウンの現状 ~オールドタウン化による問題~
高度経済成長時代において、都市部への急激な人口流入に対応するため、良好な居住環境を確保しつつ、住宅不足を解消する目的で、全国各地にニュータウン開発が進行していった。しかしながら、居住者の高齢化、子供世代の流出による空き家の増加、商業施設・公共交通機関の減少・減便等によるインフラの劣化が全国的に起きている。なおかつ、ニュータウンの入居者は同世代の似たような属性の家族が同じ時期に入居するケースが多いことから、同時に高齢化の波が訪れる可能性が高い。そうしたニュータウンを活用し、CCRCとして再生できる可能性について述べたい。
【2】ニュータウンのポテンシャルの再考
まずはじめに、ニュータウンという「まち」の特性を通じCCRCとして再活用が検討できるか否か改めて確認していきたい。再活用が検討できる理由として、一つめはほぼ全てのニュータウンが持つ「既に整備されたまちであるという強み」である。このまちの中には「住居」「学校」「スーパー」「病院」「公園」等、生活に必要なインフラが整備されており、道路も広く高齢者が住み易い住環境が整っている。ニュータウン各所に配置された緑地は災害時には防災拠点としても機能するだろう。こうしたまちの機能を踏まえるとCCRCのまちづくりとニュータウンは親和性があるように思われる。
二つめに既存のコミュニティの中でそのまま定住する、住み替えることが選択可能だということである。(図表8)では住み慣れた場所を離れたくない高齢者の意識が確認されたが、住環境の整っているニュータウン内の定住・住み替えは住み慣れた生活圏で生活を継続できるほか、長きにわたり形成してきたコミュニティを分断させることなく継続できる。また、子供世帯を呼び寄せれば親子近居も可能だ。三つめは「空き家」となった戸建てを利用し、高齢者用住宅、多世代交流スペースやシェアハウス等に再生し「新たな役割を担う施設」として再生することも可能であろう。こうしたニュータウンは全国各地に点在しており、CCRCの推進により現状ニュータウンの抱える課題解決も可能ではないだろうか。
【3】全国に広がるニュータウンの規模
国土交通省によるとニュータウンは日本国内に2,022地区18.9万ha存在し、これは大阪府の面積(19.0万ha)とほぼ同等の規模となる。都道府県別にみると大都市圏ほど施工面積の規模が大きいことがわかる。ニュータウンの開発事業主体は地方公共団体・都市再生機構(旧都市基盤整備公団)などの公的機関によるものと鉄道会社・デベロッパーなどの民間企業によるものに大別される。全体に占める民間企業主体の開発は約3万ha(全体の約16%)であり、都市機構・公社・市町村・都道府県が主になって開発したものは約11.1万ha(約59%)である(図表9)(図表10)。
~おわりに 2050年を見据えた新しいコミュニティ~
本稿冒頭で述べたように、2050年には全都道府県において、65歳以上世帯に占める単独世帯の割合が大幅に増加する見通しであり、膨大な潜在需要が見込まれる。特に、2050年にかけて高齢者人口が増加し続ける都市部にこそ、セーフティネット機能が必要である。現在の日本版CCRCの定義とは異なるものの、単身高齢者世帯が集中する都市部と、広域に分散する郊外・地方という「地域特性」を考慮すべきであろう。例えば、都市部においては、前述したシンガポールの事例のように、一棟の建物内に居住・医療・介護等の機能をコンパクトに集約する垂直型が効率的である。一方、郊外または地方においては、既存インフラである「ニュータウン」の利活用を検討することも考えられる。いずれの場合も、「移住」を伴うことが一つのハードルとなるが、受け皿となる「住宅」についても、整理すべき課題は少なくない。
前章で示したように、首都圏・近畿圏には大規模なニュータウンが存在するが、第一の課題は、所有権や権利関係の整理である。現在も住み続けている人、あるいは相続により所有している人など、それぞれが所有権を有しているため、再編成にあたっての合意形成は容易ではない。一括借り上げ、買い取り、あるいは投資不動産としての転用などのスキームを構築し、所有者側にどのようなインセンティブを提示できるかが問われる。その上で、自治体、UR、民間事業者などが連携し、ニュータウン内の住宅や施設を統合・再編できるかが課題となる。また、集合住宅では、区分所有法により用途変更に総会決議が必要となる場合があり、現行制度下ではこれもハードルとなる。
第二の課題は、老朽化した住宅のリノベーションである。老朽化した住まいのバリアフリー化はもちろんのこと、現代の生活様式に即した設備への更新も求められる。第三の課題は、新たなコミュニティ形成をマネジメントできる人材・組織の不足である。CCRCという特性上、新旧住民の融和が求められるが、コミュニティの再構築を支援するとともに、CCRCとして再生された新たなまちの魅力を外部に発信していくことも必要な要素である。事例として紹介した「輪島カブーレ」「都留市版CCRC」はコミュニティマネジメントと外部発信という両輪が機能していることが成功の一つであろう。
一方で、「CCRC」と銘打ってはいないものの、それに近い形態を実践している事例も見られる。神奈川県横浜市旭区にある「左近山団地」では、高齢化や空き家増加への対応として、横浜国立大学、UR都市機構および横浜市旭区の支援を受けながら、住民が主体となって「多世代が交流しながら暮らせる団地づくり」に取り組んでいる。まちづくりや地域福祉等を学ぶ横浜国立大学の学生が団地内のUR賃貸住宅に居住し、地域活動に参加することで、生活支援の推進や地域コミュニティの活性化に寄与している。また、埼玉県内でも高齢化が進行している比企郡鳩山町の「鳩山ニュータウン」では、空き家を周辺大学に通う学生向けの寮としてリノベーションしたり、商業施設の一角に多世代が交流できる場を設けたりするなど、町内外の人々が緩やかにつながるコミュニティが形成されている。そこでは、高齢者がボランティアとして活動し、住民同士が「見守り」を担うことで、それぞれが地域の中で役割を持っている。海外のCCRCや従来の日本版CCRCとは成り立ちも形態も異なるものの、こうした団地再生やニュータウンの変遷の中に、単なる既存建物の利活用にとどまらない、それぞれの地域性に根差した独自のCCRC形成の可能性を見出すことができるのではないだろうか。
「人生100年時代」においては、人々は長い高齢期を過ごすことになる。だからこそ、「元気なうちから高齢期を見据えたコミュニティ活動・コミュニティ形成」を育むことは、これからの長寿社会における新しいコミュニティの在り方を探る上で、重要な視点となるのではないだろうか。(鈴木貴子)














