仲介か買取か? プロが教えるマンション売却の“損しない”判断基準

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マンション売却は買う時以上に知識と冷静な判断が求められるといいます。査定、媒介契約、営業担当者選び――6年間で数多くの売却をサポートしてきた長谷工リアルエステート・南千住駅前店の主任・高塚菜摘さんに、成功のポイントを聞きました。

――マンション売却は「買うより難しい」とよくいわれますが、それはなぜでしょうか?

 

高塚菜摘(以下、高塚):買う時は新しい生活に向けてワクワクした気持ちで進められますが、売却は「本当に売れるのだろうか」という不安との戦いです。売り始めは「高い金額で売れるだろう」と期待を持って始めるのですが、内見の予約が入らなかったり、見学に来た方の反応が良くなかったりすると、だんだん「なぜ売れないのだろう」という焦りが出てきてしまうものなんです。

 

 

――反応がない場合、何が原因なのでしょうか?

 

高塚:ほとんどの場合、売り出し価格が相場より高いことが原因です。ただ、売主様にとって価格を下げる決断は本当に難しいです。売り出す時に「一定期間反応がなければ価格を見直しましょう」とお話ししていても、いざ売却活動を始めると「この金額で売りたい」という気持ちが強くなってしまいます。特に最初だけ問い合わせがきたりすると、「やっぱり売れるかもしれない」と思ってしまうものなのですね。

マンション売却価格の見極め方をプロが解説

▲新卒で長谷工リアルエステートに入社し、6年目。川口店で2年、南千住駅前店で3年勤務。近年人気が高まっている荒川区、足立区、墨田区の一部、埼玉県の一部と、広域エリアを担当し、数多くの売却をサポートしている。※所属・肩書は取材当時のもの

――売主としては、どのタイミングで価格を見直すべきなのでしょうか?

 

高塚:市場の動きを見ることが大切です。たとえば「同じマンションでもっと安い物件が出てきた」とか「似た条件の部屋がいくらで成約した」といった営業担当者からの情報は、ご自身の物件の位置づけを客観的に理解するのに役立ちます。そうした情報から「このままでは買主が現れにくい」と納得できれば、適切なタイミングで価格改定を行いやすいのではないでしょうか。

 

 

――価格を下げずに売却活動を続けるリスクは?

 

高塚:時間が経つほど「売れ残り感」が出てしまいます。ネットに掲載されている期間が長くなると、「何か問題があるのでは」と買主側に警戒されるリスクを誘発することも。適切なタイミングで価格を見直すことが、結果的に早く、納得のいく価格で売ることに繋がります。

 

 

――売却の第一歩として、まず査定を受けることになりますね。

 

高塚:はい。査定には机上査定と訪問査定の2種類があります。机上査定は過去の成約事例や公示地価をもとに価格を算出するだけなので、お部屋の状態、日当たり、眺望といった要素が反映されません。実際に訪問して査定すると、場合によっては数百万円変わることもあります。

 

 

――複数の会社に査定を依頼すると、金額に差がありますよね?

 

高塚:「A社は高い、B社は安い」ということはよくありますね。売主様に知っておいていただきたいのは、高い査定額が必ずしも良いわけではないということです。査定額と実際に売れる金額は違います。高い査定額に期待して売り出しても、結局売れずに価格を下げていくことになれば、時間もかかりますし、精神的にも辛くなってしまいます。

 

 

――では、売り出し価格はどう設定すればいいのでしょうか?

 

高塚:基本的には仲介会社が出した査定額よりプラス100万〜200万円くらいで出すことをお勧めしています。これは戦略的な理由によるものです。中古マンションの場合は、買主様から価格交渉が入ることがほとんど。査定額ぴったりで出すと、交渉で下がった時に「想定より安く売ることになった」となってしまいます。

 

そこで、値引きをすると買主様は「お得に買えた」と満足されますし、売主様も「査定額かそれ以上で売れた」と納得できます。

 

 

――あえて、余裕を残しておくわけですね。

 

高塚:はい。売主様も生活していたわけですから、どうしても傷・汚れがあるものです。買主様から「そんな場所を直してほしい」と要望された場合、「値引きをするので、現況有姿(そのままの状態)でお願いできませんか」と言いやすいと思います。

 

修繕後のイメージはお互いに違いますから、安易に修繕してしまうと、思わぬトラブルにつながることも。互いに譲る部分を作ることで気持ちの良い取引にできると思います。売り出し価格には、こうした交渉の余地を持たせておくことが大切ですね。

 

 

――マンションを売る方法には、大きく分けて仲介と買取があると聞きます。どう違うのでしょうか?

 

高塚:仲介は新しくそこに住む買主様を探して売却する方法で、買取は不動産会社が直接買い取る方法です。通常、買取の方が仲介の査定金額よりも2割〜3割ほど安くなります。

 

 

――それだけ差があるのに、なぜ買取を選ぶ人がいるのでしょうか?

 

高塚:一番多いのは、引っ越しや住み替えで期限が決まっている方です。「○月までに必ず売らないといけない」という場合、仲介で始めても途中で買取に切り替える方もいらっしゃいます。他には、内見で知らない人を家に入れたくない方、相続した空き家を早く処分したい方なども買取を選ばれますね。

 

 

――買取のメリットは他にも何かありますか?

 

高塚:家具や荷物をそのまま置いていけることです。買取会社が処分するので、手間が省けます。それから、引き渡し後に設備の不具合が見つかっても、売主様に責任は求められません。仲介だと一定期間は売主様が修理する義務がありますが、買取ならその心配がないんです。

 

 

――時間に余裕がある場合はどちらが良いのでしょうか?

 

高塚:基本的には仲介をお勧めします。3ヵ月程度の時間をかけられるなら、買取よりも高く売れる可能性があります。ただ、内見対応のストレスを避けたい、とにかく早くスッキリしたいという方は、価格差を理解した上で買取を選ぶのもひとつの選択肢です。

仲介と買取の判断基準をプロが解説

▲仲介と買取、それぞれにメリットがある

――売却方法を決めたら、次は媒介契約を結ぶことになりますね。どの契約を選ぶべきでしょうか?

 

高塚:媒介契約には一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類があります。まず、この3つの違いを理解することが大切です。

一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の解説図

▲媒介契約には3種類あるが、1社に任せたい場合も基本的には専任媒介契約で十分だという

一般媒介契約は、複数の不動産会社に同時に売却を依頼できる契約です。たとえばA社、B社、C社の3社に同時にお願いすることができます。

 

一方、専任媒介契約と専属専任媒介契約は、1社だけに売却を任せる契約です。ただし、専任媒介契約は自分で買主を見つけた場合に直接取引ができますが、専属専任媒介契約だと必ず依頼した仲介会社を通さなければなりません。親戚や知人から買主が見つかる場合もありますし、基本的には専任媒介契約で十分だと思います。

 

 

――一般媒介契約のデメリットは何ですか?

 

高塚:複数のポータルサイトに同じ物件が重複して掲載されるので、買主側から見ると「売れ残っている」印象を与えてしまいます。複数の会社から別々に内見希望の連絡がきた場合、スケジュール調整が煩雑になるのも懸念点といえますね。

 

また、ある会社からは「価格を下げましょう」、別の会社からは「まだ頑張りましょう」と異なる意見を言われた時、誰を信じれば良いか混乱が生じやすいのもデメリットでしょう。

 

 

――一方で、専任媒介契約のメリットは何でしょう?

 

高塚:窓口がひとつなので、内見のスケジュール調整もスムーズに行えますし、営業担当者と密にコミュニケーションがとれます。不動産会社側も広告費をかけやすいので、一般媒介契約より優先的に販売活動をしてもらえるという実情もあります。

 

 

――良い仲介会社の選び方はありますか?

 

高塚:実績や会社の看板だけでなく、担当者と売主様自身の「相性」を重視することをお勧めします。だいたい3ヵ月以上は売却活動で付き合うことになるので、売却活動中に価格改定や内見の対応など、不安なことを何でも相談できる関係を築けることが望ましい。複数の営業担当者に会って、話しやすいか、信頼できそうかを見極めていただきたいです。具体的には、メリットだけでなくデメリットも正直に話してくれるか、そして何より「この人となら3ヵ月間やっていけそうだ」と思えるかどうかといった視点で考えましょう。あまり会社名に惑わされず、目の前の担当者を見て判断できるといいですね。

プロの考える良い仲介会社の選び方

▲3ヵ月以上の付き合いになるからこそ、営業担当者との相性は重要

――長く住んでいると、あちこち故障や傷みが目立ってきますよね。やはり売却前にリフォームをした方がいいのでしょうか?

 

高塚:基本的には不要です。50万円かけてリフォームしても、それが売却価格に50万円上乗せできるとは限りません。中古マンションは買主様がご自身の好みでリフォームすることが多いので、現況のまま売却するのが一般的です。壊れている箇所があれば事前に申告して、買主様に説明した上で、価格交渉の中で調整しましょう。

 

 

――ハウスクリーニングはどうでしょうか?

 

高塚:ハウスクリーニングはしておくに越したことはありません。特に水回りはきれいにしておくと印象が良くなります。それから、ネットに掲載する写真はクリーニング後に撮影すれば、第一印象で興味を持ってもらいやすくなります。長谷工には「仲介バリューアップサポート」のメニューにハウスクリーニングサービスもありますので、お勧めしています。

 

 

――内見時に気をつけることは何でしょうか?

 

高塚:第一印象はとても重要です。まず、床に物を置かないこと。見える場所をすっきりさせ、荷物はクローゼットに収めておきましょう。クローゼットがパンパンになっても、むしろ「収納力がある」とアピールできます(笑)。それから、内見前には全部屋の電気をつけ、窓を開けて換気しておく。「明るくて気持ちいい」と感じてもらうことが大切です。

 

 

――売主が在宅している場合の注意点は?

 

高塚:基本的には席に着いて、そっとお待ちいただくのが良いですね。良かれと思って買主様に積極的に話しかけたり、物件の良さをアピールしすぎたりすると、引かれてしまいやすい。それに、売主様がいると買主様も本音を言いづらいんです。物件の説明は営業担当者に任せ、最後の「住んでいる方に聞きたいことはありますか」という時間で、近隣の様子など実際に住んでいる人しか分からないことをお伝えするのがベストです。

 

 

――できれば不在の方がいいのでしょうか?

 

高塚:可能であれば、内見中は外出していただく方が買主様もリラックスして見られます。細かいところまでじっくり確認できるので、成約率も上がります。すでに引っ越されている空室の場合はさらに決まりやすいですね。

 

 

――逆に、やってはいけないことは?

 

高塚:生活感を出しすぎることです。朝食の食器が出ている、洗濯物が干してある、旅行のスーツケースが出ているなど、日常生活そのままの状態だと、買主様は「見てはいけないものを見ている」という気持ちになってしまいます。

 

 

――ペットを飼っている場合や、喫煙者がいる場合はどうですか?

 

高塚:問い合わせの段階で「ペットは飼っていますか」と聞かれることも多いので、事前に買主様に説明します。汚れや臭いが極端でない限り、査定額に大きな影響を及ぼすことはほとんどありません。無理に隠すよりも、理解してくれる買主様を探す方が結果的にスムーズです。

 

 

――長谷工のマンションならば長谷工の仲介を使う、みたいに開発会社と系列の仲介会社の方が良いということはありますか?

 

高塚:当社グループに関して言うならば、まず、長谷工が施工したマンションであれば、仲介の担当者も建物の構造を熟知しているので、魅力を的確に買主様に伝えられます。長谷工管理のマンションなら、管理人さんとも連携がとれているので、駐車場の空き状況など最新情報をすぐにお伝えできるのも強みになります。同じようなことは他社にもいえるでしょう。

 

また、長谷工グループ管理の築25年未満のマンションには「建物保証」というサービスがあります。通常は売却後に給排水管の故障など、建物に不具合が見つかった場合、3ヵ月以内なら売主様が修理し、4ヵ月目以降は買主様が負担するルールですが、当社の建物保証は、築25年未満の長谷工グループ管理のマンションについて、10年目まで各期間で売主・買主様をサポートする、他にないサービスだと思います。売主様にとっても、引き渡し後のトラブルリスクが大幅に減るので安心です。

 

 

――売却が決まるまで、どのくらいかかりますか?

 

高塚:適正価格で出せば、3ヵ月以内に決まることが多い印象です。早ければ1ヵ月以内で成約することもあります。特に人気のマンションは「このマンションが出たら教えてください」と待っている買主様もいるので、売り出してすぐに決まることもあります。反対に、相場より高く出すと半年以上かかることもあるので、最初の価格設定が本当に重要です。

プロがマンション売却のポイント解説

▲内見の準備と適切な価格設定が、スムーズな売却のカギを握る

取材・文:小野悠史 撮影:ホリバトシタカ

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz